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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
『オフシーズン』編
5/24

#4『入団挨拶』





そして、翌日。


人見は、ブレイブハーツの入団会見のため、

錦糸町からも一駅とすぐ近い、押上に来ていた。


上を見上げてみれば、そこには現代の新たな東京のシンボルたるスカイツリーがそびえ立っている。

そのためここ押上は、そんなスカイツリーを登ろうと、国内外の観光客でひしめく、都内有数の一大観光地なのである。


そして、そのすぐ横。

スカイツリーと並び立つように立つ、高層ビル。

そこに今回の舞台となるブレイブハーツの球団事務所がある。





「──人見くん、ようこそ下町ブレイブハーツへ」




そんな高層ビルをエレベーターで登り。

事務所へと足を踏み入れ、用意された部屋で待機していた人見を待ち受けていたのは、そんな優しげに語りかける声だった。



「……って言っても、私もついこの前監督になったばかりなんだけどね。そういう意味では私たちは似たもの同士って訳だ」


なんて、彼はおちゃらけた様子で話す。

かつてのストイックで寡黙な選手のイメージを持っている人からすれば、なかなかに意外な光景であったことだろう。




「…………よろしくお願いします、諸星さん」


「あぁ、よろしく。人見くんには是非ウチのチームに来て欲しいと思っていたんだ。君の入団を歓迎するよ」



そんなやり取りを交わして、2人は笑顔で握手を交わす。


瞬間、眩しいフラッシュが点滅するように打たれ、シャッター音が部屋に鳴り響いた。


ただし、その持ち主はマスコミではなく、球団スタッフだ。

恐らく、球団のSNSにあげる用の写真か何かだろう。





──そして。


それから暫くの間。


社交辞令的な挨拶や会話が行われ、ひと段落がついた。






「──うむ、入団会見までにはまだ時間があるな……」



すると、片手で顎を撫でながら、諸星がそんな事を呟き。

後ろへと、振り返る。



「スタッフさん。申し訳ないんだけど、会見の準備を始める時間になるまでの間、少し席を外してくれないか? ────彼と、少し2人きりで話したいんだ」


「……わ、分かりました!」



彼のそんな言葉を受け、スタッフらが慌てて部屋を後にする。

ガチャリ、と扉の閉まる音が響く。



そうして、正真正銘。


この部屋にいる者は、人見と諸星の2人だけになった。









「──ぷはぁ。やはり、こういうのは疲れるよなぁ……!!」



そして、そうなったかと思えば。

諸星は大きく息を吐いて、これまた大きく伸びを始める。


先程までどこか張り詰めていた空気が、一気に崩壊した。



「君もそう思うだろう? ()()()()



しかし、そんな彼の予想外とも言える様子に対して。


人見は完全に呆れた表情で、ジト目になる。



「……いいんすか、そんな感じで自チームの選手と絡んで」


「過剰な馴れ合いは推奨されないんだろうが……。ビジネス的にしか関わらないというのもつまらないと思わないか?」


「……まぁ、それはそうですね」



「だろう? むしろ、お互い過度に気を遣わず会話が出来るのは良いことじゃないか。それに、今は誰もいないんだし全く問題はないだろう、うん」



諸星が、自分自身で納得といったように、うんうんと頷く。


まぁそれなりに言っていることは理解できるので、人見はもうそこに言及するのはやめておくことにした。






「──それにしても、こうして話すのは案外久しぶりか」


「そうですね。……だいたい、4年前くらいになりますか」



「そうか、もうそんなに経つのか。そう言われて見れば、また見ない間に、大きくなったんじゃないか?」


「それって、27歳にかける言葉じゃないですよ? まぁ、確かに身体つくった分大きくはなってるとは思いますけども」



人見が冷静にそんなツッコミをいれる。


そして、彼の言葉に対しては、諸星が「冗談だ」と笑う。



そこには……目立った遠慮のようなものはなく。


なんだか、お互い慣れ親しんだような空気が広がっていた。







「──それで、聞きたいことがあるんですけど」



そして、ワザとらしい軽く咳払いをしてから。


とくに躊躇うこともなく人見が問いかける。




「このトレード、いつ決まったものなんです?」


「うーむ。それは球団の内情になるから、そうおいそれと答えられることじゃないぞ」


「急に真面目な大人になりましたね。まるで監督みたいです」


「……そういう君も、結構ふざけてるじゃないか」



今度は、諸星の方が目を細める。






「──まぁ、結論から言ってしまえば。私の就任日だ」


しかし、後ろを向いて腕を組んでから。

躊躇う姿勢を見せていた割には諸星があっさりとそう答える。


その言葉に、人見は予想通りといったように微笑し。



「なるほど。──ようするに、やっぱりこのトレードの“差し金”は諸星さんってことすか」


「…………君は、そう思うのか?」



諸星はニヤッと笑い、逆にそう問い返す。


人見の答えとしては、「YES」である。


そもそも、否定しなかった時点で肯定と見ていいだろう。






「じゃあ一応、聞きますけど。どうしてこのトレードを?」



そんな、彼の単純な問いかけに対して。


諸星は再びニヤリと笑って、

彼のしっかりと目を見据えてから、語り出す。




「そうだな……。どうやら、蒼矢くんは私が『私情』で動いているんじゃないかと疑っているようだが……」



そう前置きしてから、彼は言い放つ。




「──まず、最初にこれだけは言っておく。私は()()()でキミを取ったんじゃない」



先程までの柔らかな表情とは、まったくの別。

現役時代を思い返させるような真剣な表情で。


諸星は、はっきりとそう宣言するのだった。






「私は別に『君だから』取った訳じゃない。……いや、この言い方だと語弊があるな……。うーむ……そう、つまり──」



そして、今度はまた少し表情をやわらげて、なんと言えば良いものか……と言うように軽く腕を組んで少し唸ってから。


一旦言葉を切って、再び語り出す。





「──私は、君の能力を買って取ったんだ。君がいればこのチームは優勝できる、とね」



「………………はい?」




()()』。


そんな諸星の口から出た言葉に、人見が思わず声を漏らす。






そして、そんな彼の頭の中には。



『それにさ。俺たち2人の力で、地元の球団を初優勝に導くってのも面白そうだよな』


『……それも本気で言ってるのか?』


『勿論、俺たちなら絶対できる』





昨日の廣中との会話の記憶が蘇っているのだった────。











【人見蒼矢 選手名鑑⑤】


《5年目》

野手転向2年目にして、ついに期待の若手がブレイク。主力の怪我もあり「6番セカンド」で開幕レギュラーを掴むと、開幕試合でサヨナラタイムリーを放つ活躍を見せ、そのままスタメンに定着し規定打席にも到達。また、7月には延長12回に捕手として出場するなど、数字では図れない活躍も見せた。


[成績]

.248(413-100) *8本 42打点 *9盗塁 OPS.688

136試合 二塁打25 三塁打1 四球49 死球2 犠飛3

出塁率.323(467-151) 長打率.366(413-151)

IsoD.075 IsoP.115 20犠打 (488打席)


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