一人称小説のほうが簡単に書ける?
試験的に短編として3本投稿してみたのですが──
PVの傾向や新着情報での生存時間は思ったほどには変わらないようなので、これまで通り連載形式で書き続けることにしました。
今後とも、よろしくなのであります。
∠(`^´)
黒崎 「ときにチロン。一人称小説と三人称小説、どっちが書きやすいと思う?」
チロン 「知るかボケ、なんて言ったら折檻ですか?」
黒 「折檻ですね。三角木馬で」
チ 「あう。せめて亀甲縛り&低温ロウソク責めにしてほしいのです」
黒 「では妥協して、目隠し&スパンキングでどうかね」
チ 「むむむ? お尻ペンペンはボク様ちょっぴりドキドキするかもな予感」
黒 「そんなアレな性癖を設定した覚えは無いんだが──まぁ、いい。本題にいこう」
チ 「あいあいさー」
黒 「小説の様式は、登場人物の一人語りで綴られる一人称体と、劇中世界を俯瞰する第三者の視点で綴られる三人称体に大別できる。更に細分化できるけど、今回のお題とは直接関係ないから割愛ね」
チ 「さっきの質問ですけど、御主人はどっちが簡単だと思うのです?」
黒 「圧倒的に三人称体」
チ 「ふーん。でも、巷では一人称体のほうが書きやすいとか言われてません?」
黒 「言われがちだね。そのせいもあってか、なろう系作品は従来のラノベよりも一人称体の比率が高いようだ。しかし、なればこそ敢えて言おう。一人称体のほうが書きやすいと感じるのは残念至極な勘違いかもしれないと」
チ 「おー。ただいま反感を高価買取り中って感じで香ばしいのです」
黒 「しからば調子に乗って更に放言。一人称体の方が断然書きやすいと感じる物書きさんは、実のところ〝書きやすいものしか書いていない可能性が大〟なのであ~る。べべん♪」
チ 「自分でSE付けてまで断言するからには当然、論拠があるのですよね? てゆーか、なかったらお尻ペンペンなのです。金属バットで」
黒 「いや、それ絶対〝ペンペン〟じゃないし」
チ 「さぁ、論拠を語りあそばせ。黙々と素振りしながら聞いてあげるのです」
黒 「準備運動やめれ。論拠ならあるから。一人称体には〝語り部〟となっているキャラの心理描写を緻密にできる、という利点がある。また、読者がより深く感情移入しやすい効果も期待できる。なので、およそすべてのエピソードが主人公に帰結する、私小説的な作風に適したスタイルといえよう」
チ 「ふむふむ」
黒 「反面、語り部キャラの視野の中の出来事しか書けない、という制約がある。さらに、三人称体なら〝地の文〟で書ける情景や解説等も、すべてキャラの台詞や一人語りに仮託することになる。これも地味に厄介だ」
チ 「再び、ふむふむ」
黒 「つまり一人称体は〝一個人〟を深く掘り下げて描く叙情文学には適してるけど、より広い視野で〝世界〟や〝出来事〟を描く叙事文学には向いていないんだな。その違いを知りたいなら、他人様の三人称体の小説を一人称体で書き改めてみるといい。
たとえば、かの『指輪物語』を主人公・フロドの視点の一人称体に翻訳したら──よほどのド天才でないかぎり、あの雄大な世界観に根ざした物語性は表現しきれないだろう。
逆に一人称体を三人称体に変換するのは、比較的やりやすい。作品の雰囲気は一変するだろうが、物語を成立させることはできると思う。
両方を試してみれば、制約の多い一人称体の難しさを実感できるに違いない」
チ 「あ、でも、一人称体でも語り部キャラを場面ごとに切り替えれば、物語の視野を広げられるのではないです?」
黒 「確かに、そういう手はある。実際、僕様もそれで一本書いてるし」
チ 「見切り発車で書き始めて、ほぼほぼエタってる例のSFですね」
黒 「エタってはいないぞ。そいつは現在、再起動にむけてちんたら準備中だ。書く書く詐欺にならないよう黙ってただけで」
チ 「ふ~ん」
黒 「白い目やめて……。でさ、自分で書いてみて解ったんだけど、語り部キャラを切り替えるマルチ一人称体は、普通の一人称体よりも高難度なんだよ。各キャラの人物造形──おのおのの人生遍歴に根ざした思考パターンや人間性といったものをしっかり設定しないと、ただ口調が違うだけになっちゃうから。
でも、それって考えてみりゃ当然なんだよな。一人称体小説を複数同時に書いてるわけだもの。難しいに決まってる」
チ 「一人称体が実は難しいってのは、なんとなく解ったのです。でも、だったらどうして一人称体のほうが書きやすいと言われがちなのです?」
黒 「なろう界隈は難しいことを易々とやってのける天才だらけだからか、はたまた難しさに気付いていない人が多いからか──」
チ 「うーん……後者ですよね、やっぱ」
黒 「だわな。難しさに気付かない理由は簡単で、難しい状況に直面していないから。〝書きやすいものしか書いていない〟と言ったのは、そういうこと。
ちょっとキツい言い方になるけど、書くのが難しい要素を避けてるんだろうね。一人称体では難儀な情景描写や解説、活劇シーンの躍動的な演出といったものを、なかば放棄しちゃってる。ともすれば無意識のうちに」
チ 「なるほど。そういう部分をしっかり書こうとすれば自然と一人称体の難しさに気付くはずだから、簡単だなんて言うわけないよねぇ(にちゃあ)──ってことですな?」
黒 「まーね」
◆ ◆ ◆
黒 「繰り返しになるけど、一人称体は私小説的な叙情文学に向いてる。むしろ、それ系に特化した技法といってもいいかも。だから、そういう作風の書き手さんにとっては比較的扱いやすい技法かと思う。でも──」
チ 「でも?」
黒 「どういうわけか、なろう界隈では、一人称体で叙事文学を書こうとしてるような作品が多々あるんだよね。それって超ムズいのに。
一人称体では基本的に主人公の周囲のことしか書けないから、主人公が介在しない出来事の紆余曲折は伝え聞くかたちでダイジェスト化されたり、結果だけが示されたりする。そのせいで、あらゆる不確定要素が主人公にとって都合よく展開してるように感じやすい。つまり──」
チ 「御都合主義になりやすい?」
黒 「ちょい違う。御都合主義だと思われやすい」
チ 「?? どう違うのです?」
黒 「御都合主義なのは、いいの。小説であれ漫画であれ、もとよりフィクションの筋立ては御都合主義の集合体なんだから。そいつを如何に巧く隠して物語に仕立てるかが、作家の腕の見せどころなのさ。でも、一人称体で叙事文学を書くと、そのあたりの不手際が目立ちやすい」
チ 「ふーん。なろう系がしばしば御都合主義的だって叩かれるのは、もしかして、そのせいなのです?」
黒 「一人称体小説ばかりが叩かれるわけじゃないから、他にも理由があるんだろうけど、一因ではあるかと
まあ、大多数の読者がそれを妥当としてるのなら、外野の野良物書きごときが横槍を入れるのはヤボなんだけどさ……一言居士な僕様としては、ヤボいことのひとつも言いたくなっちゃうのよね」
チ 「さすがはヤボが服を着て歩いてるヤボイストさんなのです」
黒 「……ほう。よほど三角木馬が恋しいようですなぁ、チロン君」
チ 「ひー。おまたの大ピンチにつきBダッシュで逃げるのです」
──終劇──
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