第42話 あやちーは天才ですから!
「地点:ダン」こと宮ノ内小学校跡。
道中での度重なる魔獣の襲撃をいなしつつたどり着いたこの場所で、俺たちは行方不明者の痕跡を探していた。
そんな中、俺たちは互いの連携と親交を深めていった。
「う〜ん。秋くん、新くん、どう思う?」
「ここに誰かがいて、戦闘があったのは間違いないな。ここに真新しい足跡、弾痕と空薬莢もある。」
「この辺りに死骸は残ってないなー。相手はやっぱり魔獣かー?」
「足跡を見る感じだと、猪型かな。」
「でも、人が出て行ったような痕跡はないと…」
「ここは校舎の玄関部分で主要な出入口だから、防衛線を築くにはちょうどいいよね。ここで戦いつつ、別に退路を確保する。あり得る話じゃない?」
「おおー、確かにー。」
「弾痕から判別できる弾種は4種類かな。9mm、45口径、5.56mm。中でも特徴的なのはこれ、4.6mm口径弾の痕跡だね。」
春華さんは転がっていた空薬莢をつまみながら、冷静に状況を分析している。
「4.6mmっていうと、綾音か?」
「たぶんそうだね。行方不明者どころか、山岳部側メンバーの中でも4.6mm口径を使っているのは綾音ちゃんの『MP7』だけだから。」
「確か、隼人さんから情報では血痕も確認されていたはずだな。」
「ここにはないなー。」
「校舎を一周しつつ、裏口を目指してみようか。退路候補の一つだしね。」
「そうですね。」
「おー。」
そんなこんなで学校の裏口。
「この感じだと、連絡が途絶えていたJチームと、その救助班である綾音ちゃんたちRチームは合流できたみたいだね。」
「そうなのかー?」
「間違いないと思うよ。」
「はーさんが伝令を送った時に、じゅりえっとチームはここにいなかったんじゃないのかー?」
「それも間違いないと思うよ。」
「どういうことだー?」
「ジュリエットチームは一度ここを放棄した。というより、離れていたんじゃないかな。そのタイミングで通信障害が発生、伝令が派遣された。」
「伝令の人が血を見たんだったよなー?」
「もうその時にはもう怪我してたとか?」
「もしかしたら人間の血じゃないかもしれないね。」
「んー?」
「今は魔獣が台頭してるけど、普通の動物が絶滅したわけじゃないからね。攻撃すれば血が出るし、死んだ後も死骸と一緒に血痕が残る。死骸に魔獣が群がることもあるね。」
「死骸は見当たらなかったな。魔獣が集まることを避けるためにどこかに移したのか?」
「それが離れていた理由かー?」
「可能性はあるな。辻褄も合ってるだろう。そもそも動物の血かどうかもわからないが…」
「それに血痕っぽいのも複数あったからね。実際、伝令の人が見たのがどれかはよくわからないかな。ただ、仮に動物っていうのを前提とすれば、見た血痕の量は少なかったって話だから、小型の動物を間違って撃ったとかかな。」
「どちらにしても、ジュリエットチームのメンバーが怪我をしているという事実にも間違いはないだろうけど。」
「そうだね。」
「混乱してきたぞー。」
「順を追って整理しよう。まず、ジュリエットチームは一度ここを離れた。この時点でメンバーが怪我をしていたかはわからない。」
「その間に通信障害が発生。伝令が派遣されたけど、ジュリエットチームはまだ戻ってなかった。」
「伝令が堡内支所に戻った後、ジュリエットチームはここに戻ってきた。ロメオチームと合流したのはここのタイミングだな。」
「そうかー、よかったなー。」
「いやいや、まだ解決してないから。」
堡内支所に行方不明者が帰還するか、俺たちが発見した場合には、信号弾で合図を送るよう隼人さんと打合せしているわけだが…
「そうだね。隼くんからの合図もないから、綾音ちゃんたちはまだ帰還してないみたいだしね。」
移動しながらも校舎の見取り図をメモしていた春華さんが、それを俺たちに示しながら続けた。
「タイミングはわからないけど、ジュリエットチームは負傷しただれかをここの保健室で治療していた。」
「保健室にあった血痕は真新しかったからな。」
「ケガしてたって判断の理由はそれかー?」
「うん。」
「ジュリエットチームのメンバーの一人に7.62mm口径の銃を使う奴がいるらしいが、玄関に7.62mm弾の痕跡はなかった。たぶんそいつだろうな。」
「治療してたからってことかー?」
「ああ、玄関に血痕はなかったしな。」
「大した量の血痕じゃなかったから、出血は大きくなさそうだね。移動や治療中に、周りに血が着いちゃったってレベルだね。ただ、血が出ないタイプの負傷もあるからね。怪我の程度が小さいと決めつけるのはまだ早いかな。」
「そうかー。」
「時系列としては、治療を始める前か治療中あたりで綾音たちが合流したって感じか?」
「うん。玄関で魔獣との戦闘があったのは合流後だね。メンバーの負傷と保健室で治療を行っていた関係で、迎撃体制が崩れていたところに襲撃を受けた感じかな。幸いにも早めに気づくことができたから、正面玄関に即席の防衛線を築いて応戦したってとこじゃない。」
「その裏で負傷者を運び出し、最終的にはこの場所を完全に放棄した。」
「そうなると、問題はどこに行ったかだね。」
結局はそれがわからなければ意味がない。
だが、選択肢は無限に近いほどあり、痕跡もそう多くは残されていない。
名探偵も頭を抱えるであろうこの状況で、まさかの人物が解決へと導いていった。
「ケガしてる人がいるならそう遠くにはいけないよなー。」
「怪我の程度にもよるかもしれないけど、一般論としてはそうなるね。」
「傷口からバイ菌が入ってダメになるって話だよなー。」
「破傷風とか、敗血症とか、そういう話か?」
「それそれー。そうなる前に部屋で休みたいよなー。外は危ないしなー。」
「確かに、建物の中を選ぶ可能性は高いね。自然が多い外よりは衛生的だし。でも、まだ選択肢は多いね。」
「あやちーは人を護る天才だからなー。そういうところを選ぶと思うんだよなー。」
「防衛に適した建物ってことか。」
「そうそう。守りやすくてー、仲間に見つけてもらいやすそうなところだなー。」
「そう考えると、その辺の民家はしんどいな。それなりの強度があり、あまり風化していない建物。ある程度の防衛線が構築できる…」
「この校舎みたいな…。んん…?」
俺と春華さんはハッと顔を見合わせる。
そして、今となってはアナログな紙の地図を広げる。
「…あった!堡内中学校!」
「昔は災害時の避難場所になっていた。つまり建物は頑丈。相手が魔獣であることを考えれば、長い廊下に教室という環境は準備さえできれば間違いなく防衛向きだな。」
「もともと宮ノ内小学校にいたことも考えると、ものとしては別でも、同じ学校という性質を持つ堡内中学校は私たちの気を引くきっかけにもなる。」
「じゃあ、あやちーはそこかー?」
「可能性は高いな。」
「うん。いい推理だと思うよ。」
「それじゃあ行くかー。」
「やっぱり!まなちゃん、おかえり〜!」
車を出してからおよそ30分。
本部に戻ってきた私は、誰が戻ってくるかわかっていたらしい小さな友人に出迎えられた。
「あーちゃんがここにいるとは思わなかったかな。」
「うんうん!やっぱりまなちゃんはその喋り方が一番だよ!カチカチしたやつじゃなくてさ〜。」
「立場があるの!立場が!」
くだらない会話をしている間にも、私が連れ帰った重傷者たちが運び出されていく。
「それで?あーちゃんがここにいる理由はなにかな?」
山岳部側の状況をいち早く知りたいから?
それもあるかな。
でも、それだけなら部屋で待っていればいい。
戻ってきた人が誰で合っても、すぐに向かうことはわかっているはずだから。
重傷者を連れ帰ることを予想していた?
それ自体はすごいし、実際に人を配置していたから読んでいたんだと思うけど、あーちゃん自身が出張る必要はないかな。
「簡単な話だよ〜。」
そう言うと、あーちゃんは腰に装着したホルスターから愛銃のリボルバーを取り出した。
「私たちとお散歩に行こ〜!」
直訳するとこうかな。
「状況が切迫してるから早く出撃しよう。」
絶望的な状況を何度もひっくり返してきた私たちの軍師は、追い詰められれば追い詰められるほど燃えるタイプだ。
えげつない作戦を立案、実行し、形勢をひっくり返して最終的には勝利を掴む。
それを明るく笑いながらやってのける様は、一種の狂気すら感じる。
「まなちゃんの装備も準備しておいたからね〜。山岳部の話は移動しながら聞かせてよ〜。」
あーちゃんのその言葉を待っていたかのように、地下通路への階段を見覚えのある影が降りてきた。
「どうして…?どうしてここにいるのかな?」
『だって、僕はここのマスコットだよ?☆』
<古川史也のAR57>
・製造メーカー「Rhineland Arms (ラインラントアームズ)」
・製造国「アメリカ」
・正式名称「AR57」
・通称「AR57」「AR Five-seveN」
・アサルトカービン(PDWに分類されることもある)
・ブラックカラー
・装弾数50+1発
・AR15系ライフルをベースに、FN P90のマガジンと弾薬を使用可能にしたモデル。
・妻である歴がFN P90を使用することから、歴がP90を携行する場合にマガジンと弾薬を流用するために使用する。




