第33話 嵐の前の静けさ
本来なら合同練習等の交流を重ねた後に練習試合を始める予定であったが「弱小チームに学ぶことなんて無い」という薊コーチの一蹴によりすぐさま試合が始まる──
とはならず、桃園部長黄蓮の制御によりウォーミングアップの時間は会得でき一軍二人も共に念入りにアップに励む。
それでもそれが終わればすぐに試合が始まる。
両チームの選手は待機室に移動し、バトルフィールドは決戦の舞台を生成し始める。
そして──
「初めてワープリを見るという生徒さんの為に本日は実況及び解説をさせていただきます外部コーチの鉢谷達也です」
達也には特別な役割があった。
ワープリ実況者──急遽として決まったことだが新入部員確保の為のわるあがき。この試合で負けてしまえば泡と消える取らぬ狸の皮算用。しかし勝つと信じて動いてる。その姿は白華メンバー達への励みとなる。
実況者としての経験は皆無だが底辺ながらも動画投稿者としての経験がここで役に立つ。音声再生ソフトに話させているが自分で喋りながらセリフは作っている以上口は回る。何より専門用語のほぼ全ては把握しあらゆる戦術戦略が頭に入っている、解説できぬことはない。
「現在両チームは待機室と呼ばれるフィールドに直結した部屋で待機してもらっています。ここでは作戦の最終確認やバトルに必要なUCIを補充することが可能です」
「いいですね桃園でも実装できませんかね?」
「無理でしょ、せめて五年近くは三大大会で好成績を収められるぐらいは実績を重ねないと」
どのチームも喉から手が出る公式試合可能全天候型フィールドに待機室。
大会の会場でしか味わえないような設備に桃園の二軍メンバーは借りてきた猫のように緊張しながら待機室の中を見渡している。
逆に白華のメンバーは慣れたもので落ち着いている。
「ふぅ……あら? こちらの部屋はどこでしょうか?」
「ん……? ってどうしてここに!?」
スピーカーより響く完全に素の声で驚く達也の声とのほほんとした声の桃園一軍、高木梅の声。完全に招かれざる客の襲来にその部屋の時が一瞬停止し向き合う形となる。
「こちらがUCI管理室ですか、ご立派ですのね」
「あのおバカ……! トイレ帰りにどうして階段登らなかったのよ」
「二階に観客席があることは伝えましたがここまで方向音痴が加速するとは流石に予想外が過ぎます……」
やれやれと言った表情に溜息を漏らす桃園コーチと部長。彼女が入学して一ヶ月程度、それでも何度も同じことが起きている。
高木梅は猫のように気まぐれな動きをすることが多く外周に行けば必ず逸れる、毎回同じ場所を集合場所にしても到達するルートは毎回違う。迷子にならないのはフィールドだけだと全員から認知されている。
そんな彼女は観客室への階段ではなく管理室の扉を開けてしまった。
さらにはすぐに出て行こうとはせずキラキラした瞳で管理室の中を見渡す。憧れの場にいるという感動が彼女の欲を増徴させ、空気を読む事を排除しているのだろう。
このまま背後に立たせている居心地の悪さを堪能するぐらいならと──
「え~……折角ですので桃園の生徒さんにも解説をお願いいたしましょう!」
「なんと──! この高木梅、僭越ながらもお受けいたしましょう!」
ヤケクソな突発的な提案がらもノリ良く受け入れた。
しかし、これは意図せずとも公平性に繋がる。
白華の管理室。つまりはUCIルーム全体の頭脳、バトルフィールド状のトイや各選手への音声を掌握していると言っても過言ではない。なにより勝敗処理もここで行われている。
達也の位置からは桃園選手の情報が手に取るように把握できる。位置情報をこっそり白華メンバーに伝えることも可能。
しかし、相手チームの誰かが共にいれば言いがかりをつけられる心配も無い。
「ちなみにこちらの音声は皆さんに伝わっているのですか?」
「いえ、現在は二階の観客席だけです。両チームの観客席へは繋がっていません」
「でしたら桃園の待機室に繋げることは可能ですか?」
「もちろんです。何か伝えたいことが?」
「どうやら他校との練習試合が初めてなこともあってかここから見てもガチガチなようなのでお声をかけたいのです」
「わかりました──どうぞ」
「ありがとうございます──皆さん聞こえますか? 梅です」
慣れた手つきでPCを操作し、桃園チームの待機室に音声を繋げる。
待機室のスピーカーから声が出てきたことを証明するように画面に映る桃園チームは驚きどこから聞こえてきたのかと首を振って探し「ここか」と顔をスピーカーに向けた。
「私は管理室で皆さんのことを応援していますわ。今日までの練習を思い出して落ち着いて戦いましょう。がんばってくださいね。以上──」
短いながらも激励の言葉。
それだけでも十分に気合が入ったのか場の雰囲気が明らかに変わった。
「猪口才な……余裕なのかしらね」
「正々堂々と戦いたいだけですよきっと!」
弱小チームが強豪チームに塩を送るような行為。薊はプライドを傷つけられ表情がわかりやすく険しくなる。
勝率を僅かにでも上げたいのなら盤外戦術は必要だろう。ここで断りコンディションを下げることも可能だった。
だが達也はそこまで考えていない。白華のコーチではあっても他チームであっても困っているなら助けるのが当たり前。ベストコンディションで戦ってもらう。
「では、試合形式を説明します。五対五、ロワイヤル。試合時間は三十分。フィールドは自然公園となっています。試合開始は3分後──両チームの扉には開始時間のカウントが表示されており、0になったと同時に開かれ試合開始となります」
「ほぇ~改めて見ても凄い設備ですわね。UCIの壁に遮られているわけでもないのがすばらしいですわ」
「実際ここまでの設備を有しているチームは少ないですからね。これが当たり前だと思わない方がショックを受けなくていいでしょう」
殆どのチームが試合する際はフィールドと待機エリアをUCIの壁で区切り形成されたフィールドを見えないように工夫されている。白華のように建物の一室で不可視にさせるのは特別な場所でしかありえないのである。
さらに白華ではカメラが設置され選手の様子が確認できる。
試合開始直前、彼女達は抑えきれない感情を吐露していた。
「さて……新生白華ワープリ部、初めての対人戦。正直言って私、色々な感情が溢れてちょっと困ってます!」
「どれだけ通じるかわからない不安、どこまで成長したかの期待、まぁ当然よね」
「か、身体がガチガチです……」
冷静に状態を分析している菫でも震える手を腕を組んで隠している。
大きな体を震わせている向日葵。
コーチの指導では味わえない緊張具合が身体に出始めていた。
「ウチはコーチーをバカにされて悔しい気持ちもあるっしょ!」
「ソウデース! 勝ちたい理由がOne Moreデス!」
それでも、怒りは緊張を凌駕し一層熱を持つ者。
「負けられない」ではなく「負けたくない」熱が胸に宿っている。
「うん。私も同じ気持ち──そろそろ開始だよ皆──!」
開始時間一分前、五人で肩を組んで円陣を作る。全員の顔が向き合うと同時に隠し切れない緊張の震えも伝わる。
けれどそれは五等分──
「絶対勝利へ──」
「「「「「舞い上がれ!!」」」」」
そして、気合は五倍へと膨れ上がる。
今日のために考えた掛け声を上げる。
声は聞こえずともこの行動は観客席の全員に伝わる。熱気、意識の切り替え。これから戦うのだと理解する。
「円陣いいですね。私達も取り入れません?」
「しようがしないが勝つときは勝つ、負けるときは負ける。無意味よ」
「コーチ普段よりも冷徹ですね」
扉のカウントが「10」を切ると、選手全員が扉の前に立ち真剣な表情へ変わる──
喋ることを止め、呼吸が揃い始める。そして──長く感じたカウントが「0」になると同時にバトル開始の笛が鳴り響き扉が開く。
目の前に広がるUCIによって作られた木々と大地。両者の頭の中に「フィールドは森林か自然公園」と浮かび上がる。
その思考を保持したまま現在地より相手が視認できるか把握。疎らな木々が遮蔽物となりほぼ見えない。瞬間瞬間に白華の白いスーツに桃園の薄紅色のスーツの端が見える程度。
撃たれる心配を微塵も考えず両チームがベストポジションを確保するために走り出した。
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