母校に行く機会は少ない
今日は心実の体育祭。高校の体育祭は親の来校をそこまで計算していないのか平日に行われる。僕も行くかを迷っていたんだけど心実の最後の体育祭だから出席する事にした。心実に黙って。朝いつものように美咲と心実に見送られて家を出た。その後は駅の近くにある喫茶店で時間を潰していたのだ。暫くすると外行きの服を来た美咲が入ってくる。
「ごめんなさい、少し遅くなってしまいました。」
僕がいる席を見つけた美咲は申し訳なさそうにしながら席に着く。
「いや、別に気にしなくても良いよ。そんな直ぐに始まるって事は無いだろうし。…あ、コーヒーをもう一つお願いします。」
通りかかったウエイトレスに美咲の分のコーヒーを頼みながら気にしないように伝える。実際待っていたのは三十分程だ。
「学校久しぶりじゃないですか?。私は心実の面談の為に何度か行ってますけど。」
「うん、そうだね。最後に入ったのは…心実の入学式の日かな。高校生にもなると親が関わるイベントがなくなるから。」
中学生の時には授業参観や合唱コンクールなどがあったが高校ではそれもない。唯一が学園祭なんだけど今までの二回はどれも仕事が入っていて行けていなかった。
「心実の入学式の時はびっくりしたけどね。校舎が一つ建て替えられているんだから。今回はそこまでの衝撃はないだろうけど楽しみだよ。」
僕が学生の頃芸術の選択科目や家庭科の調理実習をしていて建物が新しくなっていたのだ。まぁ、確かにボロくて夜とか怖かったけど。あ、なんで僕が夜の校舎について知っているかについてはまた別のお話です。
「本当に?…食堂が変わってますよ。今は大手の会社が運営しているみたいね。」
「え!本当に!。…あー、あのおじさんも限界だったか。」
衝撃はないだろうと言った側から恥ずかしいが大ニュースだ。食堂にはお世話になったものだ。1日に5食食べていた僕は食堂の常連だった。おじさんは僕のことを気に入ってくれていて食堂が閉まる時に余っている物があったら貰ったりしていた。…そっかー、もう僕がおじさんだもんな。時の流れを感じる。
「私は食堂で学食を食べた事無かったからあんまり思い出はないんですよね。菓子パンとかアイスならあるんですけど。」
「お弁当を持ってきてる子はそうだよね。って僕もお弁当は持たされていたんだけど。」
お弁当だけじゃない。おにぎりも持たしてもらっていた。それでも足りなかったのだ。成長期とはそういうものだ。
「お義母さんが善一さんはお弁当を2時間目と3時間目の間に食べてしまうから大変だって言ってましたね。実は男の子は早弁が出来て羨ましかったです。流石に女子で早弁は恥ずかしいので。」
「…そう?お腹が空いたら仕方ないと思うけどね。」
クラスの女の子は…あぁ、だから女の子はお菓子を持って来ていたのか。早弁を回避する為に。長年の謎が解けた。
「あ、そろそろ行きましょうか。」
気づけば美咲はコーヒーを飲み終わっていた。その言葉に僅かに残っていたコーヒーをぐいっと飲み干し僕達は懐かしき学び舎に向かった。