第30話 運命の日、黄金襲来
5月5日 GW最終日──
いつも通りの時間に目が覚める。カーテンを開くと眩しい朝日が身体に降り注いでくれる。
雨なんて全く降る心配は無い。「よし!」と気合を入れて休日部活のいつものルーティーン。
普段より少し大目の朝食を食べて、丁度いい時間になったら菫ちゃんを迎えに行く。
チャイムを鳴らす直前にいつも出てきて「おはよ」って挨拶する。
登校中は何時もと違って会話ができなかった。この受験の時みたいな緊張、今日自分の人生が変わるってどこか感じ取ってるんだと思う。
コーチは「負けても大丈夫」みたいなことを言ってくれたけど「今日の練習はどんなのだろうね」「何だか上達してきた気がする」を明日も明後日も憂いなく続けて行きたい。
ほんの一ヶ月程度でも、コーチが来てからのワープリは本当に楽しかった。楽しみ方が広がったもっと続けて行きたいと思った。
今日、終わらせないために戦うんだ──
UCIルーム前、皆はもう来ていて学園長もその場にいてくれた。
コーチも何故か今日はスーツを着てる。普段とまるで違ってピシっとした格好で別人かと思った。それだけ真剣に今日という日に挑んでいるのが伝わってくる。
「全員揃ったようですねでは、中でお話しましょう」
毎日使っているUCIルームが何だか重く感じる。学園長がいるだけでこんなに緊張するなんて……付いていった二階の観客室、掃除して綺麗にした影響で閑散としすぎてなんというか牢獄とか監獄みたいな空気感が出てる。
「あの……どうして学園長がここにいらっしゃるのですか?」
「この眼で見届けるためです。しっかりと裁定するのなら又聞きではなく己の目と耳で判断せねばなりませんから。また、本日練習試合の相手をお伝えしないといけません」
ゴクリと喉が鳴る。
今日の今日まで隠されていた対戦相手。最後の壁──誰が相手でも負けられない!
「──桃園女学園です」
「……桃園だって? 昨年月光祭を制したあの桃園!?」
桃園女学園は女子高等学校、今現在この近辺だと間違いなく女子最強チームの一角──
その証拠に月光祭の覇者──まさかそんな相手になるなんて……!?
学園長は本気だ、本気でワープリ部を潰そうとしてる!
「彼女達は10時頃にいらっしゃるそうです。それと今日の練習試合、今後ワープリ部が存続するのに相応しいか裁定するのは私だけではありません」
「え!? そうなんですか!?」
「あっ、寮の掲示板とかにも練習試合の見学募集の張り紙があったから、生徒にも判断してもらうんじゃ!」
「そんなのあったの!? 初耳だよ?」
「い、何時の間にかありました……ただ、興味を持った方は全然いらっしゃらなかったので来る方はほぼいないのではないでしょうか?」
「そちらは私の方で用意させていただきました。ですが、見学に来てくださる生徒はあくまで見学──裁定に相応しい方達をお呼びしています。どうぞ──」
どうぞ? え? 他にも人を隠していたってこと? 何時の間に? コーチも普通に驚いてる。
ドアが開いてその人達を目にした瞬間──
言葉を失った。一瞬勘違いだと夢かと思った。皆も目を見開いて驚いていた。
何せ今入って来た人は、テレビ越しでしか見ることが許されないような人がいたのだから──
「失礼する」
「こんな観客席があるなんて立派になったもんや」
「お邪魔しますねぇ」
「まっひとえにアタシ達のおかげでもあるわ!」
四人の女性──確かに知っているのは一人だけでも他の三人も圧倒的なオーラを放っていて押しつぶされそうになる。
あまりの来訪者にコーチでさえあんぐりしている。
この状況、疑問を晴らすために何とか声を出した。
「──ちょ、ちょっと待ってください!? もしかしなくてもKAEDEさんじゃないですか!?」
「ああ、KAEDEだ。間違いない」
この映画で聞いたイケてるボイス、やっぱり本物なんだ……女優のトップスターKAEDE。テレビや映画で大活躍、知らない人はいない。生で近くで見ると本当に美人5割増しで綺麗に見える。目が離せない……サイン貰ってもいいのかな?
ってダメダメ! 気を抜きすぎてるのはダメ! 切り替えないと──白華の卒業生だって知ってはいたけどそもそもどうしてここに?
「全く視線を一人占めしてるじゃない! 羨ましいったらないわ!」
「ほんまやねぇ、流石は部長。若い子の人身掌握は手馴れたもんや」
「中々酷いことを言うじゃないか……」
「ちょっとした同窓会気分ですね」
スターのKAEDEさん以外の三名の方も卒業生ってことだ。
射干玉の黒髪和風美人の方、奇抜で二色な髪色で美麗なブランド白スーツの方、普通の奥さんな方。
何だろう……千差万別で道が重ならなそうな見た目なのにこの同士とも言える対等感は……?
圧倒されそうな中、コーチが真っ直ぐと手を伸ばし──
「何か?」
「どうしてこの方々が裁定してくださるんですか? 卒業生で凄い人達だというのは理解したのですけど、ワープリのことを分かっているのでしょうか?」
「あら言ってくれるじゃない? アタシ達の方がつぼみちゃん達より数倍詳しいのよ」
つぼみちゃん!?
まだまだワープリについては未熟──って意味だけじゃなさそう。この派手な人は一体何者なんだろう? って思っていると鈴花ちゃんが「もしかして?」なんて呟いている。けど何か知っているのかな? 実は有名な方?
「問題ありません資格は十分に有していますよ。彼女達は俗に言う黄金時代を作り上げたワープリOGなのですから」
「黄金時代……! まさか──!? 月光祭三年連続優勝をしたメンバーということですか!? 金剛紫さん以外の方は全然情報が無かったから気付けませんでした……」
黄金時代──!? 紫さんが活躍していた複数の動画が頭の中再生される。ダメだ全然思い出せない! 紫さんに注目していたのもあるけど試合の映像は基本的に遠目で撮影されるから顔がアップで映ることは殆ど無かった。動画自体も一番目立つ選手にスポットを当ててる。多分当時の試合を生で見ている人しか知ることはできないんじゃないかな?
それだけ紫さんが注目されてた。紫さん……そうだ紫さん!
その黄金時代の四人がこの場に揃ってるってことは──!!
「じゃあもしかして! 金剛紫さんもこの場に来ているんですかっ!?」
「声大きいのぉ~……そいえばそうやね、うちは見てないけど来とるん?」
「本日彼女は来ておりません、お誘い致しましたが興が乗らないなど申していましたから」
「全くもう! 折角同窓会気分を味わえると思ったのに残念だわ!」
「あっ、そうなんですか……」
もしかしたらと思った希望ががっくりとへし折られた……ううん、元から来るなんて思ってなかったし元に戻っただけ。でも……凄く残念……今の紫さんを一目見ておきたかったし、私の戦いを見て欲しかった、何かを言ってほしかった。
上手いのか下手なのかどっちでもいい、憧れの人に一言何か言われたなら──!
──それ以上の言葉は止めた止めなきゃいけなかった。
「わかりやすく落ち込んでるぅ。やっぱり紫ちゃんは人気だねぇ。私達もがんばってたけど私達に憧れてワープリ始めた子って今まで出会ったことないもん」
「紫煙シリーズで紫として活躍していた時でさえワープリを始めましたと聞かなかったな」
「まっ、アタシとしてはワープリは学生時代で終わったようなものだしね。選手はもう無理観客として楽しむことしかできないわ」
そういえばそうだ──目の前にいるのは黄金時代を築いた人達、なのに誰もプロの道に進んでいない。おかしいことじゃない、学生──高校までって言う人は大勢いる。でも、勿体ないとは思わなかったのかな?
多分きっと私とは根本的に考え方が違うんだと思う。ワープリの為に白華に入った私と、女優の才を持っていながらワープリをしていたKAEDEさん。
目指すゴールも違えば糧の仕方も違う。
「ではまず彼女達の紹介をしましょうか」
「まずは私から──楓、女優をやっている。元部長、役割はディフェンダーだ」
テレビを見ているなら必ず目にする大女優、CMだって何本も出ている。ワープリ以外で憧れた人、偶然とは言え同じディフェンダーで不躾ながらも親近感が湧いてくる。
どんなトイで戦っていたんだろう? 待てよ……動画の中でシールドを持ってて前衛気味に立っていたのは……あれ? 細かくは見えてないけどもしかして組み合わせ今の私と一緒? こんなことある!?
「次はうちやね。百合と申します、料亭『月影』の女将させていただいとります。ちなみに役割はアタッカーで相手を刻んでました。と言っても紫はんの食べ残しを処理しとったようなもんですけど」
料亭『月影』──知ってる、京都の老舗料亭。死ぬ前に一度は行ってみたいお店トップ3、和食を超えた和食、月影こそが日本料理。
お母さんが言ってたけど今度新東京に支店を出すって話があった。
もしかしたらこちらの刺々しいけど和風美女なオーラが凄い百合さんが任されることになるのかな?
「椿ですぅ。専業主婦で今日は学校見学を含めてやってきましたぁ。役割はサポーターで皆を支えてましたぁ」
うん、昼下がりの裕福な奥さんみたいな方だ。ほんわかしている雰囲気、ワープリをやっていたなんてイメージが湧かないぐらいふんわりしてる。
「そしてアタシ水蓮! ファッションブランド『Padmini』のトップデザイナー兼社長よ。アナタ達が身に着けているスーツもアタシがデザインしたものなのよ! ちなみにスナイパーやってたわ」
「このスーツを貴方がですか!?」
「イエス! と言っても在学時に考えて作ったものだから今見るとちょっと恥ずかしくもあるわね」
「あの! え、えっとウチ──鈴花って言います! パドミニのデザインが本当に好きで今はまだハンカチとか小物しか買えないけどいつかはバッグとか買うつもりです!」
「あら中々センスのある子がいるじゃない!」
若い……瑞々しいと言えばいいのかな? 卒業して三、四年位のにしか見えない。吸血鬼か何かなと頭に過る。確か黄金時代は二十四年位前だったから……大体彼女達の年齢は──
「ヘイ、そこのつぼみちゃん? そんな風にジロジロ見るものじゃないわよ」
「し、失礼しました」
思考でも読まれたのかと思うぐらい完璧なタイミングで注意された。なによりそれ以上何も言うな的な圧が突き刺さってくる……。
年齢については置いとくとして、こうして卒業生に会えること自体が貴重だ。それも成功した人達に。言葉の一つ一つが価千金──
「皆さんがワープリ経験者で裁定するのに相応しい人物だとわかりました。ですが、どうしてこんな追い詰められる状況になるまで力を貸すことはしなかったんですか? 評判は最悪、指導者はいない、信頼できる味方はいない状態で彼女達は戦っていた! 黄金時代と呼ばれた貴方達なら流れを変える力はあったはずです! なのに介錯する役目は承っている!」
「コーチ……」
コーチの言葉に怒りが籠っている。私達が言いたくても言えないような言葉を代弁してくれているかのように。
コーチが来る前の私達は蛮勇と楽観と言う名の灯りで真っ暗闇を歩いていた。負の遺産を払拭し切れない自分達だけじゃどうしようも無い状況──自力じゃ無理、大きな力を持った人に気付いて貰わないとどうしようもなかった。
「つまりあんさんはウチ達を金山を掘り尽くして荒山に若者を押し付けて豪遊して観戦しとる悪鬼と言いたい訳やな?」
「どんなに優れた成績を収めても維持し繋げ、より高みに導けなければ老害と変わりません」
「へぇ~……言うやん」
百合さんの瞳が鋭くコーチを突き刺す。
直接貫かれてないのに全身に寒気が走る。コーチは誰に向かって反論しているのかわかっているの!?
この瞬間に部屋の温度が数度下がった気さえする。何でコーチはわざわざこんな挑発するようなことを言っちゃってるの!? 死ぬ気なの? 今日を命日にする気だったの?
「──まっ、一理あるわ。ウチがいる世界は腕がモノを言う。下手糞が蔓延ればただ腐る。若手が入らなんければ未来は無い。年だけ重ねても導き育成する力を持つ者がおらんと先細るだけや」
よ、良かったぁ……! 命拾いしたぁ……。
「でもそうよね。アタシ達は大変な時に何もしてあげられなかった資格はあっても納得はできないでしょう。アタシ達の評価は紫の強さにおんぶにだっこ、ただ同じチームなだけ──」
「いえ、それは断じて違います。金剛紫さんの強さは間違いなく貴方達がいてこそ成り立っていた。お世辞じゃない。一人のコーチとして分析して自信を持って言えます」
「そうなの……」
コーチはブレずに真っ直ぐと伝えた。嘘とか保身とかそんなの感じさせない誇りを持った言葉。私達を指導している時と同じように信用できる強い信念。
皆さんビックリしたような顔してる。でも、水蓮さんは何だかちょっと嬉しそうにも見える。
「学園長──話してもいいですか?」
「……ええ」
「ありがとうございます。活動停止から今日に至るまで私達が力を貸さなかった理由、正確には貸せなかった。学園長の指示でな」
私達とコーチの視線が学園長に向けられる。
この状況は全て学園長が仕組んだこと!? 自分で追い込んで、自分で廃部にする?
言いたい事が沢山溢れそうだけどここはグッと堪えて学園長の言葉に耳を傾ける。理由がある、きっと納得できるような。
「私が皆さんに口出し手出しをせぬように伝えていました。彼女達は卒業生であり当時の白華とは無関係、何より軌道に乗り始めた己の夢──八年前の汚点に関わってしまえば潰されてしまう。そう考えました」
汚点──白華ワープリ部で指すことは一つしかない。
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