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第1章 婚約解消

今年最初の投稿です。

短編予定が長くなり連載形式になったので、一章ごとの長さが大分違いますが、五章まである話で、完結しています。


 カワセミの雄が魚を雌に口渡ししてプロポーズをした。

 私はその光景を目にして心奪われた。なんて美しいのだろう。

 

「綺麗……」

 

 私が思わず呟くと、

 

「ああ、そうだね。まるで一枚の絵のようだ」

 

「澄んだ癒やしのメロディーが聞こえてきそうだわ」

 

「見られてラッキーだったな」

 

 と、隣から次々と声が上がった。

 

 あのとき、四人は同じ風景を見ていた。でも、感じたことはそれぞれ違っていた。

 それは当たり前のことだったのに、その事実に気付いたのは、ずいぶんと後になってからだった。

 

 

 

 ✽✽✽✽✽

 

 

 

 私の名前はキャスティー=メイヤール。十七歳。伯爵家の長女だ。一年前までは跡取り娘だったが、弟が生まれたので今はどこかへ嫁がなければならない身となった。

 

 一応高位貴族の令嬢なので、私にも人並みに婚約者はいたのだが、その婚約者は婿養子に入る条件だったので、当然その婚約は解消となった。

 その元婚約者のギルメン伯爵家の三男には大変申し訳なく思ってい……ない。

 なぜなら、以前は大変仲が良かった私達だが、学園に入学してからはろくに口もきかない間柄になっていたからだ。

 そして伯爵家だって、変わり者の三男が大器晩成型だったと気付いて、やはりこの婚約話を受けるのではなかった、婿に出す約束などしなければよかったと大層ぼやいていたみたいだし。

 

 

「キティー、それで卒業パーティーのパートナーはどうするつもり?」

 

 幼なじみで親友のマリアンが、学園の女子寮の食堂でサーモンのソテーを食べながら訊いてきた。

 ちなみに三人の幼なじみだけは私をキティーという愛称で呼んでくれている。

 

「どうもこうも一人で参加するしかないわ。パーティーになんて出たくもないけど、逃げたと思われるのも癪だし」

 

 私は好物のきのこシチューを食べながら答えた。

 一年近く前、私は幼なじみであるヒューリーと婚約を解消したので、パートナーになってくれる相手などいるはずもない。

 同級生のほとんどがすでにパートナーを決めてしまっているし。まあ、後輩にお願いすればなんとかなるかもしれないけれど、無理強いするのも気が引ける。

 同じ年代の従兄は何人かいるが、子供の頃に虐められていたので頼むつもりはない。向こうも嫌だろうし。ネクラで変わり者の私のパートナーをするなんて。

 

「ケイン様を譲ってもいいわよ。私は兄に頼むから」

 

 ケイン様は一つ年上の私達の幼なじみでマリアンの恋人でもある。


「貴女、お兄様に嫌われているのではなかった?」

 

「近ごろそうでもないわ。兄の結婚式に一曲歌ってあげたら凄く感謝されて、それ以来関係が変わったの。調子いいったらありゃしないわ」

 

 マリアンは半年前の人気のオペラで、急遽準主役の代理を務めてから一躍有名になり、今では女性王族の皆様のお気に入りの歌手となっていた。そして学生でありながら時々舞台にも上がっている。

 そんな彼女は先月、兄から自分の結婚式で歌を歌って欲しいと懇願された。彼女がオペラの中で歌った『祝福の歌』という楽曲で、最近結婚式でよく歌われるらしい。

 しかし、もちろん彼女は速攻それを断った。

 当然だろう。幼いころから自分を貶し馬鹿にしてきた兄のために、よりにもよって『祝福の歌』など歌いたくはないだろうから。呪いの歌ならいざ知らず。

 

「お前が歌ってくれると彼女と約束してしまった。今さらそれがなくなったと言ったら、なぜだと疑問に思われるだろう?」

 

「正直にお話しになったらいいではないですか。自分は子供のころから虐めてきた妹に嫌われているのだと」

 

「そんなこと言えるわけがないじゃないか」

 

「そうですか。それなら妹は用事ができたから結婚式に参加できなくなった、とでも言えばいいのではないですか?」

 

「兄の結婚式に出ないつもりなのか! 第二王子殿下も出席してくださるのだぞ」

 

「僕はお前みたいに変わり者で能無しの女を自分の妹とは認めない。だから将来結婚式にはお前を呼ばない。昔から私はお兄様にこう言われ続けてきました。それなのになぜ私が出席すると思うのですか?」

 

「あんなの本気じゃない。冗談に決まっているじゃないか。真に受ける方がどうかしている」

 

「私の方がおかしいのですか?」

 

「いや、ち、違う。わ、悪かった。本当に悪気はなかったのだ。令嬢だというのにいつも大きな声で変な歌ばかり歌っていたから、おかしなやつだとからかっていただけなんだ。

 大体こんな不粋な自分の妹が、こんなにも詩や音楽の才能を持っているだなんて普通思うわけないだろう? なあ、どうしたら許してくれるんだ」

 

「何を言っても何をしても許しません。ただし、家族の前でこれまで私にしてきたことを全て話して私に土下座して謝ったら、歌手としてなら参加して歌ってあげてもいいですよ。もちろん出演料は頂きますけれど」

 

 

 マリアンが兄と交わしたという会話の内容を聞いたとき、私は喫驚した。そしてそんなことを言って兄上の恨みを買ったら、今後何をされるかわかないと心配になった。

 しかし、その心配はいらなかったらしい。

 

「目の前であのマリアン=バルク嬢が『祝福の歌』で祝福してくれたのよ。本当に夢のようだわ! 最高の結婚式だったわね、ありがとう。愛しているわ」

 

 披露宴後に、感激した花嫁に抱きつかれてキスをされた次期バルク伯爵はたいそうご満悦で、妹に深く感謝したらしい。

 自分のプライドよりも妻に対する愛情の方が大切らしい。そんな愛が重いところは兄妹でよく似ていると思った。

 まあ顔だってよく似ている。それなのに、なぜ彼があんなに意地悪ばかりしていたのかは謎だ。

 

「いくらしっぺがえしができてスッキリしたとはいえ、大切な卒業パーティーであのお兄様にエスコートしてもらうのは嫌でしょ。気持ちだけありがたく受け取るわ。

 それに卒業したらすぐにケイン様との婚約発表をするのでしょ? それなのに卒業式に彼が私のパートナーを務めたりしたら、それこそ社交界で何を言われるかわからないわよ」

 

「今さら何を言われても気にしないわ。どうせ、結婚したら私達は平民になるのだから」


 私達の今の身分は貴族だが四人とも跡取りではないので、嫡男や嫡女と結婚しなければ平民になるのだ。


「それにあなたとヒューリーとの婚約が解消された後、次の婚約者はケイン様だって散々噂になっていたじゃないの」

 

「ごめんなさい。マリアンに嫌な思いをさせて。ただの幼なじみだといくら言っても信じてもらえなくて」

 

「真実なんてどうでもいいのよ。みんな私達四人に嫉妬して、面白おかしく作り話をして盛り上がっているだけなのだから」

 

 たしかに。

 学園に入学したころは変人四人組だと揶揄されて遠巻きにされ、なんだかんだと悪口を言われ、からかわれ虐められてきた私達。

 ところが少しすると、私達は生徒達から羨望の眼差しを向けられるようになった。

 

 マリアンは国民的美人歌手として。

 ケイン様は数々の国際的絵画コンクールで入賞している、若手イケメン画家として。

 私の元婚約者のヒューリーは新種の鳥を次々と発見して、世界的鳥類研究所や大国の大学から誘われている有望な学者の卵として。

 そして私は最年少の第一級魔術師の試験の合格者として。

 

 自分達がしてきたことも忘れて、多くの人間が私達に厚かましくも擦り寄ってきた。

 あまりにも露骨な手のひら返しにあ然として彼らを無視していたら、近ごろでは私達は再び悪く言われている。今度は陰口だけだけれど。

 

「どうせならもっと早くに婚約解消していれば、今ごろ別の婚約者がいたかもしれないのに」

 

 マリアンは不満そうな顔をして言った。それは誰に対しての不満なのかしら?

 あの名目上の父親であるメイヤール伯爵に?

 それとも学園に入学してからというもの、私を無視して好きなフィールドワークに夢中になっていたヒューリーのことかしら?

 うーん。あんなに蔑ろにされていたのに、文句一つ言わずに自ら婚約破棄しなかった私に対してかしら?

 でも、ヒューリーは何も悪くない。

 マリアンはヒューリーが私を蔑ろにしたというけれど、私だって通常の授業に加えて魔法学の特別授業を受けていたためにかなり忙しい生活を送っていた。だから彼に寄り添う時間なんてほとんど持てなかったのだから。

 そもそも彼があんなにも生物学、特に鳥類研究に熱中していたのは、卒業をしたら私と結婚して婿入りをし、領地経営に専念するために好きな学問ができなくなるからだったと思う。

 学生時代だけ許される自由。どうしてそれを責められるだろうか。

 それに、もっと早く私が婚約を解消していれば、彼は無駄なことに煩わされることもなく研究に集中できたのだと思うと、今となっては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 二年前に義母の妊娠がわかった時点で私の方から婚約解消を言い出すべきだったのだと思う。

 生まれて来るのがたとえ妹だったとしても、私を毛嫌いしている父親が、その子を後継者にしようとするのは目に見えていたのだから。

 

 

 でも、私はヒューリーの婚約者でいたかった。彼の特別でいたかった。愛している彼の側にずっといたかったのだ。

 自分がこんなに我儘で自分本位な人間だなんて思ってもいなかった。

 

 幼なじみの三人は私のことを、家族からずっと虐待されてきた哀れで可哀想な、守ってやらなければならない弱い存在だと思っていたのだろう。

 そしてそれは、私が魔術師としての力を発揮するようになってからも変わらなかったに違いない。どんなに魔術師の教師が私の能力を褒めていたとしても、それを実際に目にしていたわけじゃないのだから。

 今の私は一般的な魔物なら簡単に倒せるレベルになっている。しかし、魔術師は緊急事態でもなければ、人前では魔法を使ってはいけないことになっているのでそれを証明できなかった。

 

 私が操る魔法なんて、ただ水を自由に扱うだけの、そんなマジックに毛が生えた程度のものだと思っているのかもしれない。


 本来彼らにとって私は、単なる保護すべき幼なじみに過ぎなかったのに、ヒューリーとケイン様は好きなのだと思い込んでしまった。

 そして、マリアンはケイン様を好きなのに、そんな自分の思いに気付かない振りをしていたのだと思う。

 私は精神的に幼くて、彼らのそんな心の機微にずっと気付けなかった。いや、マリアンとケイン様の気持ちには気づいていた。しかし、自分の存在が二人の邪魔になっていることには気付いていなかったのだ。

 だから私がヒューリーとの婚約を解消した後で、ケイン様から好きだと告白されたときには本当に驚いたのだ。

 

 ケイン様は私をずっと自分が守ってやらなければいけないと思っていたのだと言った。

 それなのに、かつて私が実家に閉じ込められて暴行を受けていたとき、助け出せなかったことに負い目を感じていたようだった。

 彼は優しくて純粋過ぎる。彼が責任を感じることなんて何一つない。あのとき、ケイン様だってまだ十歳にもならない子供だったのだから。

 

「ケイン様、あなたは幼い頃から私のことを好きだったと言うけれど、それは違うと思います。

 ケイン様の目はいつだって無意識にマリアンを追っていたもの。マリアンだってそうです。

 二人は一見すると陰と陽に見えるけれど、感性はよく似ているわ」

 

「似ている? 僕とマリアンが?」

 

 今度はケイン様が喫驚した。

 

「三年前に四人で山奥の湖に行ったときのことを覚えていますか? バイトン侯爵様の領地の」

 

 私がこう訊ねると、もちろんだと彼は答えた。

 

「忘れるわけないよ。あの素晴らしい風景を忘れたくなくて、絵にしたくらいだから」

 

「そしてその絵であなたはあの有名な絵画コンクールで大賞を取ったのですよね?」

 

「そうだ。あの絵のおかげで今がある。僕を見下していた家族から離れて、平民として生きて行くことができるようになったのだから」

 

 平民にはなったが、それなりの暮らしはできる。君には苦労はかけないとケイン様は言った。彼は私が貴族でいることに拘ってはいないことを知っているし、平民として暮らせることも知っていた。

 でも、彼が本当は誰を求めているかを知っていたから、私はそれには応じられなかった。

 

「マリアンが学園の音楽コンクールで優勝した歌を覚えていますか?」

 

「もちろん覚えているよ。彼女の歌声は素晴らしかった。そしてその歌の歌詞と曲も最高だったよね。ジンと心に響いたし共感したよ」

 

 私が突然話を変えたことに少し驚きながらも、ケイン様はそう答えた。

 

「ええ。本当に素晴らしかったわ。あの歌はね、彼女が作詞作曲した歌だったの。あの湖の風景を思い出しながら作ったのよ。

 その歌にあなたは共感したのよ。それは二人が同じ感性をしているから」

 

 ケイン様は大きく目を見開いた。そして少し間をおいてから、


「でもそれは君やヒューリーも同じだろう」


と呟いた。だから私は首を横に振った。

 確かにマリアンの歌やケイン様の絵には感動して心が震えた。けれどヒューリーと私が感銘を受けたポイントは、彼ら二人とはそれぞれ違うのだ。

 

 ケインとマリアンはあの湖周辺全体の調和した美しさに感動した。

 しかし、ヒューリーはその中でも湖の浅瀬にいた二羽のカワセミを見て美しいと呟いたのだ。

 鮮やかな青い色と華やかなオレンジ色の体、そして細長い嘴を持つ小さな鳥達に。

 そして私はというと、雄のカワセミの求愛行動を見て美しいと言ったのだ。

 

 カワセミの雄は自分で取った餌を雌に贈ることでプロポーズする。

 生き物にとって餌を獲得する行為は、生きる上で何より大切でかつ大変なことだ。それなのにカワセミの雄は、自分の命を繋げるその大切な餌を捧げてまでも雌と番になりたいと願うのだ。こんなに素晴らしい求愛ってないわ、と私は思った。

 ヒューリーに逢う度に彼から色々な生き物の話を聞かされていた私。その中でも一番感動したのがカワセミのプロポーズだった。

 家族や親類や使用人達にその存在を否定され続けていた幼い私には、自分の身を呈してまで守ってくれる人間なんていなかった。そしてこの先もそんな人物が現れることはないだろうと思っていた。そもそも自己を犠牲にしてまで他者を愛する生き物など存在するわけがないと思っていたくらいだ。

 だから彼からカワセミの話を聞いたときも、感動しながらもそんなことは人間の作り話に決まっていると思ったのものだ。

 それなのに、その行為を偶然にも実際に目にしたのだ。

 

 雀くらいの大きさの二羽の小鳥。でも色鮮やかな体に太陽の光が当たって、青い宝石のように輝いて本当に綺麗だった。

 どうか彼からのプロポーズを受け入れて!

 私は両手を組んで祈った。

 やがて雄が黒い嘴でピクピク動く小魚を差し出すと、雌のカワセミは下だけ真っ赤なルージュを引いたような嘴でそれを咥えた。

 雌が雄の求愛を受け入れたのだ。良かったと思った瞬間に、隣にいたヒューリーも呟いた。

 

「良かったな」

 

 と。その言葉を聞けて私は嬉しかった。同じものを見て、同じように感動できたのだと。

 でも本当は違っていた。ヒューリーはカワセミのカップルを研究の対象として見ていただけだ。それに対して私は、彼らに自分達を投影して見ていたのだ。

 ヒューリーもあの雄のカワセミと同じく自分の大切なものを諦めて私と婚約してくれたから。でも。好きな人を犠牲にしてまで自分だけ幸せになろうとした私は本当に醜悪だった。あの美しい雌のカワセミとは大違いだ。

 だから彼から婚約解消をあっさり承諾され、膨大な慰謝料を請求されたのも当然だったのだ。

 彼の幸せは私と共にいることではない。

 でも、ケインとマリアンは違う。二人は一緒にいて共感し合っているのだから。

 私がそうケインに話した数日後、彼から結婚を前提にして付き合って欲しいと言われた、とマリアンから報告された。

 私が辛いときにごめんねと謝られたが、親友二人が幸せになるのだ。こんな嬉しいことはないと彼女に言った。それは嘘偽りなく本心からの言葉だった。

 

 

 だから、卒業パーティーでケイン様を貸してくれると言われても、はい、お願いしますと言うわけがない。

 私は幸せな二人のダンスを見たいのだから。

 そしてそもそも私は、ヒューリー以外の男性をパートナーにするつもりなんてないのだ。卒業パーティーだけでなく、これからの人生においても。

 

「そろそろヒューリーを無視するのをやめてね。マリアンだって本当はわかっているのでしょう? 彼が悪くないってことくらい。 

 それに学園に入学してから彼が私を蔑ろにしていたと思っているみたいだけど、そんなことはないのよ。

 彼は昔と同じよ。見ていないようで、いつも私を気にかけてくれて行動してくれていたわ」

 

 私の言葉にマリアンは気まずそうな顔をした。彼女もケイン様同様にもう十年近く前のことに罪悪感を持っているのだ。

 家族から虐待されて屋敷に閉じ込められていた私を救い出してくれたのがヒューリーだけだったことに。

 何度もマリアンのせいじゃないと言っているのに。でもとりあえずそれはスルーしてこう言葉を続けた。

 

「入学したころ、私が義理の妹のセリナを虐めて手に火傷を負わせたというデマが流れて、私が周りから悪女だと言われたことがあったでしょう?」

 

「ええ。全くの出鱈目。というか、加害者と被害者が逆だっていうのに、全く腹立たしかったわ。

 濡れ衣だって、私とケイン様がいくら訴えても、仲間同士だから庇っているのだろうと信じてもらえなくて。

 まあ、結局彼女自身がそれを否定して、誤って暖炉の前で転んだときに火傷を負ったのだと言ったから、その噂は自然に消えて良かったけれど、ヒューリーは何も庇わなかったわ。婚約者だっていうのに」

 

 当時のことを思い出したのか、マリアンは憤慨しながら言った。今さらだけれど、私はずっとマリアン達に庇ってもらっていたのだわと、しみじみ感謝しながらもこう言葉を続けた。

 

「あのときも二人には本当に助けられたわよね。白い目で見られる私を守ってくれて。

 でもね、ヒューリーも陰でちゃんと私を守ってくれていたのよ」

 

「えっ?」

 

 マリアンが意外そうな顔をした。

 

「セリナが火傷の原因を自分の不注意だと言ったのはね、ヒューリーから脅されたからなの。

 そう言わないと、なぜ火傷を負ったか、その本当の理由をみんなの前で暴露するぞって。

 それを聞いたセリナは真っ青になったらしいわ。だってバラされたら、彼女はみっともなくて人前には出られなくなって、結婚相手を見つけられなくなるもの。

 あの後、彼女はすぐに王立女子学院へ転校したでしょ。あれってヒューリーが怖かったせいみたい」

 

 これまで私は、実家にいたころの話をそれほど詳しくマリアンとケイン様には話してこなかった。セリナの火傷の話はしていたけれど。

 詳しく話さずとも大体のことは把握してくれていると思っていたし、これ以上彼らに気分の悪くなるような話をしたくはなかった。ただでさえ彼女達も自分達の家庭では嫌な思いを散々してきたのだから。

 そう。婚約者のヒューリーだけに全てを伝えていたのだ。彼には私の全てを知っていて欲しかったから。

 

 その後、私が自分の生い立ちを改めて語ると、マリアンは喫驚していた。そして、こう言ったのだった。

 

「私、ヒューリーのことを誤解していたみたいね。まさか陰でそんな男前なことをしていたなんて気付かなかったわ。

 短期留学から帰国したら、また大切な幼なじみとして接するし、立派な学者様になれるように微力ながら応援するわ」

 

 と。

 

 読んでくださってありがとうございました。

 続きも読んでもらえると嬉しいです。

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