第6話 今日、俺は戦争の起こし方を知った
「これが一番しっくりくるな。」
Colt M45A1 CQBPを手にし、俺はそっと呟く。
「俊くん、決まったの?」
それを聞かれていたのか、奏に声をかけられる。
「ああ、これがいいと思ってる。そう思ってはいるんだけどな…」
どこか煮え切らない俺を、首をかしげながら、奏が訝しげに見つめる。
愛美先生もやってきて、「何かあったのですか?」と会話に参加する。
この時、俺はまだ知らなかった。
銃に対する二人の考えの違いを。
内に秘められた熱い思いを。
そして、戦争は簡単に始まるということを。
どうやら、知らない間にとんでもない事態に陥ってしまったようだ。
「さあ、どーしたもんかね?」
俺の眼前では、愛美と奏が。
今は職場の同僚となった幼馴染と、その生徒が本気バトルを繰り広げている。
「完成した製品には、開発者の試行錯誤の結果、そうなるべくしてなった形というものがあります。大した理由もないのに、それを変えるべきではないと言っているのです。」
「そんなこと言って、先生だって銃をカスタマイズしてますよね⁉︎サイレンサーとダットサイトまでならわかりますけど…。なんですか⁉︎あのブースターとグリップは⁉︎変えまくりじゃないですか!」
「あれにはれっきとした理由があるんです!」
「どんな理由があるって言うんですか⁉︎拳銃には見えないほど大きくなってるじゃないですか⁉︎明らかにやりすぎですよ!」
さっきから話を聞いてみてはいるものの、こうなった理由がいまいちわからない。
どうやら銃の改造について揉めている様だが…
ただまあ、こうなった原因らしきものは見つけた。
言い争う愛美と奏の間に挟まれ、呆然と立ち尽くしているあいつ。
そう、和泉俊秋がすべての鍵を握っているはずだ。
施設に設置された監視カメラを一瞥する。
脳裏には血管を浮き上がらせた学年主任の顔が浮かぶ。
このままだと始末書は免れないだろう。
減給も十分に考えられる。
下手したら、それ以上のこともありえるかもしれない。
それはマズイ。
なんとかしてこの騒ぎを止めなくては…
そのためには、やはり秋を助け出して、あいつから話を聞き出すしかないだろう。
まったく、メンドクセーな。
「秋、大丈夫か?」
俺は自分の担当する班を一番まともそうな綾音に任せ、騒ぎの渦中にいる秋を引っ張りだした。
「はい、なんとか。すいません、助かりました。」
「それはなによりだ。じゃ、さっそくで悪いが、質問に答えてもらおーか。どーしてこうなった?」
この問いに、秋は顔を引きつらせながら答える。
「ハンドガンをM45A1にしようかと思ったんですけど、本体とグリップパネルの色が好きになれなかったんですよ。だから、カラーリングを変えようと思ってるって二人に言ったら、この有り様です。」
確かに、M45A1は好みの分かれる、俗に砂漠カラーやタンカラーとも呼ばれる茶系色のものしかラインナップにない。
秋はそれが気に入らずに変えようと思ったわけか。
俺としては、それは所有者の「こだわり」だし、好きに弄り倒せばいいと思うが…
ただ、愛美の方は原物至上主義者的な面があるからな。
秋の考えを否定的に受け止めたと考えられなくもない。
だが…
「いくらなんでもなぁ。たかがカラーリングのことでここまでの事態に発展するわけが…」
「正当な理由があるならば、より良いものを目指して手を加えることも致し方ないとは思います。ですが、今回は違います。こんな下らない理由で本来の姿を変えるべきではないのです!」
「俊くんには俊くんなりに、これを選んだうえで手を加えたい理由があるんです!それを下らないなんて…。いくら先生でも納得できません!」
……………。
「すまん、俺が間違っていたみたいだ。」
「いえ、俺もそう考えるのが普通だと思いますし…」
今行われているこの無意味な議論こそが一番下らないと思うのは、俺だけだろうか?
まったく、愛美も熱くなりすぎだろ?
ここまでさせてる奏もなかなかのものだけどな。
このまま放置して、どうなるか傍観してみるのも一興ではあるが…
残念ながら、二人を止めないことには俺と、ついでに愛美の給料が危険に晒されたままだ。
そろそろ行動に移さないとな。
「秋、お前はどーにかして奏を止めろ。俺は愛美先生を止める。」
「どうにかって…?」
「『どーにか』は『どーにか』だ。『なんとか』と言い換えてもいい。羽交い締めでもなんでもして止めるんだ。そんで、どーにかなった暁には、愛美先生を説得するとしよーじゃないか。」
俺の言葉に、くもっていた秋の表情が色を取り戻していく。
「いいんですか⁉︎」
「いいもなにも、これからお前が使う銃の話だからな。教師は助言することはあっても、生徒に価値観を押し付けるべきではないというだけのことだ。今は頭に血が上って周りが見えてねーみたいだが、愛美先生もそこんところは心得ているはずだ。」
俺とは違って、あいつは根っからの教師だからな。
「さあ、準備はいいか?」
「はい!」
「よし、行くぞ!」
俺たちは火花を散らす二人の間に割って入る。
「よう、愛美。楽しそうなことしてるじゃねーか。」
「奏…」
「え?」
「俊くん?」
「さっそくだが、ちょっと来てもらおーか。」
「え?ちょっと…」
思わぬ乱入者に困惑する愛美を、俺は生徒のいない壁際まで誘導する。
「奏はこっちだ。」
「う、うん。」
秋の方も、手はず通りに俺とは反対方向に奏を誘導している。
なかなかどうして、秋の奴も手慣れているじゃないか。
あっちは任せても大丈夫そうだ。
「さて、愛美さんよ。いったい何してんのさ?俺の暴走を止めるのがあんたの仕事だろ?自分がはしゃいでどーすんのよ?」
「…………」
「これは生徒が自分の相棒を決めるための時間だ。俺たちがやるべきは価値観の押しつけじゃないはずだ。わかってんだろ?」
「……。そう、だね。」
愛美が静かに口を開く。
「ごめん。頭に血が上っていたみたい。」
こいつは自分の非を認め、素直に謝ることのできる人間だ。
だからこそ、俺たちのなかで一番教師に向いているといえる。
教師も人間である以上、どこかで失敗することはある。
誤って生徒に間違いを教えてしまうこともあるだろう。
例えそれに気づいても、「教師」という肩書きとプライドが邪魔をして、これを訂正し、謝罪できる者は数少ない。
だが…
「ごめんなさい。私が間違っていました。自分の価値観に囚われすぎていたようです。」
愛美の前には、秋と奏の二人が並んでいる。
「私の方こそ、すみませんでした!先生にあんな…」
「いえ、気にする必要はありません。あれは私のミスです。俊秋くんも、自分の好きなように注文して下さい。」
「はい!でもその前に、少し相談に乗ってもらってもいいですか?」
「もちろんです。どういった内容でしょうか?」
「ここなんですけど…」
あの様子なら、もう心配はいらないだろう。
「良い先生ね。愛美先生は。」
「ん?お前もそー思うか?」
「ええ。これでも人を見る目はあるつもりよ。」
「だろーな。それじゃ、俺ことはどー思うよ?」
「さあ?どうかしらね?綾の知ったことではないわ。」
「そいつは残念だ。」
<和泉俊秋のM45A1>
・製造メーカー「Colt (コルト)」
・製造国「アメリカ」
・正式名称「M45A1 CQBP」
・通称「M45A1」、「M45」
・ハンドガン
・ブラックカラー
・装弾数7+1発 (ロングマガジン使用時 14+1発)
・特注のブラックカラーに、パックマイヤー製のラバーグリップパネル、アンダーレールにはLAMをそれぞれ装着している。
・見た目が完全に「M45 MEU(SOC)」であることを奏に突っ込まれている。