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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
『開幕三連戦 vs東京山手スターズ』編
13/24

#12『開幕戦② 〜二世の意地〜』





『──2番、ショート。諸星一輝』



人見のセーフティバントで無死一塁となって、次の打者である一輝が打席に入る。


過去2年間は出場試合の大半を1番打者として過ごしていたこともあり、2番打者としての出場は実に3年ぶりだ。



──ただ、そんなことよりも注目すべきことは、諸星一輝という打者と相手の先発投手中山の()()だろう。


昨季の2人の対戦成績は、14打数2安打5三振。

右投手対左打者という、一般的には打者有利と言われるマッチアップながら、一輝はいいようにやられていたのだった。




(さて、初球は……っと)


そんな彼は、冷静に三塁コーチャーのサインを確認してから、体勢を少し屈めてバットを寝かせる。



(……諸星一輝に送りバントか。俺との相性が悪いとはいえ、意外と諸星英一監督は手堅いんだな)


それを見た中山も、捕手のサインを見てセットポジションに入って、牽制を一度挟んでから……投げた。


それを見て、一輝はさっとバットを引く。



──ボール。

148km/hのストレートが高めに外れていた。


おそらく高めの速球で押して、バントの打球を打ち上げさせる狙いだったのだろう。




(初球はボール。……なら、次はやるのは──)



引き続きバットを寝かせた一輝を一瞥して。


中山がクイックで投げ──た、その瞬間。





「──ひ、ヒッティング!!?」


バットを引いた一輝が、スイング体制に入った。

その様子を見て、チャージをかけていた内野陣が急ブレーキをかけ、来る打球に備える。



──が。



ボール。


一輝はそのまま見逃したのだ。

スライダーが少しだけ低めに外れていた。



(……この野郎。こいつ、バントする気は最初からなかったか)


何事もなかったかのようにバッターボックスから離れ、素振りでミートポイントを確認する自身のルーティーンをしている一輝をキャッチャーの串田が睨む。


彼は、少しだけ笑っていた。

ここまでは思い通りだとでもいうように。





──しかし、今度はストレートがアウトコースの際どいところに決まって、カウントはワンツー。


いわゆる、バッティングカウント。

『何か』を仕掛けるのであれば、実にやりやすいカウントだ。



中山が再び牽制を入れてから、足を前に踏み出すと。





「「──は、走った!!!」」



そんなバックの仲間の声が、中山の耳に聞こえてきた。


──ここでやはり仕掛けてきたか!!





……だが。



(──いや、ただの盗塁のフリだ!!)


ボールを捕球しつつ、ランナーの動向を伺っていたキャッチャーの串田は、ランナーである人見の動きを察知していた。


勢いよくスタートを切ったように見えた人見だったが、そうしたのも束の間。既に帰塁を始めていたのだ。

串田はそれを見て、一塁に思い切り送球する。



「……セーフ!!」


しかし、セーフ。


ヘッドスライディングで帰塁した人見は、その流れのままに立ち上がり、余裕そうに屈伸をしていた。


そして、投じた4級目の判定はボール。

カウントは、ワンストライク、スリーボールとなっていた。





(……蒼矢兄さん、初っ端から暴れてるなぁ)



そんな一連のプレーを眺めていた一輝が、思わず苦笑する。

あれだけアグレッシブにプレーをする先発投手なんて、現代プロ野球では普通ありえない。

しかも、昨季から日本プロ野球においても両リーグDHが導入されているのだからならさらだ。


ただ、おかげでカウントはワンスリー。

フォアボールで無死一、二塁という展開も見えてきた。





「──ファウル!!」


……しかし、次のカーブにタイミングが合わず、一塁側観客席に向けてライナーを打ってしまいファウル。


これでカウントはツースリー、フルカウント。





(──去年までは、こうなる(追い込まれる)とダメダメだったけど……)


ファウルで一旦試合展開に間が空く中、一輝はバッターボックスから外れて一息つく。

その脳裏によぎるのは、キャンプ中の父……監督の言葉。



『──いいか。世間じゃあ諸星一輝はスターだなんて言われてるが私はまだ認めていない。一流の1番打者になりたければ、打って『()()()』選手になるんだ』



それが、彼が父の英一と『監督と選手』という立場になって、初めて言われたことだった。


……確かに、諸星一輝という野球選手は、プロ入り前から生粋のフリースインガー。

四球拒否の早打ちで、三振も打者タイプを考えればかなり多い。そういう点では1番打者に向いていないという自覚もある。




──ただ。



(それを『なんとかしろ』って言われて出来るんなら、とっくにしてるんだよ──ッッ!!)



「ファウル!!」


アウトローに絶妙に決まったフォークを、バットの先ギリギリのとこで当ててカットする。



(──ほんと、自分が歴代最強の野球選手だからって、いつも簡単に言ってくれるよな……ッ!!)



「ファウル!!」


インコースのストレートを、前足を少し開いて無理矢理引っ張ってファウルにする。




(そんな大スターを父に持った息子の気持ちも少しは考えてほしいんだけどね……ッ──!!)



「ファウル!!」


低めに来たチェンジアップを、前に出ていこうとする身体を抑えて三塁方向に流し、なんとか喰らいつく。





(まぁ、でも────ッ)






「──ボール、フォア!!」



(そこまで言われたら、やってやるしかないんだけど!!)





そうして、握りしめたバットを置いて、ゆっくりと歩き出す。

ツースリーから、3球粘ってのフォアボール。


諸星一輝という選手としてはかなり珍しい出来事に、球場中のスターズファンだけでなく、レフトスタンドのブレイブハーツファンさえも、どこか驚きに包まれていた。





(……すぐに、『()()』を当たり前にしてみせる!!)



そんな周りの様子を見て。

彼は、そう決意を新たにするのだった。











【諸星一輝 選手名鑑①】


《7年目》

あの諸星英一の長男で、下町ブレイブハーツの正遊撃手。今季は初の規定3割をマーク。また、二桁本塁打や40盗塁も達成し、球宴出場は勿論のこと、B9及びGG賞を獲得するなど、チームを代表するレベルの選手へと成長した。

8年目の来季は、最大の課題である四球数の増加を図り、さらなるレベルアップを狙う。


[野手成績]

.306(556-*170) 10本 50打点 42盗塁 OPS.769

140試合 二塁打30 三塁打4 四球32 死球2 犠飛4

出塁率.341(592-202) 長打率.428(556-238)

IsoD.035 IsoP.126 *8犠打 (600打席)


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