大惨事三点リーダー大戦
黒崎 「今回のお題は『三点リーダー論争からみるウェブ小説の書式問題について』だ」
チロン 「三点リーダーって、なんです?」
黒 「テストで3点しかとれない阿呆のクセにリーダーになりたがる迷惑な奴」
チ 「なーる。ボク様、またひとつ賢くなったのです。むっふー」
黒 「よし。またひとつ痛い子にしてやったわ」
チ 「うきゅ~、純真な乙女心を玩ばれたのです。そうやって女児をオモチャにする人非人な御主人は、お詫びの印に三点リーダーがなんなのか可及的速やかに教えやがるべきなのです」
黒 「三点リーダーってのは〝…〟という記号のことだよ。ウェブ小説界隈には、これを中黒(・)で代用する人がいて、しばしば論争になる」
チ 「〝・・・〟じゃダメなのですか?」
黒 「日本語における表記の慣例としては誤用だな。三点リーダーは主に時間的な〝間〟を表現する記号で、中黒(中点や黒丸ともいう)は名詞の列挙や人名等の区切りに使う記号。明確に用法が異なるわけだし」
チ 「なら間違う人が悪いのです。あえて言うのです。カスなのですと」
黒 「いや、さすがにそれは言い過ぎ」
チ 「てゆーか、誤用ならどうして〝…〟を〝・〟にする人がいるのです?」
黒 「ほとんどの場合はは単なる勉強不足。つーか読書不足で〝標準的な日本語表記〟が身に付いてないだけかと。まあ、フォントによっては〝……〟が下付文字になるのが嫌だから〝・〟を使うとか、自分なりの美学があって恣意的にルールを無視してる、みたいな人もいるけど」
チ 「ほほー。美学とは、なにやら香ばしいのです」
黒 「うむ。実にかぐわしく、かつ面倒くさいタイプでもある。えてしてポリシーと称する自分式ルールを絶対とし、『それ間違ってるよ』と指摘されると激昂しがちだし。小火を起こすのは、大概この種の御仁だな」
チ 「無意味なポリシーと無価値なプライドにすがるのは、意識高い系ワナビあるあるなのです。御主人もさぞかし耳が痛いに違いないと心中お察しするのです」
黒 「…………」
黒 「ちなみに、ウェブ小説界隈では三点リーダー以外にも書式にまつわる論争が後を絶たない。ざっと挙げると──
●字下げ(段落の最初を一文字あける)をするか否か
●会話と地の文の間に空白行を入れるか否か
●センテンス単位で改行すべきか否か
●各種の括弧の使い方
●括弧内の最後に句点を付けるか否か
●半角文字を使うか否か
●絵記号や絵文字を使うか否か
●漢数字と算用数字のどちらを使うべきか
黒 「──こんなところ」
チ 「んー。なんだか、どれも不毛な論争の気がするのです」
黒 「実際、不毛だよ。正確性が第一の報道や学術論文ならともかく、小説の場合、あえて定型を破ることも表現の手段になりうるし、そもそも絶対的に〝正しい〟書式なんてものは無いからねぇ。
たとえば字下げなんかは『するのが正しい』と言えそうだけど、SNSでは字下げしない書き方が通例化してるから、ネットを主戦場とするウェブ小説なら、必ずしも字下げすべきとは言い切れない」
チ 「そういえば御主人もツイッターだと字下げしないし、〝……〟の代わりに〝・・・〟を使ってるですね」
黒 「ああ。ツイッターはスマホで見る人も多いから、慣例よりも視認性を重視してるのさ」
チ 「きゅきゅ? その理屈だと、ウェブ小説なら〝・・・〟を使っても間違いではないってことなのですか?」
黒 「まーな。現在の日本語の標準的な書式は出版作業を効率化するための慣例でもあるから、デジタルデバイスで読むことが前提のウェブ小説は管轄外と言えなくもない。でも──」
チ 「でも?」
黒 「──個性を演出する手段としてワザと慣例を無視するのは、やめといたほうがいいと思うぞ。ごく一部の天才的な物書きを除いて、十中八九、逆効果でしかないから」
チ 「はるほど。確かに自意識過剰ナルたんの我流マンせー作文は痛々しいのです」
黒 「むう。何故か耳のあたりに刺すような痛みを感じるが、気にすまい。
以前にツイッターでも言ったけど『小説やエッセイは必ずしも教科書的に正しい日本語でなくて良い』ってのが僕様のスタンスなんで、ぶっちゃけ好きなように書けばいいと思ってる。が、同時にこう考えてもいるんだ。書籍化したい野心があるなら、ウェブ小説であっても出版界の慣例は意識すべし──と」
チ 「それはまた、どうしてなのです?」
黒 「単に現実を直視してるだけだよ。たとえば、ほぼ同じ力量の二人の作家がいて、一方の作風が出版界の定型にそった書式、他方が定型を完全に無視した書式だとする」
チ 「ふむふむ」
黒 「この場合、前者のほうが書籍化できる可能性が高いだろう」
チ 「どうしてなのです?」
黒 「校正が楽だから」
チ 「え……? そんな理由?」
黒 「そう思うだろうが、これが意外と大事らしいよ。事実、ウェブ小説が書籍化されるさい、かなり〝修正〟されることがあるだろ? ウェブ小説を〝紙の本〟に変換するための、いわば〝最適化〟ってやつだ。編集者だって人間だもの、少しでも手間のかからない作品のほうが好印象だろうさ」
チ 「うーん……いかにも御主人らしい、斜に構えた見方だと思うのですが、一理ある可能性は否定できないのです。なんか悔しいのです」
黒 「で、そのあたりをふまえて、ウェブ小説を書くときに繰り込むべき標準的書式ってやつを挙げるなら──
●場面転換、時間的空白、あるいは強調等の意味を持たない空白行は設けない。
●半角文字は使わない。
●顔文字・絵文字は使わない。また、記号はごく一般的なものに限る。
●〝……〟を〝・・・〟で代用しない。
●段落の冒頭は字下げする。
──こんな感じかな。まぁ、僕様のごときド底辺素人物書きが語る創作論なんざクソだろうけど、頭の片隅に置いといても邪魔にはならないかと」
チ 「大丈夫なのです、御主人。世の中には三度の飯よりウ●コが大好きなスカ●ロ野郎もいるのです」
黒 「……いや、それ意味が違うし」
──終劇──