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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
『開幕三連戦 vs東京山手スターズ』編
19/24

#18『二戦目① 〜負けず嫌いな相棒〜』





「──プレイ!!」


そして、翌日のナイトゲーム。

下町ブレイブハーツ対東京山手スターズの第二戦。


一回裏、スターズの攻撃。バッターボックスには先頭打者が入り、審判が試合再開の宣告をする。


そして、そのマウンドに立つのは。




「──フンッッ!!!!」



パンッッ!!


左腕を振り抜いて放たれたノビのある直球は、落ちる気配を感じさせないまま、キャッチャーミットに吸い込まれる。


背後の電光掲示板に表示された球速は……、()()()()()




『……な、なんと廣中! 初球からいきなり自己最速、そして左腕としては日本最速記録となる160キロ!!! 凄まじい気合いの入りようです!!!』



そんな実況も驚くような歴史的瞬間に、球場中が響めく。

スターズ先頭打者の小宮も、アウトコースに初球から放たれたその剛速球に、思わず苦笑してしまっていた。



そして、廣中は前に出てボールを受け取り、そこからマウンドへと再び上がりながら、ちらりとセカンドに目を向ける。


そこには、彼の相棒たる存在の人見がいた。

昨日はまさかの開幕投手で三回無失点のピッチング。そして初回先頭打者でのセーフティバントを含めた2安打1四球と、投打に活躍を見せた彼は、本日は2番セカンドでの出場であった。



……と、そこで2人は目が合う。


それに気がついた人見は、廣中はグラブを軽く上げて応じる。

両者が下町ブレイブハーツへと移籍をしてから、キャンプ中の練習試合やオープン戦といった場面では既に経験はしていたものの、こうして公式戦で2人が同じチームとしてプレーをするのは、実に高校以来10年ぶりのことであった。



そんな彼のさりげない仕草を見た廣中は、そんな彼の元へ目を向けて、少しだけ口元を綻ばせる。



(……蒼矢。昨日はお前のピッチングを見れて、俺は嬉しかったんだ。かつてチームのエースを奪い合ったお前が、ああして再び投げる姿を見られるなんて、な)



しかし、それも束の間。


彼はマウンドへと上がると、再び顔を強張らせる。

鳴り響く相手チームの応援歌なんて意に介さないように、キャッチャーのサインを静かに見据えるその姿は、まさに集中を研ぎ澄ませた勝負師のそれであった。



(…………ただ、な)





──そして。


サインに頷いた彼は、ゆっくり投球動作に入りながら口を開く。





「今日ばかりは、この俺がチームの中心だ」














『──以上! 今日のヒーロー、廣中選手でした!!」


そうしてアナウンサーによってヒーローインタビューの締めくくりが行われ、レフトスタンドからの割れんばかりの歓声を受けつつ、廣中がベンチへと帰っていく。




「……いやぁ、今日はなかなか楽しかったな!!」


「お疲れ。本当に文句のないピッチングだったな」



そして、ベンチ奥のクラブハウスにて。ヒーロインタビューから帰ってきた満足気な廣中を、人見は軽く背中を叩いて労う。


彼の言う通り、今日の廣中のピッチングはまさに完璧と言える内容で、初回にいきなり160キロを投じると、その勢いのままに三者連続三振。そして、そのまま9回まで走り抜けた。


つまり完封。しかも、15奪三振の球団新記録付きだ。



「……ま、でも俺が今一番驚いてるのは、廣中が()()()で完投しちゃったことなんけどな」


「それはまぁ、俺も同意だが」


そう言って、2人で笑い合う。

プロ野球界において、廣中悠佑という選手といえば、速球派ノーコン投手というのが一般的なイメージである。

ただ、データを見てみると、そこまで四球率やコマンドが悪い訳ではない。……それでも、これまでの彼の投手のキャリアにおいて、完投を記録したことこそ多くあれど、無四球完投の達成については今回が初なのであった。



「いやぁ。やっぱり諸星監督の指導と、()()のお陰かな」


「……その言い方。まさか、俺のこと?」



意味深な流し目を向け呟いた彼の言葉に、人見がそう問い返す。



「あぁ、そうだ。蒼矢のピッチングなんてモン見せられちまったら、そりゃ俺の気合いも入るってもんよ。……もしかしたら、これも監督の計算のうちだったのかもな」


「流石にそれは……いや、ありえるか……?」




そうして、人見と廣中の2人は会話は続く。


気がつけば、「ナイスピッチ」と声をかけ、彼らの古くからの後輩である諸星一輝や、本日廣中とバッテリーを組んだ真壁なども、彼らの会話に混ざっていく。




「──それと本当は、蒼矢みたいにバッティングでも貢献できたら完璧だったんだがな」


「去年から両リーグDHになっちまったからな。もう悠佑のバッティングが見れないのは残念だ」


「……廣中の野手顔負けのパワーには、俺もこれまで敵チームのキャッチャーとして苦労させられてきたよ」



そうして、真壁が昔のことを思い出してため息をつく。


そう。廣中という投手はバッティング面においても、打率こそ1割台ではあるが、その中で通算6本塁打を放っているのだ。

流石に昭和のエース達の持つ異次元のような記録には負けるが、これは現役投手の中では最多の記録である。



「今度、監督にDH外すように言ってみようかな」


「はは、そんなことしたらまた父さんが叩かれそうですね」




そんな冗談を言い合ってから、廣中が遠い目で言う。



「──これで、開幕から2連勝。まだまだ始まったばかりとはいえ、夢の実現も今のとこ順調だな」


「夢、ね。もしかしなくても、()()のことか?」


「……()()? なんのことですか?」



そうして首を傾げる一輝に、廣中が得意気に答える。



「あぁ、実はな。前に蒼矢と誓ったんだ。このチームに移籍するからには、絶対優勝させるんだ……ってな」


「──ま、そんなこともあったな」



すると、それを聞いた2人も反応を見せて。



「優勝!! 良いですね! お二人がいれば夢じゃない!」


「……優勝か。ある程度形になってきたとはいえ、CSすら出場したことないこの新参チームをか? 変わらず廣中は言うことがデカいな。……まぁ、そういうところがお前らしいんだが」






「──というか。優勝が目標ってのは、キャンプ初日の挨拶から監督も言ってたことだからな。忘れるなよ」


「あ、板谷さん。聞いてたんですか」


「そりゃあんだけ盛り上がってれば、聞こえてもくるさ」



そうして、彼らの会話に入り込んできたのは、板谷栄輔(いたやえいすけ)


数年前に下町ブレイブハーツにFAで移籍してきた、高卒18年目のベテラン選手である。

昨季から年齢のこともありセカンドからサードに転向したが、打撃は衰えを見せることなく、今季も開幕の2試合を『4番サード』で出場しており、キャプテンも務めるチームの中心選手だ。




「──それにしても、優勝か。……あぁ、そうだな。ここらでもう一度、言ってておこうか」



そう言って彼は周囲に呼びかけ、皆の注目を集めると。

彼らに視線を合わせながら、声を大にして宣言する。




「──いいか、みんな!! ……今ここで彼らが、そして監督が言うように、俺らの目標は優勝だ!! 世間じゃいくら諸星監督でも無理なんて言われてるが、俺は全然そうは思わない!! そんなふざけた風潮ひっくり返して、監督を胴上げしよう!!」


「「「──よっしゃああああああああ!!!!!」」」



そんな彼の言葉に、周りの選手達も応える。


下町ブレイブハーツのクラブハウスは大盛り上がりだ。









「……ははっ、なかなか良い雰囲気じゃあないか」




そして、そんな雰囲気のクラブハウスの声を。


諸星英一は嬉しそうに、ドア越しで聞いていたのだった──。











【板谷栄輔 選手名鑑】


《17年目》

優れた選球眼で、安定した成績を残し続けるベテラン内野手。サードに転向となった今季は、怪我による離脱もあったものの、終わってみればいつもの水準の成績。サードでGG賞も獲得した。来季は2000本安打の達成にも期待がかかる。


[野手成績]

.279(390-109) 19本 68打点 6盗塁 OPS.870

119試合 二塁打20 三塁打0 四球68 死球6 犠飛2

出塁率.394(467-184) 長打率.477(390-186)

IsoD.115 IsoP.198 0犠打 (468打席)


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