第二十三話
「ねえ、解さえ良ければ今ある食材でご飯作るけど、どう?」
「!? よろしくお願いします。」
楓の天使のような発言に俺は90度のお辞儀をしてお願いをする。
“囁く小鬼の鍵”から帰ってきた俺達はお腹が空いた事もあり、楓がすぐご飯の準備をしてくれた。
時刻はもう18時を過ぎた頃だ。
それにしても何なんだこの完璧超人は、料理も出来るし気もきくし戦闘は俺よりセンスあるし……。
本当にただの大学生かと疑う程である。
「なんかこういうの良いな」
俺は料理をする楓を眺めながらこれまでの事を思い出す。
「ちょ、いきなり何言うの!? あっつ!」
ちょうど出来た生姜焼きをお皿に移していた楓が何故かびっくりして火傷している。
「お、おい。大丈夫か?」
この世界が始まる前の俺は本当に無気力だったと今になったら思う。
何か一生懸命になることもなければ、目標もあるわけでもなかった。
俺は今、新しい刺激にめちゃくちゃワクワクしている。
このまま楓とダンジョンに潜ってこういう生活をしていけたらな、と本当に思う。
「ほら、生姜焼き出来たよ。」
楓は火傷した人差し指を耳たぶで冷やしつつ、生姜焼きの乗ったお皿をテーブルに置いてきた。
火傷したせいか、どこか顔も赤い。
「あ、俺も食器だすの手伝うよ」
「お願いー」
そうして白米、キャベツが添えられた生姜焼き、豆腐とえのきのお味噌汁が食卓に並んだ。
「おお……おおお。何て豪華な食事なんだ……」
俺はきらびやかな食卓に感動する。
「いや、そこまで手が込んでるわけではないけど…」
楓は照れながら答える。
頂きますと手を合わせた後、まずは大好物の生姜焼きを頬張る。
「………うまい!」
(しっかりと生姜の風味を残しつつ、ガツッとパンチのあるタレで絡められ、一緒に食べるキャベツで満足度を跳ね上げている! 冗談抜きにいくらでも白米が食えるぞ! これはまさに……豚肉料理界の五木ひ○しやでぇ!)
1人だったら今頃は卵かけご飯に梅干しだったな、本当に楓に感謝だ……。
いや、卵かけご飯も美味いんだけどね。
「食材があればもっと豪華なもの作れるんだけどね」
「うーん、1人で生活してると食材買ってもぜんぶ使えず腐らせちゃうし事あるし、結局レトルトとか簡単なものしか手を出せないんだよなぁ」
「……。だったら私が毎日作りn」
「あっ! 食材全部マジックバッグに入れればいいじゃん! そうすれば食材の賞味期限なんて関係ないし、俺1人の時でも楓に迷惑かけずにご飯作れる!」
「あれ? ごめん、楓なんか言ったか?」
テンションが上がって話を遮ってしまった。よくない、よくない。
「な……何でもないよ!」
楓の生姜焼きをパクつくスピードが上がる。
「そうだ楓、今度俺に料理教えてくれないか?」
楓が先生なら俺も美味しいご飯がきっと作れるようになる、……はずだよね?
楓は、腑に落ちない感じだったが了承してくれる。
残った生姜焼きと白米はしっかりマジックバッグに収納した。
俺の楓手料理コレクションに、また1ページっ……。
その後は恒例のダンジョン成果発表会だ。
まずお互いのステータスを共有する。
【名前】南條 解
[レベル]9
[職業]なし
【天啓】キーメイカー☆0、鑑定(初級)☆2、幸運☆1
【天啓力】415
[MP]23
[筋力]40
[敏捷]35
[魔力]19
[運]70
【名前】佐藤 楓
[レベル]8
[職業]なし
【天啓】治癒師☆4
【天啓力】946
[MP]41
[筋力]38
[敏捷]53
[魔力]53
[運]17
二人のステータスはこんな感じだ。
楓はボスゴブリンを倒したおかげなのか、俺とのレベルの差が1埋まった。
(そうなる事で余計に露わとなる俺と楓さんのステータス格差……、やっぱり〈天啓力〉ブーストがあるんだろうなこれ)
「やった! もうすぐで解にレベル追いつくね!」
「俺はもうすぐ運以外全てのステータスが追い抜かれそうなんですが……」
「解はあのビー玉使えるし伸びしろの塊じゃない、こんくらい良いでしょ?」
楓が悔しそうに口を尖らす。
(伸びしろの塊……ええ響きやん……)
まあ確かに〈天啓〉のオーブを楓が使えない以上は俺に全て回ってくるから強くなるチャンスはある。
鍵生成に使う〈天啓力〉の消費量も上げていくつもりだし、レア度の高い〈天啓〉はこれからに期待かな。
次は魔石だ。
今回のダンジョンでゴブリンを倒した数はボスを含めて18体。
魔石Hが36個手に入った。
「“囁く小鬼の鍵”では360ディル稼いだ事になるな」
「嬉しいは嬉しいんだけど……あれを知っちゃうとね……」
俺達は冷蔵庫の方を見る。
そこには昨日スーパーまで買いに行った1箱24本入りの“ロー○ルさわやか”が4箱分入れてある。
“ロー○ルさわやか”1箱24本入りで3,000円程、4箱で12,000円程…。
それを売ればなんと19,200ディル、日本円にして約190,000円も儲けてしまう計算になってしまうのだ……。
「ああ、なんだこの表現する事の出来ない切ない気持ちは」
「分かるよ解。けど私達も命が掛かってるんだよ、使えるものは使おう」
そう言って俺達はいつもの様にトイレの前に立つ。
そして、こっちの時間で数分後、俺の右手には19,200ディルが強く握られていた。
ネェガさんのあの屈託の無い眩しい笑顔を俺達は一生、忘れないだろう……。




