第5話 愛銃の決め手は…
ずらりと並んだ射座。
その先には、ど真ん中に当ててみせろと言わんばかりに円形の標的が鎮座している。
初めて来た施設だが、なにをする場所かは明白だ。
そう、ここはいわゆる「射撃じょ…
「よーこそ諸君!ここは『Pull The Trigger 101』って名前の施設だ!ちなみに、命名者は学園長になる。いい趣味してるだろ?」
ぷるざ?なんだその名前は?思っていたものとは似ても似つかないんだが…
しかも、あの昔気質で堅物そうな学園長が横文字を…?
「っても、長いしわかりにくいから『射撃演習場』とか、単に『射撃場』って呼ばれることの方が多いわけだが…。まあ、最初ぐらい正式名称で呼んでやってくれ。」
結局は「射撃場」かよ⁉︎
「さて、いうまでもないとは思うが、これからやるのは諸君の相棒選びだ。」
しかも施設の説明が終わってしまった。
あまりのあっけなさに、もう二度と名前を聞くことはないという確信と、なんともいえない肩透かし感が込み上げてくる。
「というわけで、こいつを見てもらおうか。」
生徒の複雑な心情変化には目もくれずに、夏先生は自身の背後にある台車のもとへと移動していく。
一列に並べられた6台の台車には、いくつもの黒いケースが乗っている。
夏先生は一番左の台車に乗せられたケースに手を添える。
「この台車から順に、『.45ACP』、『9mm Parabellum』、『リボルバー』、『1911系列』、『Glock系列』、『頭おかしいやつ』。全部で6種類の銃を用意した。」
台車から台車へと移動しながら、順番に中身を教えてくれる。
一言で、的確に、それも包み隠さずに。
「これから皆さんには5人1組で、6つの班に別れて活動してもらいます。」
そして、教師は不安に震える生徒を置き去りにしていく。
それは愛美先生も例外ではなかった。
「各班に1台ずつカートを割り振りますので、銃の試射を繰り返しながら、性能や使い勝手を確認して下さい。20分おきにカートを入れ替え、一周した後に10分間の自由試射を行い、最後に注文票を書いてもらいます。今日選んだ銃を3年間使っていくことになるので、しっかりと考えて、自分にあったものを選ぶようにして下さいね。また、それぞれの班には和泉先生、私、それから3年生の先輩たちがつきます。わからないことや質問があれば、遠慮せずに聞いて下さい。」
「じゃ、1班からいくぞー。名前を呼ばれた奴は一番右のカートに集まってくれ。」
班分けの結果、俺は愛美先生が担当する第2班になった。
そして…
「俊くんは銃の好みとかってあるの?」
それは奏も同じだった。
ただ、これはツイているかもしれない。
奏は保有する能力から、「狙撃銃」への適性が高い。
そのため、高校入学以前から主力たる3挺のスナイパーライフルと、バックアップ用の三点射機構を追加したカスタムハンドガン「Beretta 92FS」を所有している。
ド素人の俺にはもってこいの人材だ。
「これといった好みはない…。というより、よくわかってないといった方が正しいな。奏はどういう基準で今の銃を選んだんだ?」
「えっと…」
話の流れ的にちょっと考えればわかりそうな質問に、奏はなぜか言葉を詰まらせる。
「私のは…。妥協の産物って感じかな。」
そう言うと、背中にある、制服の上着で隠すように装備したホルスターから愛銃を取り出す。
「前は別の銃を使ってたの覚えてる?」
「ああ。」
質問に答えながら、手渡された銃を受け取る。
去年の秋頃だったか、奏はそれまで使っていた H&K社製の「Mk.23」から今の92FSに乗り替えた。
当時は銃を替えたのか程度に思っていたが、よくよく考えてみればその理由を俺はまったく知らない。
「どうして替えたんだ?」
そんな俺の問いに、奏は「あはは…」とどこか気恥ずかしそうに笑う。
「使い勝手が悪かったかったから…、かな。」
返ってきたのは、なんとも歯切れの悪い返事だった。
「どういうことだ?ぼんくらだったってことか?」
「うんん、ソーコム自体は優秀な銃だよ。45口径の高い威力と最大13発という装弾数を両立しているし、消音器やLAMといったアタッチメントを付けるための拡張性も十分。集弾性や耐久性も高いから、性能面では文句のつけようがないかな。」
「じゃあどうしてだよ?」
「あのね…」
俺の質問に、奏の視線が虚空へと移る。
「大は小を兼ねないんだよ。」
やけにシリアスな雰囲気を身に纏い、達観したように語られたのは、
「銃身が245mmでムダに長いし、重量1.2kgもあって重たいからただでさえやってられないのに、グリップは太すぎて握りにくいし、アタッチメントを付けるとホルスターに入らなくなるしで、私には使いこなせなかったかな。」
どうしようもない真理だった。
「だからね、先生に相談したんだよ。そうしたら92FSが余ってるって言われたから貰ったの。拡張性が低くなった代わりに、ソーコムより一回り小さくて使いやすいかな。それに、威力は同じくらいなのに装弾数が増えて、個人的にはかなり気に入ってるよ。まあ、私の仕事は狙撃がメインだから、使う機会は少ないけどね。」
奏の説明に頷きながら92FSを眺める。
そうしているうちに、ある一つの疑問が浮かんできた。
「この銃って本来はバースト機能付いてないはずだよな?しかもこの感触は、引き金の引き具合で単発とバーストを使い分ける仕様だな?」
一般的な銃は、単発とバーストをセレクターレバーを操作することで切り替えるものがほとんどのはずだ。
トリガープルで両者を使い分ける銃はあまり聞いたことがない。
「触っただけなのにそこまで気付くんだね…」
「唯一の取り柄だからな。」
「そんなことはないと思うけどなぁ…」
「それで、どうしてバースト機能なんて付けたんだ?」
「あははは…」
そう、それはちょっとした疑問だった。
………はずなんだが、なぜか奏はまた言葉を詰まらせる。
そんな様子に俺は嫌な予感を覚え、
「だって…、夕ねーが……」
「あー、わかった、もういい、大丈夫だ。」
確信に変わった瞬間、なかったことにした。
そして、逃げるようにもう一人の所有者に話を訊いてみることにした。
「愛美先生はどういう基準で銃を決めたんですか?」
「まっ、愛美せんせっ⁉︎…はぁ、まあいいでしょう。」
普通に呼んだつもりだったが、自身の呼称に対してなにやら葛藤があったようだ…
同じ呼び方でも、夏先生に呼ばれるのと生徒に呼ばれるのでは何か違うのだろうか?
「私も事情があって一度銃を替えているのですが、前のものと操作性が似ているものを使っていますね。」
愛美先生が背中に手を回す。
偶然にも、ホルスターの位置は奏と同じようだ。
「ヘッケラー・コッホ社製の『USP45 タクティカル』です。簡単に説明すると、先ほど話にでていた『ソーコムを少しコンパクトにした銃』といったところでしょうか。威力、装弾数、拡張性、汎用性のいずれも高い水準で兼ね備えたいい銃です。」
ただ、銃選びの基準は違うようだ。
なぜか二つ付いている筒状の照準器、角ばったサイレンサー、折りたたみ式のグリップ。
ソーコムより取り回しのいい銃を求めて92FSを選んだ奏に対して、愛美先生のはもはや…
鈍器にしか見えない。
ソーコムをコンパクトにしたどころか、むしろ巨大化しているような…
いったいどうやってホルスターに収納していたんだ?
こうなると気になるのは、愛美先生が使っていたという前の銃についてだ。
なぜ替えたんだ?
大きさに満足できなかったとか…?
まあ、訊けば早いか。
「そういうわけで、前に使っていた銃はどうしたんですか?」
「どういうわけですか⁉︎」
お約束のツッコミが入って個人的にはもう満足だが、律儀な先生は
「ある人に譲りました。残念ながら、あまり使われてはいないようですが…」
ちゃんと生徒の疑問に答えてくれる。
しかもその回答は至ってまともだ。
夏先生には是非とも見習って欲しい。
「愛美先生。夏先生の銃を選ぶ基準はご存知ですか?」
今度は奏から質問が飛ぶ。
確かに、あの人がどんな銃を選んでいるのかは気になるところだ。
奏もいい人選をする。
夏先生本人に訊いたところで、どうせロクな回答は返ってこないに決まっているからな。
「まなっ…!はぁ…、あなたもですか…」
ため息とともに、愛美先生は今日二度目の葛藤と向き合っている。
それでも、次の瞬間にはまともな回答が…
「和泉先生の銃を選ぶ基準ですが、おそらく外見を重視しているのだと思います。」
どうやら返ってこなかったようだ。
おかしい。これはおかしい。
俺たちの愛美先生がこんな生徒を見捨てるようなことを言うはず…
いや待て、待つんだ俺。
よくよく考えれば愛美先生は悪くない。
「和泉先生の銃はColt社製の『M1911 Mk.IV SERIES'70』。『GOVERNMENT』の愛称で知られる有名な銃です。この銃は名前のとおり、1911年に某国の軍隊に採用され、100年以上経つ今でも改修を重ねながら使用され続けているという十分な実績があります。ただ、それはあくまでもさまざまな思惑がはびこる軍需品の話であり、民生品も同じというわけではありません。USPやソーコムのような後発の優れた銃は多く、M1911モデルにこだわったとしても、コルト社製のものより評価が高いものは存在しています。それでもコルトガバメント使い続ける理由があるとするならば、外見を重視したとしか考えられません。」
そう、こう言わざるを得ない状況を作り出しているのは夏先生だ。
あの人さえしっかりしていれば…
「聞き捨てなりませんなー。愛美せんせー。」
背後から突然声をかけられた愛美先生が小さく悲鳴をあげる。
そこに立っていたのは、諸悪の根源だった。
「ガバメントがちょいっとばかり今は昔な銃で、俺がこいつの外見に惚れているのは認めよーじゃないか。」
軽口を叩きながら夏先生は手にしていた他のものよりも小さいガンケースを置き、左右の太ももに装備したホルスターから二挺のガバメントを抜き取る。
一方は排莢口や各種レバー類が左側に、もう一方は右側にあり、それぞれ左手用と右手用に分かれているようだ。
加えて、どちらのグリップパネルもフルチェッカーでコルト社のゴールドメダリオンが嵌められているが、前者は黒色、後者はウォルナット材の綺麗な木目のものになっている。
外見を重視しているというだけあって、このあたりは手が込んでいるように見える。
ただ…
「あれ、ギラつきすぎじゃないか?」
「うん。成金趣味だね。」
「………秋、奏。お前らスゲー失礼だぞ。」
ピカピカに磨き上げられた鏡面仕上げのシルバーに照明が反射し、見ているだけで目が痛くなる。
全員の顔もくっきり映り込んでいて、ちょっとした身だしなみチェックぐらいならできそうだ。
「俺のガバメントは外見こそ当時のそれだが、中身は最新の機構を組み込んだ特注品だからな!45口径の威力はそのままに、競技銃並みの命中精度を有するナイスガイに仕上がっているってわけだ!装弾数が最大8発だったり、拡張性が皆無なのは原物のままだが、まあ、そこは愛でカバーするさ!」
わざわざ古い銃の中身を変えて使っているのか…
つまりは、愛美先生が言っていた通り…
「あの、先生。」
奏がおそるおそるといった様子で手を挙げる。
「どうした?質問か?」
「その銃は光が反射してすぐ敵に見つかってしまいそうで、狙撃手としては危ないと思うんですけど…」
「やろうと思えばどこでもできるが、俺のポジションは基本的に前衛だ。」
「はい。」
「なら目立たずにどーする?」
やっぱりダメだこの人。まったく参考にならねぇ。
「銃のデザインは、自分のモチベーションを維持する意味でも重要だ。性能や使い勝手ばかりに固執して、後で後悔しないように気をつけるんだな。ちなみに、フルオリジナルのガバメントは我が家のショーケースに飾ってある。見たいならいくらでも見せてやるぜ!」
テンション高めで一方的にそう言うと、夏先生は銃をしまい、運んでいたガンケースを手に取って自身の担当する班へと戻っていく。
そして愛美先生はというと、覚えてろと言わんばかりの形相で、右手を握りしめていた。
本話から、この後書き欄を使用して、時々にはなりますが、登場したキャラクターの武器の解説などを放り込んでいこうと思います!
第1回はこちら!
<和泉俊夏のM1911>
・製造メーカー「Colt (コルト)」
・製造国「アメリカ」
・正式名称「M1911 Mk.IV SERIES'70」
・通称「GOVERNMENT (ガバメント)」
・ハンドガン
・シルバーカラー(ニッケルプレート)
・装弾数7+1発 (ロングマガジン使用時 14+1発)
・同じ性能のものを二挺所有している
・一方は、ウォルナット材の黒いグリップパネル(Coltのメダリオン入り)
・もう一方は、ウォルナット材の木目調グリップパネル(Coltのメダリオン入り)
・スライド、フレームはColt社製の純正品だが、内部機構はある人物によりフルスクラッチされており、精度、強度がそれぞれ強化されている。