勉学に励む乙女達
今日の昼食はパパが作ってくれたサンドイッチだった。一見お手軽に見えるサンドイッチ。だけどパパの料理はどれも一手間加えられている。タマゴサンドの具にはカラシが混ぜてあって刺激があるし、BLTに使われているマスタードはパパのお手製だ。フルーツサンドのパンは冷やしてあるし、甘さを蜂蜜で出しているから優しい味わいだ。パパは簡単なものでごめんねと言ったけど私は声を大にして言いたい。
「あんた達に昼食代を請求したいぐらいだよ。」
私は目の前のこの世界で最も幸運な2人に向かってそう言う。本来ならパパの料理は私とママだけのものなのに。その相伴に預かったのだから多分今月良いことはもうないだろう。そう思うと少し気の毒ですらある。何故なら外部テストが控えているからだ。優香と御厨は張ったヤマを悉く外して…。それ以上は可哀想で言えないけど。
「…えー、ひどいよ心実。あれは心実のパパさんの善意なんだよ?。」
「そうだよ、…でももし販売するならうちのより値段は高くなると思う。お母さんのやつより美味しかったから。」
御厨のお母さんは家の中庭を改築して喫茶店をやっている。個人営業の喫茶店だがパートに出るよりも稼ぎにはなるらしい。そんな店のサンドイッチよりも美味しいと言う言葉は私の頬を緩める。…仕方ないなぁ、今日のところは許してやろう。
「おやつにはプリンがあるからねぇー。それまでに頭を使ってカロリーを消費しないと。」
私達は勉強を再開する。はっきり言って私も優香も御厨も普段の成績は悪くない。でも、だからこそ外部テストで躓きたくないのだ。あれだけ騒いでいても集中し出すとみんな参考書と向き合う。
「ねぇ、心実。ここの問題なんだけど…」
「それはこっちを因数分解してから…」
「英語が問題だなぁ、学校の英語は意味ないよぉ。」
私と御厨は数学を優香は英語をしている。数学はパパの教え通り解説がしっかりしている参考書で勉強をしたお陰が考える力がついた。優香が悲鳴を上げているのは私達の高校の英語のレベルの低さが原因だ。学校のテストは教科書や問題集の問題をそのまま出すので暗記科目と化している。だから例年学年平均で偏差値50をとれないらしい。関西ではそれなりの大学に内部進学する生徒としてそれはどうなのかと思う。外部から入ろうとしたら多分偏差値60以上はいると思うから。
「英語は兎に角、単語だよ。長文でもリスニングでも単語を知らなかったら何も出来ないよ!。」
私はパパとママから英語の単語の重要性は聞いていた。だからこそ1年生の時から単語帳だけは勉強している。単語が分かれば文法が分からなくてもなんとかなる。
「…うぅ、頑張る。今からやれば2回目には少しは効果あるだろうし。」
「んー、成る程。…あれ?心実、あんな本持ってたっけ。」
御厨が私の机に並べてある簿記の本に気がついた。
「ん、あれは…将来への第一歩だよ。ちょっとずつ将来のことも考えないとね。」
私がやりたいことが決まっていると言うと2人はびっくりしていたけど興味をもって聞いてくれた。
「へー、大学に入る前からやりたいこと決まってるはいいね。私なんかまだ何も決まってないよ。」
「今は別にそれでいいでしょ。なんなら大学を卒業する時になっても決まってなくてなんとなく就職する人が殆どなんだから。」
「私もそうなりそー。もしそうなったら心実に面倒見て貰おっかなぁ。」
優香がそんなことを言う。
「だめだよ、私でも入れるかわかんないんだから。」
パパの会社に入りたいのは私も同じだ。だけどあの高丸さんに会ってその難易度を思い知った。
「やっぱり凄い人が多いの?。旧帝大とか?。」
「いや、学歴はあんまり関係ないみたい。でも…みんな自分だけにしかないスキルを持ってる。例えば…」
私は高丸さんの経歴を簡単に話す。今まで会った人で一番インパクトがあるのが高丸さんだからだ。
「え、やば。普通中卒は選べないよ。それに1年で高校の範囲全部勉強したってことでしょ?。その人天才じゃん。」
「それに並ぶのは無理かなぁ。…うん、私は大人しく華の女子大生になる。」
「その為には…?。」
「え、英語も今から頑張るよ。」