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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
『開幕三連戦 vs東京山手スターズ』編
14/24

#13『開幕戦③ 〜畳みかけて〜』





──無死一、二塁。


人見に続いて一輝も出塁した結果、下町ブレイブハーツは初回から大チャンスを演出していた。



『3番、ファースト。曹浩然』


そして、その勢いのままに曹が打席に入る。

日本プロ野球では珍しい中国出身の助っ人で、独立リーグを経由してブレイブハーツに入団。

190cm102kgと巨漢の持ち主で、3年目の昨季は3割20本を記録したチームの中心打者だ。




「──た、タイム!!」


すると、そこで堪らず、東京山手スターズの捕手である串田がタイムを要求してマウンドへ向かう。


一旦間を空けて、ブレイブハーツに生まれつつある『流れ』を止めよう……という意図なのだろう。

また、それを受けて内野陣も集まり、ピッチャーの背中をグラブで叩いたらして鼓舞しているのが見ていて分かる。


まぁ、野球というスポーツではよく見かけるセオリーだろう。




──ただ。


そんな相手チームの様子を見て、1人の男が塁上で不敵な笑みを浮かべる。



(……そんなんで、こっちの勢いを止められると思うなよ?)






──そして、集まっていた内野陣が再び守備について。


「プレイ!!」


審判のコールによって、再び試合が再開された。


中山は、セットポジションに入ったままセカンドベースを一瞥し、曹に対しての一球目を────。






「────なッッ!!?」



と、キャッチャーの串田は思わずそんな声を漏らす。



なぜなら、投手が投球モーションに入ろうとしたその瞬間。

その後方で、一塁ランナー人見及び二塁ランナー諸星が同時にスタートしていたのだった。



ようするに、()()()()()()()を仕掛けてきたのである。





「──セーフ!!」


それを受けて、串田は三塁に送球するもセーフ。

しかも、捕球する前にはベースに到達している余裕ぶりだ。




(……くそ、やられた。あいつら、完全に()()()やがった)


串田が再びマスクを被らながら、微かに顔を歪める。


これで、ノーアウト二、三塁。

山手スターズとしては、ブレイブハーツのクリーンナップを迎える中、得点圏に2人のランナーを抱え、ゲッツーもない状況。

大量失点すら考えられる最悪の状況に陥っていてしまったのだ。





(──まぁ、いくら三盗とはいえ、牽制する気ないんだなって分かって、モーションも盗めたらそりゃ楽勝なんだよな)



そんな苦しい状況に置かれた山手スターズの選手とは対照的に。

人見は一輝と目を見合わせ、三塁ベース上で得意げに笑う。




開幕戦の初回に迎えた、いきなりのピンチ。

ランナーの動きにも翻弄されての四球を出した若手投手。


そのような結果の中、マウンドに集まって話すことは何か?



『──ランナーは気にするな! 1つずつアウトを取ろう!』




大方、そのようなことになるのではないだろうか?


しかもその上で、ピッチャーも二遊間の選手も、明らかに二塁ランナーを牽制する気のない動き。


さらに。シーズンオフの間に諸星監督が発見したという、二塁ランナーを一度見た後、投球モーションに入るまでの時間が決まっているという中山の()()


まさに、すべての条件が。

ダブルスチールを仕掛けるには()()()()()のだ。






そうして人見が、ダブルスチールで到達した三塁ベースについたまま、相手投手である中山に目を向ける。


……やはり、冷静を装ってはいるがどこか表情は硬い。



まぁ、経験の少ない投手でありながら、開幕戦という緊張感。そもそも、今季初の登板で、初回からワンナウトも取れないままに大ピンチという状況下。


そうなってしまうのも、無理はない。





だが、少し気の毒だとしても、情けをかける余裕などはない。


プロの世界は弱肉強食。

つけこむ隙があるのなら、それを活かすのが肝要。



……やれるだけやらせてもらうだけ、なのだ。










──そして。


その後は、3番曹浩然4番板谷の連続タイムリーもあり、ブレイブハーツはあっさりと3点を先制。

昨季の王者である山手スターズを相手にして、上々のスタートを決めたのだった。





「──人見、ナイスラン」



そうしてホームに帰還後、人見がベンチで裏の準備をしていると、後ろから防具をつけた男が背中を叩いてきた。


──真壁(まかべ)健吾(けんご)


今日の試合にも7番捕手で出場している、ブレイブハーツの正捕手的存在だ。

低打率ながらパンチ力のある打撃と、地味ながらも安定感のあるフィールディングが魅力である。


そして。そんな彼の存在は、人見にとってもただのチームメイト……というだけではなく。




「おう、裏のピッチングも任せとけ」


「ま、期待してるぜ。『ピッチャー人見』のボールを()()()()()()()()者として、な」


「はは、懐かしい話だな」



そんな軽口を言い合いつつ、拳をつけあわせる。


2人は、同じ今季10年目の27歳高卒。

甲子園では決勝でやり合い、U—18の代表戦では、チームのエースと正捕手として世界一を達成した関係性でもあった。


故に、人見が彼とバッテリーを組むのは初めてのことではなく、まさに10年ぶりの出来事なのである。






「……つーか、開幕初球セーフティバントに、塁上での暴れよう。お前、やりたい放題だったな」


そんな、かつて短い期間ながらチームメイトであった真壁が、そう言って苦笑する。



一方。そんな彼の言葉に対して、人見は。






「──おう、これが今年の()()()()()だ」




そう言って、ニヤリと笑ってみせるのだった────。











【諸星一輝 選手名鑑②】


《年度別野手成績》


① .143( **7- **1) *1本 *4打点 *1盗塁 OPS.714

  二塁打*0 三塁打0 四球*0 死球0 犠飛0

  出塁率.143(**7-**1) 長打率.571(**7-**4)


② .222(144-*32) *2本 13打点 *7盗塁 OPS.591

  二塁打*9 三塁打1 四球*9 死球1 犠飛1

  出塁率.265(155-*41) 長打率.326(144-*47)


③ .268(366-*90) *6本 32打点 18盗塁 OPS.658

  二塁打22 三塁打2 四球20 死球5 犠飛3

  出塁率.292(394-115) 長打率.366(366-134)


④ .274(526-144) *8本 40打点 29盗塁 OPS.698

二塁打27 三塁打3 四球29 死球4 犠飛2

  出塁率.316(561-177) 長打率.382(526-201)


⑤ .259(398-103) *5本 29打点 20盗塁 OPS.662

  二塁打20 三塁打3 四球20 死球5 犠飛3

  出塁率.300(426-128) 長打率.362(398-144)


⑥ .285(520-148) *7本 41打点 32盗塁 OPS.720

二塁打24 三塁打7 四球24 死球6 犠飛2

出塁率.322(552-178) 長打率.398(520-207)


⑦ .306(556-170) 10本 50打点 42盗塁 OPS.769

二塁打30 三塁打4 四球28 死球7 犠飛4

出塁率.341(592-202) 長打率.428(556-238)



《通算野手成績》


.273(2517-688) 39本 209打点 149盗塁 OPS.703

二塁打132 三塁打20 四球130 死球28 犠飛15

出塁率.314(2690-846) 長打率.388(2517-977)


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