善一とのデート 嵐山 2
お昼ご飯の後は竹林にやってきた。今の時代、竹林なんてそうそう見る機会がない。
「…凄いわね。…別空間にいるみたい。」
竹林の中に続く一筋の道。その道からの眺めは自分が今いる場所を勘違いしてしまうようだ景色だった。鬱蒼と茂る竹の中、ふと差し込む陽の光。幻想的なその景色に私は見惚れてしまった。善一さんも上を見上げて景色を楽しんでいる。
(こんな景色、写真に残さない訳にはいかないわ。)
我に帰った私はカメラを手にベストアングルを探す。何をメインに撮るかでアングルが変わるのだが…どうしよう。竹藪の静謐さ?それとも陽の光の荘厳さ。…私はこっそり景色を見て微笑んでいる善一さんを撮る。ふふふ、これでまた私の隠し撮りコレクションが潤うわ。…じゃなくて…2人で撮るなら…陽の光が入るようにした方がいいわ。ある程度アングルを決めた私は善一さんを呼ぶ。そして2人で景色に入った時の様子を確認して善一さんが他の人に写真撮影を頼む。快く引き受けてくれたその人は写真を撮り終わると私たちにお似合いだと言ってくれた。…照れる。撮ってもらった写真を確認して問題ないことが分かったら次の目的地に向かう。
「ここが天龍寺なのね?。確か世界文化遺産に登録されているんだっけ?。」
やってきたのは天龍寺。多分嵐山で一二を争う観光名所だと思う。…何が有名なのかは知らないけど。
「うん、そうだよ。足利尊氏が後醍醐天皇を弔う為に建立した寺院なんだって。」
善一さんが説明してくれる。足利尊氏の名前は聞いたことがある。確か…室町幕府の初代征夷大将軍だったはず。後醍醐天皇…は分からない。同じような名前の人が多すぎるからね。
「うわー、迫力が凄いな。それに本当にどこから見ても目線が合う。」
天龍寺で初めに見るのは雲龍図っていう天井画。天井に龍の絵が描かれているんだけどそれがどこにいても目線が合うんだって。なんか上から睨みつけられているみたいで少し怖い。…それにしても…
「こんな高さにどうやって描いたのかしら?。笑点みたいに下に座布団を敷き詰めて描いたのかしら。」
座布団じゃなくても何か積み重なるものを重ねて描いたの?。でもそれだと面倒すぎるかしら。…元々描いてあった絵を天井に持っていったのかもね。
「…ここが曹源地庭園か。」
雲龍図の後は本堂に入ってそこから庭を眺める。さっきの雲龍図の荒々しさと違ってそこはとても静かな景色だった。思わずボーッとしてしまう。善一さんにそろそろ行こうと言われるまで立ち止まってしまった。これが魅入られるってやつかもしれないわね。本堂から続く多宝殿にはどこかで見たことのある木造が鎮座していた。なんだろう…多分教科書…だと思うんだけど。善一さんにそういうと答えは後醍醐天皇だと教えてくれた。あ、後醍醐天皇だったのね。これで名前だけじゃなくて姿も分かるようになりました。多宝殿を抜けた後は御朱印を貰って天龍寺をあとにする。その後は嵐山を散策していたんだけどある店が目に止まった。
「善一さん、この店に寄ってもいいかな。」
私が興味を惹かれたのはちりめん細工という工芸品のお店だった。中には色々な小物の姿がある。善一さんと相談して家族お揃いのキーホルダーを買った。招き猫だ。家族に幸運を招いてくれる事に期待する。
「今日は楽しかったです。」
電車に乗って家の最寄り駅に着いた時善一さんにお礼の言葉を言う。私は今日疲れていたら明日ゆっくり出来るけど善一さんは明日から仕事だ。なのに私や心実とデートしてくれる。いつまでも愛されていると感じられる。そして…
(私も善一さんをずっと愛している。)