第45話 11年連続11回目のプレゼント
ー5月4日ー
捌幡浜市魔獣掃討作戦も終了し、ようやくゴールデンウィークを感じ始めたところだが、俺にはまだ仕事が残されている。
用意しなければならないのだ。
明日、5月5日のその時までに…
「で、まだ完成していないわけね。」
「ああ、見てのとおりだ。」
協力者一人でもある友人、綾音に、俺は手元にある楕円形の薄い2枚の金属板を差し出す。
「あら?形はもうできているじゃない。」
「その道のプロの監修の元で作ったからな。狙撃の邪魔にならないように光の反射を抑えた艶消し仕様のステンレス板。予備もまだ何枚かある。」
「ああ、あの人ね。さすがだわ。」
「加工の難かしさってのを痛感させられたな。技術屋に頭が上がらなくなった。」
「でも、あとは打刻するだけでしょ?なにをそんなに迷っているのかしら?」
「簡単な話だ。」
だが、同時に、非常に難解な問題でもある。
なぜなら…
「なにを打刻するか迷っている!」
堂々たる俺の宣言に綾音は、驚き半分、呆れ半分と行った様子で返してくる。
「冗談よね?」
「ここで冗談かましてどうする⁉︎俺は真剣に悩んでいるぜ。」
「打刻する内容なんて大体決まっているでしょ⁉︎」
「名前、誕生日、血液型。このあたりは打ち込むつもりだが…」
「所属とか、登録番号とか、そのあたりで埋めて完成じゃない。」
「所属は変わったときに使えなくなるだろ?登録番号も、俺たちはいろんな登録番号を持ちすぎてて、どれを打っていいかさっぱりだ。パーソナルデータの登録番号を打ち込むわけにはいかないしな。」
そう、俺が今作っているのはドッグタグ。
魔獣討伐任務に持ち込んでも不自然ではなく、なにか形に残るようなもの。
そんな条件から絞り出した、奏への誕生日プレゼントだ。
「調べたところ、軍隊のなかには信仰する宗教を打ち込むところもあるようだけど…」
端末を操作していた綾音から情報がもたらされる。
だが…
「あいつ、信仰する宗教なんてあるのか?」
「綾の知る限り、既存の宗教にはないわね。」
「だろ?」
「使ってる武器名なんてどうかしら?」
「あいつ、銃だけでも6挺持っているんだが?」
「なるほど、状況に応じて変わるもしれないってことね。」
「そうそう。」
「今思いついたのだけど、国籍はどう?所属の一種だし、そうコロコロ変わるものでもないでしょ?」
「確かに、それは盲点だったな。一つはそれでいこう。」
「あとは…。もういっそのこと、この4つだけでいくのはどうかしら?」
「下側が少し余るな…。あと1行分ってところか?」
「といわれてもね…」
二人で頭を悩ませていたその時、俺に最後の閃きが降りてきた。
「あ、いや…。あー。綾音、やっぱりお前の案を採用させてもらうぜ。」
「…?どういうことかしら?」
ー5月5日ー
場所は男子寮401号室。
つまりは俺と冬華の部屋。
みんなで冬華が作った夕食に舌鼓を打った後、机には本日のメインディッシュたる冬華特製のケーキが運ばれてきた。
俺たち4人によるいつもの誕生日ソング合唱後、奏がケーキに立てられたロウソクの火を消していく。
「「「「お誕生日おめでとう!」」」」
そして今度は、火が全部消えたのを合図に4つのクラッカーが一斉に炸裂する。
「えへへ、みんなありがとう!」
少し照れ臭そうにする奏だが、やはり嬉しいものは嬉しいようで、抑えきれない感情が溢れ出ている様子だ。
「早速ケーキを切り分けちゃうね♪」
俺たち4人は毎年こうやってお互いの誕生日を祝いあっている。
俺と奏、冬華に関しては、燈花里園からずっと続く恒例行事だ。
そしてこの行事にはお祝いのプレゼントが欠かせないわけだが、今年の冬華のそれはこのケーキだ。
いつもは既製品の、それも切り分けられたもの人数分で済ませていたが、今回は冬華が一からホールケーキを、それも奏が好きなチョコをふんだんに使用したショコラケーキを作り上げた。
我が妹ながらなんて優秀な奴なんだ。
この才能を学校中に自慢してやりたい。
いや、むしろ世界に発信していきたい。
「奏ねーのは少し大きめにしとくね♪ケーキは初めて作ったんだけど、どうかな?」
「完璧だ!言い値で買わせて…」
「俊秋は黙りなさい。それに、まだ食べてもないじゃない。」
「なにを言う!食わなくともわかるに…」
「聞いてなかったの? 黙 り な さ い 。」
「はい。すいません。」
「あはは…。それじゃあ、いだだきます。」
奏がフォークで一口サイズにしたケーキを口に運ぶ。
「────んんん!おいしい!」
奏に続いて俺たちも一口食べる。
「チョコレートのケーキは過度に甘くなりがちだけど、しっかりと調整されていて、くどくないちょうどいい甘さに仕上がっている。それにミルクのコクもしっかりと感じられる。フルーツとかは入れずに、シンプルなショコラケーキで勝負してきているのも私的には高評価ポイントかな。ケーキ屋さん超えちゃってるよ…。私、戻れなくなるかも…」
アナウンサーも顔負けの食レポをする奏だが、これには俺たちも完全に同意見だ。
「さすがのはなちゃんだなー。」
「そうね。魔獣狩りなんかしなくても、こっちの道で十分稼いでいけると思うわ。」
「だから言っただろ?冬華の作るものは全部最高だと。」
「どうしてあなたが得意げなのよ。」
今日の綾音はツッコんでばかりだな。
「とてもおいしいよ!ありがとう!冬華ちゃん!」
「えへへ、どういたしまして!奏ねー!」
一緒に長い間、燈花里園で暮らしてきた奏と冬華だが、こういう照れ笑いの仕草なんかはそっくりだ。
「次は俺だなー。かなやん、受け取れー。」
そう言うと、新はラッピングされた小さな箱を取り出した。
「ありがとう!大きさの割にはなんか重いね…。開けてみてもいいかな?」
「いいぞー。」
「じゃあ開けるね。」
奏は手早くラッピングをほどき、箱を開ける。
「これは…」
「銃弾?」
それも見た感じは拳銃サイズのものだ。
「そうだぞー。」
「ちょっと筋肉?女の子の誕生日に銃弾をプレゼントするなんてどういうつもりかしら?」
思わぬ代物の登場に、ツッコミをやめられない綾音がツッコミと共に殺気を放つ。
これに対して新は怯むことなく…
いや、気付くことなく答えた。
「かなやんってこの前リボルバーを手に入れただろー?」
「う、うん。」
「それなら使えると思ってなー。ロシアンルーレットにー。」
「え?うん?そう…、かな?」
「要領を得ないわね。筋肉、これはなんなの?」
「『おみくじロシアン』って名前のー、6発1組の弾だなー。おみくじしたい時に使ってくれよなー。」
この答えを聞いた綾音は、あっさりと手のひらを返した。
「ああ、そういうこと…。なら許してあげるわ。」
「私はまだよくわかってないけど…。なんか大きい先生のっぽい手書きの取説があるから、後で読んでおくね。」
「おー。楽しんでくれよなー。」
「う、うん…」
「次は綾ね。」
綾音も同じくラッピングされた箱を取り出す。
新のと比べると、少し大きめ。
時計とかが入ってそうなサイズ感だ。
「ありがと…」
「先に言っておくけど、今ここでは開けない方がいいわ。部屋に戻ってから開けなさい。」
奏がお礼を言い切る前に、綾音から不思議な忠告が入る。
「え…?う、うん、わかった。」
奏もこれに従うようで、綾音の手番は早々に終わりを迎えた。
「あー、じゃあ、最後は俺か。」
気に入ってもらえるだろうか?
そんな不安が、正直なところ毎年頭をよぎるが、とりあえずは準備は万全だ。
あとは当たって砕けろ!
「誕生日おめでとう。奏。」
「うん、ありがとう。俊くん。」
今日最後のラッピングされた箱が、奏の手に渡る。
「俺のは開けていいぞ。というか、開けてくれないと困る。」
「…?わ、わかった。じゃあ、開けさせてもらうね。」
奏が紐をといていく。
「あっ!ドッグタグ!これ、割とみんな着けてて、ちょっと憧れてたんだー!」
確かに、全くの偶然ではあるが、捌幡浜に行った時、身に着けている奴はそこそこいた。
「いつか、普段使いのキーホルダーをプレゼントしたことがあったが、あれは現場じゃ使えないだろ?だから、現場でも身に着けられる小物って条件で考えてそれにしたんだ。大きい先生にも助言をもらいながら、ベースとなるステンレス板の加工から打刻まで、一応俺の手作りだ。不恰好なところもあるかもしれないが、大目に見てもらえると助かる。」
「うん!ありがとう!大切にするね!」
「いや、実はまだ完成してないんだ。」
俺のこの発言は予想外だったのか、奏は目を丸くする。
そして俺とドッグタグに視線を行き来させながら言った。
「えっ?でも…、よくできている様にしか見えないけど…?」
「下の方に空白があるだろ?そこ、あと1行入れられるんだ。」
「それはつまり…」
「なんでもいい。入れて欲しい言葉とかがあればこの場でちょちょいと入れさせてもらうぜ。それで、ドッグタグとしても、プレゼントとしても完成だ。」
これが、綾音の意見を踏まえつつ、俺が導き出した作戦。
『あとは奏に丸投げ』作戦だ。
やはり誕生日プレゼントたるもの、贈る側の一方的な意思だけではなく、贈る相手がなにをどうしたいと思うかを考えることが大切だよな。
そして考えたところ、本人ではない俺には、奏がどうしたいか最後まで確信が持てなかった。
だからこそ、委ねることにした。
これを汲み取ってくれたかどうかはわからないが、奏は視線をあちこちに動かしながら唸る。
「入れたいもの…?これはドッグタグだし、何かの番号とか?それとも…。いや、でも…」
考える時間が長引くにつれ、じわじわと不安の2文字が俺のなかで大きな存在となっていく。
やっぱりこっちでなにか入れとくべきだったか?
それとももう完成したことにしておいた方がよかったか?
そんなことを考え始めていたその時、奏の視線が不意に止まった。
「ねぇ、俊くん。あれ、なにか聞いてもいいかな?」
奏が指したのは、俺の机の上にあるものだった。
「これもドッグタグだ。刻印は俺のものだけどな。奏のを作る前に、自分の名前とかで試しに作ってみたやつだな。思いのほか上手くいったから、自分でも使おうかと思ってたんだが…」
「それには最後の1行なにを入れたの?」
「いや、まだなにも入れてない。そのうち入れたい言葉でも見つかったら、そのときに入れようかと思ってるところだ。」
「それも私が決めちゃダメかな?」
「ん?別にかまわないぜ。なにかあるのか?」
「じゃあ、まず私の分に俊くんの名前を入れてもらってもいいかな?」
「いいけど…。なんで俺の名前?」
「そ、それは…、ほら…、あ、あれだよ!よく組むパートナーの名前としてと、このタグを作ってくれた人の名前としてだよ!」
「なるほどな。いいぜ。それで、俺のにはなんて入れるんだ?」
「私の名前を入れてくれないかな?」
「なるほど、奏のよく組むパートナーが俺なら、その逆は奏だからか。」
「そ、そういうことかな!」
「なんか焦ってないか?違うなら違うと言ってくれていいんだぞ?」
「大丈夫大丈夫!違わないから!」
「オーケーだ。じゃ、ちょちょいと仕上げてくるから、ちょっと貸してくれ。」
「うん。それで最後にさ、お互いタグが2枚ずつあるよね。」
「2枚ずつ作ったからな。それがどうしたんだ。」
「よく組むペア同士、1枚ずつ交換しない?」
「ああ、いいぜ。これは、ちょっとしたアクセサリー。原担ぎみたいなもんだ。ドッグタグの本来の役目を果たさせる気は毛頭ないからな。」
「ありがとう!じゃあ、お願いするね!」
「おう、任せとけ。それじゃちょっと待ってろ。」
こうして奏へのプレゼントは無事完成した。
『 KANADE KUWAHARA
5th. MARCH
O NEG
JAPAN
TOSHINATSU IZUMI 』
『 TOSHINATSU IZUMI
14th.OCTOBER
A POS
JAPAN
KANADE KUWAHARA 』
誕生日会もお開きになり、私は寮の自室に戻ってきていた。
「えへへへ〜」
俊くんから貰ったドッグタグが、自制心の限界を超えるレベルの嬉しさを私に提供したせいで、ずっとニヤつきが止まらない。
でもタグを眺めるのもやめられない。
首にかけて部屋まで帰ってきた、チェーンで繋がれた2枚のタグを、私は指でなぞらずにはいられない。
だが、ふと一つ思い出した。
「そうだ!綾ちゃん!」
開けるのを止められ、謎に包まれたこの箱。
部屋に戻った今なら、開けてもいいんだよね…?
私はそっとラッピングを外していく。
目的の箱は、すぐに姿を現した。
「なんでだろう…。すごく緊張する…」
だが、ここで躊躇っているわけにはいかない。
「よ、よし!」
思い切って私は箱を開けた。
そこに入っていたのは…
『これで俊秋もイチコロらしいわ。使ったら感想聞かせてちょうだい。』




