表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/46

第31話 汚点、廃部の理由

「白華ワープリ部の八百長事件ですね。俺も事件自体は知っています。白華コーチが他チームに対し戦術を売り勝敗を操作する。非常に狡猾で発覚まで時間がかかったと──」


 白華女学園ワープリ部八百長問題。

 八年前に発覚した白華コーチによる公式大会での勝敗売買問題。行為自体は発覚以前より行われていて調べた結果十試合以上関与されていたみたい。

 重要なのは白華が他チームから勝利を買っていたのではなく、他チームへ勝利を売っていたということ。

 ここまでは調べてもわかること。だけど不明瞭なことが多い、動機もわかっていない。

 ただ、白華近辺がワープリで盛り上がったように勝利することは経済効果を生む。強豪白華に勝つという結果は大きな盛り上がりを見せる。それは事実として存在し、買い手もまた確かに存在していた。お金が絡んでいたのだと予想できる。

 これは私達が入部する前に起きた問題、一度活動停止で解散し、三年後に再構築、部員も少ない評判最低だと知っていた上で私は入った。両親からもワープリ部に入ることには心配された。


「私達が活躍していた時期は常勝不敗、八百長事件以前にもそんな噂が上がったことも確かにあったが負け犬の遠吠えでしかなかった。流星祭と月光祭の二冠を制した私達の実力は紛れも無く本物、否定することは勝てないことを認めるようなものだったからな」

「アタシ達が卒業した後も白華ワープリ部は大盛況! 全国(アンダー)-18の中でも最上位で競っていたのよ。無論そうなってくると希望者も増える、入部制限がかけられていても顧問一人で指導しきれるわけもない、そこで外部よりプロのコーチを誘致した」


 え~と、確かそこから十年近くは白華ワープリ大バブル時代に突入してたんだったかな? 戦争ごっこを可憐なお嬢様が制するなんてギャップでワープリの話をすれば必ず話題に上がるぐらい。

 白華が参加する大会には観客が大勢訪れて会場周辺の経済が潤うなんて言われてて全国から大会に参加しませんか? とオファーが来てたこともあったみたい。


「ですがぁ、十年ほど前に新たに誘致した二代目コーチが問題を起こしましたぁ。白華の情報を売ると同時に相手の戦略に対して弱い戦略を予め指示していたんですぅ。初動で人数差がつけばいくら実力差があっても徐々に追い詰められるのも当然でぇ。明確に勝ち星を挙げ難くなったんですぅ」


 最初は強豪校故の完璧なまでの白華対策──もしくはU-18全体のレベルが上がり白華が置いていかれる事態に陥った、最強への重荷が耐え切れず決壊したと考えられた。


「当時の部員の話によれば負けた試合には奇妙な気持ち悪さがあったようだ。悔しさや参考にしようみたいな感情はなく、人が見えない戦いだったと。負けるタイミングに何回戦とか関係無く、裕福とされるチームだった。さらに気持ち悪いぐらい初動の対面負け。偶然と流すにはいくら何でもおかしいと分析した。相手の動きも記録されているからよりわかりやすかった。自分達のいる位置が明らかにわかっている動き、狙いやすい立ち位置を取っていた」

「そんでもワープリに絶対勝利は無い。コーチの指示した陣形で勝つことも負けることも両方ある。有名になり過ぎたから対策されている。その可能性も考えとったみたいや。でも、決定的だったんは大会の決勝で披露した新陣形。知っているのは白華ワープリ部だけ──偶然では考えられないほど綺麗にはめられた。となると怪しいのは身内、さらに言えばその陣形を深く理解している人間、レギュラーメンバーかコーチ」


 当時の先輩達の優秀さにゴクリと喉が鳴る……本気で不自然な状況を分析していた。仲間を疑うなんて気が気じゃなかったと思う。でも、本気でワープリに取り組んでいたから判明してしまったんだ。


「ある時、答え合わせとして陣形を直前で変更する動きをした。仲間同士の連携だけで試合に勝った瞬間──コーチの表情だけが芳しくなかった。その日の内に後をつけたところ、案の定対戦チームの監督やコーチに問い詰められている姿が発見された」

「それが八百長事件の発覚ですか……」

「部員達は被害者であっても世間の声は厳しかった。ただ、コーチ一人のしでかしたこと。白華ワープリ部は活動停止だけ、買ったチームは完全に解散に加えコーチや監督は資格の剥奪、選手(プレイヤー)達は無期限の大会参加禁止に加えプロ参加不可とされた」

「相手チームのプレイヤーにも罰則が出たんですか!? ここで例えるならコーチが私達に売買について何も知らせずに「この試合はこの陣形で行くんだ」って伝えて戦わせていたようなもので同じ被害者なんじゃ?」

「確かに普通ならそうやろね、じゃあもし……相手チーム全員が知った上で動いていたとしたら?」

「え──? そんなこと……ありえるんですか?」


 だってそれは偽物の勝利……何も価値が無い。自分達が強くなったという達成感も無い、追う立場と追われる立場の逆転──身体の内側をさらけ出すような喜びを分かち合うようなこともできない。

 答えを見ながら問題を埋めていく作業に自分の糧になるようなことは何も無いのに。


「その発想に至らないことを誇りなさい。この事件が起きたきっかけは単純に『嫉妬』──白華のブランドイメージが強すぎたのよ、白華は女子にとって憧れの場所、白華かそれ以外、格の違いを否が応でも理解しているのよ。だからこそ白華に勝ったという勲章は余りにも甘美だったのでしょうね「自分達は白華よりも優れてる!」そう証明できるのだから」


 確かに白華は憧れの場。世間の評価では合格できたら勝ち組、上流階級への仲間入りなんて言われてるぐらい。

 でも現実は入っただけで煌びやかになれるなんて夢のまた夢で学業礼儀作法、他にも色々勉強すべきことが一杯で優雅なティーパーティをすることは稀の稀、授業でやらされたことはあっても自分達が率先して行うことはない。

 ただ、全てを会得して卒業したら素敵なレディになれるのは一生徒として確信できる。


「誘致したコーチも女性。女の敵は女とはよう言うたもんや。それに若さが加わるんやから罪悪感なんてわかんかったやろなぁ。自分は持たざる者だから持っている子から奪ってもいいと、恵まれている子なんだからコレぐらい苦でも何でもないと考えて悪鬼に堕ちたっちゅうこと」

「流石にそれは邪推しすぎじゃないですかね……? いえ、加害者を庇う訳じゃないんですがプロのコーチがそんなことをするとは同じコーチとして考えたくないというか……」


 コーチのコーチとしてのプライドが認めたくない。そんな気持ちが伝わってくる。先輩達の話は真実でも「はいそうです」とは言えない。私達を全身全霊で鍛えてずっと気遣ってくれたコーチ。同じ存在だと認めたくない。

 そもそもプロということは試験に合格した上で報酬をもらって指導している立場。

 そんな人が証を貰えているのにどうしてコーチは貰えていないのか? って話になる。


「うち達の卒業後っちゅう話やから当時の指導風景はよ~わからん。でも、あんさんも少しは理解できるはずや、自分より優秀な人間に指導しなければならない負担っちゅうのが」

「確かに優秀すぎてスポンジみたいに教えたこと全てを吸収してどんどん成長して嫉妬を覚えますよ。でも、それだけじゃあ断じてありません。どこまで強度を上げていいのか、どこまで教えていいのか──そして、どこまで応えてくれるのか期待している自分もいました。嬉しい悲鳴ばかりでしたよ」

「コーチ……!」

「言いますなぁ……まっ、これを論争したい訳やあらへん。八百長の根本は嫉妬以外にありえんっちゅうこと。当時の白華はワープリフィーバーで大盛り上がり、コーチの指導料だって悪くなかったはずや。ねぇ、学園長?」

「恥ずかしながら当時はコーチの相場というのが不明瞭な部分も多く、出資者達もより大きな成果の為に力を貸してくれましたからね。生活に不自由することは無かったはずです」

「なのに今はコーチ無しですか……」


 八百長問題があったから再結成された後もコーチに対して意欲的じゃなかったんだ。同じことが繰り返される可能性、もっと酷いことになることも考えて。

 そして、コーチを受け入れてくれたのは今日で終わるつもりだったから。


「話はそう簡単ではありませんよ。表向きは八百長だけですが本当の問題点は──情報漏洩。不正アクセスが判明しそのアクセス元がUCI管理室からだったのです」

「まさか──!?」


 コーチの視線が一階の管理室に向けられる。


「コーチが生徒の個人情報を抜き取っていた。唯一の救いとして彼女が所持しているだけで直接的な被害が起きる前でした。八百長発覚後にこれは判明しました。もしも被害が起きていればワープリ部の再結成自体行われなかったでしょう」


 つまりはハッキング……白華の情報がどう管理されているかはわからないけど白華の敷地外から侵入しようと思ってできることじゃないと思う。でも、UCI管理室は校舎と繋がっていたということ。


「いえ、あの──その情報って今言っていいことなんですか!?」

「ほぼ部外者の俺に聞かれてもマズいでしょう!? いや、管理室から侵入はもう出来ないようにはなってはいるのか……」

「今日終わるのならその理由と根拠。仮に続くとしても繰り返さないよう礎として──納得は必要でしょう?  白華ワープリ部に不安視する人が多いのも事実。ですが、黄金時代のような輝きを求める人がいるのも事実。そして、世間の評判を吹き飛ばせるだけの可能性が無ければ応援する意味が無いということです」


 これが全部の理由。

 指導者を呼べなかったのは八百長というより情報漏洩を恐れたから。これは生徒を守るため。

 それでも曖昧な状態で続いたのは出資者達が不安と期待の狭間で迷っていたから。これは利益のため。

 今日の練習試合で廃部が決まるのは。ただ単純に決断の時が来た、ハッキリさせる時が来ただけ。


「皆さんの表情からして納得していただけたようで何よりです。裁定してくれる皆さんも正直四人も来てくれるとは思ってもいませんでしたが」


 そういえばそうだ。暇とは無縁の人達なんだから簡単に行けるとは言えないと思う。


「ホンマですねぇ。うちとしては今日のために何とか必死こいて時間を作ってきたんやけど? まっ、嘘やけど」

「私は丁度オフだったからな。なによりここだとファンやマネージャーもやってこない。この年で学生気分を味わうのも悪くないと思ってね」

「わたしは暇でしたぁ」

「アタシはアイディアのためにやってきたようなものね。マンネリを打破するドーンと来る何かが欲しいのよねぇ。アナタ達に期待してるわ!」


 う~ん……なんというか来るべくして来た感じだ。

 とにかくこの人達の判断で決まる……でも、あの時力を貸せなかった心残りもあってOGの方々なら試合するまでもなく存続を選んでくれるってことも──


「もしかして──OGだから存続させてもらえると思っていませんか?」


 心の中を覗き見されたみたいで「ヒョェ」と空気が洩れた。甘さと油断を綺麗に刈り取られた、そんな恐怖。


「桜先生が覚悟を決めて判断した以上私達も本気で決めるつもりだ」

「そもそもうちら卒業しとる身やしねぇ。何より問題起こしたおかげで小さいながらも被害にあっとるんよ、関係あらへんのにここぞとばかりに黄金世代に嫉妬した連中にねぇ」

「私は平穏ですからぁフラットな目で見させてもらいますねぇ」

「まっ、心に響いてこなければここで終わり──出し惜しみは無しにすることね。フレッシュにエネルギッシュなパワーを見せてちょうだいな!」


 圧が凄い……(ただ一人を除いて)。

 私達が緊張しているけどコーチはどこか達観してるようにも感じる。無関係だから──ううんきっと深いことも考えている。

 この業界トップクラスの人たちに対して全く物怖じしていないんだからきっと何かあるんだ。

本作を読んでいただきありがとうございます!

「続きが気になる」「興味を惹かれた」と思われたら


ブックマークの追加や【★★★★★】の評価

感想等をお送り頂けると非常に喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ