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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
『開幕三連戦 vs東京山手スターズ』編
12/24

#11『開幕戦① 〜プレイボール〜』





『皆様、大変お待たせいたしました。時刻は17時50分。舞台は文京区後楽、東京山手スターズの本拠地『メトロ・ドーム』。いよいよ、今季のプロ野球が開幕しようとしております』



──時は流れて、3月末。


春季キャンプ、そしてオープン戦も、大きな事件なども特になく、無事に終わりを告げ。


今季のプロ野球ペナントレース第1戦。

東京山手スターズ対下町ブレイブハーツの開幕戦の中継が、眼前のテレビに映し出されていた。



『──そして、対戦相手である下町ブレイブハーツにおいては、あの球界のレジェンド、諸星英一さんの監督としての初陣でもあります』


実況担当が、気持ちのこもった試合前の口上を語る中、ホームゲームである東京山手スターズの選手達がいよいよ守備位置につきはじめる。



『そんな下町ブレイブハーツは、オープン戦では8勝8敗とまずまずの成績。一方の東京山手スターズは12勝5敗と、まさに王者といった戦いぶりでした。……果たして、本日の試合ではどちらのチームに軍配が上がるのでしょうか!』





「……つ、ついにここまで来ちゃったよ……!!」


そして。


そのテレビと、その奥に広がる『グラウンドの光景』を見て、諸星菜月が緊張のあまり、顔を引き攣らせて固唾を飲んでいた。



──なぜかと言えば、勿論。





『──そして、なんといってもこの試合の注目選手は、下町ブレイブハーツの人見でしょう。先ほどのスタメン発表では、諸星監督の宣言通り、この人見が先発としてコールされました。また、それだけでなく1番DHにも名を連ねております』



「……蒼矢さん、本当に今日投げるんだな……」



そんな、常人が聞けばチーム監督の正気を疑うような実況の中、菜月の隣でそんなことを呟いているのは、諸星俊介(もろほししゅんすけ)


22歳。諸星家の次男で、ドラフト候補な中政大学の四年生だ。


歳が離れていることから、人見との野球のプレー経験はないが、子供の頃からの関わりは他の2人と同じくたくさんある。

今日も、色んな意味で人見が世間の注目を集めている試合を見ないわけにはいかないと言うことで、2人で観戦に行こう……ということになっていたのだった。


因みに、テレビ付きで、実況解説を聞きながら現地での試合観戦ができるというなかなかに良い席だった。

……なお、ビジターのため自費である。






『さぁ、スターズの先発である中山がマウンドに上がります。昨季ブレイクした期待の若手が、なんと開幕投手を任されました」



(相手先発は中山選手。スターズも思い切ったな……)



投球練習を見ながら、俊介は分析を始める。


中山は、昨季交流戦あたりから先発ローテーションに定着した高卒4年目の投手だ。実況の言うように昨季ブレイクし、防御率もシーズンで2点台を記録している。


確かにいい投手だ。このまま成長すれば球界を代表するような選手なることも期待できるだろう。

……だが、まだ荒削りな部分もあるし、なにより経験が少ない。


普通に考えたら、まだ開幕投手に選ばれるような存在ではないが、ブレイブハーツの開幕投手人見の件を受けて、それならエースは温存&経験を積ませよう……という判断なのだろうか。







『──そして、先頭打者の人見がバッターボックスへと向かいます。さぁ、いよいよ試合が始まろうとしております!!』



そのように実況も試合前ながら盛り上がりを見せる中、軽く素振りをしながら人見が打席に入っていく。


スイッチヒッターである彼は、相手投手の中山が右であることから、当然左打席だ。





──そして、バットを下に垂らして前後に揺らすいつものルーティンの後、ゆっくりと構える。


あとは、審判によるプレイボールのコールを待つだけだ。






「……そーくん、どうか頑張って……!」










────────────────────────────







「──プレイボール!!」



そして、遂に球審のコールが為された。



ここに、正真正銘。

143試合に渡るプロ野球ペナントレースの幕が開けたのだ。



それを受けて、ピッチャーがゆっくりと投球体制に入り。


記念すべきその初球が投じられ────。





コツン。



「「「えっ!?」」」




その瞬間。


グラウンド及びベンチのプレイヤー、スタッフ。そして、球場に詰めかけた約40000人の観客が目を見開いた。




そこには、投球直前にバットを寝かせた人見が、三塁線に絶妙なゴロを転がして走り出す姿があったのだ。





──いわゆる、セーフティバント。


なんと、開幕戦1回表の初球に、である。








「……ま、マジかよ!!?」


そんなまさかの出来事に、慌ててサードがチャージをかける。



──だが、()()


人見の転がしたバンドの打球の勢いは殺されている。

本来であれば、ピッチャーが取るべき範囲なのだ。


だが、最初の投球に神経を研ぎ澄ませていたあまり、完全に()()をつかれていた。




(ふっ、初めての開幕マウンドに緊張してるとこ悪いが……いきなりかき乱させてもらったぜッッ!!)


人見がそのまま一心不乱に加速していく。

彼のスプリントスピードは決して速い訳ではないが、そんな彼でもセーフになれるくらいには面白いところに転がっているのだ。







──そして。



「うおおおおおおおおおおお!!!!!」


ズサアアアアアアァァァッッッ!!!!




「──せ、セーフ!!!」


「……ふぅ」



審判のコールが響く中、寝そべったまま人見は一息ついた。


そう。彼はセーフティからの全力ダッシュの勢いのまま、一塁に向かってヘッドスライディングをしてみせたのだった。



開幕のプレイボールからたった30秒にも満たない間のこの一連の出来事に、困惑というか、歓声というか。メトロ・ドームには異様なムードに包まれていた。








「──人見くん……君ってやつは」



そのような雰囲気の中、人見が立ち上がってユニフォームに着いた土を払っていると、ファーストの大嶋が話しかけてくる。


東京山手スターズ一筋で37歳のベテラン。いわゆるフランチャイズプレイヤーである。

球界全体においても、2000本安打・400本塁打を達成しているまさしくレジェンドといえる存在だ。




そんな彼も、人見のやってのけた行動に少し呆れた様子だった。

まぁ、そうなるのも無理はないのだが。





「ははは。こういうの、ちょっとやってみたかったもので」



そんな大嶋に対して、人見はあっけらかんと笑ってみせる。






そこにはあったのは、マウンドに立つ前にユニフォームを盛大に汚した先発投手の姿なのだった──。











【廣中悠佑 選手名鑑②】


《年度別投手成績》

①        出場なし

② 4試合 20 回 4.50 1勝 2敗 15奪三振 自責10

③ 15試合 98 回 2.94 7勝 3敗 90奪三振 自責32

④ 25試合 170 2/3回 3.48 10勝10敗 168奪三振 自責66

⑤ 27試合 190 1/3回 2.46 13勝 7敗 192奪三振 自責52

⑥ 24試合 156 2/3回 3.68 8勝 10敗 160奪三振 自責64

⑦ 25試合 175 回 3.34 11勝 9敗 184奪三振 自責65

⑧ 28試合 198 1/3回 2.54 14勝 8敗 206奪三振 自責56

⑨ 12試合 76 回 3.20 5勝 5敗 83奪三振 自責27


《通算投手成績》

160登板 1085回 3.08 69勝 54敗 1098奪三振 自責372


《通算野手成績》

.167(288-48) 6本 27打点 1盗塁

12二塁打 0三塁打 8四球 1死球 29犠打 (326打席)

出塁率.192(297-57) 長打率.271(288-78) OPS.463

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