第44話 結果発表
「本日はありがとうございました。シャワーも使わせていただいて」
「お気になさらないでください」
白華対桃園の練習試合、その勝敗結果は二対一で終わりました。
最後の三試合目は一試合目と同じツインタワーストライクの陣形でしたが黄連さんが前で指示をしているだけで戦い難さが何段階も跳ね上がって最終的に0対2になって負けてしまった。
言い訳になるけど三戦目はもう何と言うか相手の連携が上手なだけじゃなくて私達も限界が近かった。全力の動きで三連戦、体力だけじゃなくて精神的に疲れてた。
三回とも勝ってアピールしたかったけど現実は厳しかった。
「正直言って驚きました、四月以前の試合を見させていただきましたがあの時とは比べ物にならないぐらい強くなっていました」
「うぐっ!?」
やっぱり他校の人から見ても弱かったと判断できたんだ……こんなまっすぐな瞳で言われると余計にダメージを受けちゃうよ。
「失礼しました! しかし、無駄の無い動きに加えて連携の意識。対抗戦術の数。大変戦い難かったです。あちらのコーチさんのおかげですか?」
「……はい、本当に運が良かったといいますか、もっと早く気付くことができれば良かったといいますか。とにかく、コーチのおかげで私達は強くなれました。まだまだですけどね……」
井の中の蛙大海を知らず、まさに私に相応しい言葉だった。
正直ここまで差があるなんて思ってなかった。二軍の人達と比べたって状況や精神次第で負けてもおかしくない。発揮できる実力の最底辺を比べたら私の方が圧倒的に下、堅牢に押し固められた実力は不安定さが無い。
三戦目でここまで差がついたのが良い証拠。
「うちのコーチと仲が悪そうなのも気になりますが指導力は本物みたいですね。そうです、良かったら連絡先を交換しませんか?」
「え?」
「多くかけることは無いと思いますけど、私達はこうして出会うことができました。この縁を無碍にせず互いの成長の糧としましょう」
「は、はい」
さ、爽やかすぎるよ。
この人が男性だったらモテモテのモテモテになってるに違いないって。何と言うかキラキラオーラも見えてくるもん。
──そんなことは置いといて、実際この申し出はありがたい。私にはどうしても知りたいことがある。それはあの運動能力の急激な上昇。目では付いていけても身体が追い付かなかった。もしも会得できたら今よりもっと強くなれるはず。
「連絡先の交換っと……あれ?」
リストの中にもう一人名前が追加されてる。その名前は──
「私も混ぜてくださいな。貴方も紫さんを目指す同士のようですからね」
「高木さん!?」
第三試合はアイシングしながら見学をしてたけどもしも参戦してたら全滅してた可能性が凄い高かった。
うぅ、個人的にどうしても嫉妬とかが湧いてきちゃって仲良くすることが難しそうな人だ。もしも高木さんも白華に合格していたら部長は私ではなかったと思うし、ひょっとしたら辞めていたかもしれない。それか……追いつこうと必死に努力してケガをしていた可能性もある。
「何故ディフェンダーで戦っていたのですか? 強さはさておき後半で見せたアレが本性なのでしょう? 紫さんリスペクトな空気を感じとれましたわ」
「梅さん、言葉を選んでください」
「いえ、いいんです。コーチにも向いてないって言われましたし実際ディフェンダーで戦ったから勝てたようなものですから」
もう一つの悔しいこと、結局コーチの言う通りだった。
ディフェンダーの経験を活かしてもっと上手に戦えるかと思った。だけど結果はあのザマ、何かができたわけじゃない菫ちゃんががんばってくれなかったら負けてた。
「神は二物を与えずとは良く言ったものですわね。私も白華に合格できれば再来だと言われたはずなのに」
「はいはい、でも私としては梅さんに出会えて良かったと思ってますよ。白華ではなく桃園に来るのが梅さんの道だったのでしょう」
「そう言われると照れてしまいますわ」
この手綱の操り方に思わず言葉を失った。
話題の切り替えをスマートに高木さんはご機嫌そのもの。
黄連さんは同じ部長としても尊敬できる。後二年で同じ位頼りになれる部長になれる
「あんた達! そろそろ帰るわよ!」
「時間ですね」
「遠くない内に必ず連絡します」
「ええ、待っていますよ」
新たに二人分の連絡先が追加される。
「本日はありがとうございました!」
「ありがとうございました」
互いに横並びで向き合い揃った声で頭を下げる。
これで練習試合はお終い、去って行く桃園の皆の背を見送っていく。本当に有意義な時間だった。自分の小ささを知れたけど、それ以上にもっと強くなりたいと思えるようになった。
でも、私達の大事はこれから。その想いを繋げられるかどうかは学園長とOGの皆様の評価次第。最後は情けなかったけど出せる力は出し切った。全身にくたびれが蔓延っていてベッドに倒れたら5分もしない内に時を超えられそうだもん。
「練習試合を終えたことなので、総評に移りたいと思います」
普段通りの学園長の鋭い視線。口調も凛としていて廃部か存続か今の時点ではわからない──
流石にワープリ部の行末が決まる会議、配慮はしてくれたのか人払いはしてくれたみたいで他の生徒は皆帰り、観客席には学園長、OGの皆さん、白華ワープリ部の皆だけになってる。
生徒の皆は帰る途中に思い思いのことを話してて──
「あの子が真剣に楽しそうにやっているみたいで良かった」
「こんなに近くでKAEDEさんみたの初めて~!」
「結構激しく動き回ってたね」
「うん、悪く無さそう……」
「他の男の人比べて頼りに無さそうだった」
「桃園の部長さん、相当かっこよかったかも」
これを機に誰かがワープリ部に入ってくれたらと思うけど……残念ながらあまり期待はできないかも?
「改めてですが、皆さんにはワープリ部を廃部にするか否かのどちらかを選んでいただきます」
「あのぉ、今更なんですが四人で偶数なんですがよろしいのでしょうか?」
「多数決で決めるわけではありません。それで決めようと思えば既に廃部です。黄金時代の始まりを気付いた貴方達の視点で彼女達の未来を判断してください」
心臓がドクンと高鳴って体温が急に上がってくる。
生きた心地がしない。本当にこれで決まる。
他の皆も似たような状態で後ろ手で自分の手を強く握っていたり、足下が震えていたり、呼吸が激しくなっていたりしている。
コーチも深く息を吸ったり吐いたりと心を落ち着かせてるみたいだ。
「じゃあまずはアタシから。まどろっこしいことは無しにアタシは廃部に反対よ」
呼吸ができないような緊張を強いられる中、天の恵みみたいな言葉に安堵の溜息が漏れる。
まだ一人だけどすごい救われた気になって安心する。
「白華ワープリ部が腐敗していたのは耳にしていたわ。だから情熱が伝播しないようなつまらない戦いだったら廃部に賛成したけど。まさかインスピレーションが刺激された戦いを見せられたんじゃ反対なんてできないわ! 特にリトルレディ、貴方のベルセルクの一射、とても痺れたわ! 見ていた瞬間にもしかしてが寒気を呼んだもの!」
「リトルレディって……えっ? まさかあたしのこと!?」
ビシっ! と指を突き付けられたのは菫ちゃん。首を振って左右を確認するけど完全に自分を狙い撃ちされて戸惑ってる。
「次はうちやね、結論からして廃部には反対。よう動けとったし手折るには勿体無いんちゃう? なにより基礎基本がしっかりしとった。今日だけの付け焼刃やない、先を見据えた土台作りをちゃんとやっとった良い証拠。期待はしてもええと思う。ただまぁ難点付けるとしたら二戦目後半のあんたの暴走、あれだけは素人臭くて見とられんかった。教えられてないことをやったんちゃう? 粋やない、指導者の信頼を裏切る行為や」
「うぅっ……ごめんなさいコーチ」
「因縁みたいなのを感じたんだろう? 深くは攻めない、反省もしているみたいだしな」
言われてようやく気付けた。ディフェンダーをがんばると言っておきながら自分からそれを手放して、カッコ悪い姿を見せた。冷静に焦らずシールドで戦えていたらもっと綺麗な連携ができたはずなのに、私の目なら菫ちゃんを見えてたはずなのに……
結果としては勝利できても、自分の力をちゃんと使い切ったかと言えば違う。ちゃんと反省を心に刻もう。
「次は私だ。確かに以前と比べて成長しているのは認める。しかし、この程度と頭に浮かんでしまうのも事実。学園上層部が求めているのはおそらくあの栄光の日々だろう。今の君達にそれを成し得る力があるかと言えば『否』、桃園一軍二名に人数有利でい戦い辛勝。納得には至らない。本気の強豪と渡り合う力が無い、これから伸びるにしても今の実力で打ち止めの可能性も否定しきれない」
楓さんからの手厳しい意見。
つまりこれは成長を待つ時間が無いってことだと思う。今の実力が基準点に達していれば反対してくれたけど到底足りてなかったということなんだ……。
「最後はわたしですねぇ。正直言って無理ですかねぇ。コーチさんのおかげで実力が伸びたのは事実ですけど、プロでもないアマチュア。それに余裕のある資産家が暇つぶしに行っているわけでもない。継続的に安定して十分な指導ができるとは思えませんねぇ。一ヶ月だから採算度外視で教えることができた。じゃあこれからも? となってくるとまた話は違ってきますよねぇ?」
「それは……そうですが。俺はまだまだ皆を成長させられる自信と覚悟があります」
「論点ずれてますよぉ、やる気では解決できない問題ですよぉ? 困るのは貴方で責任の所在をこの子達に向けること事態になるのは避けたいのではぁ?」
「それは……その通りです」
コーチの強い言葉と瞳──それはすぐにひっこんじゃった。のほほんとしているように見えて丁寧かつ鋭く指摘してくる。
でも実際大きな問題。アマのコーチでも指導料を貰うことはできるみたいだけど支払うかどうかは任意。プロとアマはまずそこが一番大きい。学校側からも予算はでない。
コーチのお財布事情はあの値下げシールから想像できるし、あれ以来からどうにかできないか報酬について調べた。正直どうしようも無い私達がお金を持ち寄って支払う選択は発覚した時が一番怖くてできない。
私達を指導しているおかげで働く時間が短くなってるのが大きな問題。
「アマだと指導料の支払いは任意。確かな実績を上げられていない以上白華側に支払いの意志はありません。このままでは夢に浸り破滅するような人間は白華に相応しくありませんからね。最初に告げた通り何時辞めても構いません」
「つまり? そうなると存続決定したとしても指導者不在になるじゃない!? こんな原石達を磨かないなんてもったいないわ!」
これで部が存続できれば万事解決だと思っていたけど、コーチがいなくなったら以前に逆戻り、また廃部の話が持ち上がってきてもおかしくない。
もしかして私……練習試合が終わった後も無意識的にコーチがずっといてくれると思ってた?
私だけかと思って他の皆の顔を見たら菫ちゃん以外そう思っていたみたいだ。特に鈴花ちゃんがわかりやすく目を見開いて驚いてる。もしかしたらコーチがいなくなったらワープリ部で頑張る理由が無くなる──違う、鈴花ちゃんの成長欲求に応えられる人がいなくなるんだ。
熱心さというか貪欲さで言ったら私以上、そんな鈴花ちゃんが何かを閃いたみたいで。
「逆に言えば、コーチーが生活に不自由無く稼げて指導時間を確保できれば良いってことですよね?」
「できるのでしたらね」
世の中色々稼ぐ手段はあっても、その席に座れるかはまた別の話。情けないけど私じゃギャンブルみたいなのしか思いつかないよ。
「ウチ達で考えます。正々堂々学園長にも報告できる手段を見つけて、このままコーチを続けてもらいます!」
「教え子にこんなことを言わせて情けないと思っていますが……事実です、正直言って俺に金を稼ぐ才能があるとは思っていません。なので、この子達に力を知恵を借ります強がったところで碌な道を選べそうに無いなら白華女学園の生徒さんの才能に期待させてもらいます」
何だかコーチすごいこと言ってない!? 口にしていいのそういうこと? でも鈴花ちゃんとセイラちゃんはどこか嬉しそうにも見えちゃう。
「潔くも情けない他力本願ですなぁ~そんなんで付いて来ると思うとりますの?」
「よく言いますよ、他力本願なエースを影ながら支えてきた人達の言葉とは思えませんよ」
百合さんはすぐにピンと来たのか「うぐ」と一声漏らした。確かに……独りよがりな戦法を支えていたんだから、真っ先に付いて行きそうな人ってことになる。
……あれ? 重箱の隅を楊枝でほじくるような人に感じても実際はってことなの?
「指導者が身を以て弱さを曝け出し協力を仰ぐ姿勢を見せるということか……白華では見せられる者が誰もいないな」
「それって褒めてないでしょ? 実際そうなのよね、アタシ達ってもう素直に誰かに頼れる立場でも無いし、頼り方なんて学ばずここまできたのよね」
「さて、賛成反対が二対二ですか。注目している点としては選手の成長がどれほどになるのか」
多数決では無いとさっき言ってた。なら、四人の期待か失望。その熱量の大きさで決まるということ。
それに現実的にどうにかしないといけない壁もある。変に足掻くよりもここで全部すっぱり消し去るみたいな判断をされたらどうしよう……!?
「確かにわたしは反対派ですけどぉ、成長幅には驚いています。ここで廃部にしてどこまで伸びるのか見られないのはちょっと勿体無いとも思ってます。楓さんの打ち止めという懸念点もありますが、まだ早いでしょう」
「そもそもの話だが最初からあの栄光を得られたわけじゃない、積み重ねがあの日々を作り上げこのUCIルームを作るに至った。一度幕を下ろしたのは紛れも無く上層部の判断。可能性があるなら待つ時間を用意するのが筋だろう」
「つまり、反対には仕切れないけど素直に賛成はできないってことね。となると誰もが納得できる案が必要になるわ」
「せやねぇ。じゃあこういうのはどう? 期限と課題を設けてそれを達成できたらそのまま存続っちゅうのは」
それじゃあもしかして!? この流れは今日終わることは無いってことでいいの?
そういう空気でいいの? 期待で気も強張ってた顔も緩んでくる。
「……なるほど、成長したかどうかも実感できる」
「いいですねぇ。となるとわかりやすいのが欲しいですねぇ。今日みたいな練習試合じゃなくて公式大会か何かで判断するのがいいんじゃないですかぁ?」
「ふむ、ならば流星祭。そこで優勝すれば──」
その『優勝』の言葉が出てきた瞬間に抗議を入れそうになったけど、私達が何かを言う前に水連さんの口が回ってた。
「いやいや! 桜学園長、それはおかしいわよ! アタシ達ですら一度しか勝ててないのを課題にするのは耄碌してると心配されるわ!」
「ああ、それは私も否定しよう。男女混合、単純に強い選手が集まる大会、層が厚すぎる」
「ですけど指標としてはいいですねぇ。期間も8月の終わり頃、今月合わせて四ヶ月。悪くありませんねぇ」
とりあえず安心……でも、これは──!
「ここまで反対されれば仕方ありません『本選出場』──これが存続のラインでいかがでしょうか?」
「ですねぇ、私達でもそれは毎年成していたのでぇ妥当じゃないですかぁ?」
「全国に名を広めることができれば最低限と言えるだろう。復活の狼煙としては十分」
「決まりやね。な~んか麻痺しとる気もせんけど、全員納得させるんにはこれぐらいは必要やね」
「異議なしよ!」
「じゃあ……!」
今度は別の意味で心臓が高鳴ってる。安心と期待──
「廃部までの期間を延長します」
ハッキリと学園長が告げた。
皆が一言一句聞き逃さなかった、「延長」その言葉。
百点満点の望んだ言葉を引き出せた訳じゃなかったけど、乗り越えられた達成感から思いっきり手を握りしめてガッツポーズをとってしまった。
菫ちゃんは私の肩に手を乗せてくれているし、セイラちゃんと鈴花ちゃんは抱き合って喜んでて、向日葵ちゃんは気が抜けちゃったのか尻餅付いちゃってる。
今はただ喜ぼう! 新たな課題は生まれたけど、きっと乗り越えられる、夢はまだ続けていけるんだ!
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