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鏡の中の私

「もーママ、いつまで寝てんの? 今日も撮影でしょ? 早く起きて!!」


「ママの大好きな キウイのスムージー作っておいたよ」



(何これ、これはどこ? ママって私のこと?)



「もーまた、そうやって寝ぼけて。 今日は鎌倉のスタジオだっけ。 

 寒い時期に夏の撮影って私だったら絶対やだわ。

 カイロいっぱいカバンに入れといたから風邪ひかないようにしてね。」


「そういえば、今夜はまもるおじちゃん来るんだよね! 楽しみ〜! 

 デザインソフトの使い方教えて欲しかったから今日はいっぱい教えてもらうんだー。」


 (・・・そう、そうよ、私は千尋。 確か生ビールのCM撮りに行くんだったような)


「じゃあ、気をつけてね、ママ。今日はママが大好きなカレーだから寄り道せず! 帰ってくるんだよ〜」


(そうそう、まもる兄のカレー美味しいんだよ・・・あれ、そういえば、娘のまりとカレーを食べようと思って・・・)



「まりは!? まりはどこ!?」



 ベットから飛び降りようとした瞬間に、見知った高さでなくそのまま転けてしまった。


「いたたた・・・」


(・・・あれ、ここ私の部屋じゃない・・・?)


 痛めたお尻をさすりながら、起きると私はピンク一色の部屋にいた。


「ここ・・・どこ・・・?」



 バーーーーーン!



 ドアを大袈裟に開けながら入ってきた紺色のワンピースに白いエプロンをつけたメイド風の女性が駆け寄る。


「どうなされましたか、お嬢様!? はっ! 旦那様! お嬢様がお目覚めですぅぅ!!!!」


 薄らと涙を浮かべ、メイド風の女性は走りながら出て行った。


「え、えっと・・・ここどこ?」


 誰もいなくなったショッキングピンクの部屋で、私の言葉は受け取り手に届かず虚しく散っていった。


(それにしても、なんだか視界が低いな。 なんか体重いし・・・しんど・・・)



 バーーーーーン!



 またドアが開いた。なんかでかい夫婦が泣きながらこっちに向かっている。


(え、え、え、誰々だれ誰ぇぇぇぇぇ!?)


「私の愛しのサリー! 良かった! よく目覚めてくれた! 神に感謝を!!」


 大柄、というよりは相撲レスラー風のヨーロッパ貴族の服を着たおっさんが私を包む。


「ひっ!!誰々、離してぇぇぇえ」


 おっさんは、びっくりして、私から体を離した。オロオロと心配そうな顔をしている。


「どうしたの、サリー。もしやお父様が分からない・・・なんてことないわよね?」


 おっさんの横にいる、これまた大関のような体格の、襟巻きトカゲのような円盤レースをつけている貴族のような女性が問いかける。


「え、お、お、お父様?」


「そうだよ、サリー、分かるかい?」


「・・・・・・・・・・」


 私の記憶では、父親は70近い白髪のおじいちゃんで、自衛隊上がりだったからおじいちゃんといえど体はムキムキで割と美丈夫だった。


 決してこんな黒光りしている豚ではない。


 いや、ちょっとまて、そうすると、この襟巻き黒豚は母親とでも・・・??


「・・・お、お母様?」


 女性は、先ほどの悲しい顔から一転笑顔に戻った。


「そぉよおおお! サリー! 良かったわ。私のことはわかるのね」


 待て待て待て待て・・・!!!


 私は千尋のはず・・・でも父と母が記憶と違う・・・?


 ましてや両方黒豚・・・


 もしも私がこの二人の子供であった場合・・・導かれる答えは・・・!

 

「か、鏡を!!!!」


「鏡を持ってきてください!!! 早く!」


「はっはい、ただいまお持ちいたしますぅ・・・・!」


 私の問いかけに、先ほどのメイドらしい女性が、姿見を取り寄せてきてくれた。


 私は、鏡の中の自分を見て笑った。


 そう。黒豚と襟巻き黒豚の空事は、事実であったのだ。


 鏡の中には、東京でモデルであった千尋の姿はなく、

 ショッキングピンクのネグリジェを着た、まるまるとした小さな黒豚が映っていた。


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