表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Final Gift  作者: トキハル
本編
47/49

第43話EX 笑顔

 一山越えた後は早かった。

 綾音たちと合流、堡内支所への帰投。

 奏たちの活躍で復旧した通信により沿岸部の逼迫が知らされ、状況が盛り返した山岳部側から増援を送ることとなった。

 そして俺は、綾嶺さんに指名された奏、冬華、新、綾音、うさぎを見送った。

「はぁ…」

 堡内支所休憩室。

「俺だけ仲間外れか…」

 学生組で唯一山岳部側に据え置きとなった俺は、一人しょぼくれていた。

「ま、まあまあ…。みーちゃんにも考えがあってあのメンバーを選んだんだと思うよ!」

「だが、気になりはするな。かなやんとはなちゃんを選ぶあたり、狙撃手が欲しいんだろうが…。それなら春ちゃんをこっちに置いた理由がわからねぇ。隼、なにか聞いてないのか?」

 休憩室に顔を出していた山岳部責任者の隼人さんに、史也さんは疑問を投げかけるが…

「みーちゃんからは特になにも聞いてないですね。親の僕が言うのもなんですが、みーちゃんもおーちゃんも読めないところが多いですからね。」

「あはは…」

「まあ、そうかもな。うちの倅もよくわけのわからんこと言うしな。」

 それはまた、あやねーズとはベクトルが違うような…

「ここからは想像になりますが、史也くんの言うとおり、狙撃手を必要としているのは指名されたメンバーからもそうなのだと思います。ですが、それはこちらも同じ。全員をあちらに送るわけにはいきません。そこで春華さんという、経験豊富で単独でも行動可能な人材を残したのではないでしょうか。」

「それは過大評価な気もするけど…。向こうで奏ちゃんや冬華ちゃんを牽引する人はいるのかな?」

「向こうには、先に戻った愛美さんと、涼夜くんが『スナイパー』と呼ぶ男がいます。」

「そりゃ適任だ。」

「そっか、来てたんだね。」

 また俺の知らない人物が登場した。

 大きい先生の知り合いで、二人が評価しているというのであれば大丈夫なんだろうが…

 知らない奴に奏や冬華を預けるのは、なんとなく気持ちが落ち着かない。

「狙撃手問題はそれでいいとして、倅とあやちーを持って行ったのはどうしてだ?」

「地上部隊の人員が欲しいからじゃないかしら?」

 史也さんの二の矢に応えたのは、その奥さんであり、新の母親でもある歴さんだった。

「歴ちゃん!そっちは落ち着いたの?」

「ええ、次の患者が来るまでは暇してるわ。」

「あまり考えたくないですが…」

「そうね。私は暇な方がいい。色んな意味でね。」

「おいおい、別の話を始めて盛り上がるんじゃねぇ。歴、さっきのはどういう意味だ?」

「どういう意味もなにもないわ。地上部隊の人員が欲しいから、今のところ剣しか能のない新を選んだ。綾音ちゃんはまあ、お目付役でしょうね。」

「どうして新なんだ?とっしーの方が銃もそれなりに扱えて頭も働く。戦力としてはいいんじゃねぇか?」

「だから人数の少ないこっちに置いたのでしょう?春ちゃんと同じよ。」

 もしそうなら、綾嶺さんにある程度評価されているということだろうか…?

 だが、その理論を貫くならより最適な解があるはずだ。

「どうしてあのうさぎじゃなくて俺なんですか?」

 俺からの問いに、なぜか全員が遠い目になった。

「それを聞いてしまいますか。」

「とっしーよぉ…」

「俊秋くん。あなた、デリカシーがないって言われたことないかしら?」

 それは捌幡浜に来てからも言われたような気がするが、揃いも揃っていったいなんなんだ?

「簡単な話だよ。()()、あのうさぎに避けられてるの。」

 俺は今日、笑顔で怒るタイプの人が一番怖いということを知った。



 沿岸部側。

 わたしと奏ねーは狙撃班の一つとして、綾ねーたちとは別に「地点(ポイント):マクミラン」にいる愛美先生と合流する予定だよ♪

 そして、そこまでの護衛は…

「じゃ、行きますかね。」

「……………。」

「どーしたんだ?奏。俺の顔になにかついてるか?」

「…いえ、なにも。」

 なぜか奏ねーから冷たい視線を向けられている、今までどこにいたのかよくわからない夏先生。

 紺桔梗の鞘と、白地に舞い散る桜の花びらが描かれた鞘に収まる二振りの刀を左腰に差し、さらに二挺の成金ガバメントが収納されたホルスターを両腰にぶら下げている。

 特徴的なのは、銃の持ち手が前を向いていること。

 あれでは普通に銃を抜くことができない。

 右手で左腰の、左手で右腰の銃を抜くことを前提としているようだ。

 なんでそうしてるのかな?

 それと、あの紺桔梗の鞘。

 さっきうさじろうが持っていたのと似ているような気がする。

 それに…

「え、えっと…。とりあえずよろしくお願いします!」

「おう、まかせとけー。」

 手早く準備を済ませ、わたしたちは早々に出発した。

 そして早々につまずいた。

「こんなにいるなんて聞いてねぇぞ?あの腹黒め。」

 表に繰り出して数分。

 眼前には行く手を塞ぐように道いっぱいに広がる魔獣の群れがあった。

 魚型、鳥型、猪型、昆虫型。

 種類も大きさも数も異なる魔獣たちが、なぜかいがみ合うこともなく、まるで一つの意思体系のもとに集まっているように展開している。

 わたしたちはすぐに物陰へと移動し、気づかれないようにその様子を窺う。

「ここを通らないとかなりのタイムロスになるかな…。どうします?」

「どうするもなにもなぁ…。押し通るしかないんじゃね?」

「でもでも、どうにかなるような数じゃないですよ?にぃにもいないし、前衛は夏先生だけですし…」

「幸い、まだ相手には気づかれていません。ここは応援を呼ぶか、時間をかけてでも回り道すべきじゃないですか?」

「応援の線はないな。これはオフレコだが、今は綾香(最高責任者様)も戦場に出ている状況だ。戦力に余裕はないとみて間違いないだろう。」

「それじゃあ…」

「回り道もないな。」

「…一応理由を聞いてもいいですか?」

「どこ回っても状況は同じ。なら、時間の無駄だ。」

「そんなのわから…」

「作戦はこーだ。」

 奏ねーの言葉を遮るように夏先生が一方的に発言する。

「俺が突っ込む。俺が殲滅する。俺強え。以上だ。」

「………。手出しするなってことですか?」

「そー言ってるだろ。弾と体力は温存しとけ。ただし、俺のいない間は自分の身は自分で守れ。」

 おおよそ護衛とは思えない発言を残して夏先生は物陰から出て道の真ん中に立ち、武器も抜かずに魔獣の群れに向かって歩き始めた。

 その存在に気づいた魔獣からの威嚇にも怯むことなく、距離を詰めていく。

 痺れを切らして魔獣が飛びかかってきた時だった。

「遅せーよ。」

 右足を一歩引き、腰をひねりながら、右手で左腰のガバメントを抜くとほぼ同時に発砲。

 まるで西部劇もビックリな早撃ちから間髪入れずに、左手で右腰のガバメントを抜き、二挺拳銃スタイルから殲滅戦が始まった。

 そして、それはあまりにも一方的だった。

「ほーらよっと。」

 二挺による連射、弾切れと同時に弾倉(マガジン)をそのまま地面に落とす。

 銃を空中に放り投げ、落下位置にマガジンを構えてそのまま自重落下する銃にスッポリと挿し込む。

 最後にスライドを軽く引いてスライドストップを解除し、再度軽く投げてグリップを握り込む。

 その様子はさながらジャグリングでもしているようだ。

「片方の手だけでリロードする人は初めて見たかな。しかも二挺同時に、別々の手で。」

「奏ねー知ってる?夏先生の才能(ギフト)はSランクの『道化師(クラウン)』なんだって♪」

「初めて聞いたけど…。それであのリロード方法ってこと?」

「うん♪二挺拳銃のリロードに時間がかかる問題を解消したって言ってたよ♪」

「私がM92を普通にリロードするより早そうだけど…」

「わたしも勝てる気はしないかな。」

 そんな会話をしている間も殲滅戦は続いている。

 銃を片方ホルスターに収めて刀を抜き、一刀一挺での近中距離のバランス型。

 さらに銃をしまって、一刀による連撃や抜刀術に鞘での打撃も組み合わせた技巧型。

 もう一刀を抜き、二刀によるインファイト型。

 標的の種類や状況に合わせた様々な攻撃を披露してくれる。

 その光景にわたしたちは既視感を覚えていた。

「あれは…」

「にぃにの『武装交換(スイッチング)』?」

「そうそう、スイッチング〜。」

 不意に後ろから発せられた声に、咄嗟にCz75(なごちゃん)を抜いて振り返る。

 そこにいたのは…

「やっほ〜!二人とも!元気そうでなりよりだよ〜!」

「「あーさん⁉︎」」

「そう!あーちゃんだよ〜。」

 戦場に出ているとは聞いたけど、まさかここにいるなんて…

「それはそうと〜、あーちゃんたちはとっしーの武器を切り換えながら攻撃するあの戦闘スタイルを『武装交換(スイッチング)』って呼んでるよ〜。あ、あーちゃんやふみやんの言う『とっしー』っていうのはあそこにいる『和泉俊夏』のことだからね〜。『俊秋』の方じゃないから気をつけてね〜。」

 なんて紛らわしいんだろう…

「私たちも、俊くんの戦闘スタイルを『武装交換(スイッチング)』って呼んでますけど…」

「おお〜、偶然だね〜。」

 その時、夏先生の戦っている方向から爆発音が鳴り響いた。

「え⁉︎」

「なに⁉︎」

「あ〜、使っちゃったか〜。」

 視線の先には二挺のリロードをする夏先生。

 さらにその先には大量の砂埃が舞っている。

「なにが起きたのかな…?」

「見てたらわかるよ〜。たぶん、もう一回やるから〜。」

 リロードを終えた夏先生が銃を構える。

 砂埃で見通しが悪い中、迷うことなく引き金(トリガー)を引いた。

 そして爆発。

「えぇぇぇー…」

「あ、あはははは…」

 あまりにも常識外な出来事に出る言葉もない。

「いつ見てもすごいね〜。あんなの当たったら死んじゃうよ〜。」

 でも、あーさんたちにとってはそうではないらしい。

 当の本人こと夏先生はといえば、再度リロードののちに銃をしまい、二刀を抜いて構える。

 右手は順手、左手は逆手。

「まただ…」

「うん…」

 デジャブは何度でも起こる。

「あれが最後みたいだね〜。中ボスってやつかな〜。」

 徐々に晴れていく砂埃の中に、大きな影が映る。

 姿を現したのは…

「えっ⁉︎」

「『くまべあー』⁉︎」

 山岳部でわたしと奏ねー、史也さん、うさじろうの4人がかりでようやく倒した相手。

「冬華ちゃん!」

「うん!」

 そんな相手に出し惜しみなんてしてられない。

 わたしたちは急いで狙撃の準備を整えようとした、が…

「とっしーに言われたでしょ〜?弾と体力は温存しろってさ〜。」

「今はそれどころじゃ…」

「さっき『スイッチング』の話したよね〜。」

 なぜかわたしたちを制止するあーさんは、突如脈絡のない話を始める。

「じゃあ、アレはなんて呼んでる〜?」

 あーさんの指差す先で夏先生は「くまべあー」に斬りかかった。

 踏み込んでからの右手に持つ刀による角度浅めの袈裟斬り。

 そして切り返しの横薙ぎ。

 外に向く力を利用して、左手に持つ刀から二刀への連続回転斬り。

 左手首のスナップを生かして素早く順手に切り替えて、二刀での袈裟斬り。

 そこから更なる連撃へと派生していく。

「「「アサルトコンビネーション」」」

 3人の声が綺麗に重なる。

「わーお、あーちゃんたちと同じだね〜。やっぱり同じ能力(アビリティ)を持つ者同士、自然と戦い方も似てくるのかな〜?」

 呆然としている間に「くまべあー」は跡形もなく消え去っていた。

 4人でようやく倒した相手を単騎で下した。

「あれが夏先生の本当の実力なの?」

「ん〜?5割ぐらいじゃないかな〜?」

 しかも、まだ底じゃないらしい。

「あっきーには頑張ってあれを超えてもらわないとね〜。」

 にぃに、なんかすごい無茶振りされてるよ…

「よう、綾香。やっと来たか。」

「むぅ〜。これでも大変だったんだよ〜。」

「ソーカソーカ、ソレハスゴイ。」

「あ〜!バカにした!バカにしてる〜!」

「そんなどーでもいいことより、あとはよろしく。」

 え?

「む〜〜〜。こんな時じゃなかったら追及してやるのに〜〜〜。」

「つーわけで、護衛交代だ。こっからはそこのちっちゃいのに付いていけ。」

「夏先生は?」

「スコッチモーテルで楽しい地上部隊救援だ。でかいのの指示でな。」

 夏先生がため息を吐くのを見計らっていたように、一台の大型バイクが到着した。

「和泉先生お待たせしました!補給です!」

 通信でも声が聞こえていた補給班の元気な女の子がヘルメットを脱ぐ。

「ちょうどいいところに来たな。」

「あ、穂花(ほのか)ねー!」

「穂花先輩⁉︎」

「うん!穂花ねー先輩だよ!」

 思わぬ済陽学園生の登場に現場はやや盛り上がりを見せるけど、今はそれどころではないかな。

「やっほ〜、ほののん。プランは伝わっているかな〜?」

「あやちゃんから聞いてますよー。」

 そう言うと穂花ねーは、乗ってきたバイクから一つのアタッシュケースを取り出した。

「組み立ては現地でいいですよね?」

「うんうん!いいよ〜。」

「了解!奏ちゃん、冬華ちゃん、ここからは私も一緒に行くからよろしくね!」

「え?え⁉︎」

「えっ…と…、よろしくおねがいします?」

「じゃ、俺はバイクごと貰ってくぜ。」

「ちょっと待ってください、これはこっちの分なので…」

「あいよー。」

「あと、これ着けてくださいね。」

「これは…?」

「ヘルメットですけど?」

「いやいや、お前が被ってきたやつじゃねーか。」

「これしかないですけど…?」

「自分の頭のサイズを把握しろ?俺には入らねぇよ。」

「この前、『そんな太いの入らないって言ったのに無理矢理ねじ込まれたんだ〜』ってあやちゃんが言ってましたよ?」

 …………?

「およよ〜?うちの大事なみーちゃんになにしたのかな〜?」

「なにもしてねーよ。どうせ大容量マガジンかなんかの話だろ?あいつが盛ってるだけだ。」

「むむむ〜。あやしいな〜。」

「そうだな、怪しいな、綾嶺の奴が。」

 ……………………。

「みーちゃんはいい子なんだよ〜?それを貶めようとするなんて、事と次第によっては出るとこ出るよ〜?」

「冗談キツいぜ。そもそも、出るとこってどこだよ。」

「んん〜?例えば〜、まなちゃんとか〜、はるちゃ…」

「おかしいですね?今はそんなくだらない話している状況じゃないはずですよね?」

「………」

「………」

「………」

「ふーちゃんとか?」

 まったくこの人たちは…

 さっきまでの緊迫感はいったいどこにいったのかな?

「あわわわ…。とっしーどうしよう…?ふーちゃんガチだよ〜。」

「ああ、ヤベーな。ここまで冷たい視線を向けられたのは今日7回目だ。」

「まだそんなこと言っているんですか?作戦を続けるのか、やめるのか、さっさと選んでもらえませんか♪」

「マズイよ〜。はるちゃんみたいなマジギレ笑顔だよ〜。」

「経験上これは最後通牒と同義だ。ほら、最高責任者、出番だ。さっさと決めろ。」

「や、やるよ〜!バッチリガッチリやりきってみせるよ〜!」

「そうですか。それはよかったです。なら、早速行動に移しましょ♪」

「じゃ、そーいうことで。アデュー。」

 結局夏先生はノーヘル状態で逃げるように走り去ってしまった。

「事故らないでくださいよ〜!」

 穂花ねーの無意味な注意喚起には目もくれず、わたしはあーさんを見やる。

「わたしたちも目的地まで急ぎましょう♪」

「う、うん…。こっちだよ…」

「なにしてるの?奏ねー。」

「う、うんん、大丈夫!ちょっと身震いしてただけ…」

「身震い?なんで?」

「む、武者振るいってやつかな!」

「さすがだね!奏ねー!」

 これでようやく、この戦いも終わりだね!



「かなやんかなやん。ふーちゃんって怒るといつもあんな感じなの〜?」

「あれはなかなかいい笑顔だったね。」

「ん〜?ほののんは動じてなさそうだったけどな〜?」

「そんなことないよ?しばらく震えが止まらなかった。」

「どちらにもノーコメントでお願いします。ただ…」

「ただ…?」

「下手に逆らわない方がいいかな。」

「あわわわわ…」

「いやー、怖いねー。」

 ガクガクブルブルガクガクブルブル…

 そういうところは似なくてもいいのに〜。

夏先生のノーヘルも後でちゃんと注意しないとね♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ