美咲とデート 嵐山
多分今日中にあと一話あげられると思います。お待ちください。
今日、僕と美咲はデートに来ている。目的地は京都の嵐山だ。歳を取るにつれて京都や奈良などに魅力を感じるようになってきた。これが侘び寂びを理解してきたってことなんだろうか。
「…ふわぁ…綺麗ね。ちょうど良い時期に来たみたい。」
美咲が歓声を上げる。それも当然だろう。だって桜が満開なのだから。僕たちが今いるのは渡月橋という桂川に架かる橋の上だ。大きな川に架かる橋の上で川の流れる音を聞きながら桜を眺める。日本人で良かったと思える瞬間じゃないだろうか。
「渡月橋を渡った所で休憩出来るみたいだ。そこでお茶しようか。」
僕は美咲に伝える。確かに渡月橋からの景色も素晴らしいけど渡月橋込みの景色も素晴らしいんじゃないかと思っての提案だ。美咲は少し物足りなそうな顔をしていたけど川辺に座ってその景色を見たら笑顔を取り戻した。
「川と橋、それに嵐山の自然が一枚の絵みたいね。あ、写真撮らないと。」
ぼーっと見ている僕と違って美咲は忙しそうだ。カバンからカメラを取り出して良いアングルがないか探している。美咲は写真を撮るのが好きだ。思い出は形に残したいと明言している通り旅行での撮影係を担っている。満足がいく写真が撮れたのか美咲が戻ってくる。そして僕に写真を見せてくれる。どれも素晴らしい出来栄えだった。
「…それじゃあ美咲、こっちによって。また自分の写真を撮り忘れているよ。」
僕は右手で美咲を抱き寄せ左手で持つスマートフォンで写真を撮る。勿論背景に渡月橋も入っている。美咲は写真を撮るのに夢中になると自分達を撮るのを忘れてしまう事がある。結果として風景の写真だけになってしまったりもするから適宜僕が一緒に自撮りすることにしている。
「…あ…ぁぅぁぅ……ぃきなりは……」
美咲が顔を真っ赤にしてあうあう行っている。この顔を見るのも結構好きだったりするからいつも不意打ちをしている。そろそろ本気で怒られるかもしれない。
「…ちょっとだけ早いけど昼ごはんにしようか。京都らしいものを食べよう。」
美咲の手を握って歩き出す。この手を繋ぐのはデートの時の約束なのだ。たまに忘れたりすると美咲と心実も悲しそうな顔をするので気をつけている。食べ物屋さんを探していると丁度いい店があった。
「…お豆腐の専門店。…お豆腐はヘルシーで体に良いって聞くもんね。この店がいいわ。」
どうやら美咲もこの店で問題ないようだ。中に入ると座敷に通される。こういうところも京都感があるよな。
「凄い豆の匂いがするね。…ギュッとした感じ。」
「そうね、楽しみ。メニューは何がいいかしら。」
店に入った途端濃い豆の匂いが舞い込んでくる。それは決して不快なんかではなく落ち着く香りだった。美咲と何にするか悩んだが店員さんお勧めの御膳にすることにした。どんな料理が来るのか楽しむ為に詳しい内容は敢えて読まないでおく。美咲は子供っぽいと言うけれど一緒に楽しんでくれる。
「お待たせしました。こちらおばんざい御膳になります。鍋の方には自家製の豆腐と湯葉、ひろうすが入ってます。ごゆっくりどうぞ。」
店員さんが御膳を持ってきてくれる。僕たちが頼んだのはおばんざい御膳。おばんざいとは京都的家庭料理のことだと何かで読んだ気がする。それとひろうすは飛竜頭と書き、がんもどきのことだ。他にも胡麻豆腐や田楽味噌などが盆の上に並んでいる。
「…美味しそうね。それにイメージ通りヘルシーそうだわ。」
「うん、…思っていたより味が濃く感じる。なんだろう、出汁の味かな。旨味を感じる。」
「…そうね、…この鍋の中の湯葉はトロッとした美味しいわ。それにこのがんもどき?もこの中で主役ね。普段そこまで気にしたことなかったわ。」
想像よりも滋養溢れる味わいに感動する。もっと淡白な味かと思ってた。思い込みはいけないな。美咲も同じようで、ひろうすを食べて驚いている。普通鍋のメインが豆腐とがんもどき、湯葉なんてことないから当然だと思う。だからこそこのシンプルながらも力強い味わいに気づくんだろうけど。
「…ふー、…お腹いっぱいになっちゃった。」
「だよね、びっくりした。」
これも驚いたことなのだがもの凄い満足感を得られたのだ。もし足りなかったら散策しながら買い食いをしようと思っていたけど…要検討だな。
「…お、豆腐ドーナツか…。心実食べると思う?。」
お会計をしようと思っていたら店頭で豆腐ドーナツが売っていた。一個一個が一口サイズの可愛いやつだ。ここにいない心実のお土産にどうかと美咲に聞いてみる。
「そうね、多分食べると思うけど。電話してみましょうか?。」
「…うーん、今日は友達と遊ぶって言ってたからいいよ。もし好みに合わなかったら僕が食べるから買って帰ろう。」
「わ、私も食べたいわ。」
結局豆腐ドーナツは15個買って帰ることにした。美咲は一応予定では今日からダイエットを始めるはずなんだけど…豆腐だから大丈夫か。