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終章 死出の旅路


 終章 死出の旅路


「えぇ……、それアリなんですか……」

「うるせぇ織……、親父の命令だ! どんなイチャモンだろうが先代や阿用郷さんに比べりゃ怖くねぇだろ!?」

「そりゃそうなんですけどね!?」

 

 ボヤく若手をどやしつけ、茨城は現場を見回る。

 生暖かい目でこちらを見る八瀬や酒天の表情は見なかった事にした。

 

 今日は桜雲組の組葬が執り行われる日。 

 準備でバタバタしている中、茨城は空の組長室の扉を見た。


 ●


 桜は満開、花弁が道を白く染めている。


 山の中に高級車が集まっている。

 中に乗っているのは各組の親分、その妻、そしてその護衛だ。


 組葬と言っても普通の葬儀と物の配置が変わる事は無い。

 前に各組長から送られた花輪があり、桜日の写真の周りに置かれている。


 中央に読経を行う場所があり、脇にはマイク。

 パイプ椅子がずらりと並ぶ、特に変わった所も無い葬儀だ。


 桜雲組の若衆が声を張り上げ挨拶をしている。

 

 直系の組の親分の顔が幾つかある。

 大体は名代として若頭辺りが来るのにだ。

 

 月影組が取り仕切る初めての葬儀。

 突如現れた新参の組の顔を見る為、お手並み拝見。

 

 そういった政治的な理由が多分に含まれるのだろう。 

 

「何で月影の親っさんと雪白君が客席に座ってるんすか」

『この度はご愁傷様です』

「ありがとうございます」

 

 水仙は堂々としている2人に声をかける。

 挨拶をした後、水仙は小声で続ける。

 

「いいんですか、こんな所居て」

「後は現場が何とかしますし、阿用郷や八瀬も居ますし」

「いえそうじゃなく」 

 

 そちらの政治的なアレコレ放置ですか。

 水仙がそう言いかけ、親分の1人が月影に話しかけようとした時だ。

 

 外の声が一際大きくなった。


 会場に蛇塚が入ってくる。

 組葬というだけでは無い真剣さが表情に浮かんでいる。

 

「兄弟、親父達来とるで」

「……」

 

 2人が立ち上がる。

 会場内が緊張に包まれた。

 

 60代程の2人。

 1人は見上げる程の巨躯を持った大男、もう1人は髭を整えた紳士。

 

 悟道会直系、檻原組、組長。

 檻原 てつ


 悟道会直系、有侠組、組長。

 有侠うきょう 真。


 直系の組の中で最大手の組。

 檻原は蛇塚の親だ。

 

 有侠が2人に座るように促した。

 檻原が無遠慮に月影の隣に座る。

 

「お疲れ様です」

「……何でオノレらここにおるんじゃ」

「今日は桜雲組さんの組葬ですから」

「そらそうや」


 月影の言葉にひひ、と檻原が愉快そうに笑った。

 蛇塚の表情も僅かに緩む。

 

 本日は客、故に月影に対する政治的接触厳禁。

 

 言外に行われたやり取りに他の組長達が目を逸らす。

 有侠が満足そうに頷いた。

 

 開始のアナウンスが流れる。

 失礼します、と挨拶をし、水仙は百合根の所に向かった。


 百合根がマイクの前に立ち、それを見守るように水仙が少し下がって立つ。

 

 組葬が始まる。


 ●


 桜の下、会場の外に2人の男が立っている。

 組葬を見守る彼らを誰も認識していない。

 

 焼き鳥の串を咥えた男が新聞をもう1人の男に手渡す。

 製作中止、完全新作製作開始の記事を見て男が薄く笑った。

 

 本日晴天、雷は落ちないだろう。


 完。


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