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第25話 ラストスパートとプレゼント

 それから練習の日々が続いていきました。

 学業とワープリの両立、コーチが来る前は余裕を持って行えていたことが今では健康ギリギリを攻める日々になって、ほんの少し無茶しようものなら疲労で授業に集中できなくなりそうでした。 

 ハードになった練習を重ねていっても簡単に余裕を持って終える日なんて訪れることはなくて、毎日終了時間が近くなると体力はギリギリまで削られてコーチとの特別練習も上手くいかない。

 それでも見せ掛けの弾切れならどうにか対応できるようになったけど、サラマンダーやバハムートでシールドを破壊する動きはもはや嫌がらせで対応手段が思いついてない。早く帰らせるために不可能を押し付けて来てるんじゃないかと思う。

 特別練習も私だけじゃなくて何時の間にか他の皆も受けていて、それぞれに合った練習方法も何時の間にか考えているんだからコーチは凄いと思う。

 特に鈴花ちゃんは私と同じように毎日受けてた、内容的には個人戦術の授与みたいなのばっかりだった。

 そして……運命が決まるGWの初日が始まります──


「さて、今日は4月29日木曜日、世間ではGWの始まり。皆は明日また登校で大変だな」

「コーチもじゃないですか?」

「というか学業よりも家業優先する子が多いから明日来ない子多いわよ」

「そうなのか……」


 今年のGWは4月29日木曜日から始まって30日の平日を挟んで5月1、2、3、4、5と連休が続きます。30日を休みにしたら一週間休日が続けられることになる。

 白華の生徒の三分の一ぐらいは休むことがある。GWの恒例行事みたいなもので私達はもう慣れたもの。でもコーチが凄いショックを受けてるような顔してる……自分の常識が通じないってわかっちゃったんだ。


「こほん、では日程についてだが学園長より細かい連絡が届いた。決戦の日は予定通り5月5日水曜日、午前10時程より練習試合を始める予定になっている。その前の9時からここで皆を含めた会議が行われるからその前に着替えは済ませておくように──と書かれていた」

「ワープリ部の行く末を決める会議ってことですか?」

「おそらくな。多分学園長も見学なさるんだろうな」

「うぇっ、滅茶苦茶緊張する事態に陥るじゃん……先生に見られながらテストと受けるのと同じプレッシャーっしょ」


 中々苦しいことになりそう……でも! そこで勝つことができたら文句の言い様の無い成果を見せることができる!

 九死に一生、死中に活!


「最終日の予定は完全に決定だ──その前日(4日)は体調を万全にするために休日。その前の日(3日)は他チームに恥を晒さないために練習半分で残りは大掃除とする」

「ん?」


 前日休み、理解できる。大掃除、相手チームも更衣室で着替えてもらうことになるから私達が掃除する。理解できる。

 でも何だかこれまでの白華の流れと重ねると頭の中のカレンダーが良くない風に埋まっていってる気がする。


「普段通り日曜日(2日)は完全休日──」

「トナルト……えっ、マサカ!?」

「4日しかないじゃないですか!? 連休なのにきっちり練習できるのが今日除けば土曜日(1日)だけですよ!? 本気で言ってますか!?」

「ワッツ!? 練習できる日がわずかデス!?」

「しかし、万全なパフォーマンスを発揮するためには前日は身体を休めるのに必須。その前の掃除も重要。日曜休みは白華のルールだからな破ることはできん」


 決まり事を全部破って練習に集中したい欲が凄いあるけど──確かにこれをやぶったら練習試合どころじゃなくなりそう……全盛期のワープリ部ならそんなワガママだって申請すれば通せそうだけど今の私達じゃ却下される未来しか見えない。


「それで? ただ練習の時間が少ないですよ~って事実を伝えるだけじゃ無いんでしょコーチは?」

「無論だ。というより正直言ってこの残り時間を全て練習に費やしたからと言って実力がグンと上がることはまずない。この一ヶ月近くしっかり鍛えた結果が練習試合で証明されるだけだ」


 思い返せば本当に濃い一ヶ月だった。私達ののんびりとした半年間近くが一ヶ月に濃縮された感じ。

 本当に沢山のワガママを叶えてもらった。


「だが、総決算として火曜日は練習試合に向けて調整した特別なUCIユニットと戦ってもらう。このユニットに勝つことができなければ練習試合をしたって意味が無い。俺が与える最後の試練といったところだ」

「最後の……」

「試練──?」


 皆に緊張が走ったのが伝わってくる。

 過酷な練習を乗り越えてきた、だけど私達がどれだけ戦えるようになったのかは正直言って不明。ずっと仲間内で研鑽しUCIユニットを倒してきたけど──他者との比較があって強者弱者が初めて決まるのも事実。

 出会ったあの日から私達はどれだけ成長しているのか、想像するだけで武者震いな寒気が肌を走ってワクワクしてくる。

 そんな私達に向けてコーチは手を開いて突き出す。 


「五連戦だ。この成績によってどこまで戦えるか決まってくるだろう」


 コーチの言葉に嘘はない。それだけのユニットが襲ってくる。

 これに勝てないと練習試合をしたって負けて終わる──そう聞こえる。


「なんだかラスボス前のボスラッシュみたいね……」

「心情的にはそう感じるかもしれないが、ラスボスを倒した後の世界があることを忘れちゃダメだぞ。それに、その世界の方が長いことも重要だ。それじゃあ練習を始める! ここからは新たに戦術を覚えるよりもこれまで覚えた戦術の錬度を高める!」

「「「「「はい」」」」」


 コーチの指導もより一層熱が籠っているのを感じる。

 限界ギリギリまで追い込まれていく感覚、皆も緊張が満ちているのが伝わってくる。この真剣さは白華を受験した時を思い出すくらい。

 殺伐として余裕がない、合格したい欲望は誰よりも強いのに足りないモノが多い理想と現実のギャップ。

 でも、あの時とは完全に違う点がある。

 コーチという本当に頼れる存在。困った時、迷った時、私に足りないこと必要なことを教えてくれる人がいる。誰もが手探りで挑んだ日々とは違って積み重ねられた厚い知識に安心して甘えられる。

 だけど、腑抜けた心じゃ絶対に上達しない厳しさも備えられてる。


「蘭香、射程距離を身体で覚えるんだ」

「セイラ、残弾数と攻めの意識が一致しすぎている。敵に悟られたら終わりだ」

「八重さん、退くタイミングが早すぎる。ドローンで意識を逸らすなりで相手の思考を増やさせろ」

「南京さん、後半になるにつれて体勢が歪み始めてる。体幹を意識することを忘れないように」


 多くを指示することは無いけど、私達が疑問に思ったことはすぐに答えてくれる。

 

「ウチへの指示少なくな~い?」

「まだ未熟な初心者に多くを求められん。だけど動きは悪くないこの調子でがんばれ」

「りょ!」


 私の目から見ても鈴花ちゃんの成長は目を見張るものがある。特待生ともなると頭の出来だけじゃなくて身体の出来も違うんだと、嫉妬も覚えるけど今は頼りの方が圧倒的に強い。仲間になってくれて本当に良かった。

 ──そんな鈴花ちゃんの誕生日はもう目前。

 帰ったらすぐに寝そうになるぐらい過酷な追い込み練習の合間、5月1日──一日通しで練習できるGW最後の日であり誕生日。

 練習が始まる前、コーチは後ろ手に背中に隠した何かを少しはみ出させながら、迷った表情をさせて「よし」と一声漏らすと覚悟を決めて── 


「鈴花、誕生日おめでとう。というわけでプレゼントだ」

「ええ!? ほ、本当にもらっていいの?」

「ああ、受け取ってくれ」

「~~っ! うれしい~! 開けていい? 開けちゃうね!」


 リング(グループチャット)で話してたことが現実になった。鈴花ちゃんも半分冗談だったのか本当に貰えるとは思ってなかったみたいで子供みたいに嬉しそうな顔をしてるしクルクル動き回って全身で喜びを表現してる。


「わぁグローブだ! 見て見て! コーチから貰った!」


 ワープリ用の白いグローブ。見覚えというか使い覚えがある。滑り止めも付いてて結構使い勝手がいいグローブ。

 ある意味強化パーツみたい、ワープリのコーチなだけあってプレゼントはワープリ関係なんだね。


「はいはい良かったわね」

「スズさん本当に嬉しそうです」


 純な喜びに微笑ましさを感じてる皆の中、セイラちゃんの表情はムムッと疑問を覚えているようにも見えて。


「アッ、ワタシが貰ったのと似てマスネ。というか同じな気がシマス」

「──え?」


 爆弾発言と共に自分の手に着けているのを見せると。

 鈴花ちゃんは表情も動きも固まっちゃった。

 何故? という疑問の前によくよく思い返せば──


「……あっ、そういえば誕生日位からセイラちゃんってグローブ付け始めたよね?」

「エエ、休みの日に偶然出会って渡してクレマシタ。性能良くて気に入ッテマス」

「意外と抜け目無いわね」


 何もおかしなことは無い。鈴花ちゃんの前にセイラちゃん誕プレを渡していただけ。

 部活も忙しかったしただでさえコーチには負担もかけているんだから催促するようなことは口にしちゃいけないと思ってたけど、渡してたんだ……今気にしてもしょうがないけど、お金的には大丈夫なのかな? これだってコーチにとっては相当な負担を強いることになるかもしれないのに……。

 だってコーチのあの時の昼食って30円引きのシールが貼られていたのが忘れられない。


「初めてがウチじゃなかった……それよりも同じもの……」


 ガックリと膝を付いて落ち込んじゃった。自分だけ貰えてるみたいな特別感から叩き落されたようなものだもんね。

 確かにセイラちゃんの誕生日は本当に普通に部活するだけでコーチも忘れてるかと思ってた。私達は一応お菓子のプレゼントはしたけどその時もコーチに見つからないように気を使って更衣室で渡してたもん。


「コーチ、乙女心をわかっていませんね」

「ええ……指導者としての限界攻めてる方だぞ」


 確かに誰か一人を特別にしたら不平不満が溢れることになっちゃう。

 鈴花ちゃんも頭でそれはわかってるとは思うけど……コーチのこと気に入ってるみたいだからどうしてもショックを受けちゃってるんだろうなぁ。

 この調子だと今日の練習に凄い影響が出そう。コーチが何を言っても逆効果になりそうだしこうなると……うん、しょ~がないからタイミングをズラしてここで二の矢をぶつけるしかないか!

 菫ちゃんにアイコンタクトを送ると(ブツ)を取りに行ってくれた。


「──はいはい、鈴花もそんなことで落ち込まない。これあげるから元気出しなさい」

「コレって……?」

「クッキーよ、誕生日おめでとう」


 鈴花ちゃんが目を見開いて袋と菫ちゃんを見比べてる。


「えっ、え? まさか……! スミーセンパイがウチのために?」

「……別に、あんたのために作ったわけじゃないから蘭香と一緒に作って余ったのを渡しただけだから」

「逆だよ~余ったのを私が食べたんだよ~」


 昨日はこんなことがあった──

 そういえば鈴花の誕生日って五月一日よね。

 全く、セイラと十日近くしか変わらないんだから面倒よね。

 あの子って甘い物嫌いじゃなかったかしら? 

 蘭香も手伝いなさい。

 あの子ギャルっぽいから派手目にした方がいいかしら?

 ──部活終わりの話で私が別に催促したわけじゃない。コーチに負けないぐらい菫ちゃんもマメなんだよね。


「ウチめっちゃ嬉しい!」

「コラ、ひっつかないの!」


 後ろから覆いかぶさるように抱きつく鈴花ちゃん。

 うんうん、仲良きことは良いことだよね。


「そういえば休みの日に貰ったって言ってたけどコーチと会うことあったの?」

「もしかしてKANATO屋に行ってたんですか?」

「アノ日はある意味運命みたいデシタネ~……」


 という訳で語られるセイラちゃんの誕生日プレゼントの真相──

本作を読んでいただきありがとうございます!

「続きが気になる」「興味を惹かれた」と思われたら


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