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一時休憩

「……いかがです?」


 急に耳もとでささやかれ、咲夜花さやか()()と肩を上げる。


 そうだ、映画だったんだ。「夢とうつつの映画」と言うのは()()ではないのか、何だか自分が昔に体験したことを、映像にして観せられたような想いがする。


 実際はセリフばかりのシーンでも、自分の内側がスクリーンになり、映像が再生されるような……こんな感覚は真実、生まれて初めてだ。


 涙ぐむようなシーンも、映画の中の登場人物と一緒になって、自分の内側が……心が泣くと言ったらいいのか、不思議と瞳は潤まない。だが、その分生命力(エネルギー)がぐんと減るような感じもする。


「……いかがでした、ここまでご覧になって?」

「え、ええ、なかなか面白かったわよ。映画一本、長いのをいくつか観せられるんだと思ってたけど……『掌編オムニバス』みたいな作りのものなのね。でも、やっぱり少しくたびれたわ……」

「ええ、そうおっしゃると思いまして、ここで一時休憩です。よろしければお手持ちのコーラとポップコーン、お召し上がりになってください……」


 にっこり微笑わらってそう言われ、咲夜花は素直に口をつける。


「……お味の方は、いかがです?」

「……ええ、美味しいわ。美味しいけれど……」


 言いながら咲夜花は不思議な思いで、ポップコーンを口に運ぶ。


 コーラのしゅわしゅわも、その味も、ポップコーンのきゅいきゅいとした歯ごたえも感じる……感じるけれど、食べたそばから口の中はあっというまにからになり、いかにも「夢の中の食べ物」という感じがする。


 ――違う世界。

 そんな言葉が頭に浮かび、目の前の青年に思わず訊ねる。


「……館長さんは、ずっとこの映画館の中にいるの?」

「ええ、()()()()


 いかにもあっさり返されて、もうそれ以上訊けなくなる。目の前の存在はとても遠い、人間とはかけ離れた生き物のようで、それが何だか、妙になんだか……、


「……どうされました?」

「え、何? 『どうされました』って?」

「いえ、何だか……あなたが泣き出しそうなお顔を……」


 今度は咲夜花が自分のほおに手を触れる。触れた手をさっとあわてて下ろし「気のせいでしょう」と言うのが精いっぱい。館長は何も言わずにうなずいて、すっと手の中のスイッチを押す。


 次の映画のタイトルが、スクリーンに映し出された。


――『カフェ・オートクチュール』……。

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