#20『4戦目 〜新潟アルバトロス三連戦〜』
開幕三連戦が終わり、今度の舞台は下町スタジアム。
開幕から2カード目。
ブレイブハーツの本拠地開幕戦となる三連戦が幕を開けた。
その対戦相手は、新潟アルバトロス。
昨季こそ7位という結果に終わってはいるものの、数年前にはリーグ優勝も果たしている強敵だ。
ジャパンリーグでは東京山手スターズと横浜シャインズに次ぐ強力打線を誇り、投手陣もエースの風見を筆頭に若手が台頭しているなど、将来性もなかなか高い。
また、オフのFA市場では、昨季のシティリーグ奪三振王である戸田を獲得。ドラフトでは社会人卒の即戦力投手、天海の指名権を競合の末に得ていた。
そのような要素から、今季は上位予想をしている解説者も少なくないのが、このアルバトロスである。
そんな新潟アルバトロスとの初戦となる注目の4戦目では、諸星一輝の第1号初球先頭打者ホームランから始まり、チームで計5本のホームランを放つなど、ブレイブハーツが圧倒。
投手陣も、昨季チーム1位の12勝を挙げた神山が先発し、7回途中1失点の好投で8対1と、危なげなく勝利したのだった。
──そして、夜が明け始まった第5戦目。
現在は、その開始時刻45分前。両チームのバッテリーの発表が行われようとしていた。
新潟アルバトロスの先発はマイヤーズ。米マイナー上がりの投手で、150後半の力強いストレートを持つ期待の新戦力だ。
オープン戦ではブレイブハーツ戦でも登板しており、その際は4回0封と、調整の場面とはいえ好投を見せていた。
「──いやぁ、それにしてもラッキーだったな!」
「そうだね、先輩からチケットをタダで譲ってもらえるなんて」
そうしてアルバトロスのバッテリー紹介のアナウンスが流れる中、2人の男が観客席に座りながら顔を見合わせる。
一塁側内野席、グラウンドからも近い好立地なそんな席の権利を、彼らはたまたま掴み取っていたのだった。
「……にしても、まだ試合開始前だってのにすげー人だな。久しぶりに現地に来たけど、ブレイブハーツも、すっかり人気チームになったもんだ」
「去年の観客動員数も16球団中6位だからね。立地がいいとはいえ、創設8年でここまでになるとは。……あっ、ブレイブハーツのバッテリー発表が始まりそう」
2人が辺りを見渡しながらそんな会話をしていると、アルバトロスのバッテリー発表が終わり、いよいよホームチーム側の発表が行われてようとしていた。
周囲のブレイブハーツファン達の視線もスコアボードに集まる。
『──そして後攻、下町ブレイブハーツのバッテリーは……ピッチャー、背番号53。ロベルト・シエラ!!』
「……今日の先発はシエラねぇ。そんな年俸も高くはないとはいえ、去年のあの成績でなんで残したんだ」
「いや、シエラもオープン戦では3戦投げて防御率は1点台だし、今年は期待出来るかも」
「へー。……つっても、所詮オープン戦だろ? 多少活躍しようが関係ないだろ」
「それは一理あるんだけど……。シエラの場合、今季の調子の良さには確かな『要因』があって──」
……と、2人が会話を続けていると、すぐに今度はブレイブハーツの先発捕手発表が始まって。
『キャッチャー、背番号1。人見蒼矢!!』
「……ええ!? キャッチャー人見!!?」
「あ、やっぱりオープン戦は見てなかったんだ」
ラッパの演奏と人見の名前がライトスタンドから響く中、隣で驚く友人を見て彼は苦笑する。
周りでも、驚く人と驚かない人が割れているようだった。
「今季のオープン戦からなんだけど……シエラが投げるときは、必ずキャッチャー人見なんだよね」
「そうなのか。……でも、どういう経緯でそうなったんだ?」
「あー、それはね────」
(……いやぁ、まさかこうして公式戦でスタメンマスクを付ける日が来るとは)
それから少し時間が経過して。
スコアボードに映る自分の名前を見ながら、人見がもの思う。
これまで、野手転向後にキャッチャーをやったことはあれど、それは基本的に延長戦などの緊急時の場合であったため、こうして先発出場をするのは初めての経験なのだった。
因みに、本日もここ数試合と同じく2番打者での出場だ。
「──うい、プロ初の先発マスクはどうだ? まさか緊張してんじゃねぇだろうな?」
すると、後ろから真壁がニヤつきながら声をかけてきた。
今日はキャッチャーが人見であることから、当然ながら先発マスクではないが、ここ4試合で14打数5安打1本塁打4打点と打撃好調なのもあって、6番DHで出場となっている。
「いや、とくに緊張はないな。やれることをやるだけだし」
「かーっ、流石元スター選手は言うことが違うなぁ! 俺なんて初めての先発マスクの日は緊張で吐くかと思ったってのによぉ」
「それはそんときお前がまだ若かったからだろ……ってか元ってのやめろやおい。いや、確かにスター選手ではないけどさ」
そうして人見が真壁に抗議の視線を送っていると、彼は人見の隣に座ってきて、一息ついてから口を開く。
「……んで、今日のシエラの出来はどうなんだ?」
「ん、まぁ最高だな。オープン戦で結果も出たし、『やってやるぞ!』って感じでやる気満々だよ」
「マジか。そりゃ頼もしいな」
真壁がそう答えて笑う。スタジアムでは両チームのスターティングラインナップの発表が行われていて、歓声が響いていた。
「──にしても、あのシエラがああも変わるとはな。ちょっとキャッチャーとしての自信をなくしちまうよ」
「いや、それに関してはたまたまウマがあったってだけで、キャッチャーとしての力量って訳じゃ……」
「まぁ、それはそうかもしれねぇがな。……こうして話してると、あんときのことを思い出すな」
「…………あぁ、そうだな」
そうして2人は、およそ2ヶ月ほど前。
春季キャンプのとある出来事を思い返すのだった────。
【神山留衣 選手名鑑】
《13年目》
MAX153km/hのストレートと、手元で変化するカットやツーシームの合わせ技で打者を翻弄する中堅投手。エクスパンションドラフトでブレイブハーツに移籍後、徐々にその頭角を表し、今季は自身二度目の規定に到達し、防御率もギリギリながら2点台。そして、キャリアハイの12勝を挙げるなど、素晴らしい成績を残した。来季はチームの右腕エースとして、新規加入左腕の廣中と、ブレイブハーツ先発陣の二枚看板を形成する。
[投手成績]
25登板 150 1/3回 2.99 12勝7敗 2完投 0完封
108奪三振 与四球36 与死球3 被安打150 自責50
K/9 6.47 BB/9 2.16 K/BB 3.00 被打率.250 WHIP1.24




