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心実、マダムと出会う。

 今日は土曜日。私は微睡みの中で時間を確認する。演奏会もないから部活も休みなのでいつもよりゆっくり眠れた。


「…ふわ〜、8時か。そろそろ起きようかな。…パパも起きてないだろうしシャワーは朝ご飯食べてからで良いや。」

 高校生になった初めての夏から私は毎朝シャワーを浴びている。最初の理由は汗だった。夏の日には朝起きた段階で寝汗をかいてしまっている。それが嫌でシャワーを浴び始めた。だけど一回始めてみるとこの週間は結構良い感じだった。バッチリ目が覚めるしスッキリする。それから毎日続けている。でも部活のない休日は浴びるタイミングを遅らせる。偶には寝ぼけるのも悪くないし何よりパパは休日比較的ゆっくり起きてくるからだ。ママだけなら気にする事ない。


「…あ、ママ、おはよう。」


「おはよう心実。…あら?…電気が。昨日の晩最後は誰だったかしら?。」


「わ、私だけど電気はちゃんと…消したと思うよ?。」

 部屋を出てリビングに向かう途中でママも起きてきた。2人で下の階のリビングに向かうんだけど電気が点いていた。…昨日の晩最後まで起きていたのは私だ。どうしても見たいテレビがあったから。でも確かに電気は消したはず。…夜中のことだから信用できない。


「…あ、おはよう美咲、心実。」

 リビングのドアを開けるとそこには新聞を読むパパが。え、何で⁉︎。いつも休日はゆっくりしてるじゃん。私は慌ててシャワーを浴びにいく。…油断した、こんな寝癖だらけのところを見られるなんて。油断禁物だよぉ。いつもより気持ち早めでシャワーを浴びて、寝癖もクシで梳かす。鏡を見て変な寝癖がないか確認した私は再びリビングに舞い戻る。そこではパパが台所に立っていた。


「…ねぇ、何でパパが台所に?。」


「早く目が覚めたから作ってくれてるらしのよ。ほら、この部屋良い匂いしてるでしょ。」

 ママに言われてみると確かに部屋の中に良い匂いがしている。グラタンみたいな匂いだ。それにパパの作った料理。確実にハズレはないから楽しみである。今か今かと待ちわびていた。


「心実、お皿を持ってきて。」

 パパから声がかかる。どうやら完成したようだ。私は皿を差し出す。その時チラッと見えたけど…ダメだ美味しそう過ぎる。思わず唾を飲み込んでしまう。…パパに聞かれてないよね?。


「凄い!これなんて料理?。」

 テーブルに着いて改めて皿の上の料理を見る。一見するとホットサンドみたいだけどホワイトソースがかかっているし上には卵まで乗っている。私の記憶にはない料理だ。パパに料理を尋ねると、


「クロックマダムだよ。」

と教えてくれた。名前カッコ良すぎない?。パパ曰くフランスの軽食なんだって。パパがナイフで半分に切ったから私も真似して切ってみる。すると中からアボカドとベーコンが見えた。それにチーズも伸びて凄く食欲をそそる。もう我慢できないと一口頬張ると、


「う!、美味しい!。…パパ美味しいよ!。」

 豊かな味が口いっぱいに広がった。ホワイトソースの旨味とベーコンの塩気、アボカドの味もアクセントになっている。私は夢中で頬張った。


「いや、毎日はしんどいかな。今日みたいにゆっくり出来る日じゃないと。」


「そうね、朝一でこれは少し重たいかもしれないわね。」

 パパとママがそんな事を言う。なんて事だ。このままではこのマダムを次に食べられるのはいつになるかわからない。私としては毎日でも良い事を伝える。パパとママは苦笑いしていたけど2人とも優しいから私が気に入ったってことがわかればそのうち作ってくれるはず。…もし駄目なら自分で作ろう。そう決意するぐらいにはマダムは私のお気に入りになった。

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