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彼女はこうして炎上する。

「こないだ、さかなんの配信に、シャワー音乗ってたじゃん?

 ごっめんね~、あれ実はあたしなんだわ」


 ケラケラと悪びれもせずに笑いながらあたしが言えば、一気に配信画面のコメント欄が噴き上がる。

 一見清楚なお姉さん風のガワでこんなしゃべりをすれば、ギャップもあってなおのこと煽り効果が出てくるらしい。


 『また貴様か』

 『お前大概にしとけよ』

 『こないだはえっちゃんとこに上がり込んでただろてめぇ』


 お、今日はえっちゃん推しの子もいんのか。

 よしよし、それならもうちょい話を膨らますか~。


「うわ、反応速すぎだろお前ら。しょーがないじゃん、こう見えて裏じゃ良いお姉さんしてんのよ?

 だからあの子達送ってくのを仰せつかって、その後上がり込んでおしゃべりしてたら終電なくなって、っていう」


 『そこに作為的なもんを感じるんだよなぁ』

 『絶対終電の時間把握した上でわざと遅くなってるだろ』


「いやいや、えっちゃんあの通りおしゃべり好きな子でしょ?

 だからあたしもついついおしゃべりして~、終電逃して~、お泊まりセット出してもらって~」


 『まてまて、なんだそのお泊まりセットって。まさかえっちゃんちに置いてんのか!?』


 いいねぇ、いい食いつきだ。その反応を待っていたっ。


「そりゃそうよ、関東圏に住んでるうちの子達で、あたしのお泊まりセット置いてない子ほとんどいないし」


 『なん、だと……』

 『悲報:みんな百合華の毒牙にかかっていた』


「まてまて、毒牙とは失敬な。ついでにいうと、未成年には手を出してないわよ、まだ」


 『まだとか言うな、生々しい』

 『つか、成人組には……?』


 ふふ、今の振りに反応してくれるとは嬉しいねぇ。

 おかげで話がしやすいってもんだわ。


「ちょっかいは出すけど、拒否られたら引いてるからね、言っとくけど。流石にどんくらいおっけーだった子がいたかは内緒な」


 『そう言わずそこをkwsk!!』

 『やめろ、俺達の夢を壊すなぁぁぁ!』


 悲鳴のようなコメントがずらずらと並ぶのを、あたしはほくそ笑みながら見ている。

 いやまあ、実際には一人も手出してないんだけどね、そこはぼかしておこう。


「んでまあ、さかなんが二十歳を越えたからってんで、さかなんちで宅飲みしたのよ。

 ほら、限界知らずにいきなり外で飲むと危ないこともあるじゃん? さかなんは可愛い女の子なんだし」


 『そうだな、どっかの誰かさんと違ってな』

 『やっぱりさかなんはリアルでも可愛いんだな……』

 『中の人などいないっ!』


 そうそう、そう思ってくれるのが丁度いいのよ、こっちとしては。

 ま、実際リアルのあたしは結構背が高いんで、絡んでくる変なのは、他の子達に比べたらぐっと少ないんだけど。


「で、飲み慣れてるあたしが指南役を買って出てだね」


 『こいつに指導させるとか、運営は何考えてんだ』

 『ぜってー人選間違ってるだろ』

 『いやしかし、こいつが酒飲み配信で限界超えてるの見たことないしな……』

 『うわばみって毒蛇だっけ?』

 『いや、大蛇のことを指す言葉であって、何か特定の種類を示すわけじゃない』


 いやーいい感じにあたしのイメージ作れてるわ、我ながら良い仕事してるなぁ。


「うわばみとか失礼だな、一晩で一升瓶空けるくらいだぞ?」


 『十分過ぎる件』

 『俺なんか缶ビール一本で酔っ払うってのに……』


「日本人はアルコール耐性低い人多いって言うしね~。あ、さかなんもまさにそれでさ、ほんと、先に練習しといて良かったわ。

 350のほろちょい一缶で酔っ払っちゃってさ~。いやぁ、いつもよりほわほわなしゃべり方可愛かったわ~。

 あ、録音もアーカイブもないから、そこんとこよろしく!」


 『ふざけんな、それを録音するのが貴様の使命だろぉ!?』

 『俺より弱いとか、さかなんまじ推せる』

 『金ならいくらでも出す! 録音を、なんならASMRで!』


 予想通りの反応だなぁ。

 だけど、出せないものは出せない。

 いくらあたしでも、『存在しない』音源を出せるわけがないのだ。


「宅飲みの場にバイノーラルマイクとか持ち込めるかぁ!

 まあそんな状態だったから、一缶と二口くらいで撃沈、おやすみしちゃったのよね。

 あ、いくらあたしでも、寝込みは襲わないからな? 同意なしではしないからな?

 で、ベッドに運んで、あたし一人が起きてたからだね……」


 『ゴクリ……』

 『一人暮らしの狭い部屋、女二人、何も起きないはずが……あってたまるかぁ! お前に汚されてたら、ほんとに焼き討ちしかけるとこだったぞ!』

 『節度のある変態でよかったな、お前』


 さかなん過激派がおったか……恐ろしや。刺激しすぎるのも危険だな、こりゃ。


「一人飲み直したわけよ。さかなんの寝顔を肴に。……あ、ダジャレになってるなこれ!?」


 『上手いこと言ったつもりか』

 『つかまて、何変態ちっくなことしてんだ、羨ましい!』

 『落ち着け、本音が出てるぞ。俺も全く同意だが』


 わはは、いい反応。いや、ほんとに見られるならあたしも見たいわ。


「まあそれはともかく。めっちゃ可愛かったわ~酒が進むわ~ってなってさ。

 飲み過ぎて酔い潰れてた。いつのまにか」


 『人んちで寝落ちとか、最悪だなこいつ』

 『ま、まさか……ゲロったのか!? 汚したのか、物理的な意味で!』


「しとらんわ! 乙女に対してなんてこと言ってんだ貴様ぁ!」


 するわけがない。出来るわけがない。

 ほんとは、あたしはそこにいなかったんだから。


「まあそういうわけで、飲み過ぎた上に変なかっこで寝てたから、ひっどく寝ぼけててさ~……。

 さかなんの朝配信の時間聞いてたのに、時計見間違えて、うっかりシャワー浴びちゃったわけさ」


 『くそ、そんなことならあのシャワー音、もっと堪能しとけば良かった』

 『お前、こいつのシャワー音ありがたがるとかマニアックすぎじゃね?』


「あたしの配信にきといてあたしのファンの方に喧嘩売るのやめてもらえませんかねぇ?

 まあでも、あれはごめん、邪魔しちゃったのは事実だし、さかなんに迷惑もかけちゃったからねぇ。

 だからこうして説明の場を設けたわけさ」


 『ほんとだぞ、ちゃんとさかなんに詫びろ』

 『誠意を見せろ』

 『腹を切れ、腹を』


 だけど、あたしがこうして話せばウソがホントになる。

 あの場にいたのはアタシってことになる。


「ちゃんとさかなんには謝罪しました~後日改めて土下座しました~」


 『土下座写真うp』

 『そこまでしたんなら焼き土下座くらい余裕だよな?』


「いくらあたしでも、流石に皮膚は普通の人間なんだよなぁ!」


 こうしてこの日の配信は、さかなんに迷惑をかけたあたしを糾弾する学級裁判になっていったのだった。

 

 うん、我ながら良い仕事したんじゃね?


 そう、これは全部あたしの仕事。

 あたしの名前は『太刀奈 百合華』。

 わざと炎上役を買って出ているVtuberなのだ。

※以前書いた短編を、長編化してみました。

 出だしこそほとんど変わりませんが、徐々に短編との違いが出てくるかと思いますので、お付き合いいただければ幸いでございます。


 また、面白い、あるいは期待していると思われた方は、いいねや☆評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです!

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名は体を表す……しかし本人の自覚が……! 短編との違いも楽しみです!!
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