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美咲の日常 香りの誘惑

「…さてお掃除をしちゃいましょう。」

 8時に心実が家を出て家に居るのは私だけになった。朝の情報番組を見ていても良いんだけどやる事は先に済ませた方がいい。私は掃除機を装備して掃除を始める。私が子供の頃なんて掃除を始めると煩くて嫌だったけど今の掃除機は本当に静か。それでいて吸引力抜群なのだから時代の変化には驚く。サッと一階の掃除を終えた私は二階へと向かう。二階にはそれぞれの個室がある。善一さんの部屋はとても片付いている。結構多趣味な彼は物が多くあるのに何故かスッキリした部屋という独自の空間を作り上げている。本棚に並ぶ漫画やラノベも順番通りに並んでいて借りる時にとてもありがたい。私が読んでいる漫画の新刊が出ていないかを確認してから掃除機をかける。善一さんの部屋にはもう一つ部屋が繋がっている。その部屋は一応仕事用にと作ったけど仕事には使っていない。偶に心実が自分の部屋で勉強に集中出来ない時に使っている。


「あの子、またここを使ったのね。使ってもいいけど片付けて欲しいわ。」

 その部屋にはつい最近使用した形跡が残っていた。恐らく春休みの宿題をする為に使ったのだろう。だけどここ数日そこまで焦った様子は見られなかった。


「…ということは…」

 私は心実の部屋へと向かう。


「…あぁ、やっぱり。…衣替えをしようとしたのね。」

 部屋の中には床が見えないほど物が散乱していた。だけどゴミが散らばっているわけじゃない。服が散乱しているのだ。恐らく春に向けて冬服から衣替えをしようとしたのだろうけど…失敗したようだ。私の学生時代の記憶が蘇り少し苦笑いしてしまう。


「ここは私に似ちゃったみたいね。善一さんに似ればあの特殊能力が使えたのに。」

 取り敢えず床に散乱した服を畳んでいく。タンスに納めるのは心実の仕事。ちょっとずつ覚えていって欲しい。


「あとは…洗濯物は後でいいし…お買い物に行かないと。確かチラシが入っていたはず。」

 二階の掃除も終えた私は今朝見た広告をもう一度チェックする。


「…あ!この柔軟剤安い。これから夏になって洗い物も増えるしいっぱい買っておかないと。えーと、それから…鳥もも肉が安いわね。鳥もも肉は色々応用が効くから冷凍しておけばいいわよね。メモメモ…。」

 チラシを見ながらどのルートで買い物に向かうかをシミュレーションをする。自転車の積載量も考えないといけないから主婦は大変ね。車で行っても良いけどせっかく天気も良いし今日は自転車にする。


「…さぁ、行きましょう。」






「…車で行けば良かったわ。」

 行きとは打って変わって疲れてしまった。思いの外お買い得品が多く自転車と私のキャパをオーバーしたのだ。だけどその成果は甚大よ。鶏肉もいいのが買えたし、春が旬の野菜も安く買えた。


「お昼何にしようかしら。心実の分も…あら?メッセージがきてるわね。」

 時刻は11時。まだお昼には早いけど何か作るなら用意もしないといけない。それにこの鶏肉や野菜達の保存処理もしないといけないし、と思っていると心実からメッセージが届いていた。そこには友達と昼ごはんを食べにいくと書いてあった。


「…そっか、私だけか。なら…今日は頑張ったし…あの子にしようかな。」

 頭の中にある食べ物を思い浮かべる。自然と口元がにやけてしまう。私はそそくさと食材の保存処理を進める。


「さてさて…ふんふふーん♪。…あった、あった。『ゴゴツ盛り』の焼きそば。…」

 やるべきことを終えた私はヤカンに水を入れて沸かす。お湯を沸かしている間に私はカップ麺置き場からあるカップ麺を取り出す。『ゴゴツ盛り』シリーズの焼きそばだ。なんとこれ1つでヤク900キロカロリーもある逸品だ。


「…きょ、今日はお掃除頑張ったし、買い物も凄く重たい物を載せていっぱい自転車漕いだし…うん、食べていいよね。あ、…辛子マヨネーズ美味しそう。」

 食べるつもりを固めていても、いざカロリーを目にすると怯みかける。だけどそんな私をパッケージの辛子マヨネーズが勇気付ける。『好きに食べなよ』、そう語りかけているようだった。


「よ、良し。開けるぞ。開けちゃうからね。」

 誰にともなく宣言した私はお湯を注ぐ為にフタを…開けた。もう後戻りは出来ない。


「…お湯を入れて…ソースとマヨネーズをフタの上にセット。タイマーオン!。」

 熟練の職人のような手つきで焼きそばのセットを完了する。タイマーのスイッチを押した私は立ち上がり冷蔵庫に向かっていた。更なるカロリーの爆弾を取りに向かっていたのだ。


(…い、いいの?私。流石にやりすぎじゃない?。…でも…我慢出来ない。)

 私は冷蔵庫から2つのモノを取り出した。紅ショウガと天かす。カップ焼きそばを進化させるアイテムだ。


「…ゴクリっ…。…」


『ピピピピ!…ピピピピ!。』

 タイマーの音が鳴り響く。私は焼きそばのカップからお湯を捨てる。北海道の方では焼きそば弁当という商品があってそれにはこの捨てるお湯を使って作るスープが付いているらしい。


「…しっかり湯切りしたら素早くソースとマヨネーズを混ぜる。」

 ワシワシと麺とソース、マヨネーズを混ぜる。湯気に乗って香ってくるソースの良い香り。そして辛子マヨネーズの少し鼻にくる匂いも食欲を刺激する。


「そしたら天かすを散らして最後に紅ショウガを乗せる。」

 完成したのは欲望を掻き立てる悪魔の食べ物だった。私は手を合わせて高らかに宣言する。


「いただきます!。」

 私の幸せな昼食の時間は過ぎていった。




 あ、ふ、普段からこんなに食べてる訳じゃないの!。今日はたまたま、コンディションが整ったから食べただけで。ほんと、ふだんはもっとお淑やかな物を食べているです。信じてください。日常じゃないの。

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