モデルの千尋
千尋
シングルマザー
年齢:公開情報は28歳だが実年齢は33歳
職業:モデル
家族構成:娘、兄
「はい、OKです! 今日の撮影はここまでーーー」
「お疲れ様でした!」
「千尋ちゃん、今日はメイク落としていく? それとも軽く直して帰る?」
監督や関係者に挨拶を終えて荷物を取りに控え室に戻ると、声をかけてくれたのは、ヘアメイクのまゆだった。
今日はアルコール飲料のCMの撮影で、海の近くの一軒家で旦那の帰りを発泡酒と共に出迎える妻役を演じた。まだ2月の寒い時期に、白い夏用のワンピースでお出迎えのシーンやら、テラスでの食事のシーンなんて撮るもんだから風邪をひきそうだ。これだから冬の現場では、カイロを手放せない。
アルコール飲料のCMといっても、撮影では実際にお酒が飲めるわけではなく、麦茶に泡を入れたものを12杯も飲まされてお腹はタプタプでなんだか苦しい。
千尋は、引き締めていた腹筋を緩め一息をつきながら答える。
「そうですね、今日もどうせマスクつける予定ですし、綺麗に落としてください。」
「OK、じゃあ落としちゃうからここに座って。さすがに、眉毛くらいは書いとくよ」
忙しなくスタジオの片付けが始まる現場を横目に、まゆは千尋の実年齢より若いメイクを落としていく。
「はい、これで終わり。また、今度現場で会えるといいね! 千尋ちゃんの演技、意外と俳優さんより上手かったりするから見てて楽しいわ」
「私も、まゆさんの恋愛話楽しみにしてます!次会う時は今彼と電撃結婚しちゃったりして・・・!」
「次のランジェリーヴィーナスのCMも一緒でしょ! 再来週撮影なのに! 彼とは出会ったばかりなんだから、そんなに早く結婚しないわよ! もう!」
あはは、と笑う千尋に、まゆは、あからめた頬を手で覆っている。満更でもなさそうだ。
ちひろにとってまゆは同じシングルマザーとして、職種は違えど、業界の中で同じ境遇を持つ専門家として、心を許せる同志だった。だから千尋は、まゆとの仕事は楽しみにしていた。
「じゃあ、また再来週に。 今度は青山のスタジオかな?」
「はい、今日もありがとうございました。 暖かくなったら、うちの子も連れて一緒にバーベキューでもいきましょう!」
「じゃあ、次回日程詰めましょ〜。 お疲れ様でした。」
笑顔で見送るまゆに手を振り、千尋は、都内邸宅の家路に着いた。
「さぁ、まりちゃんはご飯も食べちゃったかな? 今日はまもる兄のカレーだから私も一緒に食べたいんだよな〜♪」
車を地下の駐車場に止めて、鼻歌まじりにエレベータに向かった。
「あの、ハンカチ落としましたよ」
ドンっ
「え?」
振り返ると、そこには見覚えのある男が私の胸にナイフを突き立てていた。
下を見るとどす黒い液体が千尋の体を伝う。生暖かい。
千尋が胸元に触れると手が赤く染まった。
「お、おお前が悪いんだからな。と、ともちゃんの仕事を取ったりするからいけないだ!」
やってやったと奇妙に笑う男は、小刻みに震える声で、吐き捨てるように叫んで走り去った。
(・・・さむい)
千尋は崩れ落ちながら、遠のく意識の中で ただただ男が地面を蹴りさる姿を見つめていた。
(あ、これだめなやつだ・・・)
「ま・・・まりちゃん・・・、そうだ、まりちゃんとカレーを・・・」
その後、誰かが駆けつけてくれて叫んでいるようだったが、千尋の記憶はそこで途切れた。
人生初の執筆です。少しづつ書いていきます!
至らない点もあるかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです :)