大会じゃなくて祭
「いけーっ‼︎。頑張れー!。」
大声で声援を送る。今は体育祭の真っ最中。例年1回目の外部テストが終わる6月初めに開催される。3年生はこの体育祭で溜まった鬱憤を発散させるのだ。
「あーー、惜しかったね。あと少しだったのに。」
私の所属するチームは2位だった。体育祭は3学年合同の縦割り。それぞれ一クラスずつになっている。チーム毎に色の違うTシャツが支給されていてこの体育祭Tシャツは後日運動部の子達が練習で着ていたりする。
「あっつー。まだ6月なのに。ねぇ、ジュース買いに行こ?。」
御厨が誘ってくる。うちの高校の体育祭は緩い。ずっと指定の場所にいないといけないなんて事は無いし、途中でジュースだって買いに行ける。学校内の自販機だけど。今日だけは普段禁止されているスマホやカメラなんかオッケーだ。実際優香は他のクラスの友達と写真を撮りに行った。中学の時はきっちりと練習もしたし自由な時間なんてなかった。やっぱり祭りだからかな。なんて考えながら私は財布を持って御厨と自販機に向かう。午前中にはもう私達が出る競技はないから時間もそんなに気にしないで良い。
「今日って心実は親来るの?。」
「うーん、どうだろ。特に何も言ってなかったけど…。どうして?。」
生徒の親には入校許可証が発行されている。昨今学校への不審者の侵入が絶えないのでその許可証がないと入れないようになっている。唯一の例外が文化祭だけだ。
「いやー、うちの親が挨拶したいって言ってるんだよね。ほら、私と優香って結構心実の家に遊びにいくからさ。その時にお世話になってるし。」
「んー、そんなの気にしなくても良いと思うけどな。」
パパもママも面倒に思っていないはず。寧ろ色々と話が聞けて喜んでいると思うけど。
「いやいや、ダメだよ。ご飯だってご馳走になってるし、帰りに雨が降った時なんてわざわざ車で送ってくれたし。ママさんだけなら家の喫茶店に招待したら喜んでもらえるかもしれないって言ってたけどやっぱり挨拶はしたいって。」
確かに、ママは紅茶が好きだ。御厨がママとあれだけ紅茶の話が出来るのだからその親も詳しいに違いない。普段私とパパとは紅茶の話が出来ないママは招待されればそれだけで喜ぶだろう。
「…電話してみるよ。………あ、もしもしママ?。」
来ているか分からないのでママに電話をかけてみる。パパは仕事中かもしれないからだ。ママは電話に出たのだけど少し雑音が聞こえる。なんだろう、買い物にでも出てるのかな。
「…今どこ……え、ちょっと待って。…電話から私の声が聞こえ…」
今何しているのかを聞いたのだが不思議な感覚を覚える。耳から私の声が聞こえるのだ。一瞬頭が真っ白になったその瞬間、私達の後ろから
「後ろだよ。心実。」
パパの声がした。
「…きゃ‼︎……」
あまりの驚きで叫び声を上げてしまう。これに関しては仕方ないよ。その勢いで転けそうになるけどパパが支えてくれた。
「あ、ごめん。声をかけようとした時に丁度美咲に電話がかかってきたもんだから。」
「もう!…本当にびっくりしたんだからね!。」
パパが支えてくれたから既に怒りより照れの方が大きいけど取り敢えず抗議しておく。こうすればパパは次のデートの時に服を買ってくれるかもしれないからだ。私はチャンスを逃さない女なのだ。落ち着いた私はパパとママに御厨の親が会いたがっている事を伝える。2人はそんなの逆に悪いよと言っていたが御厨は余程念を押されているらしく既に連絡してしまったようだ。結局食堂前の自販機の前で集合する事になった。