彼女はエ〇ティカセブン
「なんでAVって、インタビューから始まるんだろうね?」
モニターとは違う別の画面を見ながらあたしが言えば、途端に流れるコメント欄。
『知らんがな』
『メーカーに聞けよ、知り合いくらいいるだろ』
おうおう、相変わらず辛辣だな君達。いや、それはそれでこちらとしてはいいんだけどさ。
とはいえ、こちらの思惑通りとバレるわけにはいかないから、こっちもやさぐれた感じの声で返していく。
「流石にそっちのツテはねーよ。医者や弁護士の知り合いはいるけど」
口にしたのがきっかけになったか、脳裏によぎる高校時代の同級生達の顔。
今でも時々連絡したりするんだけど、あっちはあっちで忙しいみたいだから、最近全然会えてないんだよねぇ。
あ、弁護士になった友達からはたまに心配したようなメッセージがくるけども。
ネットでの誹謗中傷案件を扱うことがあるらしいんで、炎上しまくりなあたしのことを心配してくれているらしい。
いやはや、持つべきは優しく優秀な友達だよ。
とか、ちょっとおセンチな気持ちになったりしてたんだけどさ。
『かかりつけの医者は知り合いとは言わねーぞ』
『なんだ、何やらかしたんだ。いくら炎上芸が得意だからって、弁護士さんのお世話になるようなことしたら洒落にならんぞ』
容赦のないコメントの数々が、あたしを現実に引き戻してくれる。
あっはは、そうだね、今のあたしはここにいる。それは紛れもなくあたしが望んだことだ。
だからここにいるあたし、太刀奈百合華として振る舞わなきゃ。
「違います~、高校の同級生にいるんです~。高校だけはいいとこ行ったんです~あたしは落ちこぼれだったけど」
まあ、正確に言えば学年で真ん中ちょい下だったから、落ちこぼれとは言い難い。
大学も、世間一般では良い大学と言われるようなとこだったしね。
『ああ、ビ○ギャルのやる気にならなかったバージョンか』
『そういやあれ、偏差値高い学校の落ちこぼれだったって聞いたことあるな』
「辛辣で的確に抉ってくる上に否定出来ない比喩やめーや!」
また、大きく外れてもないってのがね。あたしのキャラとしてもそんな外れてないだろうし、この認識でいてもらおう。
もうちっとだけ努力してたらどうだったのかと思うことがないわけでもないけど、今のあたしも気に入ってはいるわけで。
とかそんな雑談をしている間にも、あたしの見てる前で動画は進んでいく。
もちろん音声も画面も配信には乗せていない。そんなことしたら、一発BANである。
『え、ビ〇ギャルってなんですか?』
『は? 知らんの?』
『うわ、あれもう10年前じゃねーか!』
「まってまって、ビ○ギャル知らんくらいの年の子はまずくね?」
思わぬコメントを見て、あたしは慌ててしまった。
何せ今やってるのはAVの同時視聴配信っていう、あたしじゃなければ一発アウトな企画。
そんなとこに青少年が来るのはちとよろしくない、と思ったのだが。
『18の大学生だから大丈夫っす』
『それならまあ大丈夫か……』
お、おう、それならギリセーフか……危ない危ない。
しかし丁度良い雑談ネタが拾えたな、ちょっと触っておくか。
「ってことは、今年入学? おめでとう!」
ついでに常連さんになってくれたらこれ幸い。
なんて小賢しい計算をちょっとするくらいなら許されるだろう、なんせこれでも一応人気商売なんだし。
『あ、あざーっす!』
あたしのお祝いを聞いて、大学生くんはお礼のコメントを入れてくる。
うんうん、素直でよろしいのぉ、なんてほのぼのしたりしてたんだけど。
『うわ、百合華が気配り見せてるとか珍しい』
『明日は雨だな』
『いや、槍じゃね?』
ずらずらと並ぶ古参連中の辛辣なコメント。
うう、この子もそのうちに染まってしまうのじゃろうかのぉ……。まあ、それはそれで馴染んでくれるならいいんだけどさ。
でも一応、あたしのキャラ作りってもんもあるからね、ちゃんと反応しておかないと。
「うっさいわ! だから裏じゃいいお姉さんしてるっつーの! それが漏れ出ただけだっての!」
『はっはっは、戯れ言を』
『どうやって騙したんだ? 警察に詐欺か何かで届ければいいのか?』
「騙してねーわ! むしろあたしの方が騙されて皆にうっかり貢ぎたいわ!」
なんて阿呆なことを言いながらしばらく動画を見てたんだけど。
「あ。ごめん、ちょっとストップ、え~っと、ちょっと戻してっと。うん、やっぱ違うわ」
不意に、あたしは何かに気がついたかのような声を出した。
まあ、もちろん予習済みなんだけどさ。ついでに、わざとらしくならないよう練習もしたし。
『お? どこだどこだ』
あたしが言えば、コメント欄にも動きがある。
さあ、ここからが勝負どころ。
いよいよ、『お仕事』の時間だ。
そう思いながら、あたしは真剣に吟味している顔を作った。
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