なんでもない日 堀田心実
私、堀田心実の朝は6時の起床から始まる。私は朝起きてすぐシャワーを浴びる。と言っても軽く体の表面を流すぐらい。頭を濡らしてしまうと面倒だしタオルを巻いてはいる。軽く十分ぐらい浴びて体を拭く。そしてこの時にある儀式を行うことにしている。…体重測定だ。
「……よし。…………ふぅーーー、…大丈夫だった。」
体重計に表示された数字を見て安堵の息を漏らす。何を大袈裟なと思うかもしれないけど現役女子高生には1キロの増加が死活問題なのだ。そこの所を理解していない高校の男子達は女子から陰口を叩かれていることを自覚した方がいい。おっとそんなことを考えていると時間が迫っている。私は慌てて自分の部屋に戻る。中は平均的な女子高生よりちょっと豪華かもしれない内装。パパが頑張って働いてお金を稼いでくれた成果だ。私は壁にかかった制服に着替える。私が通っている学校の制服は他校からも人気になるぐらい可愛い。この制服の為に進学を希望する生徒もいるらしい。
私は急いで制服に腕を通す。廊下に耳を済ませるとパパが洗面所に向かう足音がする。
(…ヤバい、少し遅れてる。)
普段よりも制服が着れていない現状に焦りを覚える。慌てて制服を着た私はパパがいる洗面所へ入った。
「…えへへ、ココも、うがいするね?。」
パパは毎朝起きるとうがいをする。そのタイミングを見計らっているのだ。これも親娘の大事なスキンシップの時間である。
「心実、髪の毛が跳ねてる。ちょっと待って。」
パパが私の髪の毛に触れる。その瞬間に心臓が高鳴る。予想外の積極的なスキンシップに耐えらない。なんとか平静を保ちながらパパにお礼を言う。
「…ありがとう、パパ。…ん、パパ上手だね。」
お礼を言っている途中で言葉に詰まってしまう。だってパパが寝癖を直すだけでなく髪を梳いてきたんだもん。優しく私の髪を指で梳いてくれる。
「まぁ、ずっとやってきたからね。…よし、これで大丈夫だ。」
最後にパパがぽんっと頭の上を撫でてくれる。そして朝の恒例のセリフを口にする。
「ねぇ、ココ、今日も可愛い?。」
「あぁ、可愛いよ。」
パパも慣れたもので素直に可愛いと言ってくれる。ふふっ、パパはまだ気付いていない。普段から可愛いという言葉を使わせることによって無意識のうちに私のことを大好きになるという作戦が発動していることに。私はにやけ顔を見られないように洗面所を出ていく。
(…これから少しの間はママの時間なんだよね。)
その間に連絡事項とかを話しているらしい。私だって鬼じゃない。パパとママの2人きりの時間を完全に邪魔する気はない。
(………もう良いよね。)
10分ぐらい我慢してリビングに向かう。案の定ママとパパが楽しそうに会話していた。私も朝ごはんを食べながら会話に混ざる。話題は今朝のニュースのことだった。
「それじゃあ行ってくるよ。」
7時半になってパパが仕事に向かう。ママと2人で見送るのが習慣だ。パパの仕事はスーツを着なくてもいい。リラックスして話し合うのが大事なんだって。だからパパは私服で仕事に行くんだけど、それもとても似合っている。
「…心実、今日パパ6時には帰ってくるんだって。心実も昼頃には帰ってくるんでしょ?。」
「うん、今日は始業式だけでクラブもないしね。だから昼ごはん作っといてよ。」
「えー、面倒くさいわ。カップ麺じゃダメ?。」
パパが仕事に行ってからママと今日の予定について喋る。今日は始業式、特にすることもなくクラス替えがあるだけ。それだけならメールとかで回してくれたら良いのに。
「んー、たまにはいいか。」
結局この日は友達とご飯を食べにいくことになった。
「あ、そろそろ行かないと。」
8時になって私は家を出る。学校まで自転車で15分の距離でたまに昼休みに忘れ物を取りに帰ったりしている。私立だから遠くから来てる子も居るんだけどいつまで羨ましがられる。雨の日でもバスが出ているから問題無し。友達が遊びにくる時もそのバスで来ることが多い。
「…今年も良い一年になりますように。」
私は家を出るときそう呟いた。今年は受験もあるしね。
結局友達とご飯を食べに行ってお喋りして帰ってきたから夕方前に帰ってきた。クラスも概ね問題ない編成だった。友達と軽く話して校長先生の長すぎる話を聞いて学校は終わり。そんなのだけならやる必要なんてないよね。その後は少し筋トレした。ブラバンって結構筋力が必要なんだから。
「ただいまぁ。」
5時半過ぎにパパが帰ってきた。私は玄関に向かう。ママも同着だった。
「お帰りなさい。カバン預かります。」
ママがパパからカバンを預かる。その時私はあることに気が付いた。パパのカバンを持つ手と逆の手に箱が握られている。そしてその箱に描いてある絵に見覚えがあった。確か…雑誌で……ケーキ屋さんのだ!。
「お帰り!パパ!。あ、それケーキ!。わーい、パパ大好き!。」
その箱がケーキ屋さんのものだと分かると歓声を上げてしまう。そのケーキ屋さんは雑誌に載るくらいに有名な店なのだ。しかも多分私のために買ってきてくれたんだ。今日から高校3年生だから。パパは昔からそういうイベントを大事にしてくれる。パパは箱をママに渡すとお風呂に入りに行った。この間に晩ご飯の仕上げをするのだ。そしてパパがお風呂から上がったら晩ご飯。今日あったことを色々話す。って言ってもそんなになかったけど。晩ご飯を食べた後は皿洗い当番じゃないことを確認してお風呂に入る。うちではママが最後にお風呂に入ることが多い。なので必然的に私が2番目になる。
「あがったよー!…パパ髪の毛拭いて!。」
お風呂から上がった私は寝間着代わりの短パン、Tシャツ、パーカーを着てリビングに向かう。そこではパパがドライヤーと櫛を手に待機している。これも昔からの習慣で私の髪はパパが乾かしてくれる。その時私はとても幸せな気分になる。友達に言ったらそんなの絶対に嫌と言っていたけど何言ってるのか分かんない。
「…ふぅ、あがりました。それじゃあケーキを食べましょうか。」
私が髪を乾かしてもらっている間にママがお風呂から上がってきた。そして待望のケーキの時間がやってくる。
「ケーキ!…ケーキ、ケーキ、ケーキ!。うわぁ、どれにしよう。」
ケーキの箱に中にはケーキが六つ入っていた。1人二つずつで一つは明日の朝に食べることになる。私は真剣に悩んでいた。中のケーキはどれも美味しそうに輝いていたのだ。私は結局苺のタルトにしたんだけどパパに予想通りだと言われた。私の好みをしっかり覚えてくれているパパ。とても嬉しい。
「パパ、ココの事分かってる!。」
その後はケーキを食べながら3人でゆっくりテレビを見た。とても幸せな時間なんだと思う。