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第10話 スタイルチェンジ

「みんなごめんね!」


 言い訳なんてしない! 頭を下げて素直に謝るしかない。

 部長として情けない姿を見せちゃった。

 私のこれまでが全部が否定されたような気持ちになっちゃって色々な感情がワーってなって思わず逃げちゃった。それに── 


「それと、今まで勝手に動きすぎて皆に負担をかけるようなことしてごめん!」


 頭を下げたまま伝えちゃう。

 先輩達が卒業してから部長として皆を引っ張って来てたつもりだけど──むしろ中等部の頃から私は意志を強く紫さんのスタイルをやりたいと言ってやらせてもらっていた。それがどんなワガママを負担を押し付けているかなんて知らなくて。コーチに教えられてから今まで知らなかった負債を知った。

 だから……皆の顔を見るのがちょっと怖い「やっと気付いたデース」とか「前に出すぎて困ってました」とか「猪を支えるのは大変だったわ」なんて言葉を言われないかちょっとビクビクしている。


「ん……? なんのことデース?」

「えっと……その、負担なんて無かったですよ? むしろこっちが迷惑かけているんじゃないかと……」


 でも、戸惑っているような言葉しか聞こえてこなくて逆にこっちが困惑しちゃう。


「だってアタッカーなのに今まで攻め切れなくて……もっとちゃんと出来ていれば勝てた試合もあるんじゃないかって──」

「勝てなかったのは別に蘭香のせいだけじゃないでしょ? それに勝ちも負けも全部自分のおかげだなんて。そんな大それた実力があるわけでも強いから部長に選ばれたわけじゃないでしょ蘭香は?」


 恐る恐ると頭を上げて皆の顔を見ると思っていたような顔は全然していなかった。

 振り返ってコーチの表情を見ると穏やかに微笑んでた。


「君達はまだ実力で揉められるぐらい鍛えられていないってことだ」

「失礼なこと言われてる気がしマース」


 だけど──誰にも気付かれずに注意されなかったことを安心しちゃいけない。悔しいけどこれは受け入れて心に留めておかないといけない。


「ではコーチ! 私のトイは何になるんですか? 教えてください!」

「蘭香……本当にディフェンダーになっていいの? 後悔はしない?」

「これは私が納得して今よりもっと強くなるために決めた事だからいいの。ニュー蘭香として皆を守ってみせるから!」


 後悔が全くないと言うのは嘘──

 何時だって憧れは心の中にある。だけど、来月一生後悔するようなことになるぐらいならこのスタイルを受け入れる。

 コーチが私の適正をディフェンダーだと言い切るなら、それがワガママでも無償でコーチをしてくれる私のワガママの対価として受け入れないといけない。


「その意気だ! まずは当然としてシールド。それと近接対応用のブレード、これは以前から使っているのでいいだろう。そして最後に蘭香にはこれを渡す」


 コーチに手渡されたのは皮のガンホルダーに入っている何か。

 本格的に収められていて見なくても中身が想像できて、開けて取り出してみると予想通りリボルバー系のトイ。

 でも予想以上に全体の光沢や重厚感がある造りで多分これはプロモデルクラス! 小さな傷も沢山あるしこれは……?


「何だか年季が入っているような……?」

「昔俺が使っていたリボルバー、『スレイプニル』だ。メンテナンスもしっかり行っているから普通に使える」

「コーチが使っていたトイ!? えっいいんですかそんな大切なもの? 大事な物──相棒じゃないですか!?」


 プロモデルは名前の通りプロが使う丈夫な代物で数千で買えるような安い物じゃない。5万は平気で超えるはず。

 でも、重要なのは価格何かじゃない、これは大切に使われた思い出のトイってわかる。何度もメンテナンスされているけど、拭いきれない年季が共に歩んできた証明。

 私にだって大事なトイはあるからわかる。小学生の頃にお小遣いを貯めて購入したグリフォン。今だって使っている長年の相棒……あれ?


「俺は前線を退いだ身。ずっと飾られているより次世代に使って貰ったほうが良いだろう」

「何だかワタシのテディベアを姪っ子に送った時みたいデース!」

「あの、コーチ……となると私のグリフォンはどうなるんですか? 左手はシールド、右手にそれ──あっ、腰とかに装備して切り替えて使うんですね!」

「いや、出番無しだな。グリフォンは中型トイ、片手しか自由がない場合トイの切り替えでかさばる。小型のスレイプニルと細くて軽いブレードを持ち替えながら戦うスタイルになる」

「ええ!? どうしてですか!? 納得できる理由を求めます! ディフェンダーになるのは認めたけど、相棒を手放すなんて聞いてません!」


 譲れない想いが爆発する。なんで私だけこんなに改造されなくちゃいけないって気持ちが溢れてくる。部長にだって譲れないことは沢山ある!


「グリフォンは連射力に優れ射程距離もそこそこ、だがそれゆえに弾を想像以上に使うことが多い。シールドを構えてマシンガン系で連射するスタイルは確かに強いがUCIの消費が激しくなり最悪残量が無くなって何もできなくなる」

「でもリボルバー系の方が消費が激しいじゃないですか!? 騙されませんよ!」

「確かにリボルバー系は高威力と中射程を両立させた影響で消費は激しい。だが残弾数をはっきりと理解できる利点がある。バトルでは装填された状態で始まるのはどのトイも同じだが、リボルバー系はその恩恵が強い」


 バトル前はトイにしっかりとUCIを注入して弾数をMAXにしておくのが当たり前。これは公式も推奨している戦い方。

 向日葵ちゃんのベルセルクなんかは一発の重みが違う。予め弾を込めておくかおかないかでバトルの結果に左右される。

 リボルバー系は最大装填数が6と決まっていて、狙い所が良ければ一発で相手をダウンに持ち込める。連射系の戦い方とはまるで違ってくる。

 本当に一から覚え直しになって経験者って利点が無くなりそうで怖い。


「でも、だからってグリフォンを手放す理由としては弱いです!」

「何より蘭香の目の良さを活かすなら一射必中の方が断然良い。動画を見返して思ったが蘭香の命中力は悪くない。長所をより活かすならこの組み合わせがベスト。複数発当てる余裕があるぐらいなら一発で倒した方が断然良い。相手にとってもそれが脅威になる」

「……そうなんですか?」

「自分を客観的に見るなんて難しい話だからな。そういうのを見つけるのも俺の役目だ」


 あんまり意識してなかったけど私ってそういう能力あったんだ……いや、もしかして私上手く操作するための──違う! この澄んだ目に嘘とか無い!

 分析した上で本気で言ってるんだ。


「もちろん俺が提示する札はもう一つある。今からスレイプニルにしか出来ない技を蘭香に託す。知らない相手にとっては確実にダウンに持ち込めるトリックショットだ」

「何ですかそれ?」

「見ていろ」


 コーチはシールドを左腕にスレイプニルを右手に装備して、ある構え方をする。


「え? いや、それが技なんですか……? 誰でもできるような技だと思うんですけど」

「それにモロバレデース、見たら避けマス」


 コーチの教えたいことはすぐにわかった。確かにスレイプニルじゃないとできない戦い方だけど──


「もちろんこのままじゃあ戦術に組み込むことはできない。だから……シールドを──あれ? 今気づいたんだが……もしかしてシールドの設定弄ってないのか? 四つ全部のボタン同じ形と色しか出なかったんだが」

「?」「?」「?」「?」


 コーチが何を言っているのかわからなくて皆の頭に「?」が浮かんでいた。

 その反応に呆気に取られた顔で浮かべてくれる。


「嘘だろ……この手甲型の握る部分に各指で押せるボタンがあるだろ? ここはボタン毎に設定した形を呼び出すことができるんだ」

「そうなんデスカ!?」

「あたしも知らなかったわ……」


 当然私も知らなかった。だって使う機会が無かったんだから。

 シールドは棒状のUCI形成機と手甲が一体化したようなデザイン。コーチは手甲の握る部分を見せてくれてボタンの位置を教えてくれる。

 シールドの出し方は持ち手にある人差し指~小指で届く位置のボタンを押しながら親指で持ち手の脇にあるボタンを押す。

 強く握ると普通にボタンを押しまくることになるから二重で起動することになってるみたい。複数のボタンを押しながら親指のボタンを押すと解除になるから注意しなきゃいけない。 

 それに重さも1、2キロあったはずだからこれからちょっと大変になりそう。


「……こりゃ本当に教え甲斐がありそうだな。形成の仕方で使える戦術も変わることを教えてやろう!」


 やれやれとした表情をしているけどどこか楽しそうにもしている。

 でもシールドの形成ってそんなに必要なのかな? 基本的にライオットシールドみたいに半透明の長方形でいいと思うんだけどなぁ、後は丸型。色々なバトル動画でも奇をてらった形はまずみない、バリスティックシールドみたいに真っ黒にして窓付きなのは見たこと──


「もしかして……見えなくした上でさっきのをするってことですか!?」

「そういうことだ。色を変え細かい設定を行えば確実に不意を突ける、相手を誘い込みカウンターの一撃を叩き込める。グリフォンだと相手を近づかせないように動かすことが多くなるが、こっちだと選択肢が増える。隠し持っていれば高確率で相手一人を倒せるだろう」

「えげつないトラップ戦法ね……いい性格しているわ」

「たとえスレイプニルの存在がバレたとしても直撃の警戒は絶対だ。蘭香が引き付けたり動かした所をセイラが狙うだけじゃなく、セイラが相手を動かし蘭香が狙うという形もできる。グリフォンの威力じゃダメージを受け入れて逃げる選択肢も生まれるからな」

「でもそれって理想論じゃない? 当てることが前提の話じゃない」

「その為の訓練を全員に施す。素早く動き、素早く狙いを定めて当てる。結局のところそれがワープリにとって最高の動きだ。当たる弾程怖い物はないからな」


 悔しいけど納得できてしまった。なによりコーチの言葉に反論が浮かばなかったから。

 思えば私は今までグリフォンで倒すことはあまり考えていなかった。紫さんの戦い方が身について、牽制だったり妨害を主に使っていた。ブレードで倒すための途中経過──

 本当だったらグリフォンで倒せるならそれでいい。でも、ブレードにこだわってる私もいた。

 こういう発想もできていないんじゃあ今以上に強くなることなんて無理だ……


「わかりました……使います」

「だけどな、グリフォンを捨てるって意味じゃないことは理解してくれ。必ず出番がやってくるから大事に保管しておくように」

「わかりました」

「さて、全員の改革を受け入れてもらえたことでこれから練習本番だ! 練習試合で勝つ為に君達にはギリギリを攻めさせてもらう。ケガせず効率的にだ!」


 コーチの言葉に緊張が走る。

 

「とはいえ、今日は色々あった。体を鍛えるよりも新しいトイに慣れるための練習を徹底的に行う! つまり頭の訓練だ!」

「え?」


 そうしてちょっと肩透かし感はあったけどひたすらに新たなトイに慣れる練習になった。

 向日葵ちゃんはひたすらに的当て、菫ちゃんもハンドガンの練習。

 私はシールドの使い方を改めて学ぶことから始まって、セイラちゃんにも使い方を教えてもらったけど、どうやら今まで感覚的になんとなくで使ってたみたいでコーチに教えてもらうことが本当に多くて私達は驚くことが多かった。

 シールドは壁を形成した状態でバトル開始できないこと、形成したまま動き回ると強度が落ちること、爆発系には弱いということ。必要かわからないけどシールドを腕から素早く取り外す練習もさせられた。

 続いてはシールドの設定。これは手甲にあるメモリーチップをPCに入れて行えるみたいで障壁の色や形や厚みも規定値内なら自由に調節が可能で、私のワガママを全部叶えてくれたシールドを設定してもらえた。

 セイラちゃんもこれを知っていればもっと動きが違っていたと思うと申し訳なく思っちゃう。

 そして、部活が終わると皆に共通して言われたのが自主練の禁止──

 しっかり休むのも大事な練習と言われて。

 もちろん反論もしたけど「疲労が抜けきってない状態で練習しても身に付かない」って言い切られて念入りに休息の重要を教えられた睡眠時間も八時間近くは取るように言われて皆も文句が出た。

 だって、部活終わって帰って宿題して色々やってたらそんな時間を取れるわけがない。

 って思っていたのにベッドに寝転がって天井を見ている。


「はぁ~……疲れたぁ……」


 いつもだったら動画みたり本を読んだりしてるけど疲れが良い感じに「おいでおいで~」って睡魔を呼んでる。

 コーチに休息しろって言われてなかったら多分こんな状態でも外で走っていたかもしれない。のんびりしてもいい正当な理由があるから焦りみたいなのが引いていく。

 でも「身体を動かしたいなら代わりに頭を動かすように」ということでこのアプリを渡された。

 ワープリのルールを改めて理解したり、立ち位置や状況において最適な行動の選択。トイ毎の性能。なんとなくで覚えていたことを確実にする勉強みたい。

 あぁ~疲れた身体にこういう勉強をすると本当に眠くなるぅ~

 そういえば帰り際にワープリの戦術動画を上げている人は沢山いるって言ってたなぁ。

 再生数は少なくても為になることを紹介している人は多いから、暇な時に戦術や思考の幅を広めるきっかけになるって。

 あぁ~でも、検索ワードを打ち込むのも面倒だぁ……眠いから寝よ! しっかり休むのも練習練習!

本作を読んでいただきありがとうございます!

「続きが気になる」「興味を惹かれた」と思われたら


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