第三十八話
“淡い死者”のダンジョンを攻略後、俺達は家でシャワーを浴び、着替えを済ませてからリビングでくつろいでいた。
「楓、はようてれびをつけるのじゃ!」
そう言ってルキは楓にテレビをつけさせてソファに座る。
「なぁルキ、ずっと気になってたんだけど……キーメイカーを使わず塔に入った時、中で何が起こるか知ってるのか?」
「ん? 知っておるぞ」
!?
ルキはテレビを見ながら答える。
鳳凰院から聞いた噂の事もあるし、ルキからしっかり塔の事を聞いておく必要があるな。
俺はルキの口を割らせる為の餌の差月ヶ○煎餅を懐から取り出した。
「なあルキ、塔の中ではいったい何が起こってるんだ?」
ルキは差月○瀬煎餅をかじりながら話をする。
「普通にダンジョンがある。特別なダンジョンであればダンジョンをクリア出来た人類には色々な恩恵があるの」
「ん? ちょっと待てルキ、もしかしてクリアした人だけしか解放されないのか?」
ルキはそうじゃ、と頷く。
「恩恵って、例えば何を貰えるの?」
楓がリモコンでテレビをつけながら聞く。
「まずは攻略した時に出るアイテムじゃの。お主らもよく知っておるじゃろ、宝箱に入った〈天啓〉のオーブや装備品の事じゃな。そのクリア後は塔によって職業を授かる機能や他の塔へ転移出来る機能が解放されるぞ」
「まじか……職業は俺達も持ってるから他の人ももらえるだろうと思ってたけど、転移とかもできるようになるのか」
「じゃあまずは自衛隊や軍隊が手っ取り早く銃とか使って攻略しちゃえばいいんじゃないの?」
楓が怖い事言い出してる……まあ確かにその通りだよな。
楓の発言にルキは「じゅう?」と頭の上にクエスチョンマークを出していたので楓がスマホを見せて説明する。
「ああそうじゃの、こういう物は使えん。ただ弓や剣等の複雑な作りをしていない武器や、塔の中で手に入れた物、キーメイカーで作った鍵を使って手に入れた物は問題なく使えるんじゃ」
「なんでそんな風になってるんだ? 何か作為的なものを感じるんだけど」
「そりゃそうじゃ、奴は人類が創り出したものは大抵気に食わんからの。そういう風にしたんじゃ。」
「奴ってのは塔を出した奴か?」
「なんか私達その人に嫌われてるんだね、何も言われずいきなり〈天啓〉や塔を出現させて混乱させるし!」
楓はプンプンと怒っている。
「昔はお主らを愛していたのじゃ、まるで自分の家族の様に。ただ奴は変化を嫌った、変わりゆくお主らを遠ざけて最後には捨てた。儂はそれが本当に気に食わんくての……」
ルキはとても寂しそうな顔をしている。
今はあんまり深く聞かない方が良いか。
「それにしても、塔の中で人類の武器は使えなくても、スライム程度ならクリア出来るもんだと思うけどな」
「難易度の低い塔なら今の人類でもそれなりにクリアできる事もあるとは思うが、難易度の高い塔になってくるとまず無理じゃ。お主らが最初に入った東尋坊にある塔でも鍵を使わずに入ったのなら〈天啓〉と[職業]、[レベル]が10程あってようやくクリア出来る位じゃぞ」
「そうだったのか、てか俺達以外の人達はいつステータスやレベルが開放されるんだ?」
「レベルやステータスであれば塔の中に入れば開放されるの。前にも教えたが色によって塔の難易度が変わってくるんじゃが、職業を開放する塔や違う場所に転移出来る塔はまた特別な色が割り振られておる。職業を開放する為の塔は紫がかった色をしている筈じゃ」
「なんか色々と新しい情報が出てきて頭こんがらかりそうだよ……」
楓は何も考えないようにしながら煎餅を食べている。
「俺達はもう職業を貰えてるから職業の塔を攻略する必要は無いけど、他の人達はクリア出来るのか?」
「そうだよねぇ、職業の塔の難易度が低ければ攻略出来ると思うけど……でも逆に色んな人にクリアされすぎてもその力を悪用する人が増えそうだよね」
「まあそこはなるようにしかならんじゃろ、どうせ何もしなかったら人類は滅びる事じゃし」
「「えっ!?」」
ルキから聞き逃せない言葉が出る。
「そうじゃ、塔は攻略しないと少しずつじゃが成長する。限界まで達すると塔は外に魔物を放ちテリトリーを増やし始めるのじゃ」
おいおいおい、やべぇじゃねぇか……。
じゃあ少しでも戦力を蓄えて塔に対抗しなけりゃ、マジで人類は数を減らして最後には滅びる事になるぞ。
「解……これって少しでも早く私達が職業の塔をクリアして塔の情報を流さないといけないんじゃない?」
「そうだよな……とりあえずは県内に職業の塔があるのか調べてみるか」
そう言ってスマホで検索しようとした瞬間、家のインターホンがピンポンピンポンとけたたましく鳴る。
「なんだよ……そんな何度も押さなくてもわかるっちゅーに」
俺はイラっとしながら玄関まで行きドアを開ける。
変な勧誘だったらきつく追い返そうと決め込んでいると……俺の予想とは裏腹に、そこには目が覚めるような色白の美少女が立っていた。
「……あの、どちら様でしょうか?」
「南条君! お願い……カノンを助けて!」
なんと色白美少女が俺に助けを求めてきた。




