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なんでもない日  

 僕、堀田善一の朝は6時半の起床から始まる。目を覚ました僕は先ず顔を洗いに行く。物心ついた時からずっと続けている習慣でこれによってしっかりと意識を覚醒させることが出来る。


「…あ、パパ。おはよう!。」

 うがいをしていると娘が入ってくる。堀田心実、僕の大切な一人娘だ。心実は既に制服に着替えている。というより毎朝シャワーを浴びている。そこまで暑くないとは思うけど年頃の女の子だから別に構わない。


「…えへへ、ココもうがいするね。」

 心実は自分の事をココと呼ぶ。幼少期からの癖なのだろう。外ではちゃんとしているようなのでこれも気にしない。単純に可愛いし。心実と隣あってうがいをする。


「心実、髪の毛が跳ねてる。ちょっと待って。」

 鏡に映る心実の髪で跳ねている所を見つけた。後ろの方だから自分では見えなかったんだろう。僕は心実の後ろに周り手で髪を梳いていく。


「…ありがとう、パパ。…ん、…パパ上手だね。」


「まぁ、ずっとやってきたからね。…よし、これで大丈夫だ。」


「ねぇ、ココ、今日も可愛い?。」


「あぁ、可愛いよ。」

 実はここまでのやり取りは毎朝の恒例となっている。心実は僕の言葉を聞くと嬉しそうに洗面所から出て行く。


「…いつまで僕の相手をしてくれるのかな。」

 心実の背中を見ながらそんな事を言う僕。心実ももう高校生だ。彼氏が出来れば僕のことなんか相手にしなくなるだろう。…父親というのは難儀なものだ。


「アナタ、おはよう。朝ごはん、出来てるわ。」

 リビングに入ると妻が待っている。堀田美咲、僕の自慢の妻だ。彼女との出会いは高校の時。出会ってからは特に何もなかったのだけど大学で再開して意気投合した。因みに彼女が僕の初めての彼女であった。初めての彼女と結婚できた僕は幸せ者だと思う。


「ありがとう、美咲。…うん、今日も美味しいね。」

 僕は席に着き朝ごはんを食べる。今日は和食だった。僕には食べ物の好き嫌いはないのだが強いて言えば美咲の作った料理が好きだ。以前そう伝えたら美咲は照れてとても可愛かった。


「…今日は夜6時には帰れると思う。…帰りにケーキ買ってくるよ。」

 美咲に今日の帰宅予定時間を伝える。僕の仕事は殆ど残業はないのだけど偶に遅くなる時がある。先に伝えておかないと美咲と心実はずっと待っててくれるので日頃から予定を言うようにしているのだ。ケーキは今日が心実の高校3年生最初の日だからだ。つまり始業式。大したことないかもしれないけど大事にしていきたい。


「えぇ、楽しみに待ってるわ。あの子も今日は部活もないだろうし。」

 心実はブラスバンド部に入っている。美咲と同じだ。普段は部活があるのだが今日は始業式だけで終わる為ないらしい。


「それじゃあ行ってくるよ。」

 朝ごはんを食べ終わった後、歯を磨き、服を着替え(スーツではない)、家を出る準備を完了する。時刻は7時半。少し早くなったがまぁいいだろう。


「はい、いってらっしゃい。善一さん。」


「パパ、いってらっしゃい!。」

 妻と娘の2人に見送られて家を出る。これは心実が大きくなってからも変わらない朝の習慣だ。それだけで今日一日頑張る気力が湧いてくる。








「ただいまぁ。」

 午後5時45分。仕事を終えた僕は家に帰ってきた。僕の声に反応して妻と娘が玄関にやってくる。別に出迎えなくて良いと言っているのだけど2人とも家にいる時は出迎えてくれる。


「お帰りなさい。カバン預かります。」


「お帰り!パパ!。あ、それ、ケーキ!。わーい!パパ大好き!。」

 僕からカバンを預かってくれる美咲と僕が持っているケーキの箱を見つけて小躍りする心実。


「こら、ココちゃん。パパは疲れてるのよ。…アナタ、先にお風呂どうぞ。」

 美咲が僕にお風呂を進めてくる。これもいつもの事で僕は言われるがままにお風呂に入る。そして僕がお風呂に入っている間に晩ご飯の仕上げをするのだ。そしてお風呂から上がると晩ご飯だ。美咲の手作りのおかずが並ぶ。


「美味しそうだ。…いただきます。」


「「いただきます。」」

 ご飯を食べる時あまり喋らない家庭もあるみたいだけど僕は気にしない。家の中なのだからそんな決まりより会話を大事にしたいのだ。美咲からはテレビで見た面白いニュースの話を、心実からは学校での話を聞く。実はこれが結構仕事に役立ったりしている。僕の仕事は人との会話が第一だから。


「それじゃあ私、先にお風呂入ってくるね。」

 晩ご飯を終えた後心実がお風呂に入る。僕はその間に食べ終わった食器の片付けだ。この食器の片付けは当番制になっており3日交代だ。それが終わると僕はドライヤーと櫛を手にリビングで待機する。これから僕の最後の仕事があるからだ。


「あがったよー!。…パパ、髪の毛拭いて!。」

 風呂上りの心実がやってくる。美咲は心実と入れ替わるように風呂へと向かう。心実は寝間着ではなく短パンとシャツ、その上にパーカーで夜寝る。そして髪の毛にはタオルが巻かれていた。そう、僕の最後の仕事は心実のドライヤー係だ。


「ふんふん〜、…気持ちいいなぁ〜。」

 ドライヤーを当てられている心実が鼻歌を歌っている。因みに場所は僕の膝の上。ここが心実の指定席になっている。僕は手早く心実の髪を乾かす。長い間湿っていると髪に良くないし、心実が風邪をひいてしまうかもしれない。


「…ふぅ、あがりました。それじゃあケーキ食べましょうか。」

 お風呂から美咲が上がってきて買ってきたケーキの箱を取り出す。美咲も以前は髪の毛を僕が乾かしていたのだが最近は遠慮して頼んでこない。今度時間がある時にやってあげることにする。


「ケーキ!。…ケーキ、ケーキ、ケーキ!。…うわぁ、美味しそう!。どれにしよう。」

 ケーキの言葉に反応した心実が机に飛んでいく。そしてケーキの箱の中を覗き込む歓声を上げる。そこまで喜んでくれて僕としても嬉しい。会社の女性社員に聞いて良かった。


「心実から好きなものを選んでいいよ。」


「本当に⁉︎…えー、迷うなぁ。…うーん、これにしよ!。」

 一応今日ケーキを買ってきた理由である心実にケーキを選ぶ優先権をあげる。心実は迷っていたようだが苺の乗ったタルトを選んだ。


「やっぱり、それか。心実が選ぶと思ってた。」

 心実が選んだのは僕が心実が好きそうだと踏んでいたタルトだった。子供の好みを理解できていると嬉しいものだ。


「パパ、ココのこと分かってる!。」

 心実が更に嬉しそうに笑顔を見せる。それから3人でゆっくりと話をしながらケーキを食べた。この時間が僕は大好きだ。

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