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*人外と幽霊の村のお話

 これは人間ではない「ひと」たちの住む、不思議な村のお話です。


 昔からとある異世界には、化け物の住む村があると言われています。その化け物は見た目は人間そっくりで、人間と同じようにその口から食べ物を食べます。


 けれど化け物たちは、それだけでは永くは生きていけないのです。その人外たちの名は『御話狩猟人ストーリー・ハンター』……そう、お話を食べて生きる種族なんです。


 彼らは「作り話ではない、本当にあったとされるお話」を集めて食べていますから、旅は必要不可欠なんです。ストーリー・ハンターたちは、旅をしないと生き続けてはいけないのです。


 そんな訳で、彼らは「住む村」は持っていますが、十年に一度しか帰ってきません。十年に一度ひらかれる「夏の大祭」の時だけ村に里帰りして、お祭りでみんな大はしゃぎして、それからまたてんでに旅に出るのです。


 そんなある年の、大祭の前の晩のことです。何だかものすごく疲れた様子の幽霊の集団が、ふらふらと村を訪れたのです。


 幽霊たちは「少しだけ休ませてください」と息も絶えだえで言いました。

 ……ふふ、幽霊が「息も絶えだえ」なんておかしいですね。でも本当にそういう状態だったらしいのです。


「いいとも、休んでいくといい。今は祭りの前の晩で、少しわちゃわちゃしてるがね。ああそうだ、何なら祭りも見学していくかい?」


 ストーリー・ハンターたちは気持ち良くこう言ってくれました。彼らも旅の者ですし、幽霊が旅の疲れで消えそうにくたびれていることに、ちゃんと気づいていたのです。


 幽霊たちは涙も流さんばかりに喜んで、ハンターたちのれてくれた、幽霊も飲める「霧のお茶」を飲みました。飲みながら嘆きながら言うことには、彼ら幽霊には「安住の地」がまったくどこにもないらしいのです。


「いえ、初対面のかたがたにグチを言うのもなんですが……我々幽霊の一団は、昔流れながれの民族でして。特に故郷らしい故郷を持たない……いわば少数派の宗教集団だったんです」


 幽霊のおさはそこでちょっと言葉を切って、ため息をつく代わりのように霧のお茶を含みました。


「……なにもね、私たちは人を殺害する狂信派の集団じゃない。どちらかといえば敬虔けいけんなタイプ……。けれど信者を多数抱える『メイン派』の宗教の者からすれば、ただの異端だったんですよ」


 黙って話を聞き続けるハンターたちに、幽霊の長はまた顔を上げて嘆きます。


「メイン派の宗教の者たちは、我々を『悪魔』呼ばわりしました。どこに行っても迫害はくがい、迫害! とうとうしまいに私たち一団は、隠れ家のごうに火をつけられて殺されて……!」


 幽霊の長は、泣くような呻きをのどの奥からしぼり出して、悲痛にこう訴えました。


「しかも! 殺されたのち、幽霊になってからもですよ! 『ここはお前たちの住む場所じゃない』『とっとと出て行け』とほかの種族の幽霊たちに追い出され、追い出されしてずっとふらふら旅の空! 死んでからも差別ですよ、あんまりじゃあないですか!!」


 幽霊らしからぬ感情の爆発に、ストーリー・ハンターたちは静かに話を聞いていました。それからお付き合いでほとんど味のないお茶をすすって、何でもなさげに言ったんです。


「それじゃあさ。あなたがた、この村に住んだらどうだい?」

「……いや……ええ……は? いやいや、まさかそんなうまい話が……」


 降ってわいた幸運に、幽霊たちは自分の耳が信じられないようでした。そんな彼らに、ハンターたちはにっこり笑ってこう提案したんです。


「いやいや、正直俺たちは十年にいっぺんしかこの村に帰って来ないから、そのたんび村は荒れててさ。留守中は何者かに侵入されないように、結界を張ってはいるんだけど……そもそもヒトが住まないと、家そのものが傷んでさ! 掃除やら修復やらで大変なんだ!」

「だからさ、やってくれないか? お前さんがた、この村の留守中の管理人を!」

「なあに、家が傷まないように住んでてくれれば、あとは何しても良いからさ! そうして十年にいっぺんは、あたしたち村人と『夏の大祭』でお祭り騒ぎしないかい?」


 口々に勧める村人たちに、幽霊は嬉し泣きして首ふりのオモチャみたいにうなずきました。そうしてその年の大祭は、新入りの幽霊たちも加わって大盛り上がりだったそうです!


 それから十年ごとに、ストーリー・ハンターの村では人外と幽霊とがはしゃぎ回ってお祭りをひらくそうですよ。時と場合によっては、人外の方が人間よりもっとずっと「人間らしい」情を見せるものなのですね!


 これでそろそろ、わたしの話はおしまいです……。


 いかがですか? お話に満足してくださったら、悪食さん、今度はあなたのお話をしてはいただけないでしょうか?


* * *


 そう訊ねかけるポトフ嬢に、アリマンはどこか戸惑ったような笑みを浮かべた。

 体格も何もかも青年の方が有利なのに、なぜか「猫に追い詰められたネズミ」のような雰囲気がある。


 青年はなにごとか言いかけて、口を閉じてを二度も三度もくり返した。それから一つ吐息をついて、何か覚悟を決めたように、やっとおのれの口を開いた。……

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