第三十四話
俺の名前は南條 解。
俺の朝は遅い。
大学に間に合うギリギリの時間に起きて、朝ご飯も食べず出かける。
大学には数人友人もいるが、決して多い方でも、目立つわけでも、空気ってわけでもない。
The普通の陰キャ男子大学生である。
そんな俺には幼馴染がいる。
幼馴染の彼女の名前は“佐藤楓”。
最近は毎日一緒に居るってくらい時間を共有することが多い。
まあそれはダンジョンを攻略する為に付いてきてくれてるって部分がでかいんだけど……。
ダンジョンというのは俺の〈天啓〉キーメイカーを使って作られる鍵で入れる世界の事だ。
世間では最近、塔のダンジョンが開放されて入れるようにはなったけど、俺と楓は以前からダンジョンでレベルと〈天啓力〉を高めている。
「ねえ解、話聞いてるー?」
おおう、楓の話を聞いてなかった。
俺は今、幼馴染の楓と大学の食堂で食事中だ。
今日のおすすめメニューはボルガライス。オムライスにトンカツを乗せ、甘辛いソースをかけて食べる福井のソウルフード、美味しい×美味しいのフュージョン、美味くないわけがない。
「あの日から1週間たった訳だけど、本当に世界は色々変わっちゃったね」
「ああ、誰でもダンジョンに入れる様になって、世界中で行方不明者が出てるな……」
そう、あの2回目の大きな地震の後、全人類にダンジョンが開放されたとアナウンスが流れた。
その後は世界各地で、何も知らない人々やY○uTuber、野次馬の人達が次々と塔に入り、そして1人も出て来れてないというのが現状だ。
本当に全員が全員出て来れてないかは分からない、俺達みたいにこっそりとダンジョンから生還している人もいるかもしれないが情報が無いから確認のしようがない。
日本でも立ち入りを制限している警察と自衛隊の目を盗んでそれなりの人達が塔に入り込んでいるみたいだが、生還したという情報は入ってきていない。
世界中のニュースやワイドショー、新聞、Y○uTuberが連日取り上げて注意喚起、色々な情報を流しているが、入る人は後を絶たない。
因みに塔が出来た時から世界中の言葉が統一され、世界の現状を言葉、文字が分からない人達でもしっかりと理解できる事ができるようになっているためSNS等での情報の共有がしやすくなっている。
「明日から夏休みだね! 色んな鍵使って色々なダンジョンへ行こうよ」
「ああ、そうだな。時間もたっぷりあるし楽しみだな」
そう、俺達は大学初の夏休みに入ろうとしている。
大学の夏休みは二ヶ月あると聞いたときはうれしさから気を失うかと思ったがそれが今現実に起ころうとしている。
夏休みさいこーーーー!!!
「ルキちゃんの事も気になるし、本当にこれからどうなってくんだろうねー」
「そうだよな、まさかルキもあんな事になるしな……」
楓の言うルキとは、俺のキーメイカーで作った鍵で入ったダンジョン内で出会った自称“王で神”のロリっ子だ。
会った当初はどうにも怪しく信用出来なかったが少しの間、一緒に生活をしたりダンジョン攻略でアドバイスや助けてもらう内になんやかんやもう俺達の大切な仲間だ。
あんな事になってしまったというのは後々説明しよう。
「やあ、今日はここで食事かい?」
その声の方に顔を向けるとそこにはあまり見たくない顔があった。
いつもの取り巻き四人も後ろにピッタリついている。
「……俺に何か用か? 鳳凰院」
こいつの名前は、鳳凰院 叶望。
スポーツ万能、容姿端麗、頭も良くて、大学にはファンクラブまである、高スペッククレイジーサイコ残念イケメン野郎だ。
ここ最近は楓の事で俺に突っかかってくるが、俺としては絶対関わりたくない男№1に君臨している。
「か、楓さん、こんにちは。 今日もお綺麗ですねっ……」
おい、俺と接する時との差が凄いことになってるぞ、高低差で耳キーンなるわ。
いつもの横柄な態度はどこへ行ったんだ?
「あ、はい……」
楓も楓でめちゃくちゃ塩対応だな……そんな態度も取れるんだな。
後ろの取り巻きはカノン様に話しかけてもらったのに信じられないとヒソヒソ話している。
「うう……。と、ところで南條君、塔に入れるようになったのは知っているね?」
あんな塩対応されたのになかなかめげないなこのイケメン。
「ああ……入ったら最後、生きて帰ってこれないというあれだろ?」
「それがどうも帰って来れるみたいなんだ」
「なんだって?」
楓は嫌な予感がするといった感じの目をしつつ、ちらと俺の方を見てくる。
「噂では〈天啓力〉が高い選ばれし勇者が塔に入れば、今以上に膨大な力を得ることができ世界を救う存在になれるらしい。選ばれし勇者……僕にピッタリじゃないか!」
そのセリフを聞いた楓の目に光がなくなっていく。
ああ、鳳凰院……大学生にもなって、なんて可哀そうな子。
楓もお前の発言で目が死んでるぞ。
「いやいや、危ないだろ。人間普通が一番だぞ?」
もしかしてこいつ、塔に入るつもりじゃないだろうな?
「南條君! 前回は何かの間違いで負けてしまったが僕は塔で力を得て、今度は君を圧倒するよ!」
ああ、こいつ塔に入るつもりだ……。
「……鳳凰院君、本当にやめといたほうがいいよ?」
楓もたまらず発言する。
鳳凰院はキラッと白い歯を見せ、
「大丈夫さ、楓さん! 僕は必ず帰ってくる、その時僕は君を……ごにょごにょ」
鳳凰院、発言は最後までしっかり。
「鳳凰院やめとけ、マジで危ないぞ」
「そんなこと言って、僕に圧倒されるのが怖いんじゃないか? はははぁ、では楓さんまた会いましょう」
「おーーーい、俺はとめたからな?」
鳳凰院はフンと自信満々に踵を返し、取り巻きのキャー!という黄色い声を受けながら颯爽と食堂を出て行った。
変なことにならなければいいけど……。
「解……鳳凰院君大丈夫かな?」
「まあ、あいつもそこまで馬鹿じゃないだろ、きっと冗談さ」
「うーーーん、そんな風に見えなかったけど……」
冗談であってくれ。
冗談でなかったら、きっと冗談では済まない事になるからな。
ここまで読んで頂きありがとうございます<(*_ _)>
■次回の更新は【8月5日20時】の予定です。
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