娘の成長と来客
朝食を食べ終えて少しした頃にオーブンから音が鳴る。プリンの完成を知らせる音だ。僕はオーブンに向かい中からトレーを出す。あとは荒熱をとって冷蔵庫に入れるだけ。だけど普通に置いておいて荒熱をとるのは時間がかかる。だからプリン容器を氷水につけることにする。ちょうどこの前買い物に行った時に丁度いい高さの桶を見つけたのだ。その桶に水と氷を入れてそこにプリン容器を置いていく。こうすることで荒熱とりが大幅に時短される。
「ねぇ、パパ。今日友達が来るんだけどその子達の分もある?。」
皿洗いをしてくれている心実が尋ねてくる。
「…別に大丈夫だと思うけど…。何人ぐらい来るの?。」
「2人だよ。前にも来たことある優香と御厨!。」
あぁ、確かに聞いたことがある名前だ。2人とも心実と同じクラスだったはず。
「2人なら問題はないよ。少し多めに作ってあるし。」
…僕は問題ないと思っているんだけど美咲の視線が気になる。まるで自分の餌を取られそうになっている動物みたいな目だ。
「ママ、なんでそんな目で私を見るの?。…大丈夫、2つ減っても…ママの分は変わらないようにするよ。私の取り分から渡すから。」
心実も美咲の視線に気がついたようだ。一瞬体を硬直させた後最善解を導き出す。…心実には後で僕の分を補充しておいてやろう。
「…そう、ならいいの。私、善一さんの作るお菓子が世界で一番好きだから。」
それだけ言うと美咲は洗濯物をしに部屋を出ていく。
「…こ、怖かったよ、パパ。」
「美咲はプリンが好きだからね。しょうがないよ。それより友達が来るのは何時ぐらいになるんだい?。」
「んーとねぇ、多分10時ぐらいになると思うよ。今日は3人で外部テストの勉強するんだ。そろそろ1回目があるから。」
「そうか、…頑張るんだよ。1回目は確か筆記だったよね。そこで大きく差をつけることが出来たら2回目と3回目が楽になるからね。」
記憶を遡り僕が学生だった頃の経験を話す。1回目だけが筆記形式で2回目、3回目は択一式だ。だから1回目は結構成績がばらける。僕はそこでうまく行ったので後々少し楽になった。
「うん!ココ、頑張るね。1回目でいい成績取れたら簿記の勉強をする余裕も出来るかもしれないし。」
心実は自分で決めた目標に向けて歩み出している。娘の成長は嬉しい限りだ。
「それじゃあココ、部屋を片付けてくる。」
心実が自分の部屋に向かう。
(…心実ももう18歳。いつ結婚してもおかしくない年齢なんだよな。幸せにしてくれる人と出会うまでは僕が笑顔を守ろう。)
思わぬタイミングで娘の成長を実感することになった。
「…勉強をするなら手軽に食べられるものの方がいいか。なら…サンドイッチだな。」
部屋に向かった心実を追いかけ友達が嫌いな食べ物がないかを尋ねると特にないとのことだった。昼食は用意しなくてもいいと言われたけどわざわざ出かけるのは効率が悪いだろうと言ったら了承してくれた。…家族の料理を出すのは恥ずかしいのか?いや、でもプリンには何も言ってなかったし。
「…あ、そろそろ荒熱がとれたな。あとは冷蔵庫に入れるだけ。…買い物に行こう。」
僕がプリンにしてあげられることはこれで終わった。僕は昼食に必要な材料を購入するため美咲とスーパーに向かうのだった。
「…うん、そう。…ほんと感謝してよね。パパがお昼用意してくれって。うん、…それに今日はプリンもあるんだよ。勿論パパの手作り。なんとか2人の分も確保したんだから。…この借りは高くつくからね!。」