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三国志演義

三国志演義・延津の戦い~河北双星落【後編】~

作者: 霧夜シオン

はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。


三国志演義・延津えんしんの戦い~河北双星落かほくそうせいらく【後編】~


作者:霧夜シオン


所要時間:約30分


必要演者数:10人

     (9:1)

     (10:0)




はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。




●登場人物


関羽かんう・♂:あざな雲長うんちょう

     劉備りゅうび張飛ちょうひと義兄弟のちぎりを結び、乱世を正そうと立上がる。

     現在は曹操そうそうに敗れ、3つの条件を呑んでもらう事で彼の元に

     留まっている。智勇に優れ、重さ八十二斤の青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを自在

     に操る。

     腹まで垂れる立派な顎髭あごひげを持ち、時の皇帝の献帝けんていに拝謁した際

     に美髯公びぜんこうとあだ名される。


曹操そうそう・♂:あざな孟徳もうとく

     漢王朝の宰相さいしょう曹参そうしんの末裔を称する。現王朝の司空しくうの位につい

     て、自らの理想とする世を築くべく、皇帝をも大義名分として

     利用する。人材収集癖があり、有能な人材を愛する事、女性を

     愛するかの如くである。

     現在は敵である劉備りゅうびの義弟、関羽かんうに惚れ込んで自分の手元に

     置いている。

     政治、軍事、文化全ての分野に名を残す”破格の英雄”。




劉備りゅうび・♂:あざな玄徳げんとく

     中山靖王ちゅうざんせいおう劉勝りゅうしょう末孫まっそんにして漢の景帝けいてい玄孫げんそんを自称。

     治めていた徐州じょしゅうの地を曹操そうそうに追われ、河北かほくの雄・袁紹えんしょうの元に

     家族や義兄、弟、家臣たちの身を案じながらも身を寄せている

     。


袁紹えんしょう・♂:あざな本初ほんしょ

     漢王朝の最高の役職である三公(大尉たいい司徒しと司空しくう)を

     一族から代々輩出している、名門中の名門の末裔。

     優柔不断な所もあるが、基本的には優れた人物である。

     現在は河北かほく青州せいしゅう幽州ゆうしゅう冀州きしゅう、ヘイ州)を手中に収めており

     、最も天下に近いと言われる存在。


文醜ぶんしゅう・♂:あざなは伝わっていない。

     顔良がんりょうの弟。兄と並んで河北かほくの武のかなめを担う二枚看板で、

     兄の死後、袁紹えんしょう軍の先鋒となり攻め寄せる。

     しかし、曹操そうそうの策にかかった所を関羽かんうに斬られ、

     兄の後を追う事となる。


徐晃じょこう・♂:あざな公明こうめい

     元は曹操そうそうと敵対する勢力の配下の勇将だったが、同郷の者であ

     る満寵まんちょうという人物に説得され、曹操そうそうに帰順する。

     大斧を操り、智勇に優れている人物。


張遼ちょうりょう・♂:あざな文遠ぶんえん

     丁原ていげん董卓とうたく呂布りょふと次々と自らの意思とは裏腹に主を変えざるを

     得なかったが、ついに生涯の主君である曹操そうそうと出会い、忠誠を

     誓う。関羽かんうとも親交があり、徐州じょしゅう陥落の際の関羽かんうの降伏に一役

     買っている。

     後に合肥がっぴを守り、呉の大軍をわずか八百の兵で退け、泣く子も

     黙るとして大いにその勇名を馳せる。


荀攸じゅんゆう・♂:あざな公達こうたつ

     荀彧じゅんいくの叔父にあたる人物。

     参謀筆頭の地位にあり、的確な助言と戦略で曹操そうそうを支える。


沮授そじゅ・♂:あざなは伝わっていない。

     韓馥かんふく、のち袁紹えんしょうに仕え、田豊でんぽうと並んでいにしえの名参謀、張良ちょうりょう

     ・陳平ちんぺいに匹敵する知謀を持つと評された。

     しかしその意見の多くは袁紹えんしょうに用いられず、今回の戦いでも

     幾度となく献策するが全て退けられている不遇な人物。


ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。


曹操そうそう軍兵士1・♂♀不問


曹操そうそう軍兵士2・♂♀不問


袁紹えんしょう軍部将1・♂♀不問


袁紹えんしょう軍部将2・♂♀不問


・キャスト例

関羽:

曹操:

劉備・曹操軍兵士1:

袁紹:

文醜:

徐晃・袁紹軍部将2:

張遼:

荀攸・袁紹軍部将1:

沮授・曹操軍兵士2:

ナレ:





―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:顔良がんりょうが斬られた。

   弟の文醜ぶんしゅうと並んで河北かほく第一の猛将と称された彼のあっけない最期は

   、袁紹えんしょう軍に少なからず動揺を走らせる。

   逃げ帰ってきた兵から顔良がんりょうの戦死を聞いた袁紹えんしょうは、

まだその事を信じられずにいた。


袁紹:ば、バカな! 顔良がんりょうが討たれただと!?

   あれほどの豪傑をたやすく討てる敵など、そうあるはずがあるまい

   !


沮授:顔良がんりょう将軍を討ったのは、あかがおに腹まで伸びた顎鬚あごひげを持つ偉丈夫いじょうふ

   との事。

   これは劉備りゅうびの義弟、関羽かんうが持つ特徴です。

   関羽かんうならば顔良がんりょう将軍が斬られたのも納得がいきます。


袁紹:そんなはずはないだろう。

   いま劉備りゅうびは、わしに保護されている身ではないか。

   ここへも従軍しているのだぞ。


沮授:では、顔良がんりょうに従って出陣していた兵から聞き取りしてみては…。


袁紹:そうだな。

   よし、ここへ連れて参れ。


ナレ:前線から敗走してきた兵から詳細を聞いた袁紹えんしょう

   やはり顔良がんりょうを討ったのは関羽かんうであるという事実に接して彼の感情は

   ついに爆発、劉備りゅうびを捕らえてこさせた。


袁紹:おのれ劉備りゅうび、どういうつもりか!

   よくも曹操そうそうに内応し、我が軍の大事な将を義弟の関羽かんうに討たせおっ

   たな!!

   顔良がんりょうの霊を慰める為になんじの首をはねて祭ってくれるわ!

   者ども、こやつを斬れッ!


劉備:お待ちください!

   常に思慮深い袁紹えんしょう殿が、どうして今日は激怒なされているのですか

   !?

   曹操そうそうは常にわたくしを殺そうとしております。

   どうしてそんな曹操そうそうを助けて、恩人である袁紹えんしょう殿に不利になるよう

   な事をする必要がありましょうか。


袁紹:むむむ……確かに、そうかもしれぬが…。


劉備:それにあかがおひげの長い将だったという事ですが、曹操そうそう奇策きさくを用

   いる人物です。

   背丈格好せたけかっこうの似た者を探して関羽かんうだと言わせることなど、雑作ぞうさもない

   はず。

   兵士の証言のみを信じてわたくしを殺さんとするのは、

   ご短慮ではありませぬか?


袁紹:むうう…。

   確かに曹操そうそうならばそういう策を用いる事も考えられるか…。


劉備:それに徐州じょしゅう陥落かんらく後、袁紹えんしょう殿に庇護ひごをいただいてから今日まで、

   関羽かんうはおろか、家族とも連絡がとれません。

   わたくしの日常は、常に袁紹えんしょう殿もご覧になられているはずではござ

   いませぬか?


袁紹:なるほど…いや、聞けば確かにもっともなことだ。

   沮授そじゅ、そちがよくないぞ!

   危うく味方の戦力をさらにがれるところであったわ!

   劉備りゅうび殿に謝罪せい!


沮授:は、はっ…、劉備りゅうび殿、申し訳ござらぬ。

   この通りです。


劉備:いえ、曹操そうそうは恐るべき戦略家。

   このような事は十分あり得る事です。

   わたくしは気にしておりませぬ。


袁紹:よし、まずは顔良がんりょう威侯いこうおくりなする!

   散った勇将をたたえあげるのだ!

   そして文醜ぶんしゅう


文醜:はっ、おんまえに。


袁紹:兄と共に我が軍の武のかなめたる者として、顔良がんりょうの死はいかなるもの

   かべい!


文醜:御意ぎょい

   顔良がんりょうの死は、我が軍の武威ぶいをいささかもそこなうものではござらぬ!

   最大の武力と軍略・装備を有する我が軍においては、

   顔良がんりょうと言えどもただ一人の将の死!

   何の問題もございませぬ!


袁紹:その通りだ、文醜ぶんしゅう

   そちに精兵せいへい十万を与える!

   黄河を渡河とか後、すみやかに敵の死守する白馬はくば城を落とすのだ!


文醜:御意ぎょいッ!!

   兄顔良あにがんりょう敗死はいしの汚名、見事みごとそそいでご覧にいれます!


沮授:も、申し上げます!


袁紹:どうした、沮授そじゅ


沮授:先ほど入った情報によれば、白馬はくばの渡しは我が軍の兵の死骸で埋め

   尽くされ、当分使い物にはならぬ様子です!


袁紹:なっ、なんだとォ…!


沮授:さらに、曹操そうそうはこの白馬はくば方面から陣払じんばらいしたとの事です!


袁紹:くっ、この方面からの進撃はしばらく無いと計算してのことか!

   おのれ…ならば、別方面から渡河とかするしかあるまい!


沮授:では、延津えんしん方面から渡河とかしてはいかがでしょう。

   地理的にもちょうど良いかと。


袁紹:うむ、そうだな。

   すぐに行動に移れ!!


ナレ:袁紹えんしょう軍は緒戦ちょせんの不利を挽回ばんかいするため、今度は顔良がんりょうの弟・文醜ぶんしゅうに十万

   の大軍を与えて延津えんしんから黄河を渡河とか

   一方、曹操そうそう袁紹えんしょう軍が再び黄河を渡り、文醜ぶんしゅう先鋒せんぽうに立てて進撃し

   てきた事を許昌きょしょうで知る。


荀攸:申し上げます、司空しくう閣下。

   袁紹えんしょう軍が延津えんしんに現れました。

   今度の大将は文醜ぶんしゅうとの事です。


曹操:先の顔良がんりょうと並んで河北かほくの武の双璧そうへきをなしている文醜ぶんしゅうか。

   公達こうたつ文醜ぶんしゅうとはいかなる将か?


荀攸:はっ、その武勇は兄の顔良がんりょう以上とも言われ、北方の異民族の騎馬兵

   を配下として自在に使いこなしております。


曹操:騎馬隊か…厄介やっかいな存在だな。


荀攸:しかし、どちらかと言えば猪突猛進ちょとつもうしんの気があり、

   罠には掛けやすいかと。


曹操:ふうむ…よし、ならば兵糧輸送隊ひょうろうゆそうたいを先頭に進ませろ。

   他の歩兵、騎馬兵は後から付いて行くのだ。


張遼:なっ…司空しくう閣下、それでは戦闘能力を持たない輸送部隊は真っ先に

   たたかれますぞ!


曹操:良いのだ! とにかく命じた通りにせい!


荀攸:! そうか…!

   張遼ちょうりょう殿、司空しくう閣下には十分に勝算しょうさんあってのこと、

   そのとおりになされよ。


張遼:は、ははっ…では、そう伝えて参ります。


曹操:あっ、まて、張遼ちょうりょう。それと共に、関羽かんうにこれを届けよ。


張遼:? 関羽かんう殿に…ですか。


曹操:うむ。

   さきの顔良がんりょうを討った功績に対し、寿亭侯じゅていこうの位を与えようと思ってな。

   すでにみかどには上奏じょうそうし、許可を得ておったのだ。


荀攸:閣下…あまり関羽かんう殿への寵愛ちょうあいの度が過ぎますと、他の将によくあり

   ませぬぞ。


曹操:ははは、言うな公達こうたつ。わかっておる。

   つい先ほど印綬いんじゅが出来上がったゆえ、それをつかわす役目をそちに

   頼みたい。


張遼:承知しました、ただちに。


   【二拍】


   司空しくう閣下の関羽かんう殿に対する寵愛ちょうあい、日に日にあつくなるばかりだ…。

   何としても手放すまいとする決意を感じる。

   それがしもそうまで想われてみたいものよ……。

   …関羽かんう殿はおられるか!


関羽:これは張遼ちょうりょう殿、どうされた?


張遼:実は司空しくう閣下の使者としてまかり越した。

   先ほどの白馬はくばの戦いで顔良がんりょうを討ち取った功績をたたえ、

   関羽かんう殿に寿亭侯じゅていこうくらいを与えるとおおせられた。


関羽:ほう…寿亭侯じゅていこうくらいをと。


張遼:うむ。

   これが印綬いんじゅでござる。さあ、受け取られよ。


関羽:………。

   これは……、受け取れませぬな。


張遼:!? な、なぜでござる?


関羽:……おこころざしはかたじけのう存ずるが…。

   どうか、お持ち帰りくだされ。


張遼:(印綬いんじゅをじっと見ている…いったい、何が…?)

   いや、しかしどうして…。


関羽:ともあれ、これはお受けできませぬ。


張遼:…承知した。

   では、失礼する。


関羽:……。


   【つぶやくように】


   曹操そうそう殿、分かっておられぬな。

   それがしはあくまで、漢王朝かんおうちょうの臣下なのだ…。   


ナレ:どう説得しても関羽かんう印綬いんじゅを受け取らなかった。

   やむなく張遼ちょうりょうはそのまま立ち帰ると、曹操そうそうにありのまま報告した。


曹操:なに、受け取らなかったと?


張遼:はい、がんとして受け取るのをこばんで…

   それゆえ、やむなくこうして持ち帰った次第です。


曹操:ふうむ……張遼ちょうりょう関羽かんう印綬いんじゅを見てから断ったか、

   それとも見ぬうちに断ったか?


張遼:…そういえば、寿亭侯之印じゅていこうのいん、の五文字をじっと見ておりました。


曹操:そうか…うかつであったわ。これは失策しっさくだ。

   この印綬いんじゅに一文字足さねばなるまい。


張遼:一文字、でございますか?


曹操:うむ、「かん」の一文字をな。それならば関羽かんうも受け取るだろう。


張遼:はっ、ではただちに。


   ……たかが一文字足しただけで受け取るであろうか…?


ナレ:張遼ちょうりょうは、半信半疑ながらも一字彫り足して「漢寿亭侯之印かんのじゅていこうのいん」となっ

   た印綬いんじゅを携え、再び関羽かんうの元を訪れた。

   差し出された印綬いんじゅを一目見ると、関羽かんうは大きく笑った。


関羽:はっははは…司空しくう殿はそれがしの考えを実によく知っておられる。

   もし我ら兄弟と同じ思想であったなら、良い義兄弟になれたやもし

   れませぬな。

   では、ありがたく頂戴ちょうだいいたす。


張遼:これでそれがしも肩の荷が下りた。

   関羽かんう殿、すでに耳に入っているやも知れぬが、袁紹えんしょう軍が今度は延津えんしん

   から黄河を渡ってきた。


関羽:うむ、聞いておる。

   それがしが顔良がんりょうを討った事で、さらに本腰ほんごしを入れてきたと見える。


張遼:であろうな。

   それで司空しくう閣下が、再び軍に加わるようにとのことだ。


関羽:そうか。

   では共に参ろう、張遼ちょうりょう殿。


ナレ:風雲は急を告げる。

   延津えんしんに侵攻した袁紹えんしょう軍の文醜ぶんしゅうは、曹操そうそう軍がおかしな行軍こうぐん方法を取っ

   ているとの報告を受けると、声をあげて笑っていた。


文醜:何ィ? 曹操そうそう軍は輸送隊が先頭に立って進軍してくるだとォ!?

   わはははこれは愉快だ! 曹操そうそうも存外に兵法へいほうを知らんのだな!

   よォし者ども、突撃だ!!


   【喚声:SE代用可】


袁紹軍部将1:こいつは爽快だ! 蹴散らせェ!


袁紹軍部将2:こんな歯ごたえのない敵は初めてだ!


   【二拍】


張遼:く…やはりこうなったか…閣下はいったい何をお考えなのだ…。


徐晃:蹴散けちらされるままとは…これは何を狙っておられるのか…。


関羽:ふうむ…。

   【声を落として】

   まさかとは思うが…。


荀攸:いや、これでいいのだ!


徐晃:荀攸じゅんゆう殿…?


荀攸:実にいい! もっけの幸いだ!


曹操:【強めに】

   公達こうたつ

   ………ふっ……。


荀攸:うっ、も、申し訳ありませぬ、司空しくう閣下。


曹操:良い、さすが公達こうたつよな。

   見よ! 敵軍が伸びきって背後ががら空きになった。

   いかに十万の兵と言えどあれでは役に立たん!

   張遼ちょうりょう! そちは退却してきている軍に合流し、そのまま逃げるふり

   をして北から回り込め!


張遼:心得ました!!


曹操:徐晃じょこう! そちは張遼ちょうりょうと軍を二つに分け、その片方を率いよ!

   南から文醜ぶんしゅう軍の背後に回って潜むのだ!


徐晃:御意ぎょいッ!


曹操:関羽かんうは遊軍として、自在に動くのだ!


関羽:承知つかまつった。


曹操:両隊はが合図をするまで潜んだまま動くな!

   ゆけィッ!!


張遼&徐晃:ははッッ!!


ナレ:いつしか、徐々に日が落ちてきていた。

   文醜ぶんしゅうもさすがに深入りしたと思ったのか、戦場に広く散った軍の

   集結を命じていた。


文醜:よォし、戦果は十分にあげた!

   日も暮れてきている、これ以上深入りしてはならん!


袁紹軍部将1:文醜ぶんしゅう将軍、敵の捨てていった兵糧物資ひょうろうぶっしはいかがしましょう

       ?


文醜:そうだな、これほどの獲物えもののがしていく手もあるまい。

   鹵獲ろかくしたものはみな陣の後方に集めろ!


袁紹軍部将2:はっ! お前達、分捕ぶんどった物は全部こっちに運べ!


文醜:しかし曹操そうそう軍め、まったく逃げ足の速い奴だ。

   輸送隊を先頭に立てるなど、この文醜ぶんしゅうにはこよない贈り物であった

   わ!

   うわっはははは!!


   【二拍】


張遼:これは…文醜ぶんしゅう軍が輸送隊の捨てた物資をあばきあいはじめた…。

   そうか、そういう事であったか! さすがは司空しくう閣下…!


徐晃:閣下が狙っておられたのはこれだったのだな…!

   …合図はまだか…!


関羽:すでに顔良がんりょうを討ち取ってはいるが…もうひとつ恩を返しておかねば

   ならんな。


   【一拍】


荀攸:申し上げます!

   文醜ぶんしゅう軍がどうやら餌にかかったようです。

   見事みごとでございますな…!


曹操:ふふふ、の策に気づいておったそちも見事みごとであるぞ。

   しかし文醜ぶんしゅうもしょせん猪武者いのししむしゃであったな。


荀攸:はい。

   我が軍の張った網の中へわざわざ入ってくるとは、愚かな…!


曹操:よし、頃合ころあいだ。

   公達こうたつ! 合図を出せい!!


荀攸:ははっ!

   北と南に潜んだ伏兵に合図の狼煙のろしを上げよ!!


   【一拍】


張遼:!! あれは狼煙のろし…、合図だ!

   全軍、突撃準備!!


徐晃:来た! ようし者ども、よく耐えたな!

   合図が出た!これより袁紹えんしょう軍を皆殺しにする!


関羽:…まだだ、まだ動くな、赤兎せきと

   もう少し戦機を見極めるのだ…!


曹操:全軍、丘を下れ! 雑魚ざこ一尾いっぴ取り逃すな!!

   文醜ぶんしゅうを生け捕れ! 

   文醜ぶんしゅう河北かほくの名将、生ければ顔良がんりょうを討った功績にも匹敵ひってきするぞ!


張遼&徐晃:突撃ィィィーーーーー!!!


   【喚声:SE代用可】


文醜:!? な、なんだ、この喚声は!


袁紹軍部将1:文醜ぶんしゅう将軍! て、敵です! 曹操そうそう軍です!


袁紹軍部将2:し、四方から攻めてきます!

       我々はすでに包囲されていたようです!


文醜:おのれ、はかられたか!!

   だが何ほどの事があるか! 慌てずに蹴散らせィ!


袁紹軍部将1:くそっ、逃げるな! 戦え!!


袁紹軍部将2:うろたえるな! 隊列を組み直せ!!

       迎え撃てーー!


文醜:ちぃ…来いッ、相手してくれるわ!

   俺の矢を、受けてみろッ!


   【矢を放つSEあれば】


曹操軍兵士1:ぎゃっ!!


文醜:そらっ、もう一矢、くれてやるッ!


   【矢を放つSEあれば】


曹操軍兵士2:ぐえっ!


張遼:あれは…! 見つけたぞ文醜ぶんしゅう

   この張文遠ちょうぶんえんが相手する! 覚悟せよ!!


文醜:フン、なめるな!

   貴様にも矢を、くれてやるわ!


【矢を放つSEあれば】


張遼:くっ!!

   おのれェ!


文醜:甘いッ!


張遼:うっ、ぅぐッ!?

   ば、バカな…!!


徐晃:!? いかん、張遼ちょうりょう殿が!


ナレ:一の矢をかわしたと思って顔をあげた刹那せつな

   放たれた二の矢が張遼ちょうりょうの顔に命中する。

   落馬した張遼ちょうりょう文醜ぶんしゅう殺到さっとうし、抜き払った大剣を振り上げた。


文醜:その首、もらったァ!!


徐晃:【↑の語尾に喰い気味に】

   ぃぃやらせェェェェェんん!!

   ぬぅぅおおおお!!


   【得物がぶつかり合うSEあれば】


文醜:ッぬう! なに奴だ、邪魔するなッッ!


徐晃:曹司空そうしくう幕下ばっか徐公明じょこうめいだ!!


文醜:なにィ、徐晃じょこう!?

   ああ、兄顔良あにがんりょう蹴散けちらされた小僧か!!

   少しはいくされたか!?


徐晃:大言たいげんはあとで言えッ!!

   おおおッ!


文醜:ッなかなかやるではないか!

   この俺に斬られる資格はあるようだな!

   ふんッ!!


徐晃:言ったはずだ! なめるなァ!

   でぇぇいッ!!


文醜:だがこれならどうだ!

   おぉぉうッ!!


徐晃:顔良がんりょうと似たすじ…!

   そこだッ!


文醜:ッちぃっ! 小僧のくせに…!

   だが! おらあああッ!


徐晃:ッッぐう! やらせるかあああ!!


ナレ:老練ろうれん文醜ぶんしゅう血気けっき徐晃じょこう

   互いの武がぶつかり合う。大剣たいけん大斧だいふ数十合すうじゅうごうも火花をまじえたが、

   やがて徐晃じょこうも疲れ果て、文醜ぶんしゅうもやや乱れ出した。

   味方の多くが包囲されて敗走し、四方に敵が増えてくるのを察した

   文醜ぶんしゅうは、ついに勝負をあずける。


徐晃:はぁ、はぁ、ッ間合いを離してどういうつもりだ!

   かかってこい!


文醜:【つぶやくように】

   ち…味方があらかた蹴散けちらされている…。

   さすがにこれ以上はまずいか…。


徐晃:ッどうした文醜ぶんしゅう

   おくしたか!


文醜:ふん!

   日も暮れてきたわ…!

   徐晃じょこうとやら! 後日再戦ごじつさいせんだ!


徐晃:っま、待て!!

   …くそっ…金星きんぼしのがした…。


   【二拍】


文醜:味方を集めて態勢を整えねば…!


   【二拍】


   ん? あれは…敵か!


関羽:待てッ文醜ぶんしゅう! 貴公はそれがしが相手する!


文醜:相手にとって不足はなさそうだ。

   誰だ! 名を名乗れ!!


関羽:かん寿亭侯じゅていこう関羽雲長かんううんちょう

   敗将文醜はいしょうぶんしゅう、何を求めて戦場をさまよっているか!

   いさぎよくその首をそれがしにさずけよ!


文醜:関羽かんうだと!? 我が兄顔良あにがんりょうを討った男か!!

   ぬうう、生かしてはおかん!!

   おおおッ!!


関羽:むうッ!

   なるほど、兄よりも強そうだな。

   ふんッッ!!


文醜:っぐう!! お、重い…!

   だがッ! でええい!!


関羽:甘い! はああッ!!


文醜:ぬううう! さすがは関羽かんう、なんという奴だ…!

   だが、俺にも意地がある! どぉぉあッ!!


ナレ:文醜ぶんしゅうはここでも関羽かんうと火花を散らし、数十合すうじゅうごうの激闘を演じる。

   しかし先に徐晃じょこうやいばまじえていた為、疲労の差で文醜ぶんしゅうに不利な状況

   だった。


関羽:強いは強いが…まだそれがしの敵ではないな。

   はあああッ!!


文醜:っぐぐぐ! こ、これはいかん…!

   ならば…!

   ッ!


関羽:ぬっ、逃げるか! 待て文醜ぶんしゅう


文醜:…ふふふ、追ってきたな…。

   奥の手の矢でも、喰らえッ!


関羽:むうッ! なんだ、矢だと…!?


文醜:ちっ、外したか! 

   なら二の矢を、受けてみろッ!


関羽:またか! ッ!

   おのれ文醜ぶんしゅう小細工こざいくしたか!

   駆けよ、赤兎馬せきとばッ!!


文醜:くそっ、ええい、三の矢を――


関羽:【↑の語尾に喰い気味に】

    覚悟ォォォォォ文醜ぶんしゅうゥゥゥゥゥッッッ!!!


【重く斬り裂くSEあれば】


文醜:ぁ………が………ッ。


関羽:敵将文醜てきしょうぶんしゅう関雲長かんうんちょうが討ち取った!!


袁紹軍部将1:な、なんだと、文醜ぶんしゅう将軍が…!


袁紹軍部将2:い、いかん、退け、退けえええ!!


荀攸:! 司空しくう閣下! 関羽かんう文醜ぶんしゅうを討ったようです!


曹操:おお! さすがは関羽かんうよ!

   よし今だ! 袁紹えんしょう軍を黄河に追い落とせ! 皆殺しにせよ! 


【喚声:SE代用可】


ナレ:文醜ぶんしゅうも、兄顔良あにがんりょうと同じように一撃の下に斬り伏せられた。

   残された袁紹えんしょう軍の兵は逃げまどい、夜明けまでにそのほとんどが討た

   れるか、黄河に落ちておぼれ死に、壊滅状態となった。

   そのころ、文醜ぶんしゅう軍の後方で黄河の手前にとどまっていた劉備りゅうびの陣営で

   は。


袁紹軍部将1:も、申し上げます、劉備りゅうび殿!


劉備:うっ、そなたらは文醜ぶんしゅう殿の部隊の者ではないか!

   その姿はどうしたのだ!?


袁紹軍部将1:我が軍は敵におびき寄せられて散々に叩かれ、部隊は壊滅し

       ました!


袁紹軍部将2:我が将文醜しょうぶんしゅうも、さきに顔良がんりょう将軍を討ったひげの長い赤面せきめんの将

       に、斬られました…!


劉備:な、なに、文醜ぶんしゅう殿もか!

   ただちに守りを固め、逃げてくる文醜ぶんしゅう殿の部隊の兵を保護するのだ!

   そなたは私と共についてきてくれ。

   その赤面せきめんの将の姿を確かめたい。


袁紹軍部将2:わ、わかりました!


       【二拍】


       こちらです…あっ、い、いた! あの男です!


劉備:どれ…。

   (!! あれは……間違いない! 義弟おとうと雲長うんちょうだ…!

   よかった…生きていてくれたのだな…!)


袁紹軍部将2:い、いかがでしょう…?


劉備:むう…ここからではあまりよく見えないが、

   どうやら関羽かんうではないような気がする。

   しかし、これ以上近づくのは危ない。

   とりあえず、引きあげよう。


ナレ:劉備りゅうび曹操そうそう軍の追撃を避けるため急いで退却、

   袁紹えんしょうの本隊へ合流する。

   しかし、そのときすでに袁紹えんしょうの元へは、文醜ぶんしゅうの戦死と関羽かんうの情報が

   もたらされていた。


沮授:我が君、文醜ぶんしゅう将軍が…、にしました…!!


袁紹:な、なにッ!? それは本当なのか!?


沮授:無念ながら…。


袁紹:それで、文醜ぶんしゅうを討ったのは…。


沮授:やはり劉備りゅうび義弟ぎてい関羽かんうのようです。

   実にけしからん事ですぞ、我が君!


袁紹:ぬううう……!!

   この間は偽物だと申しておったが、本物とならばやはり曹操そうそうと通じ

   ているということか!

   許せん! 劉備りゅうびをここへ引っ立ててこいッ!!


沮授:はッ!


   【二拍】


   劉備りゅうび殿、おられるか。


劉備:これは沮授そじゅ殿、いかがなされました?


沮授:我が君がお呼びだ、すぐに来てもらおう。


劉備:…わかりました。


   【二拍】


   袁紹えんしょう殿、お呼びでしょうか?


袁紹:劉備りゅうびッ! 文醜ぶんしゅうを討ったのもなんじ義弟ぎてい関羽かんうだそうだな!

   やはり裏切っておったか!

   もはや弁解の余地よちもあるまい。ただちにこやつの首を打てッ!


劉備:お、お待ちください、袁紹えんしょう殿!

   好んで曹操そうそうの策に落ちるおつもりですか!?


袁紹:なんじを斬る事が、なぜ曹操そうそうの策にかかることになる!

   いつぞやのようにうまく言い逃れるつもりか!


劉備:同じことを繰り返し申し上げるようですが、私は曹操そうそう軍に追われ、

   命からがら冀州きしゅうのがれて参りました。

   その時以来、関羽かんうの生死さえ不明でした。

   おそらく曹操そうそうは、何かの形で私がここにいる事を知ったのでしょ

   う。

   それゆえ、まず私と袁紹えんしょう殿の仲を裂こうと関羽かんうを使って顔良がんりょう殿、

   文醜ぶんしゅう殿を討たせ、袁紹えんしょう殿を怒らせて私を斬らせようとしたのに違い

   ありませぬ。

   どうか、ご賢察けんさつ下さい。


袁紹:ううむ……。

   なるほど、確かにそう聞けばわしにも誤解があったようだな。

   一時の怒りにまかせて劉備りゅうび殿を斬ったとあれば、

   わしは世間の笑い物となったであろう。

   いや、許されよ。


劉備:いえ、互いに生きている事を知らぬ為に顔良がんりょう殿や文醜ぶんしゅう殿を死なせて

   しまった事は、後悔の念にたえません。


袁紹:どうであろう。

   関羽かんうをこちらに呼び寄せる事は出来ぬか?


劉備:関羽かんうはまだ私が生きて袁紹えんしょう殿の元にいる事を知らないでしょう。

   それゆえひそかに密使みっしをつかわせば、きっと夜を日についでも参るか

   と。


袁紹:よし、ならばさっそく関羽かんうへの手紙を書いてくれ。

   陳震ちんしん! 密使みっしはそちに命じる。

   沮授そじゅ顔良がんりょう文醜ぶんしゅうの死が教えてくれた曹操そうそういくさとは何だ?


沮授:我が軍を一つところに集めぬよう得意の局地きょくち戦に持ち込み、勝利を重ね

   ることで痛手いたでを与える戦略かと。


袁紹:なるほどな…。

   小魚にはその戦い方しかできんが、わしにとってはまだまだ緒戦ちょせん

   過ぎん。

   多少は痛みを感じても、小骨こぼねを気にせず頭から丸ごと喰らってやる

   のが良かろう。


沮授:しかしまずは態勢を立て直す為、要害ようがいの地を選んで軍を再編成する

   べきかと。


袁紹:うむ、いったん黎陽れいようへ布陣する!

   ただちに行動に移れ!


沮授:ははっ!


   【二拍】


ナレ:その日の夜、劉備りゅうびは机に向かっていた。

   筆を走らせながら時折宙へ視線を転じ、思いにふける。

   


劉備:義弟おとうとが…雲長うんちょうが生きていてくれた…。

   私の運は、まだ尽きていないようだ。

   !…灯りが…燈火ともしび明るき時は良き事がある…!

   この上は翼徳よくとくも、家族も、皆どうか無事でいてくれ…。 


ナレ:関羽かんうが生きていた。

   その朗報は、劉備りゅうびの胸の内に希望の火をともした。

   白馬はくば延津えんしんから始まった曹操そうそう袁紹えんしょうの覇権を掛けた大戦は、

   この後もしばらく長引くこととなる。

   そのはざまでの葉のごとく運命をもてあそばれる劉備りゅうび

   義兄弟との再会は、まだ少し先の話である。




END





はい。

顔良に続き、文醜の最期も台本化してみました。

河北を代表する名将なのに、顔良や沮授と一緒で字が伝わっていない不思議。

もし良ければ、是非演じてみていただければ幸いです。

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