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第十七話

思わぬアクシデントで、私達、生徒会メンバーは翌日、コンテストの最終日前に調理場や会場などあらゆるところを確認することになってしまった。


そして、私は別のアクシデントに遭っている。


「リシャールさんでしょう?ミシェルさんの作品壊したの。」


「あんなに仲良かったのに、喧嘩したからって作品に当たるなんて酷いことするわね。」


「ミシェルさん可哀想……」


会場の見回りをしていたところ、話したこともない女子学生達に囲まれ、容疑者扱いされてしまった。


話したこともない私がこんなに恨まれているのは、おそらく私の父のレストランをよく思わない人達なのだろう。

父のレストランは有名だ。ファンも多いが、この有名さを疎む料理家達もいる。


この事態につけ込んで、私を糾弾しようとしているようだった。


前回の私は明らかに料理人の卵としては落第ものだったので、こんなことはなかったのだが……


「何をしている。」


私が何かを言い返そうとすると、鋭い声が私の背後からした。


振り向くと、険しい顔をしたアランが立っていた。


「根も葉もない噂を立てて、彼女を困らせるのはやめてもらおうか。」


アランは私と女子学生達の間に割って入り、庇うように立った。


女子学生はアランの言葉に怯みもせず、笑う。


「王子様の登場ね?」


「恋人だから擁護するなんて、当たり前よね!全然、説得力ないんだから。」


「証拠もないのに人を犯人扱いするのは、良くないと言っているんだ。彼女を特別扱いしているわけではなく、一般論だろう。」


アランの弁明は続くも、暖簾に腕押し状態だ。


「何の騒ぎだ?」


アランと女子学生達の口論が続くと、今度は女子学生達の背後から声がした。


声のした方を向くと、今度はクリストファーがこの騒ぎを聞きつけて、こちらにやってきた。


「ふ、副会長!」


「く、クリストファー様!」


この反応……どうやら、クリストファーのファンのようだ。


「どうしたんだ?こんなところで。」


「あ、あの……私達はただ、リシャールさんがミシェルさんの作品を壊したんじゃないかと。」


「どうして、そう思うんだ?」


「リシャールさんとミシェルさん、前は仲良かったけれど、仲違いしているみたいだったし、ミシェルさん、最近リシャールさんに怯えていたみたいだから、リシャールさんに虐められているんじゃないかって。」


クリストファーと目が合い、私は咄嗟に目を逸らしてしまう。


クリストファーは少し困ったような表情をして、女子学生達を諫めた。


「……俺は二人と生徒会で一緒だが、虐められているとは思えないな。彼女を犯人扱いするのは時期早々だろう……不安に思う気持ちも分かる。俺達、生徒会メンバーが全力をかけて、状況を精査しているから、どうか今は静かに見守っていてくれないか?」


「クリストファー様がそう言うなら……」


「仕方ありませんわね。」


女子学生達はクリストファーに言い返すことなく、その場を離れた。


「ロージー、大丈夫だったか?」


「はい……ありがとうございます。」


「彼女達の言葉は気にすることはない。皆、不測の事態に気が立っているんだ。もし、ああいうことが多いようであれば、ロージーも女子寮で待機していた方がいいかもしれないな。」


「大丈夫ですよ、クリストファー先輩。私もリリアの作品を壊した犯人を見つけるお手伝いがしたいですから。」


「そうか……でも、あまり無理するなよ。」


ふと、クリストファーはアランの方を見る。


「アラン、こんなことを俺が言うまでもないかもしれないが……ロージーを頼む。」


「はい、分かりました。」


クリストファーはそう言って、その場を離れた。


(アランにロージーを預けるのは癪だが、ロージーが選んだ男は彼なのだから仕方ない。)


クリストファーはモヤモヤする気持ちを抑えながら、廊下を歩いていく。

本当なら、自分はローズを信頼していると伝え、安心させ、抱き締めてやりたい。

でも、自分との婚約は既に破棄され、ローズには恋人がいる。

そんな女性に言い寄ることは、クリストファーには出来なかった。


「一年の学年トップの子でしょう?被害に遭ったのって……」


「酷いことするよなあ。犯人の目星とか見つかっているのかよ?」


「一年のリシャールが怪しいって、もっぱら噂だぜ?」


朝早くから根も葉もない噂をしている学生達を見てクリストファーは溜息を吐く。


(朝早くから熱心なことだ。しかし、異常なまでにロージーへ疑惑が集まっている。ロージーは教師からの信頼も厚いし、生徒会や部活動や授業にも熱心に参加している。身内贔屓をしなくても、犯人扱いされるような生徒ではない……誰かがデマを流している。そうとしか思えないくらい不自然だ。一日でこんなにロージーが犯人扱いされるのは……)


「クリスくん。」


声をかけられ、振り向くとダミアンがこちらに走ってきた。


「状況はどうだ?」


「SNSでローズちゃんが犯人説が盛り上がっちゃっているみたい。出所は作ったばかりの新規アカウントでこの為に作ったみたいで、誰のものかは分かっていない。色んな角度からローズちゃんを糾弾している。でも、フォローやフォロワーを見る限り、学園の人の可能性が高いよ。」


「まるで警察みたいだな。でも、お前に頼んで正解だった。パトリックは実行委員としての役目があるからな。犯人探しは俺達で頑張ろう。」


「クリスくん、いつにもなくやる気だね。ローズちゃんが犯人呼ばわりされていたら、黙っちゃいられないよね。」


「こんな時に揶揄わないでくれ、ダン。監視カメラは?」


「アンソニーくんが警備員室に行って、見てくれている。肝心の調理場は犯人が犯行に及ぶ前に壊して、見えなくしたみたい。」


「そうか……」


「先生が言っていたけれど、コンテストの最中だから、警察に連絡するのは、今日のコンテストが終わってからにするみたい。それまでに、内輪で調べて、分かったら、警察には連絡しないみたい。あまり、騒ぎにしたくないっていう学園の方針みたいだよ。」


「まあ、警察も本腰は入れないかもしれないな。側から見たら学園の行事の一環で起きた出来事だからな。」


「期待は薄いよね。でも、警察に相談することも視野に入れているから、リリアちゃんの作品に手を触れる時は手袋をしろって言われたよ。」


「分かった。気をつけるよ。」


「……リリアちゃんは部屋から出てないみたいだよ。同じフロアの部屋に住んでいる子が教えてくれた。やっぱり落ち込んでいるみたい。」


「ああ……コンテストに向けて一生懸命作った作品だろうしな。それに、モニター越しで見たけれど、あれは意図的にやったものだとすぐに分かった。誰かの悪意を受けたら、誰だって傷つくだろう。」


「そうだね。リリアちゃんのためにも、ローズちゃんのためにも、早く解決しないとね……俺さ、この事件が起きた時、リリアちゃんが自作自演した事件かなって一瞬だけ思っちゃったんだ。でも、話を聞く限り、リリアちゃんでもローズちゃんでもない誰かだって思った。疑っちゃった分、早く真犯人を見つけたいんだ。」


「こんな時だ、色んな疑惑や混乱が起こるだろう。学園を纏めることこそ、俺達、生徒会の仕事だ。引き続き、頑張って調べよう。」


クリストファーはダミアンと離れて、調理場に向かう。


調理場には誰も居なかった。

今日はコンテストの結果発表のみで、調理場は使用しないことから、元々、生徒会のメンバー以外の生徒は立ち入り禁止にされている。


クリストファーは手袋をはめて、リリアの作品が入っているであろう冷蔵庫を開いた。


「あれ……おかしいな。」


クリストファーは冷蔵庫の中を探すも、それらしきものは見当たらなかった。


先生がダミアンにあんなことを言うのだから、変に動かすこともないと思うが、場所を移したのだろうか?


ふと、冷蔵庫の近くの床がチョコレートで汚れていることに気がついた。

かけらが落ちているのに気が付かずに、足で擦ってしまったような跡だ。


もしかしたら、靴裏を見れば分かるかもしれない、と一瞬考えが過ぎったが、それで判別するのは非現実的だと思い、クリストファーは首を振った。


クリストファーは上を見上げて、監視カメラを見る。

ダミアンが言っていた通り、監視カメラはヒビが破れて壊れていた。

おそらく、モップか何かで向きを変えたのだろう。


(……そういえば、新入生募集用に、監視カメラとは別に隠しカメラを入れていたな。)


ふと、クリストファーは生徒会で新入生募集のサイトを作る際に、目玉の行事であるコンテストの実際の様子を募集のビデオに組み込もうという話になったことを思い出した。

ただ、大事なコンテストの準備でずっとカメラを回しているとなれば、不快感を示す生徒もいるかもしれないということで、掃除道具に紛れさせて、撮影をしていたのだ。


もしかしたら、この隠しカメラに何か写っているかもしれないとクリストファーはカメラを手に取る。


そして、クリストファーはカメラを持って気がついた。

この隠しカメラも壊れている。

レンズが割れており、中に入っているはずのSDカードもヒビが入り、近くのゴミ箱に入っていた。


「…………成る程な。」


クリストファーは呟き、カメラとSDカードを持ち出し、調理場を後にした。


クリストファーは守衛室に向かい、扉を開けると、守衛の男は少し狼狽した様子を見せた。

今回の出来事で相当参っているようだ。


「あ……君は確か、副会長の……」


「三年のクリストファー・ガリシアです。あの、監視カメラの映像をもう一度見せていただけませんか?」


「守衛の俺の手落ちになるが、一部の監視カメラが壊れているんだ。ちょうど見回りで外れていて、監視カメラが壊れているのに気が付いたのは、数十分経ってからだったんだ。」


監視カメラのモニターを見ると、調理場だけではなく、いくつかのモニターが壊れている。


「これは調理場前の廊下だね。あとは……これは、階段かな。」


どうやら、三台の監視カメラが壊されてしまっているらしい。


クリストファーはちらりと壁に掛けられたシフト表を見た。


「状況は理解しました。ありがとうございます。」


「もういいのか?」


「ええ、ご協力ありがとうございました。」


クリストファーはスマートフォンでダミアンに電話をかけた。


「もしもし、ダンか?犯人がわかった。今日の開場まで、あと1時間ほどある。とりあえず、生徒会のメンバーを屋上へ集めてくれ。先生には屋上を使わせてもらえるよう、俺から許可を取る。」




「……え、クリストファー先輩が犯人を見つけたんですか?もう?」


私が尋ねるとダミアンが頷いた。


「うん、流石クリスくんだよね。今から屋上に向かうから、ローズちゃんも一緒に行こう?」


「ええ。」


私がアランの方を振り向くと、アランは頷き、行くように促した。


「ダミアン先輩が一緒なら大丈夫だろう。俺は生徒会のメンバーではないしな。」


「付き合わせてしまってごめんなさいね。」


「いや、俺がしたかっただけだから、気にするな。」


アランはまた連絡するとだけ言って、踵を返した。


「ローズちゃんはアランくんとは順調なの?」


「ええ、まあ……アランは私には勿体ないくらい良い人ですので。」


「ふうん?」


「ダン、ロージー。」


ダミアンが何か言い掛けた時、クリストファーとアンソニーがこちらにやってきて、声をかけた。


「お、名探偵の御登場だね?」


「揶揄うな。屋上への立ち入りの許可は貰えた。既にパトリックは屋上にいるらしい。」


「流石、パトリックくん、行動早いね。」


私達は足早に屋上に上がった。

屋上に辿り着くと、表情の険しいパトリックが出迎えた。


「それで、クリストファー。この事件の犯人が見つかったというのは本当か?」


「ああ……おそらくな。」


「それで?その犯人は誰なんだ。」


「それは…………」


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