表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/35

プロローグ・悪食さんのおねだり

 それにしたって珍しいねえ! 女の子一人で旅をしてるの?


 いやあ、驚いたなあ! 水色のベレー帽にアリスみたいなエプロンドレス、どこから見たって可愛い女の子なのにねえ! セキュリティーが不安じゃない?


「ふふ、おめの言葉と、お気遣いありがとうございます……! でも、こう見えて余裕でお酒が飲める歳ですし、しんくらいなら出来ますよ?」


 はは、そうか! それなら安心だ! ……ねえ、ところで君、お名前は何て?


「ポトフです。ポトフ・デリシュウズ……」


 へええ! 何だかすごく美味しそうな名前だねえ! ……それじゃあ、名乗ってもらって名乗らないのも何だから、ボクも遅ればせながら自己紹介を……!


 ボクはね、「アリマン」ってんだ。アリマン・ヴィアンド! 良ければ「悪食あくじきさん」って呼んで?


「あら、不思議……! どうして『悪食さん』なんですか?」


 どうしてって? そりゃあ君、普通のひとならとても口に出来ないような食べ物も、()()()()食べちゃうからだよ、もちろん!


 何をって? ……はは、そりゃあ聞かない方が良いよ、君! 君みたいな可愛い女の子が聞いたら、悲鳴を上げて逃げ出しちゃうようなものだから!


「ええ……そうですか? ふうん……ところであなた、何をして旅のぎんをお稼ぎですか?」


 ――路銀かい? それはね、大道芸人さ。ボクはこれでも郷里さとで覚えた「民族系のダンス」が得意でね。それであちこちの道ばたで踊って、そこそこ路銀を稼いでるのさ!


 ……え? ああ、部屋のすみっこに置いてある剣かい? あれは護身用なんだ、一応。「最下級の剣士」が持ってるようなちょっとした剣、正直まったく腕に覚えはないけどね。持ってるだけで盗賊()けにはなるかなって……。


 ねえ、それよりさ……君の話が聞きたいな。君は「世界各地のお話を集めて旅をしている」んでしょ? それじゃあ今まで集めた中で、面白い話を三つ四つ聞かせてよ!


 君は「たまたま同じ宿に泊まり合わせた旅人」のボクに、面白い話を聞きたくてこの部屋を訪ねてきたんでしょ?


 持ってるよ、ボクだって人に聞かせる話の一つや二つは……。でもボクは意外とイジワルでねえ、ただじゃあ聞かせたくないんだよ。


 ね、聞かせてよ。君が集めてきた話で、面白いところを三つ四つ選んでさ……。


 そうしたらいろいろ教えてあげるよ。ボクがどうして旅をしてるかも。どうして男のくせに、長く黒髪を伸ばしているかも。


 ……そんなことは知りたくないかい?

 はは、微笑わらって首をふってくれたね、君は優しい子なんだねえ。


 じゃあ聞かせてよ、君の話を。まだ宿での夕食には少し時間がありそうだしさ。ルームサービスの桃の紅茶をれてもらって、二人でゆっくり飲みながら……。


* * *


 ベットの上に腰かけた旅の青年の指さす先に、こじんまりしたティーテーブル。テーブルの上には白いとうのティーセット。


 天然の魔力を帯びた「ほむらいし」のばんの上で、小ぶりなヤカンがしゅんしゅん湯気を立てている。


 青年はポトフの申し出をものの見事にはぐらかして、腰かけたベットの上で足を組む。はちみつ色の切れ長の目が、相手の反応を冷静にうかがっているようだ。


 ポトフは半ば挑むような言動を、特に気にさわるそぶりも見せずに微笑んだ。おのれの金髪のショートボブの巻き毛に触って、くせなのだろう、小首をかしげる。


 ポトフはなめらかなしぐさでルームサービスのお茶をれ、カップを青年に手渡した。そうして自分でもピーチティーを一口飲んだ。


 ……フレーバーティーにありがちだが、少し香料のにおいがきつい。むせるほどの桃の香りが、部屋の中に満ちていく。


 お茶を飲んだポトフはほうっと息をつく。

 それから萌黄色もえぎの瞳に笑みを染ませて、一つめの「お話」を語り始めた。……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ