第20話 好きを見せる
思わず言葉が漏れた──
ワープリに携わる人なら誰だって知っている。U-18、男性限定のWWP公式大会『陽光際』。盛り上がりも凄くて予選から本戦まで地上波で放送されてる。
動画サイトに投稿されているし見た方が勉強になる部分があるのは知ってるけどどうしても見ることができなかった。拒否反応がどうしても出てきちゃう。
「来月開催だな。白華は女子校だから参加はできないけど、見れば戦術とかは参考になる部分は多いはずだ……いや、先に練習試合をどうにかしないと見る気も湧かないだろうな」
「コーチー的には勝てると思う?」
「……努力を重ねてはいるがそれは相手も同じ。君達の上昇率には目を見張るものがあるけど対戦チームによるとしか言えないな。未だにどことやるか学園長から連絡は来ていない」
「関東の強豪と言えば……彩王蓮華学院、布達目森高校、矢津霊クラブチームも候補に挙がるか──でも、白華に入れるとなると女子高か女子チーム──最近力を付けてきた桃園女学園かローズクィーンズみたいな女子だけのチームになるかな?」
「共学でも女子だけで来る可能性があるから絞ることは難しいな。そもそも相手を想像して対策を立てるなんて愚策もいいところだ、当てが外れたら碌なことにならない」
「でも……彩王蓮華の方が来られたら勝てる気がしません……」
「なになに? そこってそんな強いん?」
「毎年U-18の三大大会を一つ以上勝ち取ってる超強豪校ですよ。歴史のある高校でワープリが本格的に広まる頃から部活があったそうです」
まだ三大大会が存在していない何十年も前からあって、凄まじいノウハウが積み重なってて今じゃあ卒業後プロになった人も大勢輩出してる。ワープリで食べていこうと思ったらここが第一志望になるぐらい実績があります。
試合動画を見たことがあるけど何でこの動きをしたのかその意図がまったくわからなかった、これはおかしいようなって動きでも何故か勝ってる。多分わたしが理解できてないぐらい高度な駆け引きが行われてたんだと思う。
「ほぇ~……! 確かにそれは強豪だわ。コーチー的にはそこはどんな感じなん?」
「俺に聞くのか?」
「ウチ達とコーチーじゃ見え方とか違うじゃん? 何かしら知ってたりするんじゃないの~?」
「そうだな……彩王蓮華は絶対王者と呼ぶに相応しいぐらい全員の練度が凄まじい。勝つためだったら何でもする──卑怯という意味じゃなくて選手を強くするためだったらな。練習の密度もまるで違う。競争意識を植え付けて毎日のようにふるいにかけている……ようなことをしないとアレだけの動きは出来ない、部員数も何十人といるからできる芸当だろうな」
「なるほどぉ……流石に強豪校って言うだけあってコーチーもよく調べてるんだね」
「まあな……」
「まっ、確かに最強には理由があるって訳だね、それもとんでもないね。君もよく勉強しているね!」
「いえ、その……はい……」
わわっ、急に矢印がわたしに向けられると心がキュってするぅ……。
「彼女は男性が苦手なんだ、急に声を掛けたりしたら驚く」
「そうなんだごめんね。じゃあはちやんも?」
「……人には色々ある、焦ることはない。俺だって女の子と話す経験少ないんだから緊張と隣合わせだ」
「そうなん!? 普通に指導してくれてたじゃん!」
「立場が会話を可能にしてくれてるんだ。多分コーチでもなんでもなくその辺で会話しろって言われても頭真っ白になると思うぞ」
コーチさんでもそうなんだ……でも、立場か……わかるような気がする。
蘭香先輩の親戚で、コーチって役職じゃなかったらもっと話せなかったと思う。
「だったらぁ~ウチで女の子の扱い方練習してみる?」
「ぶっ!?」
「な、何だかいかがわしいです……!」
小悪魔的な笑みでコーチさんを見つめてる。その瞳にやられたのかコーチさんも明らかに狼狽えてるし、学校じゃそういうのとは無縁すぎてやり取り見るだけで緊張する!
「そ? でも慣れといた方が良くない? オドオドしてる男の人から指導されたいって誰も思わないっしょ?」
「正論と言わざるを得ないんじゃない……ただ練習を課すだけならアンドロイドでも可能。不安や不調を機微に察して寄り添うこともコーチに必要な技能ではないのかね?」
「にやけた面で言ってなければ素直に受け止めていたかもな」
「あはは、まあコーチーが暇な時は何時でも相手したげるから」
何だろう……鈴花さんには何だか別の目的みたいなのが感じられる。
普通なら冗談でここだけで終わりそうなのに。次に繋げようとしてるような? あっ、コーチさんを女の子慣れさせてもっと有意義な練習をできるようにしてるのかな?
最後はちょっと気になったけどお買い物はこれで終わって、お店を出ることになった。
「いやぁ~いい買い物しちゃったねぇ~……」
商品は明日コーチが届けてくれるみたいで手ぶらで帰れる。
これで鈴花さんの目的はお終い、これで解散かな? って思ってるとキュ~って音が隣から聞こえてきた。
「うわ、ハズかし……お腹なっちった。どこか食べにいかない?」
「え、はい。いいですよ──」
あっ──思わず「はい」って言っちゃったけどど、どうしよう!? ……わたしの目的って……折れる? ここは折れた方がいい? でも、毎週の楽しみだし今日食べなかったら来週までずっと頭の中で逡巡して後悔しそうだし……。
「何かガッツリ行きたい気分なんだよね、この辺ってあんまり来ないからわかんないんだよね、ヒマチー知ってる? それとも一緒に探す?」
「!! あ、あのだったらすぐそこのラーメン屋さんに行ってみませんか? お腹いっぱい食べられそうですよ!」
「随分押してんね。ウチ的にはいいけど、ああいうところで男の人が多くない? ヒマチーだいじょぶ?」
「だ、大丈夫です」
……言われて初めて気づいたけど、確かにラーメン屋さんって男の人が多いけど平気だった。こうして並んでいる時もすぐ近くに男性がいる。意識してちょっと警戒はしちゃうけど怖さとかはあんまりない。なんでだろう?
ほどほどの行列で鈴花さんと何を食べるのか話ながら待っていると、扉が開く度に届くスープの香りが鼻に届いてお腹を刺激してきて鳴りそうになってくる。もう、これだけでダイエットになりそう──10分ぐらい待つとようやくわたし達の番!
「いらっしゃいませぇ!!」
う~ん、良い匂い! こういう香りって白華じゃまず浴びることができないから毎週浴びる度に新鮮な気持ちになれる。もうこれはアロマセラピーだよ。
「こういうお店来るの始めてかも」
「券売機で買うんですよ。決まってますか?」
「ヒマチーは?」
「オススメにあった豚骨醤油にしようかなって」
ここ『めんや黒情』は豚骨醤油と魚介醤油の二本柱で挑んでいる醤油系のお店。ラーメン系グルメサイトでは星は3.9、レビュー数は30程。悪い言葉は見当たらなかったから期待はできそう。
鈴花さんと一緒でちょっと不安だったけど前々から来たかったお店に来られて嬉しい。
「じゃあウチは魚介醤油の特選でいいかな? 山盛りって訳じゃ無さそうだしいけるっしょ!」
「特選ですか!?」
魚介醤油の特選には鮪節、煮卵、メンマ、ネギ、チャーシュー、エビと色鮮やかに具材が盛り付けられて1200円。確かに美味しそうでできた亡者の手に掴まれそうになるけどおいそれと選択できないよ……。
「次何時来れるかわかんないし最高の物選んどかないと勿体無いっしょ!」
「確かに……!」
反論の余地が無い正論に頷くしかなかった。
最近ワープリも頑張ってるし、明日からも練習はハードだから今日しっかりとエネルギーを補給しておかないと持たないよね? うん! きっとそうだ! だからこれは今日までのご褒美で明日からの活力! 亡者のように迫ってくる魔力の手を握り返して券を買う。
「特選、豚、魚入ります!」
何だろう少し大人になった気分だ……! 普通じゃなくて特選を選ぶ。選べるということが大人の領域なのかも。
そのおかげか普段よりも期待が上がってる!
「すいませ~ん取り皿も二つおねがいしま~す!」
「はい喜んで!」
「取り皿?」
「シェアして食べようよ。ウチらこういうところ滅多に行けないんだからさこうした方が色々な味食べられてお得マシマシじゃん」
「あ、はい!」
その発想は無かった! いつも一人で食べてたから考えもしなかった。正直どっちも気になってたから助かります!
「豚骨醤油と魚介醤油おまたせしやした!」
湯気と一緒に攻めてくる濃厚な豚骨と醤油の香りに思わず涎がこぼれそうになる。
特選の豚骨醤油はチャーシューの量がどんぶりを一周するぐらい並んでてネギやメンマや煮卵が方位されてる。
スープに髪の毛が入らないようにまとめてっと。
そうだ、先に写真も撮らないと──!
「折角だしウチも撮っちゃお。そういえばウチ……休みの日こうしてラーメン食べるの初めてな気がする」
「そうなんですか? ちょっと意外な気がします……でもラーメンだから不思議じゃないかも」
もっとオシャレなお店に行ってそうだもんなぁ。それかマックスバーガーで食べてそう。
よし撮れた。盛り付けも食欲そそる配置してるなぁ、冷めないうちに食べないと──ってその前に取り皿に分けてっと。具も同じように並べて……よし!
「どうぞ」
「ありがと。ヒマチーってさぁひょっとしてラーメンが好き?」
「え──!? いえ、その……はい──どうしてわかったんですか?」
「いや、だって動きにリスペクトが溢れてるもん。それに届いたら普段よりお顔のご機嫌感凄いよ。いつもそれ位笑顔だったらモテモテだって」
「か、からかわないでください」
「マジマジ。はい、これがウチの魚介醤油、交換だね」
「ありがとうございます」
食べる前から顔が赤くなっちゃう。そんなに普段と違うのかなぁ? 自分じゃわからないや──
気を取り直して「いただきます」。やっぱり最初にいただくのはスープだよね。その店の信念というかこだわりを一番にいただかないと失礼。レンゲに満ちる赤みがかった乳白色のスープ。
一口含むと香ばしくこってりとしたスープが口から鼻に駆け巡る。これだけでこの店は大当たりだって確信する。次は麺を少し……スープに負けない中太麺がよく絡んで濃厚な美味しさが口の中一杯に広がってくる! 細かいことを抜きにして美味しい!
「おいしっ!? 今のラーメンってこんな感じなの? 最後にラーメン食べたのって寮の防災訓練で食べたカプメン以来かも?」
「あぁ~ありましたね。乾パンとか保存食とか。あれって賞味期限が近くなったのを交換する目的もあるらしいですよ」
「だよね~後はウチらにああいう食事を慣れさせるのもあるよね。食べるのに苦労してた子多かったもん」
カップラーメンとお店のラーメンは比べるのもおこがましいぐらい別物。便利なのは確かだけどあくまで緊急時用。
鈴花さんも美味しそうに食べてるみたいで良かった。勇気を出して提案して良かった、こうして横目に見ているだけで魚介醤油も食べたくなってきた。
「ん? 豚骨結構濃いね、魚介とこんなに方向性違うんだ」
「じゃあわたしも……あれ?」
一口スープを飲んでみて少し失敗したかもと感じた。ネットリと絡みつくような濃さを持つ豚骨醤油に対して魚介はどちらかと言うと鋭いキレで淡麗系、味は濃厚なんだと思うけど豚骨の後だとちょっと弱く感じる? 食べる順番を間違えた感じだ。だったら──
「水を飲んで少し時間を置かないと」
「刺激的な味だもんね。身体の中がビックリしてる感覚あるもん、毎日食べるには厳しいよねぇ」
「そうですね。だからこそ偶の贅沢、残さず全部いただかないといけませんね」
ラーメンは心のエネジードリンクみたいな役割も担ってる本当は毎日食べたいけどずっと食べ続けようと思ったらどこかブレーキをかけないといけない。白華の寮住まいっていう強固なブレーキがあって良かった──でも最近のワープリはハードだから食べても平気そうな気がする? 野菜マシマシ系なら栄養のバランスが取れるんじゃないかな? でも門限厳しいからなぁ白華出てすぐにラーメン屋さんがあればいいんだけど、駅前まで歩かないとなかったもんなぁ。それに一度食べたし特別美味しいわけでもなかった。一度食べたら満足できる味で二度目はいいかなぁ~。
「では改めて」
口の中がすっきりしたところで魚介醤油をいただきます。
うん! さっきよりもハッキリ味が伝わるまろやかな舌触りすら感じるこのスープは芸術的! 特選に付いて来るエビもいい仕事してるこのプリっとした歯ごたえが特別感を出してる!
「ふぅ……ごちそうさまでした」
二種類のラーメンを食べられて本当に満足したぁ……鈴花さんと一緒じゃないとこれは出来なかったなぁ……。
「本当に幸せそ~さて、ウチもごちそうさま」
おぉ……スープも殆ど飲み干してる。敬意があってとてもいいです。でも──
「お腹大丈夫ですか?」
「へーきへーき、やっぱ運動始めると体が栄養欲してるのかもしれないね。またこういうのもいいかも」
「また?」
「でしょ? こんなに美味しい思い一度切りじゃもったいないっしょ! ここじゃなくてもいいからさ、またラーメン食べに行かない?」
「そうですね。この辺りもまだ全然開拓できていないので良いと思います」
あれ? 鈴花さんも一緒に行くことになるけど……いっか! 一人の時に感じてたちょっとした不安みたいなのは不思議と今日は無かった。
ラーメンを完食できる人に悪い人はいないもんね。
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