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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
『オフシーズン』編
10/24

#9『いざ、春季キャンプ』





そして、時は流れて。


2月1日。春季キャンプの時期となった。

3ヶ月ほどのオフも遂に終わりを告げて、また新たなシーズンが幕を開けるのである。



そういう訳で、人見は沖縄に来ていた。

言わずもな、春季キャンプのためである。


プロ野球界における春季キャンプといえば、沖縄か宮崎が行われることになるのだが、人見としては広島シャークスに所属していた昨年以前もこの沖縄がキャンプ地であったため、断然こちらのイメージが強かったりする。



そして本日は、人見にとって節目となる10年目のシーズンが始まる日でもあった。


故に、春季キャンプもこれで10回目。最初はあれだけ緊張した舞台も、今ではもうすっかり慣れたものだ。




──ただ、だ。


今回のキャンプは、これまでのキャンプとは一味違う。


10年目のシーズンであり、勝負の年であるから……というのもあるにはあるが、それだけではない。



そう、オフシーズン中にトレードで下町ブレイブハーツに移籍した人見にとっては、これが新しいチームメンバー達との『顔合わせ』になるのだ。



そのため、そういった点で今回は初めてのキャンプなのである。


他チームの選手といえば、廣中のような昔馴染みくらいしかロクな絡みがなかった彼にとって、これは大きな『()()』であった。






そんな訳で、気分を重くをしつつ、早めに来ていた更衣室にて、ちょっぴり緊張していると。




「──蒼矢()()()!!」


そんな元気な声と共に、茶髪の青年が駆け寄ってくる。


その声で、彼はそれが誰なのかはすぐに分かった。

振り返って、その名を呼ぶ。



「おー。その声は、カズキじゃないか」




──諸星(もろほし)一輝(かずき)



この下町ブレイブハーツ生え抜きで、若手の遊撃手だ。


……そして、その名が示すとおり。



彼は、かつて日米の球界において凄まじい活躍を見せたスター選手であり、チームの新監督である()()()()()()である。

そして、そういった事情から、人見にとってはプロ野球界にいる、昔馴染みの1人でもあった。


年齢は2つ下ではあるものの、姉の菜月と同じく昔から人見にひっつき虫で、小中高と同じチームに所属。

人見が高校3年のときには、1年生ながらレギュラーを掴み、今でもなお語られる、都立業平橋高校の甲子園優勝メンバーの1人なのだ。



なお、そんな彼も、高卒ドラ2でプロ野球界へと飛び込み、黎明期から今までの下町ブレーブスを支える活躍を見せている。

とくに昨季は、なんと3割10本40盗塁超えを記録し、盗塁王・GG賞・B9と、まさにキャリアハイといえるシーズンを送っていた。


そのネームバリューと甘いマスクに加えて、そのような成績を残しているというのだから、当然人気が出ないはずもなく、今や球界トップクラスのスター選手と言っていいレベルにある。





──しかし、そんなスター街道を進みつつある彼も、子供の頃からの付き合いである人見の前ではただの昔馴染みで。



「お久しぶりです!! お元気でしたか?」


「いや、この前まで悠佑とかと自主トレしてただろ?」


「それはまぁそうなんですけど、なんというか……こうしてチームメイトとして顔を合わせるとなんだかそう感じるなぁと言いますか……そう!! また蒼矢兄さんと一緒に野球ができるなんて……夢のようです!!」


「ははは。カズキも大人になって、社交辞令が上手くなったな」


「そんなんじゃないですよ、本当に嬉しいんですって!!」




そんなたわいもないやり取りを一輝としつつ、人見はふと思う。



(……最初に来たのが、コイツで良かったぁぁ〜……!!)




──意外と、小心者な人見なのだった。









「──そういえば、蒼矢兄さんは今季どこを守るんですか?」


それから暫くして。

更衣室からグラウンドへ向かう道の途中で、一輝がそんな疑問を人見へ投げかけた。



「……さぁ? どこになるんだろうな」


「さぁ……って、蒼矢兄さん……。自分のことですよ?」


「いやぁ、別にポジションに拘りがないからなぁ。正直試合に出られるならどこでもいいんだよな」



呆れた様子の一輝に対して、小さく欠伸をしてそう答える人見。


高校からショート一筋の彼とは違って、人見の場合は野手転向を経験者。それだけでなく、昨季だけでも、キャッチャーとファーストを除いた6つのポジションで出場を経験しているザ・ユーティリティプレイヤーである。


その年最も多く出場したメインポジションのような存在も、そのシーズンのチーム編成によって毎年のように変わるので、本人のこだわりなんてモノはとうの昔に消え失せていたのだった。


……ただ、それこそが諸星新監督が人見を評価しているポイントの1つなのだが。





「まぁ、試合に出ることが出来るのであればどこでも良いってのは分かりますけど。それなら、セカンドが蒼矢さん、ショートは僕で二遊間を組んでみたいなぁ」


うんうんと頷きながら、独り言を呟く一輝。


確かに、昨季の下町ブレイブハーツはセカンドのレギュラーがパッとしていなかったので、その線はありそうだなぁ……と人見は心の中で思う。

それに、彼の記憶が正しければ、人見という選手のキャリアにおいては、確かセカンドでの出場がポジション別で最多なのだ。





「……そ、それか。昔からずっと()()()()()()()僕としては、やっぱり蒼矢さんの──」



「──おっ、一輝と蒼矢くんじゃないか」



少し言い淀んでから、何かを言いかけようとしていた一輝の言葉を遮って、背後からそんな掛け声が聞こえた。


振り返れば、そこに居たのは50過ぎのおじさん。

ただ、下町ブレイズハーツのユニフォームをきており、人見にとっても一輝にとっても、馴染み深い人であった。




「「──か、監督!!?」」


「うむ、今季よりチームの新監督になる者だ。よろしく頼む」



驚く2人に対して、そんな感じでおどけてみせたのは、言わずもな諸星英一。そして、下町ブレイブハーツの新監督であった。



「監督ももういらしてたんですね」


「まぁな。ただ、これから私は記者の相手をしなくちゃならんのでね。選手の諸君らは先にグラウンドに向かうように」


「「は、はい!!」



少しわざとらしいくらいに監督らしく振る舞う彼に、2人は力強く返事をした。

これからは、選手と監督としての間柄になるんだなぁ……という実感がようやく湧いて来るのだった。






「──そうだ、蒼矢くん!!」


「はい! なんでしょうか!!」



そうして、諸星監督が人見たちとは別方面に歩き出した直後。

そんな呼びかけによって、再びその足が止まる。


彼が振り返ってみると、そこには何故かニヤリとしている監督の姿があって。







「──君には、このキャンプでやってもらいたい()()()()()()があるんだ。期待しておいてくれ」




そう言って、不敵な笑みを浮かべるのだった──。











【人見 選手名鑑⑨】


《通算成績》


[投手成績]

36登板 48回 4.50 1勝4敗1H 32奪三振 自責24

10四球 0死球 K/9 6.00 BB/9 1.84 K/BB 3.20


[野手成績)

.244(1703-416) 36本 194打点 42盗塁 OPS.711

二塁打99 三塁打6 四球241 死球6 犠飛12

出塁率.338(1962-663) 長打率.373(1703-635)

IsoD.094 IsoP.129 49犠打(2024打席)


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