第41話 Präzisions Scharfschützen Gewher 3
狙撃銃らしく折りたたみ式の二脚が装着されたフロント。
8から24倍まである可変スコープは、簡単には取り外しができないよう固定されている。
オフセットアイアンサイトとフルオート機構も備え付けられ、近中距離戦闘にもある程度対応している。
それが、今までただの「H&K PSG1」だと思い込んでいた私の得物。
「あのトンネルが『ばっとん』の発見報告があった場所だな。」
山岳部側ということもあって、作戦域には以前人が住んでいた頃に使われていたであろうトンネルが数多く存在している。
当然、魔獣の影響でゴーストタウン化した今となっては管理が行き届いているはずもなく、電気も切れていて昼間でも真っ暗だ。
そして今回の私たちの討伐対象である「ばっとん」は、蝙蝠型というだけあって暗いところを好むようで、発見報告のほとんどがこういう場所になる。
「おかげでひでぇありさまだ。通信ができねぇのはわかっていたが、近距離用のトランシーバーもダメとはな。」
「やり取りは口頭かハンドシグナルでするしかないですね。」
「まあ、しかたねぇ。とりあえずだ、かなやん、はなちゃん、中の様子はわかるか?」
やや声を抑え気味の史也さんの指示で、道路から少し外れた茂みから私たちはスコープを覗く。
「正直、あまり見えないですね。手前の方の天井に、何匹かそれっぽいのはいますけど…」
「こっちも暗すぎてよく見えないです。動きも感じられません。ただ…」
「ただ…?」
「気のせいかもしれないですけど、なんとなく、あのトンネル詰まってるような…」
「確かに、冬華ちゃんの言うとおりかな。」
「おいおい、二人だけで納得しないでくれよ。どういうことか説明してくれ。」
要領を得ない回答に、史也さんが首を傾げる。
「地図によると、あのトンネルって緩く曲がる程度で、そんなに長くもないですよね?」
「そのはずだな。」
「そうであれば、今日は天気もいいので、多少は出口側からの光が差し込むはずなんですけど…」
「それがないってことか?」
「はい。」
「でもでも、奏ねー。中で崩落が起きてるって感じでもないよね?」
「うん。ただ、これ以上はなんとも判断できないかな。サーマルスコープでもあればわかるかもしれないですけど…」
「どうします?とりあえず撃ち込んでみますか?」
冬華ちゃんの口から物騒な提案がなされる。
「いや、それだと『ばっとん』を取り逃す可能性が高い。仕掛けるにしても、もう少し情報が欲しいところだ。群れの規模や配置、トンネル出口側の様子も確認すべきだろうな。」
史也さんの意見は的確だ。
新くんだったらすでに突撃していたかな。
『サーマルならあるよ★』
そう提示したのはマスコット?のうさぎだった。
「それを先に言えよ。」
『奥の手は最後に出す決まりでしょ?★』
「ならもうちょっとしまっておけよ。まだ奥の手のタイミングじゃねぇだろ。」
『じゃあしまっておくね★』
「いやしまうな。よこせ。」
漫才のようなやり取りに、ふと思うところがある。
この着ぐるみのな…
『・・・・・★』
か……
『・・・・・・・・・・★』
「うさじろう」と史也さんは、知り合いなのではと…
それも、かなり親しい仲じゃないかな?
「おいおい、なにかなやんに詰め寄ってんだよ。」
『よからぬことを考えてそうだったから★』
「意味わかんねぇな。さっさとサーマルを渡してやってくれ。」
『今回だけだよ〜★』
そんなこんなで双眼鏡型のサーマルスコープを手渡される。
「さっそく覗いてみてくれ。」
「わかりました。」
結果はすぐに出た。
「………。そういうこと。」
「どういうことだ?」
サーマルが一周する頃には、みんなの考えは同じになっていた。
「そういうことか。」
そして新な問題に直面する。
「さて、どうしたもんか…」
念の為と言って出口側の確認から戻ってきた史也さんは、顎に手を当てて唸っている。
「『ばっとん』の討伐という観点で言えば、アレが蓋してるから入口側からの攻撃のみで事足りるだろうな。」
「そうですね。」
「でも…」
「ああ。攻撃を仕掛ければ間違いなくアレを刺激する。俺たちの目的からは外れるが、避けられないし、放置もできないだろう。」
「どうします?とりあえず撃ち込みますか?」
どこかで聞いたような提案をする冬華ちゃん。
「そうするか。」
聞いたことないのは史也さんの回答だった。
「敵の規模も、配置も、出口側の様子も確認した。それに、どうせやるしかねぇんだ。なら、撃ち込んでやろうじゃねぇか。」
その言葉に、各々が得物を取り出す。
「まず、かなやんとはなちゃんの二人で仕掛けてもらう。手前の方にいる奴らでいい。盛大に撃ち込んでやれ。驚いて飛び出てきた奴は俺とうさぎで対応する。はなちゃんも続けて頼む。」
「私はどうしたらいいですか?」
「かなやんは、最初に仕掛けた後はアレに対応する準備を頼む。一番火力があるのは、間違いなくかなやんだからな。」
「火力ですか。」
それは、一撃必殺を心情とする狙撃手である私には無縁だった言葉だ。
「ああ、その銃ならな。」
「史也さん、この銃のこと知ってるんですか?」
「『PSG3』だろ?それ。」
「………。そうですけど…」
「なら簡単だ。バイポットで固定して、フルオート射撃をかましてやればいい。」
史也さんには話したことないはずなのに、どうして知っているんだろう?
その疑問を私は飲み込む。
「かなやんの連射が始まったら、俺とはなちゃんもアレへの対応に移行する。」
「わかりました♪」
「うさぎは『ばっとん』に集中しろ。全部撃ち落としたらこちらの援護に回れ。撃ち漏らしたら許さねぇぜ?」
『僕にだけ厳しくない?★』
「お前なら楽勝だろ?」
『まあね★』
「それでいい。さて…」
作戦の伝達を終え、史也さんは一呼吸置く。
「Get Ready.」
バイポッドを展開。
最適な位置に移動。
銃を固定。
スコープを覗いて構える。
「FIRE!」
その掛け声に従い、私と冬華ちゃんは引き金を引く。
1発、2発、3発…
放たれた弾丸が、トンネルの天井に張り付いていた「ばっとん」を地に落とす。
同時に、突然の銃撃と仲間の死を前にして「ばっとん」の群れが騒ぎ始める。
トンネル内の仲間に危機を知らせるように甲高い鳴き声を上げ、安全地帯を求めて苦手なはずの日向に飛び出してくる。
それが片道切符とも知らずに。
「出番だぜ!ウサギ野郎!」
2挺の突撃銃による一斉掃射が始まる。
1発当たりの威力はスナイパーライフルに劣るものの、持ち前の連射能力による間断ない攻撃は、小型魔獣である「ばっとん」の集団を蹂躙するには十分だった。
そして私は、最初の弾倉を撃ち尽くしたところで攻撃の手を一時的に止める。
史也さんの指示は、「フルオート射撃」による「火力」を求めるものだった。
「…っと。」
「PSG3」にはその前身となる「G3」という銃があり、一部のパーツに互換性がある。
その一つが20発マガジンだ。
コッキングハンドルを引いてノッチに掛け、空になったマガジンを引き抜く。
取り出した20ラウンドマガジンを挿し込…
「かなやん!それじゃない!こいつを使え!」
声の主の方を見る。
史也さんは右手で射撃を続けながら、左手で取り出したマガジンを私に向かって放り投げた。
私はそれを落としそうになりながらもなんとか掴む。
「これは…?」
「ただの預かり物だ!」
一見すると普通のマガジンだが、一般的な「G3」マガジンよりもやや長く、30ラウンドほどになるかな。
史也さんの真意はわからないけど、とりあえずは信じてこれを使わせてもらおう。
慣れないサイズのマガジンに手間取りつつも、銃に差し込む。
固定されていたハンドルを叩き、前進させる。
セレクターレバーを「0」、この銃におけるフルオート位置に設定する。
「来るぞ!」
史也の声とほぼ同時に、トンネルの中で動きがあった。
「グオォオオォォォォ!」
重低音の大きな鳴き声が響く。
そしてドンッ、ドンッという、かなり重量のあるものが動くような振動が伝わってくる。
「ハハッ!こいつは予想以上だぜ!」
狙いを定めるために銃をバイポッドを使って固定し、伏せて構えているが、地面がこんなに揺れたのではその効果も大きく下がる。
立射で対応している史也さんとうさじろうはもちろん、膝を立てて固定しながら射撃を行なっている冬華ちゃんも苦しそうだ。
「アレが出てくる前に、できる限り『ばっとん』を撃ち落とすぞ!」
「はい!」
『了解★』
すでに3桁近い「ばっとん」を倒したはずが、その勢いはまだ収まらない。
しかし、その様子には変化が見られる。
最初こそ、私たちの銃撃に驚いて飛び出てきたはずだ。
だが、今はトンネルの出口側からの圧力で、無理やり追い出されているように見える。
それが何者によるものなのかは明らかだ。
『かなやんの攻撃は俺たちへの合図でもある。引きつけすぎると俺たちが危険だ。トンネルから出る前に叩け!』
「ばっとん」の数が減ったからか近距離用のトランシーバーが復旧したようで、史也さんからの指示が飛んでくる。
『わかりました!』
その瞬間はすぐにやってきた。
振動がさらに大きくなり、その姿をスコープで捉える。
熊型の魔獣「くまべあー」。
その間の抜けた名前とは裏腹に魔獣の中でも危険度は高い方で、準備なしに戦闘すれば死体が、街で暴れれば瓦礫の山が積み上がる。
ただ、基本的には基の生物と同じく臆病で、偶然遭遇しても威嚇突進行動を繰り返す程度で、実際に襲いかかってくることは少ない。
そう、こういう状況でもなければ。
「ごめんね!」
「くまべあー」の鼻先がトンネルから出かかったタイミングで、トリガーに添えていた指に力を込める。
その瞬間、今までに体験したことないほど大きな衝撃が肩に伝わる。
弾数を重ねるごとに増していく痛みに耐えながら、私はフルオート射撃を続ける。
そこに制御の文字はなく、弾をばら撒いているだけに等しい状態だ。
的が大きいから当たっている、ただそれだけかな。
『合図だ!はなちゃん!俺たちも加わるぞ!』
『はい!』
冬華ちゃんがプローンに、史也さんがニーリングにそれぞれ体勢を変える。
マガジンを交換した史也さんから号令がかかる。
『あいつの皮は銃弾があまり通らないほど硬い!はなちゃんが撃ったところか、眼球、口元を狙え!』
『…!はい!』
弾が通らないなら、私が撃ったところも通ってないのでは?
マガジンを通常の20ラウンドのものに交換しながら、私は一抹の不安を感じていた。
次にスコープを除いた瞬間、その不安は一気に払拭された。
「……なに?……あれ。」
私の撃った弾は全て「くまべあー」の顔面を捉えていた。
それは銃弾を浴びたとは思えない火傷を負い、皮膚の一部は爛れ、苦しそうに声をあげている。
「こんなの!どう考えても…!」
『普通の銃弾のダメージじゃないよな。』
この声は…
『知ってたんですか?』
『そりゃまあ、俺が史也に渡したもんだしな。』
『なんですか?あれは?』
『どっかの誰かさんお手製の特殊弾だ。弾頭に硫酸が仕込まれていてだな。っと、ここまで言えばお前ならわかるだろ?』
『皮膚に含まれるタンパク質と反応して化学熱傷を起こす。』
『ご明察!こういう特殊弾が撃てるのも「PSG3」の特徴だ。さすが俺の生徒…。いや、…』
最後の方がよく聞こえなかったけど、いったいなんだろう?
『ところで夏先生?どこから見ているんですか?愛美先生怒ってましたよ?』
『さて、どこだろーな?愛美にはうまく言っといてくれ。』
『そうですか。それはそうと、近くに不思議なうさぎの着ぐるみがいるんですけど…』
『へぇ…』
『今、この山岳部一帯は大規模な通信障害が発生していて、かろうじて近距離通信が行えるのが現状。つまり、先生はこの近くにいる。』
『ほー、それで?』
『先生の通信から、音量はあるけどこもったような銃声が聞こえます。つまり、自分が銃を撃ちつつも、銃と通信機の間になにかが挟まっている。それも、そこそこの分厚さがあるもの。』
『そのなにかとは?』
『布じゃないかな?その着ぐるみの。』
『つまり、着ぐるみの中身が俺だと?』
『はい。「武器ならなんでも扱える超エリート」さん。銃声でこの通信以外に声が漏れないようにしているあたり、こういうことにも手慣れていそうですね。』
『タネも仕掛けも用意しているのが「道化師」ってやつさ。それに、お前もしてるじゃねーか。』
確かに、私もこの会話の間、銃を撃つ手を止めてはいない。
今この時も「くまべあー」に向かって銃弾を撃ち続けている。
『否定はしないかな。あと、「うさじろう」が夏先生だって伝えていいですか?』
『愛美にか?』
『いえ、春華さんです。どうやら人を探しているらしいですよ?』
『それは困る。』
『やっぱり…』
『なにがやっぱりだ、なにが。』
『いえ、こちらの話ですよ。ふふふ…』
『これだから女ってのは…』
『黙っていてもいいですよ。今回もそうですが、これまでもいろいろと助けてもらってますから。』
『助かる。』
『ただ、同じ女として一言わせてもらうとしたら…』
『…………』
『先生、最低です。』
『…………。自覚してるさ。』
『自覚してなかったらフルオートで撃ち込んでました。』
『サイテーだぞ。』
『その分はアレに撃ち込んでおきますね。』
『そーしてくれ。』
2挺のスナイパーライフルと2挺のアサルトライフル。
その火力が、特殊弾によって持ち前の防御力を失った「くまべあー」に致命傷を与えるまでに、そう多くの時間と弾数はかからなかった。
『終わりだな!状況確認に移るぞ!』
あれだけいたはずの「ばっとん」は、1匹残らず跡形もなく消滅している。
「くまべあー」はまだ目の前で力なく倒れている。
硫酸混じりの特殊弾を受けた顔面部分は、その後に集中砲火を受けたこともあって酷いありさまだ。
すでに一部の消滅が始まっていることから、事切れていることに間違いはないかな。
「まずは装備の確認だ。弾は残っているか?」
「あと3マガジン、ちょうど60発残ってます。拳銃は使ってないのでそのままです。」
「わたしも3マガジンとちょっと、72発です♪ハンドガンは奏ねーと同じです♪」
『5マガジン★168発』
「………………。」
「ん?かなやん?どうかしたか?」
「いえ、大丈夫です。」
「そうか?俺は2マガジン、100発だ。とりあえず補給なしでもう1ヶ所行けそうだな。」
「それにしても、奏ねーの銃すごいね!あんな機能があったなんて知らなかったよ♪」
「私も知らなかったからね。でも、あの弾はなんですか?」
「あれは預かりもんでな、俺も詳しくは知らねぇんだ。ああ、外身は持って帰っていいぜ。中身は作った奴に聞いてくれ。」
史也さんの言葉に、私はうさじろうの方に視線を送る。
「ふん…?」
「奏ねー?」
『僕を見つめてもなにも出てこないよ★』
「ううん、なんでもないかな。」
たぶん、史也さんはこの中身を知っている。
でも、冬華ちゃんは違う。
約束もしたし、ここで話すのは夏先生に悪いかな。
今のところはね…
「まあ、そいつに聞いてもなんも出てこねぇってのは本当だぜ。涼夜の奴に聞かねぇとな!」
ガハハと笑う史也さんだが、さらっと気になる人名を出したような…
「『涼夜』さん?」
「あん?はなちゃんたちは知ってるだろ?涼夜のこと。燈花里園に縁があるならな。」
それはつまり…
「『大きい先生』のことですか⁉︎」
「ハハッ!アイツ、その名前で呼ばれてんのか?まあ、燈花里園の園長なら当然か!」
史也さんの笑い声がどんどん大きくなっていく。
「久米涼夜。アイツも俺たちの腐れ縁だ!遠慮なく頼ってやれ!」
また新たな交友関係が垣間見えたところで、私たちは次の作戦行動へと移っていく。
「さぁ!次行くぜ次!あやちー救出もかかってることだしな!」
通信復旧まであといくつ潰せばいいのかな?




