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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
『3カード目 vs横浜シャインズ』編

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31/33

#28『7戦目⑤ 〜チームのためになることは〜』





「──助川、そいつはどういう意味だ?」



──()()()()()()()()()


そう言った彼に、廣中が怪訝な顔をして尋ねる。



「それは、本人から直接聞いた方がいいとは思いますが……。まぁ簡単な話です。たまたまって言うには明らかに当たりすぎなんですよ、人見蒼矢さんは」


そして、廣中の方へそう言って目を向けた助川は、軽く息を吐いてから語り始める。



「……まず前提知識として、人見蒼矢さんはプロ入り以降、通算2000打席ほど立っているんですが……昨季までの死球数は合計で6なんですよ」


「──6!? そりゃすごいな」


「…………え? すみません、僕はイマイチその数字の意味が分からないんですが……」


廣中が彼の言葉に驚愕の声を上げる一方で、諸星一輝は首を捻ながらそう呟く。



「──分かりやすく言うなら、各チームの与死球数は年間平均50個ほど。そして、143試合での1チームの打席数は5300から5400ほど。つまり……ここから考えると、打者は総打席数のうち1%弱は、死球を受けるってことになる」


「……ということは、2000打席で言えば、平均的には20個程度の死球を受けることになる……ということですか」


「そういうこと。ちなみにキミ、諸星一輝の場合は……どれどれ、通算2700打席ほどで28死球。やはり、ある程度の打席数があれば、このくらいに落ち着いてくる」



手に持っていた彼お手製のデータ帳をぺらぺらとめくりながら、助川はそう呟いた。

そして、今度はそれをとあるページにしてこちらに向けて。


「実際、避けるのが上手い選手と言われている山手スターズのレジェンド、大嶋颯斗選手なんかでも……10000打席で死球数は40個ほど。つまり、母数が違うとはいえ、確率でいうなら人見蒼矢さんより当たっていることになるんだ」




「──ようは、蒼矢は避けるのが上手いってことだろ? まぁイメージ通りだ。そういうとこ無駄に器用だしな、蒼矢は」


「確かに、俺は絶対的なレギュラー……なんて立場になったことはないからな。怪我して離脱とか絶対嫌だったから、極力避けるようにしてたさ。……ただ、その6個のうち1個目は悠佑にぶつけられたのはよーく覚えてるけどな」


「……あ、……あー。そういや前にそんなこともあったな。ははは……いやほんとすまん」



そう言って抗議の目を向けてくる人見に、廣中が気まずそうに目を逸らした。


それは、プロ5年目であり、人見が野手転向してから2年目。

彼が主力の怪我もあって開幕レギュラーを掴み、ある程度の結果を残してスタメンに定着しつつあった5月中頃。

広島シャークス対大阪パンサーズ。プロ入り後初となる人見対廣中の対決に、多くのファンの注目も集めたその試合にて。


廣中は気合いが入りすぎたのか。その初打席初球で、人見に思いっきりぶつけてしまったのだった⭐︎


よく回転のかかった伸びのある157キロのストレート。

当たった場所などによっては長期離脱もありえたボールであったが……、幸い人見が上手く避けに行って背中で受けたこともあり、大事には至らなかったのである。




「──話を戻しますが、そんなトップレベルに避けるのが上手い人見さんなんですが、今季は開幕6試合でなんと4個も死球を喰らってるんです。いくらなんでも、これは外れ値すぎる」


そんな2人のやり取りを横目に、助川がこほんとわざとらしく咳をしてから再び話し始めた。


曰く、最初の東京山手スターズ戦では開幕戦と2戦目で2個。

次の新潟アルバトロス戦でも同じく2個。

しかも。そのどれもが今までと違って、避けにはいっているもののキレがなく、()()()()()()見えた……というのだ。




「──って言われてるが、実際どうなんだ? 蒼矢」


「それは…………」


人見は、そう濁すように次の言葉を溜めると。

どこか()()()()()()少しのあいだ目を逸らしてから、観念したように長いため息を吐いて。



「……まぁ、助川の言う通り、今季はインコースの際どいとこにきたら、できるだけ『当たろう』って思ってやってたよ。……今年は勝負の年。結果的に数字を残せるなら、当たって出ることも厭わないってつもりでさ」



人見蒼矢、今季はプロ10年目。

自身が『器用貧乏』であることに吹っ切れた彼は、これまでの『スターになりたい』という思いからの脱却を図った。


……が故の、そんな判断。

死球での出塁は、四球と同様にランナーなしなら単打となんら変わりないチームのためになる『結果』であり、当然ながら出塁率、ひいてはOPSやwOBA、WRC +やWARなどの指標なんかの数値にも積算される項目の1つである。

ならば、うまく怪我をしない程度に当たる分には、『()()()()』なのではないか……という考えが彼の頭によぎったのだった。


それが、その開幕後の6戦で4死球という()()であった。





と、そこで人見が少し苦笑いをして頬を掻き。


「……まぁ、なんだけど────」


「──そのことについては、すでに()()()()叱っておいたからな。もうそんなバカげたマネはしないだろう」



……と、突如背後から別の声が割り込んできた。


廣中たちの目がそちらへと向くと、そこにいたのは。




「「「──か、監督!!?」」」


「一応試合中だぞ、チームメイトと親睦を深めるのもいいが、もう少しバッターボックスに立つ仲間を応援してやれ」



そう言って驚く彼らを見てニヤリと笑うのは、諸星英一。

彼は、粘りの末に8球目で四球をもぎ取り、一塁コーチとやり取りをしている曹浩然に目を向けながらそう言い放った。




「──って、『()()()』ってのはどういう……」


そうして、いち早く監督の言葉を思い返した一輝が、人見に目を向けると……当の本人は少し目を逸らして。



「……いやまぁ、そのことについてはすでに監督から注意されたってこと。『出塁しようって気概は認めるが、そんなことで怪我でもされたら困る。気持ちはそのバットと眼で見せてくれ』……ってな具合でさ」


と、監督をチラリと見ながら少し気まずそうに呟く。

それを見た諸星英一は、周囲を見回して人見たちだけに限らず全員の注目を集めると。



「まぁ、そういうことだ。君たちも、真にチームのためになることを考えているのなら、当たってでも出塁なんて考えはやめてほしい。みんな、このプロの世界で真っ当に勝負できるだけの実力を持っている。だから、使ってるんだからな」


「「「──は、はい!!」」」





……そう彼らが勢いよく返事をしたそのとき。


今度は4番の板谷が初球を振り抜き、右中間に落ちるヒットを放ち、ランナーは一、二塁。


先ほどの人見のスリーランホームランから、再び連続出塁でチームはチャンスを迎えていた。




「……服部のやつ、大分気が立ってそうだな。それに、チーム全体もどこか浮き足立ってそうだ」


「ですね。チームとしてもさっさとこのイニングは終わらせて

流れを断ち切りたかったでしょうし」


そう長谷と村越が、マウンドの服部を見ながら話していると、相手側のベンチからゆっくりと監督が出てきた。


どうやら、投手交代が告げられたようである。




「おお、ここで降板か!!」


「あの服部選手をKOだなんて、いつ以来だ!?」


「──まぁ、言い方は悪いが……失点後も続投させた結果、余計な四球を与えてしまったからな。そして、それもさることながら、服部本人も明らかに気持ちが切れている。……ここでの交代はまったく不思議なことではない。むしろ遅いくらいだ」



長年苦としている横浜シャインズ、そしてそのエースである服部のノックアウトに沸き立つ選手たちを脇目に、諸星英一が顎を撫でながら小さく呟くのだった。






──なお、その回のその後については、代わったシャインズの中継ぎ原田相手に後続が倒れ、追加点とはならなかった。




しかし、こうしてブレイブハーツは。


球団創設以降カモにされ続けていた相手である服部を、5回途中5得点でノックアウトすることに成功したのだった。











【人物紹介② 諸星英一】


 下町ブレイブハーツの新監督。現役時代には、打者と投手の二刀流で数々の伝説を残した日米野球界のレジェンドである。ただし、怪我などもあって40歳手前には現役引退。その後は、以前から志していたプロ野球の監督という夢への道を歩み始め、今季よりその夢を実現させた。

 なお、出身高校は地元の都立業平橋高校であり、人見蒼矢や廣中悠佑と同じである。現在は、チームの本拠地である下町スタジアムのすぐ近くであり、球場全体を上から一望できるタワーマンションの最上階に住んでいる。

 また、昨季B9などのタイトルも獲ったブレイブハーツの切り込み隊長である諸星一輝は、彼の実の長男。そのほか、長女の諸星菜月や、次男の諸星俊介など、合計で4人の子どもがいる。


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