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善一の朝 (出社)

 朝8時半に会社に着く。『善リンクス』、それが僕が勤める会社の名前だ。


「…あ、社長おはようございます!。」


「おはよう。山口君、今日は記念日申請してたね。確か娘さんの誕生日だったかな。…大事にするんだよ。」


「はい!ありがとうございます!。半休頂くんでそれまで全力で働きますよ!。」


「まぁ、僕としては記念日ぐらい全休してくれても構わないと思うんだけどね。」


「いや、そんな。半休貰えるだけでもありがたいことですから。では…失礼します。」

 会社に入ったところで社員の山口君と出会った。彼は今年27歳。今日は1歳になる娘さんの誕生日なので記念日申請をしている。僕の会社では家庭内での記念日に申請すれば休みが貰えるようになっている。帰る家庭を大事にして貰いたいからだ。勿論既婚者だけを優遇している訳ではない。独身者も有給とは別の『なんとなく休暇』が与えられている。特に理由がなくても半休が出来る制度だ。社員からはこの制度のお陰で人の少ない映画を見に行けたや、夢の昼呑みが出来たと感謝の声が届いている。


「…おはよう早見さん。今日も早いね。」

 山口君との会話を切り上げた僕は自分の個室へと向かう。僕としては個室じゃなくてみんなと同じフロアに居たいのだけど体面的に個室がないと駄目らしい。まぁ、良くフロアに出ているから余り関係ないけど。僕の個室はもう一つの部屋を通過していくんだけどその部屋は僕の秘書の早見さんともう1人の秘書高丸君が使用している。


「おはようございます、社長。当然です、秘書が社長より遅く来るなんて有り得ません。」

 早見さんはピシッとしたレディースーツを着ている。この会社では服装は自由なんだけど彼女は殆どスーツしか着ない。なんでも秘書としての礼儀らしい。


「高丸君はまだ来てないけどね。」


「あの男は…、…社長が甘やかすからですよ。全く……秘書としての心構えが出来ていません!。」


「と言っても就業時刻には間に合うしね。それに彼は優秀だ。あ、勿論早見さんもね。」

 早見さんとまだここにいないもう1人の秘書の話をする。僕としては就業時刻に間に合っていれば問題ないように思うんだけど早見さん的には違うらしい。彼女なりの秘書としての覚悟なのだろう。だから僕はこの時間にしか会社にこない。1度早見さんより早く来た時彼女は辞表を出さんばかりに落ち込んでいたから。危うく優秀な秘書に去られるところだった。


「おはよーございまーす!。春らしい良い天気になってきたっすね!。今日会社の中庭で会議とかしたら気持ちよさそうっすよ。」

 僕が来てから15分程経った頃、高丸君が来た。彼は背負っていたリュックを机の上に置くと僕にそう提案してくる。…成る程…一理ある。今日はなかなか良い陽気だし、良いかもしれない。高丸君の発言はいつも縛られていない。目から鱗が落ちるとはこの事か。


「こら、高丸!。またお前は訳のわからないことを。そもそも、いつも言っているが来る時間が遅い!…それに服装もだらしがない。いいか、秘書というの…」

 そんな高丸君だが早見さんに早速説教されている。どうやらこの2人は水と油のような関係らしい。そんな2人を同じ秘書として扱うのは問題があるかと思ったが2人とも『問題ない』とのことっだったのでそのままにしている。


「まぁまぁ、早見さん。…中庭で会議悪くない。でも風が吹けば書類が飛ぶし、日光の下で文章を読むのは存外疲れる。だから今日の昼休みにみんなでランチをしよう。お弁当を持ってきてないこの為にも…何がいいかな。」


「社長!俺ピザがいいです!。ピザとチキン!。」


「高丸!。…」


「そうか、ならそうしよう。歓迎会費がいくらか残っていたからそれでピザを取ることにしよう。早見君、高丸君、各部署への伝達お願いします。今日の昼休みはなるべく早く早くとること。そして中庭に集まること。社長命令で回しておいてください。」


「やった!流石社長!。行ってきまーす!。」


「…社長、甘やかさないでくださいと…あれほど。…では私も経理への連絡とピザの手配をして参ります。」

 高丸君と早見さんが秘書室から出ていく。僕はその奥の個室に入り窓を開ける。


「んー、さぁ、今日も楽しく仕事をしようかな。」

 これは僕のなんでもない出社風景だ。

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