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第41話 忘れ形見

(さて、この人は勘が鋭いみたいですからね。甘い攻めではダウンさせることは無理でしょう)

(近距離サラマンダーを当てなきゃ勝てる気シマセン。でもこの人単純に強スギマス!)


 互いに睨み合う形で隙を探っている。

 セイラの場合、確実にダウンに陥らせるには5m近くまで接近する必要がある。散弾銃タイプのサラマンダーは細かい弾を発射するという特性状、最大射程ギリギリの威力は殆どないに加えて、距離が伸びる程威力減衰も凄まじい。確実に一射で仕留めるには5、6m以内が限界。

 ただ高火力に散弾、体の中心に狙いを定められていれば回避は仕切れない。しかし、ワープリを始めてからここまでの強者に出会ったことは無い。目の前に映る黄連は見た目以上に大きく見えてしまう。


(ブレードかバハムート……バハムートも近すぎれば私を蝕む毒になりかねません。持ったままだと速度がどうしても落ちますし。乱雑には扱えません)


 バハムートは高火力高重量、約15kgの重量を誇る。片手で持って移動するのですら苦行、余程のマッチョでなければ戦闘利用は不可能。

 普段使いしているリヴァイアサンなら小型なこともあり持ったまま接近することも視野に入っている。

 加えて黄連が攻めきれないのにはもう一つ、これは借り物のバハムートということ──

 万札十枚超えることが当たり前で中々高価なこともあり、撃った瞬間に放り投げて一気に距離を詰めてブレードで切り裂く速攻戦術が使えない。尚、相棒のリヴァイアサンの場合はそれに応じた工夫がなされているので雑に扱っているわけではない。

 故に回避に徹するには地面に置く必要がどうしても出てくる。


(しかし、いいですねこのギリギリの感覚! これを超えたら私はまた成長できる気がします)


 正義の味方志望、蒼天黄連──

 弱者のピンチに颯爽と現れ救い、苦行修行は乗り越えるためにやってくると信じている。ヒーロースイッチが入ったのは中学時代の春。

 通学電車に乗っている時がきっかけ。

 毎週追っていた特撮番組が終わり次のシリーズも見始めていたがどこか肌に合わなくて気分が上がらなかった。混雑していた電車を乗り切るにはいささか充電不足。

 そんな心の隙を突かれたのか気弱そうな女の子だと判断されたのか、黄連は痴漢にあった。

 恐怖で頭が真っ白になった──「助けて」の声も出ない、誰かが気付いて助けてくれる訳でもない大勢の人間が詰められた箱の中でも真っ暗な海に落とされたかのような孤独感に陥った。走馬灯のようにどうすべきか頭の中に映像が駆け巡る。

 主人公が先輩にヒーローに成ったきっかけを聞いた場面「あの日あの時あの場所で俺には選択肢があった。逃げることもできた。だけど、ここで逃げたら将来本当に戦わないといけない場面で逃げる男になると思った。だから戦うと決めたんだ」

 それが今の黄連を作る始まり。手首を捻り「痴漢です」と言葉にし次の駅で駅員に叩きつけた。そして紆余曲折あって夢が決まったヒーローの中の人になろうと。


(桃園には射撃トイのダブルアタック使いはいませんでしたからね、経験値不足が否めません。シールドで防ぎバハムートよりもブレードで斬る方が可能性が高そうです)


 撃ち方を間違えれば己もUCIの爆煙に巻き込まれる。

 選択肢はブレードで斬るしかない。腰に携え磁石のように着脱が可能、居合切りもどきも何時でも可能。


(ブレードの距離に気を付けナイト)

(相手の踏み込みに合わせて詰めるか、サラマンダーを無駄撃ちさせるかのどちらかですね)


 互いの勝利条件は自ずと決まっていく。

 セイラはリロードチャンスは二度と来ないと確信を持っている。

 弾が切れた瞬間が完全に敗北。

 リロードの隙を完全に狩られる。もう片方で牽制して時間稼ぎなんて余裕はもらえ無い。ダブルアタックをちらつかせているからこそ抑えられている。

 対する黄連、シールドを生成しバハムートのリロードを終える。これにより消費UCIの総量は90近い。サブユニットの回復により残りは30程度まで抑えられてはいる。


(頼むわよセイラ……! あんたにかかっているんだから)


 そして身を隠し匍匐前進で移動する菫。固まった右腕を引きずりながらなんとか移動をしている。この進路に気付けているのは観客のみ。今現在彼女は白華陣地側へ移動している。

 

(発射と同時に弾を撃てば誘爆を狙えるカモ知れまセンガ……成功する確率は低メ)

(何やら撃った瞬間を狙われる気がします。バハムートに殺気がビンビン届いてますね)


 バハムート以外の遠距離攻撃手段を持たない黄連。撃てなくても何時でも撃てることが牽制となる。

 高火力範囲爆発の弾を放てても弾速が他のトイと比べて非常に遅い弱点がある。野球選手の投球をイメージするのが近い。

 さらに緩やかな曲線を描く射線。空中で霧散することのないUCI装甲弾、ぶつかった衝撃で爆発する。


(足下狙い、竹に当てて誘爆──どれもダメ、それに間合い管理が絶妙ですね……目測でmを理解できている証拠。あのコーチさんどんな練習を施したのでしょう?)

(コーチとの個人練習が無かったら何もできずに終わってマシタネ)


 ジリジリと前へ後ろへ、左へ右へ。ベストポジションを探し潰すように互いに動く。

 傍目からでは地味な競り合いでもセイラにかかる負担は大きく額に汗が滲む。


(このまま睨み合って時間を稼がれて万が一梅さんがダウンする事態に陥るのは避けたい──ん?)


 戦いのプランを組み上げているとカツンと足に触れるUCI生成物の岩や竹とは違う感触。視線を下げる余裕は無い、ただピンと来た。今自分が立っている位置は最初に梅が暴れまわった位置だと。


「膠着状態だな……近づきたいのに近づかせない動きをしているみたいだ」

「黄蓮って子が上手いっていうのがあるわ。避ける自信があって動いてる多分、サラマンダーを使おうとしたら致命傷は避けた上でダウンをもぎ取ってくるでしょうね」

「まさに肉を切らせて骨を断つ──やね。というかさっきの速い動きはせえへんのかな? それとも使えへんとか?」

「あれは見たところ瞬間的な身体強化(ブースト)ですからねぇ、時間を置かないと使えないはずです」

「時代は変わったわね、アタシ達の頃はそんなの聞いたことないもの」

「いえ、言語化されてなかったり特異体質だと片付けられていただけで存在はしていたみたいですよぉ」


 撃つか撃たせるか──

 緊張状態が続く、時折耳に届く蘭香と梅のぶつかり合い、UCIの激しい接触音が響き渡る。リボルバーの音が響き渡る。

 黄連は視界の端に蘭香を収めており自分が狙われているか警戒している。

 そして──


(あの盾はもしかして──!)


 蘭香の六発目──

 これが号砲となった。

 黄連が一気に距離を詰める。


(ワッツ!? ここで!?)


 余りにも急すぎる直進。自分がわかりやすく隙を作った訳でもないのに攻め込んできた。だからこそセイラは戸惑った、範囲に入ったら反射的に撃つ機械ではないのだから。

 一瞬遅れてがサラマンダーは放たれる。

 ただ、その一瞬は大きかった──

 散弾が放たれるその瞬間にバックステップ。弾は貫通し切らずシールドが半壊しながらも受け止められ、さらにバハムートの引き金が引かれる。ただし、その砲口が向けられている先はセイラではなく蘭香であった。


(生存妨害両取り成功! あのシールドの作り方は恐らくカーテンショット──知らなければ一方的にやられかねません)


 蘭香の仕込みを黄蓮は既知としていた。

 世界大会代表、当然合同練習もありその中で多くの戦術を共有することもあったのだから。確証が無くてもこれは決め手になる。薄いシールドでは鈴花のように耐えること叶わない。

 その砲撃は蘭香の直撃を狙ったわけじゃない。というより狙えない。ただ隙を作ることができればそれでいい後は梅がなんとかしてくれると信じて。

 何よりも彼女の役目はディフェンダー、仲間を守る行動を優先する。

 放物線を描き飛んでいく砲弾の着弾地点はわかっている。最後まで見送る必要はなく、視線をセイラに戻し片膝を付きながら着地しバハムートを地面に置く。

 そして二名の戦いを決着付ける弾頭は──

 浮遊物によって阻止される。


「っ──何です!?」


 意図しない位置での爆発。思わず視線が戻ってしまう。

 無作為に吹っ飛ぶ謎の物体、カシャンと音を立てながら落下したそれは──


「リブラ!?」


 ドローントイのリブラ。

 この状況の答えは単純、砲弾とドローントイが衝突して爆発した。


(偶然!? いえ、まさか──)


 頭の中に浮かぶ戦線に復帰するはずが無いもう一人の存在。まるでこうなることを読んでいたかのように目立たず浮かべて待機していた。

 次に考えてしまうのは菫の位置。しかし、それはこの瞬間には致命的──


「やっと隙を見せマシタ──」


 片手のポンプアクションでリロード。これはショットガン種のトイの特異性、他のトイがボタンを押してチャージされるのと違い、ポンプアクション一つでリロードが完了する。速く正確に行えば1秒もかからない。

 完全有効射程距離。回避は不可能。

 視線が移動し自分を捉えなくなった瞬間心臓が高鳴った、頭の中でストレートフラッシュが出来上がった時と同じ高揚感で満たされる。


「 I won!」


 亀裂の走ったボロボロのシールド、飛び跳ねられる体勢じゃない。

 勝負を制したのは誰の目にも明らか──

 だがしかし、目の前の黄連の目はまっすぐにセイラを捉えたまま。セイラは勝利を確信していながらも頭の中は冷静。ブレーキをかける位置は頭に入っている。

 見据えた瞳で腕を伸ばす動作をしているが、ブレードの長さを足しても届かない。

 完璧な狙いで散弾が放たれる。ただこの瞬間は時の流れが圧縮されたかのようにゆっくりと流れるように感じていた。


「エ──?」

「お見事でした」


 勝負は決まった──決着の証明として黄連のスーツは真っ黒に染まる。満足気なやりきった表情のままトイを構えて撃った姿で──

 反対に、混乱した表情のままなぜ自分のスーツが黒く染まっていくのを眺めるしかできないセイラ。

 そう、両者ダウン状態、引き分けである。


「い、何時の間スミレのペガサスヲ?」

「さっきですよ。足下にあったのを拾わせていただきました」


 撃ったのはペガサスの一発。

 これは梅の斬撃によって菫が手放したペガサス、弾は込められたまま。バハムートよりもこの場は使い勝手が良いと判断し、置くと同時に持ち替えた。

 セイラの虚を突き散弾の嵐の中をすり抜けて正確にセイラの眉間を撃ちぬくヘッドショット。

 低威力でもダウン判定をもぎ取った。

 黄連にとっては勝ち得た戦い、まさかの出来事に気を取られ引き分けに持ち込むしかないまで追い込まれた。


(勝てれば万々歳デシタガ……後は任せマシタヨ、スミレ)

(これ以上の会話は反則ですね──あの小柄な方も使用トイが尽きたはず、梅さんが勝てば……ん? まさか!)


 視界に映るある姿。黄連は目を見開いて驚愕する。さらに今持っているトイと見比べる。 

 叫びたくなる、通信したくなるのをグッと堪えて見守ることしかできない。

 彼女は逃げたのではない、切り替えていた、そこに辿り着くまで足掻いていた。セイラのやり切った表情が答えを示していた。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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