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第34話 VS桃園女学園二軍

「さぁ始まりました! 両チーム中央へ向かって駆け出します。今回のフィールドは自然公園、地面の凹凸は少なく高台もありませんが無作為の木々が射線を拒み、足捌きが重要となります」

「木々は強固な盾でもありますわ、とはいえ今回の戦い方では無用の長物となりそうですわね」

「と言うと?」

「見ればわかりますわ」


 白華チームは2-1-2の形となるように駆け上がるのに対し桃園チームは二人組が二ぺアで前に上がりその中心後方を一人が追いかける形。

 ここで両チームの編成を見てみよう。

 白華女学園──

 槿蘭香(むくげらんか)、ディフェンダー

 使用トイ:シールド、スレイプニル(リボルバー)、ブレード

 サブユニット:UCI自動回復


 セイラ・アキレーア、アタッカー

 使用トイ:サラマンダー(ショットガン)グリフォン(マシンガン)

 サブユニット:UCI消費軽減


 野茨鈴花(のいばらすずか)、バランサー

 使用トイ:シールド、ヒュドラ(マシンガン)

 サブユニット:UCI自動回復


 八重菫(やえすみれ):サポーター

 使用トイ:リブラ(探査ドローン)ペガサス(ハンドガン) 

 サブユニット:UCI自動回復


 南京向日葵(なんきょうひまわり):スナイパー

 使用トイ:ベルセルク(スナイパーライフル)

 サブユニット:UCI自動回復


 桃園女学園──

 夏乙女(なつおとめ)、ディフェンダー

 使用トイ:ラージシールド、リブラ(探査ドローン)

 サブユニット:UCI自動回復


 清水美晴(しみずみはる)、ディフェンダー

 使用トイ:ラージシールド、リブラ(探査ドローン)

 サブユニット:UCI自動回復


 (あかつき)あかり、アタッカー

 使用トイ:ヒュドラ(マシンガン)、ブレード

 サブユニット:UCI消費軽減


 武井千代(たけいちよ)、アタッカー

 使用トイ:ヒュドラ(マシンガン)、ブレード

 サブユニット:UCI消費軽減


 八幡鏡(やはたかがみ)、スナイパー

 使用トイ:ワイバーン(スナイパーライフル)

 サブユニット:UCI消費軽減


 同一の組み合わせが無い白華に対し桃園は三通りの組み合わせ、さらにペアを組んでいるのは攻撃トイの無いディフェンダーと中距離(ヒュドラ)近距離(ブレード)持ちのアタッカー。


「なるほど……やりたいことがわかってきましたよ」


 この編成情報は開始と同時に観客席にも表示され、ダウンすればその人間の項目はブラックアウトする。

 加えて全員の位置が丸い駒で示された単純な上面図もある。観客席で見る試合は複数の撮影ドローンによって様々な位置から送られる映像であり、岡目八目になれるだろう。


「あらぁ~? 随分と変わりましたねぇ」

「始まったばかりなんにわかるん?」


 観客席にて開幕の動きを感心した様子で眺める椿。


「練習や試合の動画は見ましたからぁ。使用トイもそうなんですが全員動きに迷いが無く陣形の意識が入ってますねぇ一ヵ月前とは完全に別人です」

「見ていたのか?」

「時間の余りやすい主婦ですからぁ~」


 これまでの白華とは打って変わり何となくセンターライン近くに進むのではなく、仲間との立ち位置を意識し連携で仕留める意図が感じられた。

 たかがこれだけでも評価できるほど以前の白華には期待値が無かった証明でもある。


「初動は問題無し、あのコーチはアマみたいですけど基本は教えてそうですねぇ。それに装備トイも変更されてます」

「結構情報収集しとったみたいやね」


 黄金時代、敵味方の情報を集めて活かした陰の立役者──それが椿。

 彼女の情報網から逃れることは不可能、旦那のサイフから移動情報まで完璧に把握しており怪しげな行動をすればすぐにバレてしまう。

 動きながら五人の位置取りが形作られる。上から見れば砂時計型その中心を担うのは野茨鈴花。その姿に──


「なんであの子がセンターにいるの? 初心者なのに重要そうなポジションにいていいの?」


 困惑の声をあげるは鈴花の相部屋、中等部生徒会長白亜(はくあ)あやめ。鈴花の「明日練習試合するから見に来てね~ウチ活躍してみせるから!」という気軽な言葉に「まぁ行くのも悪くないか」と暇潰し感覚で来た。

 流石に同じ部屋に女優のKAEDEがいることは完全に予想外で驚いたが迷惑をかけないように口を閉じ、スクホでの撮影も控え少し離れた位置で観戦することにした。


「両チームセンターライン近くまで上がりました。ですが一旦ここで停滞状態に移行するでしょう。その理由として、情報収集の時間に入ったからです。相手の陣形や立ち位置を探り合い攻めるタイミングを計っているのです。一人で迂闊に飛び込めば簡単にやられてしまいます。やられてしまえば試合終了までダウン状態。復活することはできず見守ることしかできなくなります」

「迂闊にダウンしない。それがワープリ上達の近道ですわ」


 気分良く特攻しダウンするのが初心者、迂闊に前にでなくなって中級者、誘いこめるようになって上級者、気分良く特攻し生き残るのが超越者──とも言われている。


「そして桃園チームが形成している陣形──やはりこれは誘引型陣形『ツインタワーストライク』ですね」

「知っていましたか。となると対処法も?」

「ノーコメントにしましょう。ここからは対策の対策、後出しじゃんけんが続くことになります。ツインタワーストライクはワープリ発展期に開発された陣形で、シールド以上のシールド、ラージシールド持ちと射撃+近接トイ持ちをペアとし二組作り横10m間隔で配置、両ペアの中心後方にスナイパーライフルトイ持ちが陣取る形となります」

「残念ながらそれだけでは70点ですがね」

「ラージシールド持ちに索敵ドローン(リブラ)を持たせ、索敵位置を出力したパッドをスナイパーに持たせて影に潜み隠れた者を逃がさない戦法も取られているでしょうね」

「……100点ですわ。この物言いからして指導済み──となると皆さん良くないことになりそうですわね」

「確かに対策はあの子達が考えました。しかし、現時点で相手がどんな陣形をしているのかは両チーム不明。どれだけ早く気付けるかが鍵になるでしょう」


 戦場では未だ撃ち合いは始まらない。視野に入っているが白華は木々を盾にしながら観察、大して桃園は姿を晒し二組がゆっくりと距離感を保ち最前線も揃えて前進。

 セイラ、蘭香の前衛二人は相手チームの四人の姿が確認でき、頭には相手の陣形が浮かんでいた。


「どうやら相手の陣形……ツインタワーストライクの可能性が高いよ……奥の方C-6辺りにスナイパー発見」

「となると全員の位置が判明したこの状況、ドローンは役に立たないわね。向日葵、相手スナイパーを撃ち抜ける?」

「ダメです、ここからだと遮蔽物が多くて射線が通りません」


 骨伝導イヤホンマイクにより離れた位置で相談。

 桃園の陣形は攻めというより受けであり待ち──急いて攻めれば蜂の巣に陥るが攻めなければ問題は無い。既知とした陣形故に分析に思考を費やすことは無かった。

 達也に授業により一ヵ月の間に百近く戦術戦略を叩き込まれ、その対策を自分達で考えさせられた。無論、今相対する陣形についての答えも持ち合わせている。


「となると作戦名『フォーク』を試す時が来たわね」

「ランラン命名の特攻だね」

「コーチの特訓が役に立つ時がキマシタネ」


 しかし、完全な対人戦の実践で試すのは初めて。

 不確定要素がどれだけ重なるかはわからない。

 練習と本番は違う。失敗しても笑って再挑戦は許されない。

 対策を立てたからこそより緊張が高まる。コーチがこの瞬間の為に生き残るために授けてくれた知恵、信用を失うかもしれない応えられない未熟さで自分が許せなくなる。

 冷静に状況を再確認──

 特に注意すべきはラージシールド。シールドを大型強化したトイであり最高防御を誇る。警察官が暴徒鎮圧にそのまま使用できる優れもの。

 トイのバズーカが直撃しても選手は無傷となる強度を誇る。

 なら全員それを使えば良いのでは? と誰もが思うが簡単な話ではない単純に重い、シールド生成機構で10kgを平気で超え、それを腕に装着。シールドを展開すれば分厚い板が出現しかさばるに加え重量の増加、持つ者の身長や体格によっては移動が困難に陥る。長方形なライオットシールド状の盾を引きずりながら動かすことになりかねない。何よりUCIの消費も重め。通常なら全壊した場合再展開も二回が限界。攻撃に費やせなくなってしまう。

 だが、そんな事態に陥る状況は稀。個人が真正面で破壊することはまず不可能。回り込んで打ち抜くことを余儀なくされる。


「ワタシは左デス」

「ウチが真ん中」

「私が右だね」

「鈴花、スナイパーに注意よ体格的にベルセルク持ちはいなさそうだけど、30mがデッドライン、入る直前にシールド展開よ」

「りょ!」


 前衛二人が少し下がり、中衛一人が少し上がり列を揃えて3-2の陣形へと移行。

 タイミングを揃えることを意識する──


「なるほど、確かにこれは有名な対策手段ですわね。しかし、三人が同時に脇を抜けようにもアタッカー三人がそれぞれを対処すればいいだけですわ」

「それは彼女達も理解しています。むしろその先に不安を抱いてるでしょう」


 時間の流れが鈍重に感じるほど場は静寂に包まれる。二つの塔はジリジリと前進を続ける。互いの距離は10m程、互いのトイの射程距離。

 桃園はラージシールドに身を隠し焦らず詰める、白華は木々を盾にタイミングを測る。


「何時でも狙えます──」

「わかった」


 向日葵の宣言に前衛三名は息を整える。ここが戦いの分水嶺だと理解して心臓の鼓動が激しくなり全身に血が巡る。

 踏み込むタイミングは敵の位置──この短い応対で弱所を見つけた。それはラージシールドの防御力にかまけて観察力が散漫になっていること。リブラを持っていることから相手位置の情報はスナイパーより報告され、隠れて抜けようとしても撃ち抜かれるだろう。

 だが、観察は何も相手選手(プレイヤー)にのみ働かせるものではない。

 センターラインを超え、望んだ位置へ踏み込んだ瞬間に──

 セイラ、鈴花、蘭香の三人が一斉に駆け出す。

 セイラは左の塔を外側に。

 鈴花は二つの塔の中心をすり抜けるように。

 蘭香は右の塔を外側に。

 三人は三又の槍のように攻め上がる。


「来た! 三又槍(トライデント)──」


 桃園アタッカー三名は構える。驚きはするが焦りは無い来るのはわかっていた。そもそもこれは既に存在する陣形、相手が適切な戦術を仕掛けてくるのはわかっている。故に迎撃戦術(カウンター)として一人が一人を対応する術を用意していた。左右の塔はそれぞれ外側から回り込む相手を仕留め、正面は正面を討ち取る。

 シールドは正面へと構え、回り込もうと動く相手へヒュドラの連射で仕留める、二名で攻撃防御と役割をはっきりさせたことで潤沢なUCIを行使できる。

 一人一殺、成功すれば人数有利。油断は無い。

 集中が極限まで高まった瞬間に、意識を逸らすような号砲と衝撃が響く──


「嘘っ!?」


 波紋を生んだのは左の塔。

 前衛三人はまだ誰も弾を撃っていない。後衛からの援護射撃。

 考えてもいないラージシールドへの亀裂の広がり。威力が語るトイの選択肢。バズーカなら弾が見える、スナイパーライフル種の弾速。だが高威力のワイバーンではあり得ない亀裂、それ以上──


「命中……予想通りの被害です」


 最高威力と射程を誇るベルセルクの一射。高額過ぎて所持しているチームは少ない貴重トイ。矛盾対決は貫通とは行かずとも確かに防いだ。引き分けと言えるだろう。


「Bestデス!」


 しかし、これはチーム戦。

 セイラは進行方向を変更、左から回りこむのではなくシールド正面へ接近。

 自信に溢れた得意顔、これは答え合わせに過ぎない。サラマンダーを亀裂の中心へ構えて──


「Fire!」


 完全に粉砕し、ディフェンダーを黒く染め上げダウンへと誘う。

 正面突破は完全に予想外、それでもアタッカーの身体は動く。盾の庇護を失った以上ここにいても意味が無い、距離を取りヒュドラの掃射でセイラをダウンに陥らせようとするが──

 もう片方の腕に握られたグリフォンの銃口が完全に向かれていた。自分が引き金を引くよりも先に連射弾が身体に襲い掛かり。黒に染まった──

 加えて左の塔が崩壊する同じタイミングにて。

 蘭香が右から回り込もうとするが、ヒュドラの連射が襲い掛かる。それをシールドで防ぎ身体を出さずリボルバー(スレイプニル)だけを盾からはみ出させ狙いを定める。


「反撃来るよ」

「任せ──」


 正面から小さい衝撃が数発シールドに届き意識が向けられる。攻めるはサポーターの菫。襲い掛かったのは低威力のハンドガンの連射。以前のようにドローンの操作に徹していればこの一手は生まれることは無かった。

 壊れる心配は無くても蘭香の方向へ盾を向けたら射線が通る。ラージシールドを壊すことが目的ではない。移動させないことが目的とした連射。

 そして正面、鈴花は木々の合間を縫うようにすり抜け射線から身を隠しつつ前に詰める。左右に揺れて狙いを定めさせないように動いているが桃園スナイパーは冷静、無駄に銃口が揺れていない──

 木々の位置情報を把握済み、未来を予測した銃口は鈴花の全身が露になる位置に向けていた。

 一歩、また一歩と距離が縮まり──その時が訪れる。木の盾が周囲に無く鈴花の全身が露になった瞬間に弾丸が鈴花を中心に捉えて放たれる。


「──ドンピシャっしょ!」


 しかし、待っていましたと言わんばかりの鈴花の表情、身体を出すと同時にシールドを展開し相殺させる。

 ワイバーンの再装填にかかる時間は8秒──その間は完全に無防備。

 鈴花の足なら一気に距離を詰めて打ち抜くことも可能。けれど彼女はスナイパーに対し背を向けた──

 決定的なチャンスを捨てるような手加減かと精神を逆撫でする行為に感情が昂る。

 しかし、銃口が向いている先を理解した瞬間に身体の中心が凍える怖気に塗り替えられる。


「あらぁ、これはビックリですわぁ」

「まさか──トライアングルだと!?」


 攻撃を諦めたのではない、狙う相手を切り替えただけ。リロードタイムを念頭に置いた完全にトイの性能を把握した動き。

 この振り向き一つで蘭香、菫、鈴花によるトライアングルが完成。残された右の塔、その両名がら空きの背後を鈴花の銃口が捉え容赦無く弾丸の嵐が放たれる。

 避けることは当然叶わず、二人のスーツは真っ黒に染め上がる。

 残るはスナイパー一人。

 状況は疑いようのない一対五──


「これダメだ……」


 無意識的にポツリと漏れる。

 戦況が動き出して分もしないうちに孤立無援。絶望的な盤面、残された一人は何をどうしたって勝てる未来が見えなかった。

 ただただ無様に逃げ惑い時間を無駄にするよりも潔く両手をあげての降伏宣言を選択。

 これにより白華対桃園の練習試合は白華の勝利を飾ることに成功した。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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